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一章 フリーターの日常

好きな食べ物は何か? この質問を今までの人生で何回されただろうか?

子供の頃も大人になってからもよくされる質問だ

カレー、ラーメン、ケーキあげたらキリがないが、ぶっちぎりに大好きな食べ物が私にはある

そう、その名は・・・・・・ 


「からあげだ!!」


,,,,,,,,



「ふううう、かったりい」


私はたいして疲れてもいないくせに、ブツブツ独り言を言いながら商品の陳列をする

新しい商品を奥に押し込み、賞味期限の近い古い商品を手前に置く実に単純な作業だ


「あっ、また古い期限のやつ奥に押し込まれてるじゃん」


単純な作業とはいえ、人によっては新しく入荷した物をそのまま押し込むバイトもいるため、

難儀なものである

私は棚の商品を引っ張り出し、古いものが前にくるように整理する


「補充完了!」


くぅ~、この全ての商品を補充した後の達成感がたまらねえんだ 


私はコンビニでバイトしてる。バイト歴三年くらいのベテランだ

まぁ深夜勤務で客も少ないので、作業能力はたいしてもよくもないが


そろそろチキン揚げないとやばいな

今この店ではチキン100円SALEなる狂気的なイベントを開催しているので、

常に10個はケースの中に確保しておく決まりなのだ


「チキンが揚げ立てで~す。いかがでしょうかー?」


チキンやポテトなど、HOTスナックが揚がったらこのように宣伝をするマニュアルがあるのだ

でも騙されないでほしい! 

確かにチキンは揚がったが、ケース内にはまだ前に作ったチキンの在庫があるのだ

揚げたてとは言うものの、いまお客さんが買うと貰えるチキンは3時間前に作った古いチキンなのだ


若い20代くらいの男性が私のセールストークを聞いたからかわからないが、

チキン三枚お買い上げである。

申し訳ねえ・・・・・・それ三枚とも古いチキンなんだ・・・・・・


私は罪悪感に苛まれながら、せっせとチキンを包む

おっ、コーラも買ってる。チキンと一杯ひっかける気だな


くだらない妄想をしながら商品を袋につめお客さんに渡す


「ありがとうございました」


お客を見送ると時間は午前の二時手前、今日の勤務もそろそろ終わりに近づいてきた


「お先に失礼します」


私は仕事を次の人に引き継ぐとせっせと家に帰る。

私の働いてるコンビニから家までは徒歩10分、軽い運動がてら歩いて来ているのだ


「ついたぞ、桃源郷に・・・・・・」 


私の住んでる家は築40年のボロアパート、家賃は月四万五千円のお値打ち価格である。

こんな汚い家でもな長年住んでいれば愛着は湧く

かれこれ10年以上住んでいるのだ


「ここに来たのが20の時だから、もう12年も経つのか」


時間が流れるのは早いものだ

小学生の夏休みなどは、物凄く長い悠久の時のようなものを感じたが、私が20才になった後からの12年はそれはもう真夏に食べるアイスの如く一瞬でとけさったのだ


私は高校卒業後は、食品工場に就職した

子供の頃から人と関わるのが苦手だったため、無言で黙々と作業のできる工場にしたのだ。

しかしは工場地獄だった


目標生産数なるものがあり、目標数に達していないとお叱りを受けるのだ

例えそれが機械の故障やトラブル等やむを得ないことであってもだ

ラインを仕切るリーダーは強面の方ばっかで終始怒鳴り声が聞こえる


「絶対あれ元不良かヤンキーだろ・・・」とよく絶望したものだ



工場とは人見知り以外にも、サービス業や販売業のような客に頭を下げるのを頑なに嫌がるDQNにとっても絶好の職場であったのだ

結局、人見知りな私は先輩や同僚ともあまり仲良くできず黙々と怒鳴られながら仕事をしたいい思い出だ


働き始めて二年ほど経つと、他の工場に移ってほしい

従わないなら解雇するとの言質を頂きやめることができた。元来努力というものが苦手な私は、アルバイトでお茶を濁そうと働き始めたらこのぬるま湯に12年間も浸かってしまったのである


「回想は止めよう、気が滅入る」


私は錆びついた階段をカンカン音を鳴らしながら上がり部屋に入る

手洗いうがいをすると、冷蔵庫から昼間に仕込んでおいたタレにたっぷり浸った鶏モモ肉を取り出す


「鶏ムネでもできるけどやっぱモモだな」


貧乏なコンビニフリーターだがこれだけは譲れないのだ

電気フライヤ―に油を注ぎ加熱する

この間に風呂に入る、洗濯機を回すなど雑事をこなす


風呂から上がると油が設定された温度になっているのを確認する

フライヤーのザルの中に唐揚げ粉を塗したモモ肉を入れボタンを押すとザルが降下する


「ジュワァァ」


軽快な音を立ててモモ肉が黄金の油の海を泳ぐ

私はハイボールをジョッキに注ぎ、冷ややっこをつまみながら肉が揚がるのを待つ


興味のない深夜テレビを見ながら、ハイボールを喉に押し込む

しばらく水分を取っていなかった為、ハイボールが体全体に染みこむような何とも言えない高揚感が体を駆け巡る


「揚がったな、さあ食べよう」  


私は箸を伸ばしたはずが、うまくから揚げを掴むことができない

おかしいなぁ、もう酔いが回ってるのか・・・・・・

私はもう一度からあげを掴もうとするが、箸を掴む指に力が入らない

遂には箸を握る力もなくなり、それを畳みに落としてしまう


「え・・・・・・」


途端に体が崩れ落ち、畳に顔を埋める。

体が動かない、頭が真っ白になりぼんやりとする


「あぁ、家の畳って間近で嗅ぐとこんな匂いがするんだなって・・・・・・」 


意識が薄らいでいるのが何となくわかる、私の今生はここまでなのだろう


「いい事なんて一つもなかったな。恋愛も仕事も何一つ」


頭の中で悪態をつきながら私は深い眠りについた

その眠りから目覚めることは恐らくないだろう


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