二話
重たい泥の様な気分で目を覚ました。
聞こえて来る雑多な音に釣られる様にリビングに行くと、そこには昨日と変わらず、体育座りでテレビをぼんやりと見つめる彼が居た。
昨晩のやり取りが夢でなかった事を思い知らされた様で、頭を殴られた様だった。
死神。
彼は自分をそう名乗り、そして俺に無常な宣告を下した。
根拠は薄い。あり得ない。冷静に判断しようとする一方で、もしかすれば本当なのかもしれないと、納得しかけている自分がいた。
幸せな思いをしすぎたから、皺寄せが来たのかもしれない。
そう思い始めれば、自分が突然パタリと死ぬのにも嫌に納得がいって、そうして自分が死へと向かっていると意識してみれば、何故か、そこまで怖くはなかった。
朝はあまり、腹が空いていない事が多い。
しかし、今日は無性に腹に何か詰めておきたいと感じていた。
彼に何か食べるかと聞いたところ、いらないと返され、なんとなく気まずい思いをしながら一人トーストを頬張る。
「俺はいつ、死ぬんだ?」
「さあ」
「さあって、俺が死ぬのに立ち合いに来たんじゃ」
「正確なタイミングなんて、分からん。特にお前は」
お前は死ぬ、なんて断定的に言い渡された割には、ふわっとした答えを返されたのが、何か可笑しかった。
「なんでこんな事してるの?」
「仕事だから」
「超常的なモノも仕事、か。嫌だな」
本当に嫌だ。死んだ後も、もしかしたら働かされたりするのだろうか。死後の世界というのも存在しているのだろうか。
死神という存在を目にしたからか、そんな子どもの様な妄想が頭に浮かぶ。
「あれ」
トーストを食べ終えた後、ふと携帯を見れば、もう昼だと言ってもいい時間だった。
だとすれば、おかしかった。この時間帯であれば、もう既に真波はここに来ているはずだったから。