番外編8 紗百合と魔法を学ぼう①
【前書きで分かるあらすじ!!】
決闘祭も終わって一息。紗百合はベネトからの提案で魔法を勉強する機会を得た。
やってきた場所は以前と見た教室空間。胸を躍らせる紗百合だったが、ベネトから渡されたのは表紙に“必読!!”と書かれた一冊の薄い冊子。
中身を見ればそこには進行の手順が記されていた。どうやらこれは台本らしい。
そこに突如として天井に空いた穴からやってきた(落ちてきた)のは亜人である猫人の少女。台本を見ればどうにも対談形式での魔法勉強会らしく、この少女は今回のゲストとのこと。
意味不明な展開、尻もちをついて目を白黒させる猫人の少女。
紗百合は頭を痛めながらも、自身の目的の為に尽力する。
そう、全ては魔法という神秘を学ぶために――!
「これも全部、ベネトってやつの仕業なんだ――!」
「はい、みなさんどうも! 今回から始まる新番外編『魔法を学ぼう』のコーナー! 担当は鍵の魔法少女こと柊紗百合です☆ ……はぁ。魔法の勉強が出来るって聞いて飛んできたのに、ベネトから渡されたのは台本だけ。この言葉も誰に向かって話してるんだか……」
「……色々苦労してそうだにゃー」
「いえいえ。それよりも、今日はお越しいただきありがとうございます」
「どういたしまして。まぁ突然足元に穴が開いて落ちた時は何事って思ったけど、特に急用も無かったし暇つぶしとしては丁度いいにゃ」
「いやもうほんと、その折はすみません……!」
~ゲストの紹介~
「ンンッ、それでは気を取り直して。このコーナーはサブテラーの方をゲストとして招き、一対一の状況で魔法についてお話しするというものになっています。今回のゲストはチーム『C.o.C』のエレガトロ・アルメリアさんにお越しいただきましたっ」
「どーも。サユリって呼んでも大丈夫かにゃ?」
「勿論です! こちらこそよろしくお願いします、先輩っ!」
「せ、先輩……ふっ、良い響きにゃ! 今日は手取り足取りみっちり教えてやるから覚悟するにゃっ!」
「はいっ! それじゃあ始めましょう!」
~魔法理論、三段階理論とは~
「さてと。サユリはそもそも魔法がどうやって発動されるのか理解出来てるかにゃ?」
「自分が想像した事象を、魔力を消費して現象とする、っていうことくらいですね。」
「概ねはそれで正しいにゃ。でも今回はもっと詳しくっていう要望があるから、より具体的にいくにゃ」
「よろしくお願いします!」
「まず魔法理論において、魔法を発動するには『想起』、『信仰』、『現出』の三段階とするのが通例にゃ。『設営』、『代償』、『請願』、『招来』の四工程とする場合もあるけど、とりあえずは三段階の方で話を進めていくにゃ」
「わかりました。ちなみになんですけど、その二つにはどんな違いがあるんですか?」
「単純に考え方の違いによるものっていう認識でオーケーにゃ。なんなら後で四工程の方の解説もするかにゃ?」
「マジですか! 是非ともよろしくお願いしますっ!」
「分かったにゃ。それじゃあ早速、三段階の解説を始めていくにゃ。質問はある程度話し終わってから受け付けるにゃ」
「はいっ、分かりました!」
「それじゃ一つずつ解説していくにゃ。まず第一段階は想起。これは自分が現実にしたい事象を思い浮かべることを指すにゃ。何も無い状態から有を生み出す行為であり、ゼロを一にする作業のこと。小さなことだけど、これがなければ魔法は始まらないにゃ。
第二段階は信仰。想起で発生したイメージは不安定で、すぐゼロに戻ってしまうにゃ。それを防ぐために深く信じることでイメージをより強固な形とすることを指すにゃ。ここでは使用者の行動なんかが影響する段階にゃ。
最後に、第三段階は現出。深層意識で収まっていたイメージが魔力というエネルギーを糧にして、実際に現実世界に飛び出てくる状態を指すにゃ。ここまできてようやく魔法を発動した、って言えるにゃ。
――総括すると。現実にしたいイメージを抱き、強く願うことで魔力を餌にした想念が魔法として実現するにゃ。魔法が“窮極の自己暗示によって事象を引き起こす儀式”と言われる所以だにゃー」
「さっ、ここからは質問タイムにゃ。分からない事があったらどんどん聞いてにゃ」
「はいはい! 魔法を発動するために詠唱したりすると思うんですけど、それは三段階の内のどこに当たるんですか?」
「それは第二段階の信仰にゃね。詠唱などの言葉や身振り手振りといった行動はイメージをより強固にするための記号にゃ。杖を振る軌道をパターン化することで魔法を使い分けるのは有名にゃね」
「つまりはスポーツ選手が競技に臨む前にするルーティンみたいなものってことですね。……あれ、でも私は魔弾撃つ時にそんなイメージしてませんよ? せいぜい射出軌道くらいです」
「え、そうなの? 無意識レベルで魔法使えてるのかにゃ……まぁそこら辺の考察は後に。とりあえず、次は四工程の話に移るにゃ」
~魔法理論、四工程理論とは~
「さて、四工程を構成するのはさっきも言った通り『設営』、『代償』、『請願』、『招来』なんだけど、基本的は考え方は三段階の時と一緒にゃ。ただ、その区分がより細かくなったものって捉えて貰えればいいにゃ」
「なるほど……了解です!」
「それなら進めていくにゃ。まず、第一工程は設営。これは魔法を使用する為の準備のことを指すにゃ。道具の用意から自身の精神調整まで“これから魔法を発動するぞ”っていう状態を作る工程にゃね。
第二工程は代償。これは魔法を使用するにあたって対価を支払うことを指すにゃ。魔法の種類によって魔力だけじゃなくて別の物を消費する場合もあるにゃ。一例になるけど血液なんかが挙げられるかにゃ。
第三工程は請願。これは三段階理論での信仰にあたって、引き起こしたい事象を自身の精神でもって強く念じることを指すにゃ。
そして最後の招来。これに関しては魔法が発動したという結果を指すだけにゃ。こんな感じになるけど、何か疑問とかあるかにゃ?」
「えーっと、あくまで聞いた所感なんですけど、四工程の方ってなんだか妙に儀式っぽさがある感じがします。あと、工程の名称的に魔法を自分で使ってないように思うんですけど、これって勘違いですかね?」
「勘違いじゃないにゃ! その感覚こそ、三段階理論と四工程理論の決定的な違いなのにゃ!」
「な、なるほど。そこの解説をお願いしてもいいですか?」
「勿論にゃ! しっかりついてくるにゃ!」
「はいっ、エレガトロさん!」
~三段階理論と四工程理論の違い~
「さて、ここまで長々と解説してきた二つの魔法理論の違いはただ一つ。魔法という神秘が何を起点として実現されるのか、にゃ」
「起点……え、魔法を使うのは魔法使いじゃないんですか?」
「ちっちっちっ、それだけじゃ甘いのにゃ。サユリの魔法に対するイメージはまさに三段階理論の方。つまり、個人の力によって超常現象を引き起こすことを『魔法』とする解釈にゃ」
「となると……四工程はさしずめ世界の方が個人に合わせているという感じですか?」
「それもちょっと違うにゃ。今ウチたちが存在する世界――まぁ現実世界とでも言っておくかにゃ。それよりも高次元の存在が現実世界を歪めることを『魔法』とするのが四工程理論にゃ」
「……あー、なんとなく分かりました。要するにアレですよね。世界に対して矮小な一個生命が超常現象なんてものを引き起こせるわけが無いから、それを実行しているのは埒外の存在であるって考え方ですよね?」
「そうそう! それだけ理解できていれば十分だにゃ! かなり大雑把な表現で纏めるけど、小が大に影響を及ぼすか、大が小に影響を及ぼすかの違いってことにゃね」
「でも、三段階理論の方が主流なんですよね?」
「この二つの理論はどちらも魔法を行使できることが分かっているから、そこまで明確な優劣はついてないにゃ。でもまぁ、魔法を勉強するってなった時に最初教わるのは三段階理論の方が多いかにゃーくらい。それでも後から四工程理論も学ぶことになるにゃ。実際ウチの魔法は四工程理論に基づいているし」
「え、そうなんですか! そこのところも聞きたいですっ!」
「そうにゃね。それだったら最後は決闘祭のことなんかを交えて話していくかにゃ」
~決闘祭での諸々~
「一応ウチたちの共通点は決闘祭な訳だけど、トウカには完膚なきまでに叩き潰されたにゃ……!」
「あ、あはは……姉がすみません」
「まぁ、そこら辺は自分でも近接戦の修練が足らなかった自覚はあるにゃ。……とと、魔法の話に戻るにゃ。ウチの使う魔法は『彼方の万力』っていう魔法で、魔法具である短剣兼儀式短杖を媒介として引力と斥力を操作するんだにゃ」
「お姉ちゃんと全く同じ魔法ですね。ちなみに、詳しい解説とかもいいんですか?」
「問題ないにゃ。さっきも言った通り『彼方の万力』は四工程理論に基づいているにゃ。広大な宇宙を一つの巨大生物と仮定して、強大な信仰心でもって星々の力を借り受けるって寸法にゃね。代償は魔力だけにゃ」
「……ちょ、ちょっと待ってください。それってなんか滅茶苦茶ヤバい魔法だったりしません?」
「? 当然にゃ。重力を介して水や砂などの物体操作はお手の物。浮遊も出来るし、やろうと思えば隕石降らせたり極小の重力渦も造れるにゃ」
「……ちなみになんですけど、魔法の範囲は?」
「視覚に収まっていれば操作が覚束なくなることは無いにゃ。そうだにゃぁ……まぁサブテラー全土は射程圏かにゃー」
「大変失礼かもしれないんですけど……なんで負けたんです?」
「ウチだって負ける予定なんてサラサラ無かったにゃ!! それなのに、トウカはウチの重力操作に真逆のベクトルで重力をぶつけて相殺してきたのにゃ! 本来ならそんなこと正確に出来るわけないし、出来たとしても絶対遅れが出るのにそれすらも無い! 観客たちも居るから堕天隕壊も使えないし、おかげさまでいいところも無く近接戦闘だけで負けちゃったのにゃ! フシャーッ!!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて。それでも、それだけ強い魔法なら相応に魔力消費も多くなりそうですけど……」
「四工程理論魔法でのいいところは、威力を強める場合信仰をより強くすればいいのにゃ。対して三段階理論魔法の場合は魔力消費を増やせば強力な魔法を使用できるって寸法にゃね。ま、自分の向き不向きを分析して使う魔法を選ぶのは魔法使いとしての一歩にゃ」
~最後に~
「今日のお話を聞いて考えてみたんですけど、私たちの魔法って何なんでしょうね。一応分類上では三段階理論の方が当てはまりそうなんですけど……それでも少し違うような感じがします」
「んー、流石に他人の魔法は専門外にゃ。こればっかりは自分で理解を深めることしか解決方法が無いからにゃー」
「うー、流石は魔法。理解への道のりは長そうです……」
「結局のところ魔法は一つの学問。答えが出てもそれは一時的なものとして研鑽を怠らないのが大事にゃ!」
「はいっ! これからもっと魔法について勉強したいと思います! 今日はありがとうございました!」
「どういたしましてにゃ! こっちこそ教えがいのある後輩が生徒で良かったにゃ! ……それで、ウチはどうやって帰ればいいんだにゃ?」
「あ、それならこのスイッチを押せばいいらしいですよ」
「……なんなのにゃ、この如何にも“自爆スイッチです”って感じの物体は。コードも何も繋がってないし」
「台本にも何も書いてないですね……。まぁそんな危険なものじゃないと思いますけど、押してみます?」
「そ、そう来るのかにゃ。ふぅー……ヨシ! いくにゃ、スイッチオーン! ――って、何で足元の床が開くのにゃぁぁぁあああ!?」
「え、エレガトロさーん!? ……あーえっと。今回はこれでおしまいです! また次回でお会いしましょうね☆ ……ゲストが落下して終わりとか何なのこれ大丈夫!?」
その後、紗百合はベネトに諸々の文句を言いに行きましたとさ。
おしまい。




