番外編9 紗百合と魔法を学ぼう②
【前書きで分かるあらすじ!】
エレガトロから魔法の基礎を教わった紗百合。
魔法勉強用ノートを捲り復習していた最中、ベネトから二回目の誘いがかかる。
前回の反省を生かしゲストへの対応を修正させ、もはや見慣れた教室セットのドアを開ける。
そこに居たのは、赤い頭巾を身に着けた少女だった――
「今回も始まりました『魔法を学ぼう』。司会進行役は勿論この私! 鍵の魔法少女こと柊紗百合です☆ ……ええ、二回目にして慣れてきた自分に少し呆れてますよ」
「あはは……ま、まぁ二人で頑張ろう!」
「んんっ、そうですね! 時間も勿体ないですし、早速始めましょう!」
~ゲストの紹介~
「今回のゲストはチーム『コード・トーカー』よりノエル・ディアガットさん! よろしくお願いしますっ」
「こちらこそよろしく! いやー、教室とか懐かしいなぁ」
「あれ、ノエルさんって確か十八ですよね? 高等学校に通ったりとかはしてないんですか?」
「あー……ちょっと魔法関連で事情があって、ミドルスクール卒業で終わってるんだ。そこからは日銭を稼ぎながら色んなところを旅してたって感じ。サブテラーに居つくようになったのはここ数年かな」
「そ、想像してたよりもっと波乱万丈だった……。あ、もしよかったらこの後色んなお話聞きたいです!」
「全然大丈夫だよ! それじゃ、その為にも魔法の勉強頑張ろっか」
「はいっ! よろしくお願いします!」
~魔法の分類、属性編~
「確か、魔法理論の基礎はもう知ってるんだっけ?」
「一応前回教えて貰いました! まぁ、とてもまだ全て理解できたとは言えないですけど……」
「そっか。それなら私も、門前部分だけでも基礎のお手伝いしようかな。サユリちゃんは魔法がどんな風に分類されているか知ってる?」
「それなら知ってます! 風とか火とかみたいな属性ですよね!」
「おっ、属性か。魔法を分類するっていっても様々な種類があるんだけど、それならサユリちゃんにとって馴染み深そうな属性で話していこうかな」
「はいっ! お願いします!」
「任されましたっ。さて、さっきも言ったけどサユリちゃんが言う『属性』っていうのは魔法を分類するときの一つの指標。正式名称は『属性構成論』。妖精秘術やエレメント・ソーサリーなんて呼び方もするかな。
全ての魔法は火、水、土、風の基本四元素と光、闇の特殊二元素によって構成されているっていうのが根幹にある思想なんだ。最近だと光と闇の二属性を合同して“星属性”ってすることが多いかな。まぁこれに関しては研究とかしない限りはどっちでもいいよ」
「火、水、土、風、星の五大属性……。氷の魔法とかは水属性に分類されるんですか?」
「その通り! ……あっ、言い忘れてたんだけど魔弾とか魔力を直接操作する魔法なんかは属性が無い魔法として分類されるんだ。いわゆる無属性ってヤツだね。身体強化なんかも無属性魔法っていう扱いだよ」
「ふむ……。ちょっと気になったんですけど、雷の魔法ってどうなるんですか?」
「おぅ……その話題になっちゃうかぁ」
「え、何かマズかったですか?」
「いや、マズくは無いんだけどね? 雷、いわゆる電気を操る魔法はとりわけ属性としての扱いが難しいんだ。一応今は星属性に分類することになってるんだけど、他の属性でも放電現象は起こせるんだ。そんなこともあって、各属性の研究者間では激論が繰り広げられたりしてるくらい雷魔法っていうのはあやふやなんだよね」
「ほぇー……そう考えると私が決闘したエレノアさんって凄いんですね。色んな属性の魔法使ってましたし!」
「あー、あの子のはまた色々と特別だからなぁー……。よし、それなら次は魔法の分野について、私たちの魔法も絡めた話をしよっか」
~魔法における分野~
「魔法っていう学問はかなりの分野に分けられていて、それぞれが独自の解釈や知見でもって理論を確立していったんだ。その内の一つがさっき挙げた『属性構成論』と呼ばれる分野なんだよ」
「なるほどです。ちなみになんですけど、ノエルさんの魔法はどんな分野に相当するんですか?」
「そうだなぁ……やっぱり一番が刻印で、他だと降霊と呪詛かな。『刻印』は意味を持たせた記号に魔力を通すことでその効果を発揮させるっていう魔法分野。『降霊』は自分たちよりも高次元の存在を自分たちと同じ場所に降ろすこと。『呪詛』っていうのは言葉通り呪いに関係する魔法分野だよ」
「三つも跨っているんですね……。ちなみになんですけど、それぞれどんな感じで使ってるとか教えていただけたりはします……?」
「ん、全然大丈夫! 刻印は私が今身に着けてる枷に幾何学模様が刻まれてて、私の魂に刻まれた呪いというか神様というか、それを抑える役割をしてるんだよ。いわゆる封印の一種だね」
「え、それ決闘中に外してましたよね。大丈夫なんですか……?」
「用法容量をある程度守って無理し過ぎなければ大丈夫だよ?」
「なんでそんなふわふわしてるんです!? というか、傍から見てても四つ外した状態はまさに異形って感じしてたんですけど……あれが呪いってことですよね。でも、自分に呪いなんかかけて何になるんですか? 私的には利点が見当たらないというか……」
「んー、自分に敢えて特定の条件を課すことで更なる力を引き出す魔法っていうのもあるくらいだからなぁ。呪いも呪いも捉え方次第だよ。事実、私はこの呪いがあるお陰であらゆる呪詛に対する耐性があるしね」
「呪いが強すぎて、他の呪いが掻き消されるってことですか。考え方によって形を変える、それはつまり想像を現実に引き起こす魔法にとって多大な影響を及ぼすってことになりますね!」
「そうそう! だから一見自分にとってはマイナスのことでも、向き合わない理由にはならないってことだね」
「食わず嫌いだった分野の本を読んでみると意外と面白かったりしますもんね! 納得だぁ……」
「分野なんて区切っているけど被り似たりは普通にあるからね。複数分野の解釈から強力な魔法を編み出す魔法使いは多い。『魔法は宇宙にも似た深淵である』なんて言われるけど、ホントその通りだと思うよ。だからこそ様々な分野が存在して、専行的に研究するヒトがいるんだ」
「くぅっ、全然分からない! でも未知を解明していくこの感じがまさに魔法を勉強してるって感じがします!」
「サユリちゃんって研究者寄りだよね。将来は白衣とか着てたりして?」
「理系女子ならぬ魔法系女子ってヤツですか! それも良いかもしれませんね!」
~刻印魔法とは~
「さて、魔法全体の基礎は終わり。ここからはさっきも話題に上がった刻印魔法について教えていこうかな。何より、私も専門だから教えやすいしね!」
「先生、お願いします!」
「あはは、お手柔らかに。さて、さっきもちょろっと言ったけどまた改めて説明するね。刻印魔法っていうのは意味を持たせた記号を描いて、それに魔力を送り込むことで望む効果を発揮させる魔法のこと。私の枷もそうだし、魔法陣なんかも刻印魔法の分野では取り扱うんだ。
利点は何よりも即応性。刻印さえ用意しておけば魔力を通すだけで効果を発揮するから発動までがとにかく短いんだ。
逆にいえば刻印を用意する必要があるのが欠点かな。その場で描くにもやっぱりリスクがあるからね」
「なるほど……質問なんですけど、『刻印』って名前から察するに印を刻むんですよね。やっぱり何かしらの物体が必要になるんですか?」
「基本的にはその認識で問題無いよ。私が身に着けてる枷の刻印は封印以外にも身体強化とか色々施してるからね。ちなみに私がいつも魔法を使う時に意識してるのは水路だよ。整備された経路に水という魔力が流れ込んで浸透していくイメージだね」
「お、おお! それすっごい分かりやすいです!」
「それなら良かったっ。ここでもう分かると思うけど、刻印魔法で最も大切なのは魔力の通り道である刻印をどれだけ効果的に使えるかなんだ。サユリちゃんと決闘したエレノアはその辺りが本当に天才的で、遠近法や視覚効果なんかの絵画技法をそのまま魔法記号として落とし込んで魔法を発動させているんだよ」
「虚構現出でしたっけ。絵に描いた物がそのまま現実に出てくるなんて、凄く魔法らしいですよね! そう考えると私って、とんでもない魔法使いと決闘してたんですね……!」
「その気になれば世界も創れるからね。ホント、私でも本気のあの子には勝てるか分からないや」
「ちなみになんですけど、コード・トーカーの他のメンバーの魔法も聞いたりしちゃってもいいですか!? 気になって仕方がないです!」
「お、落ち着いて! そうだなぁ……シルヴィアの剣にある模様なんだけど、そのまま刻印として機能してるんだ。魔力を流すと剣が蛇腹状になったり、周囲の環境を持ち主にとって快適なよう中和したりする効果があるんだ。それで肝心の魔法なんだけど、シルヴィアが傷付けた対象に様々な効果を付与する魔法だよ」
「傷……あ、斬り付けた傷を刻印とするんですね!」
「当たり。エドワードに関しては肉体にある血管やリンパ管が魔法的な意味を持つ記号になっていて、それを保全する形で魔法が発動し続けるっていうものだね」
「それこそさっきノエルさんが話していた水路ですね。でも、人体が魔法的記号になることってあるんですね」
「私も初めて会ったときはびっくりしたなぁ。いろんな場所を旅したけど、エドみたいな人なんて見たことなかったもん。エレノアにとってはそんなに物珍しいさも無かったみたいだけど」
「やっぱり相当特殊なケースなんですかね……あれ、アリスちゃんの魔法は?」
「あー……あの子の魔法は結構デリケートなこと多くてさ、あんあまり話したくないんだ。ごめんね?」
「そんな謝らないでください! そんなに沢山教えてくださってありがとうございます! 頭が上がらない思いですよ!」
「そ、そう? それならいいんだけど……」
~最後に~
「さてと。私が教えられるのはこんな感じかな。上手く出来てたかは不安だったけど」
「そんなことありません! こちらこそ、いっぱい質問しちゃって迷惑じゃなかったですか?」
「ううん! こっちまで熱意が伝わって嬉しかったくらいだよ。……あ、最後に一つだけ! 魔法っていうのは確かに途方もない学問だよ。でもね、それは使い手を映す鏡でもあるの。だから魔法を学ぶには意識を外側に向けるだけじゃなくて内側にも向けて欲しいな」
「内側……というと?」
「魔法使い、取り分け自分のことだよ。確かに理論を学ぶことは大切だけど、それと同じくらい自己を理解することが魔法にとっては重要なの。寧ろ理論より自己理解の方が重きを置くべきってくらいね」
「魔法は使い手の想像を現実に引き起こす手法、ですよね。分かりました! 助言ありがとうございます!」
「こちらこそ楽しかったよ! ありがとね!」
「いえいえ! それじゃあ今回はここまで! みなさんありがとうございました!」
その後、紗百合はノエルから各地を巡った話など聞いたりと歓談を経て、笑顔で別れることとなった。
おしまい。
次回、紗百合と魔法を学ぼう③
ゲストや内容も含めてお楽しみに!




