三話
真波と付き合い始めたのは二年程前だった。
当時の俺は大学受験に失敗し、親からの期待を裏切られた、というような視線から半ば逃げ出す様に一人暮らしを始めた。
目指していた大学より下の大学へ妥協する事に意味を見出せなかった俺は、フリーターとして細々と暮らしていた。
真波と出会ったのも、その頃だった。
当時自分に価値を見出せず、鬱々としていた毎日を繰り返す様に送っていた俺にとって、彼女は救いそのものだったのだ。
真波は基本、俺の部屋で寝泊まりをしている。
自分の部屋も借りているらしいのだが、親戚のツテで借りている部屋らしく、今となっては半ば物置の様な扱いをしているらしい。
それでも汚れはするからと、休みの日に掃除をしに帰り、その日の夜はその他の雑事をこなす為にそこで泊まり、またすぐに俺の部屋へと戻ってくる。
その繰り返しがここ一年の流れであり、昨日この部屋の片付けだけをして帰らなかったのも、それに当てはまると思っていた。
しかし、決まってその翌日の朝、遅くても昼頃にはこの部屋に帰ってくるのが真波だった。
ある時、肩で息をしながら早朝に転がり込むように帰ってきた時の真波に、何をそんなに急ぐのかと聞いた時の言葉は、今でも記憶に残っている。
「だって、早く会いたかったから」
真波が掃除しに一端自室へと帰り、次の日の昼頃になっても帰ってこないのは中々に珍しかった。
メールや着信履歴も無し。一応、気にかける様なメールは送っておいた。
珍しくまだ寝ているのか、たまにはこちらから迎えに行くのもいいかな、などとぼんやりと考えていると、変わらず座る黒い彼が目に入り、現実に引き戻された様に感じた。
そうだ、俺は死を宣告されたのだった。
「なあ、俺が死ぬとして、それはどれぐらいなんだ?」
「分からんって、言ったろ」
「大雑把でいい、具体的じゃなくていいん
だ」
彼は考え込んでいるのか、少しの間が空いた後、無常さを感じさせる声色で呟いた。
「明日か、明後日くらい、かな」