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七話

 その後も、彼女は時々その飲食店に来ていた。

 来ている事に気づき会釈すると、彼女も答えてくれた。相変わらず、その視線は何も厳しくなんてなかった。

 俺自身の変化もあった。彼女とぶつかったあの日から、失敗に怯える気持ちが薄まっていった気がしていた。

 失敗したとしても、どこかで彼女がそれを見ていて、大丈夫ですかと、声をかけてくれるような気がした。

 次第に、彼女が店に来るのが待ち遠しく感じていて、そんな気持ちは初めてで、俺はああ、これが恋なのかと、密かに納得していた。

 しかしながら俺はただの店員で、彼女はただの客の一人だった。

 特別に感じているのも俺だけで、彼女の眼中に俺はいない、なんて甘ったるいカフェオレを飲みながら、どこか自嘲するように、俺は働いていた飲食店の近くにある公園でぼんやりとしていた。


「あの、店員さん、ですよね」


 そうして、目の前にはさっきまで頭を占めていた彼女がいて、突然の事に俺は思わず缶を落とした。

 地面に広がった液体なんて気にも留めず、唖然としていた所を見て、彼女はくすりと、優しく微笑みながら、こう言った。


「大丈夫ですか」


 そうして間もなく、俺と真波は付き合い始めた。






 真波と過ごした時間は、今までの人生が何だったのかというぐらい濃密に感じた。

 一人だったら絶対に行かないような所に行ったし、見た。

 真波は普段からよく笑った。柔らかいその微笑みは何回見ても飽きなかった。

 真波は意外と、なんというか重かった。

 他の女性と話したりするだけで拗ねた様な態度を取るし、時には俺が働くのすら気が乗っていない、なんて態度を取っていた時もあった。

 あまり自分の意見を主張しないように見えて、本当に大事だと思う事は譲らなかったりする。

 ハンバーグが好物で、野菜が少し苦手で、夜はホットココアを飲むのが習慣で、早寝早起きを崩さなかった。

 ある時、付き合い始めた時ははっきりと返ってこなかった事を聞いた。


「なんで、俺と付き合ってくれたの」


「あなたに私が、必要だと思ったから」


 確信した様にそう言って、真波は微笑んだ。

 その通りだった。俺は真波が居ないと生きていけない。真波の隣で生き続けたい。

 だから、死ぬのは怖くない。

 真波と過ごせなくなるのが、何よりも恐ろしかった。



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