一話
「俺、もうすぐ死ぬらしいんだ」
そう告げた時の真波の表情は、面を食らったようにぽかんと、口を開けていた。
「その、詳しくは説明できないけど、言われたんだ。もうすぐ死ぬって」
矢継ぎ早に言葉を繰り出す。
真波にとっては、突飛で荒唐無稽な話だっただろう。
しかし真波なら、こんな妄言にも本気で接して、本気で応えてくれるのだろうなという確信にも近い何かがあった。
そして、真波はその表情を見せた。
真波が平時からよく浮かべる微笑み。この場面に不似合いであろうその表情は、俺が一番好きな真波の表情だった。
しかし、その微笑みには何か別な意味が込められていたように思う。
突飛な俺のカミングアウトに、困った末浮かべた訳でもなく、なんとなくで浮かべた訳でもない。
どこか安堵したような、何かの解を得たような、そんな微笑みだった。
自宅の鍵のかかったドアを前にし、インターホンを鳴らす。音に反応する気配は無く、中は無人である事が見て取れた。
鍵を開け、中に入る。
「片付けだけして、帰ったのか」
家を出る前より片付けられたキッチン等々を見て、心の中で真波に感謝を唱える。
キッチンを抜け、互いの私物が入り乱れた見慣れた部屋が目に入る。
最近では真波がいる事が当たり前になっていた為か、暗い自室に若干の違和感を覚えた。
明かりをつけ腰を落ち着けたところで、部屋の隅に何かを見つけ訝しんだ。
全身を黒に包み、丸まったように見えるそれは体育座りをした人のように見えた。
思わず声を上げ距離を取るが、それが動く様子は無い。
恐る恐る近づいたところで、それが勢い良く頭を上げた。
「見てんじゃねえ」
「いるんだよな。お前みたいな見えるやつが」
鬱陶しくてしゃーない。
そう言いながら、全身を黒に包んだパーカー姿の少年が、つまらなさそうにテレビを見ている。
「その、君は本当に……」
「信じようが信じまいが、どうだっていい。お前が死ぬまでの付き合いだ」
目の前でさっきまで流れていたのはニュース番組。その中で死者が発生した痛ましい事件の被害者の個人名と死因を、先程彼はピタリと言い当てて見せた。
今の時代、テレビで流れるニュースなんてものはネットで先んじて内容を知れる場合もある。
しかし、彼がここに無理に侵入した形跡は無く、何より信じられない事に、俺が彼に触れようとした際、幻のように俺の手は彼をすり抜けてしまったのだ。
驚き尻餅をつきながら、俺は彼の自称を思い出す。
俺は死神である、と。