猫の助っ人
マキちゃんが井戸汲みの手伝いに来てくれた
「一緒にがんばろ? ね?」
その言葉を聞いて体に活力が戻ってくる。私が限界を向かえていたのは体ではなく心だった。心が先に折れてしまった。メンタルが蘇った今の私は体力にまだ余力があることに気がつけた
「君のおかげて死なずに済んだよ」
疲れた体に渇を入れて重い腰を上げる。まだ頑張れそうだ
「膝から血が出てるよ! 傷口を洗わないと!」
「なにかすり傷だよ。大丈夫さ」
「ダメ! 早く座って! 怒るよ!」
勢いに押され、私は言われるがままその場に座るとマキちゃんが井戸の水を汲んで来て傷を洗い流してくれた
「染みると思うけど我慢してね」
「ああ、ッッ!」
傷を洗い終えると、マキちゃんはポケットから薄いピンク色のハンカチのような物で傷口を縛ってくれた
「汚れちゃう。いいよ、そこまでしてくれなくて」
「いいの、わたしがやりたくてやってるだけだから。」
人との縁というのは中々に素晴らしいものであった
よし、残りの仕事をさっさと片づけよう
「おじさんはしばらく休んでて、傷口開いちゃうから」
「大丈夫だって」
「休んでて! 怒るよ!」
もう怒っている。マキちゃんは半ば強制的に私を休ませ、健気に井戸の水を運び始める。彼女のバケツは私の持っている物より一回り大きい。何というか明らかに私よりパワーがあるな・・・・・・
「よお、おっさん。休憩中か?」
遅れてマルスくんがバケツを持って手伝いに来てくれた
「なぜだ? 私の仕事だぞ、手伝ってもメリットがない」
「仕方ねーだろ、おっさん体力ねーし。見てて危なっかしいんだよ!っと」
マルスも水汲みに加わる。よっしゃ! 私も復帰するぞ!
3人でやればもっと早く終わるはずだ!
「おっ? 休憩はもういいのか? キツかったら休んでろよ」
「もう、休んでてって言ったのに!」
「うるさいな、私はキミ達と水汲みがしたいんだ」
当たり前だが3人での作業効率は1人でやっていた時を遥かに凌駕した。
私が1回水を運ぶ間に猫の兄妹は2回運んでいるのだ。猫なのに働き者って最強すぎるだろ。愛嬌だけで一生楽しめる生物なのに。井戸汲みは助っ人の手によって1時間ほどで片が付いた
「ふぅー終わった、余裕だったな。バケツを2つ用意して運んだほうが時間が巻けるな」
「おじさん、今日のお仕事はこれだけ?」
「これで仕事は終わりだよ。ありがとう、私一人では多分完遂できなかったかもな。君たちのおかげだ。お前ら最高だ! 最高にCOOLな奴らだ」
労働から解放された達成感と、彼女らの優しさに触れ私の心はとても高揚していた。
感極まってマルスくんをガッっと抱きしめ背中をバンバン叩く
「マルスお前は最高にいい奴だ」
「やめろっておっさん、汗くせえぞ。男同士で抱き合う趣味はねえ」
マルスはするりと拘束から抜け出す。マキちゃんに照準を合わせると両手を広げて私を受け入れる準備をしてくれる
許されたのか。こんな汗くさいおっさんに
膝を曲げマキちゃんの目線に高さを合わせ、力強く抱きしめ背中を軽く叩く
「がんばったね、転ばないように気を付けないとダメだよ?」
そう言ってマキちゃんは背中から回した手で頭を撫でてくれた。何だ......この心の奥から湧き上がるポカポカする感情は......これがバブみと言うものなのか。ああ......何かに目覚めそうだ。
「じゃあ俺は仕事に戻るぜ。まだやることが残ってるんだ。分かっちゃいると思うがレイって女には気を付けろよ。あいつはこの村でも札付きに悪党だ。ヤバくなったらすぐ逃げろよ」
「ああ、わかってるよ。助かった」
マルスと別れるとその場に残ったのは私とマキちゃんだけだ。じゃあ解散かな
「おじさん、もう仕事ないんだよね? 今からヒマ?」
「そうだね、特にやることはないな」
「じゃあ、わたしの家で一緒にお昼ご飯食べようよ! お母さんからもお礼が言いたいから連れてきてって言われてるんだ」
うーん、まだ村に馴染めてないしなぁ。私と関わることでマルスくん一家に面倒をかけるかもしれない。現状行くべきじゃあないよなぁ。彼女は悩んでいる私の右手を掴み取り歩き出した
「ほら早くしないと、お母さんが待ってるから」
「・・・・・・・そうね、じゃあお邪魔しようかな」
生まれて初めて女性にご飯に誘われた。ああ、これが逆ナンというものなのか。彼女はとても楽しそうに私の腕を引き歩き出す。ようやっと我が世の春が来たようだ




