狼を売りに行く
仲間と別れて狼を売りに店に向かう。
大まかな場所は教えてもらったけど、わからなかったら誰かに聞けばいいだろ。
歩いているとチラチラと周りから視線を感じる。
この村はほとんど亜人だけの集落なので人族の私は珍しいのだろう。
「まあ害はないしな、ちゃっちゃと金に換えて宿代を確保するとするか。」
私の足取りはすこぶる軽い。
一人行動になって気楽になったからかな。自分のペースで歩けるし話を振られることもない。とにかく自由なのだ。
工場で働いていた時もお昼に社員食堂に行かず、ひとり車の中でコンビニで買った弁当を食いながら、スマホで3チャンネルやスレタイ巡りをしていたっけな。
同僚と飯を食うよりも、この時間がとてつもなく幸せに感じるのだ。
つくづく難儀な人間だなぁ。
そんなくだらない事を思い出していると目的のお店に着いてしまった。
お店の前には何かの干し肉のようなものが吊るされており、扉は開けっ放しになっていた。
店に入ると店員と思わしき人は靴の金具の修理に勤しんでいた。
犬耳の生えたオッサンだ。
「すいませーん、狼の死体を売りたいんですがここで買い取りできますか?」
「見ねえ顔だな。この村じゃあ買い取りなんてしてるのはうちだけだよ。現物はどこにあるんだ?」
「アイテムボックスに入れてるのをすぐ出します。」
狼の死体をカウンターの上に乗せる。
アイテムボックスに入れると時間の経過がしなくなるようなので、
まだ死体は温かく少し気持ち悪い。
「見せてくれ。うん、状態がいいな。弓で頭部を撃ち抜いてあるだけで他に外傷がない。これなら大銅貨5枚ってとこだな。」
「こういうのってごねた方が金額上がるもんなの? 高く買ってくれ! これ以外に財産がねえんだ!」
「都市や街ならともかくこの村では望み薄だな。店がここしかないからな。そもそも俺は足元を見て買い取ってるつもりはねえ。適正金額だ。」
「なにさ! もういいわよ! 大銅貨6枚だったわね!」
「ちょろまかすんじゃねえ! 5枚だ!」
結局ゴネても値段は上がらなかった。
でも大銅貨5枚ってどのくらいの価値なんだろう。
パンを買うなら何個分? 宿に泊まるなら何泊分?
「なあ店主よ、パンって1ついくらくらいで買える? あとおっさんが直してるその靴はいくらよ?」
「なんだ藪から棒に、パンは1つ銅貨1枚くらいだろ? この靴は大銅貨3枚ってとこだ。質を落とせば大銅貨2枚の靴ならすぐに用意できるぜ。」
「いらんわぼけぇ! 大銅貨5枚しかないのになんで靴なんて買うんだよ!」
「ああん? てめえ冷やかしかこの野郎! いいからこの靴買えってんだ! 大銅貨4枚だ!」
同じおっさん同士だと話しやすいなぁ。
大銅貨が1枚1000円くらいで銅貨が100円ってとこか。
さらに聞いてみるとどうやら鉄貨、銀貨、金貨の硬貨があるみたいだ。
まとめると
金 貨=10万円
銀 貨=1万円
大銅貨=1000円
銅 貨=100円
鉄 貨=10円
こんな感じで間違いないだろう。
狼1匹で5千円か・・・世知辛れぇ・・・せいぜい宿代1泊ぶんだろこれ。
まあ用も済んだし店を出ることしよう。
「また来るからな! 次はもっと高く買えよ?」
「そんなことしたらうちは破産だ! また頼むぞ。」
店を出ると私は物思いにふける。
大銅貨5枚で宿に泊まってもおそらく1泊で金は溶けてしまうだろう。
はっきり言ってあぶく銭だ! クソめ! これならマルスの家でお世話になるべきだったんだ!
まあよかろう、私には奥の手があるのだ。
手始めに大銅貨5枚を電子パネルで全額寄付をして善行ポイントに換える
その善行ポイントを電子マネーに早速チャージする事にした
アプリを使うと大銅貨5枚で2500円になった。
ロイヤリティが50%とは中々アコギな商売である。
「飯も水もないからな最低限の物を揃えるか。」
異世界コンビニアプリを起動する。
水2L 150円 バターロール5個入り 150円 石鹸100円
タオル200円 ダンボール0円(無料)
総額600円だ。これで飯と風呂はオッケーだな。
服は今着ているのを使いまわすとしてあとは寝る場所だな。
少し村を散策するといい場所を見つけた。
周りの民家からは少し離れていて、村を囲っている柵の近くだ。
柵を背にして地面にダンボールを敷く。四角を重い石で固定する。
ダンボールの上に寝転がり更に上からダンボールを布団代りにかける。
「できた! これで私も一国一城の主だな。」
この日から私は異世界に来てホームレス生活をするはめになったのだった。