第8話 赤と紫の魔法
第8話です!
葵が魔法少女として一緒に戦うことが決まり彼女を家に送り届けて一夜が明けた。日曜日は彼女が所属しているアーチェリー部が休みで用事も無いということで、恋たち一行は朝早くから訓練場所である採石場跡地に訪れていた。
「さてと。結界も張り終わったみたいだし、変身するか」
「ん、分かった」
「「メモリアライズ」」
【Yes Sir. Magic Gear, Set up】
起動詠唱と共に光が溢れ二人は魔法少女へと姿を変える。
調子を確かめるように手を握り開きを繰り返していると視線を感じる。顔を上げて確かめてみれば、大きな弓を携え恋を凝視する葵の姿があった。
「どうした葵。もしかして何か変だったりするか?」
「……変じゃない。ただ、可愛いって思っただけ」
「か、可愛いって……確かに見た目は女子に変わってるかもしれないけど、中身は男のままだからな?」
流石に『可愛い』と言われても流石に素直に喜ぶことは出来ない。しかし否定出来ないところもあるため大きく拒絶も出来ない。なんとも言えない状況だった。
「もしレンちゃんが女の子だったら、そんな顔だったのかも」
「あー……まあ、そうかもな」
「?」
歯切れの悪い答え方に首を傾げる葵。気まずい空気が流れ始めたとき結界を張り終えたベネトが傍に降り立った。
「二人とも、準備は大丈夫……って、なにこの空気」
「な、なんでもないぞ。それでベネト、今日はどうする?」
「それならちゃんと決めてあるよ」
タイミングよく現れたベネトに話かけると、ベネトは自身のデバイスである球体の機械を操作すると以前の訓練でも使った赤いサークルが幾つも出現した。それらは止まっている物もあれば動いている物もある。
「今日はお互いに自分の使える魔法を確認してもらうよ。アオイは自分の魔法で何が出来るのかの把握、レンにとっては再確認になるけど、アオイにどんな魔法を使えるのか見せてあげることが主目的だ」
「なるほど、了解」
「……頑張る」
「最初はアオイからやろっか。メモリアをケースから出して」
葵は言われるがままに腰に括り付けてあるケースからメモリアを全て取り出した。
「それじゃあ始めるよ。アオイ、自分の使いたい魔法から使ってみて」
「わかった。……ロード」
【Loading, SPIKER】
持っていたメモリアの内の一枚を弓にある挿入口――スロットに装填しそのまま起動コードを唱えると葵の手に昨日も使った尖ったデザインの矢が現れる。その矢を弓に番え弦を引き絞り狙いを定め離せば放たれた矢は凄まじい速さで射出され設置されたサークルの中心から少し右を貫通した。それを見た葵はゆっくりと構えを解いて息を吐き出す。
「……少し逸れた」
「いや充分すごいだろ。ほぼ真ん中じゃん」
「……ほぼ、じゃあ駄目。必ず狙ったところに当てるようにしないと、レンちゃんに誤射しちゃうかもしれない」
そう語る葵の瞳は真剣そのものであり、それを聞いたベネトはとても嬉しそうに頷いていた。
「うんうん、良い心がけだ。その調子でどんどんお願いするよ」
「……ふう。ロード」
【Loading, CLUSTER】
一呼吸置くと今度は“複数の弾丸が飛んでいる絵”の描かれたメモリアを装填、呪文と共に現れたのは先ほどよりも太く大きい矢だった。
先ほどと同じように弓に番え放たれた矢は空中で分裂し、無数の矢として葵の目の前にあるサークル全てを破壊した。
「おお、すごいな!」
「……なるほど。クラスターってそういうこと」
「広範囲攻撃の魔法か。身体が重くなったりとか疲労感とか、そういうのはない?」
「……ん、特に無い」
「ということは魔力の消費はそこまで多くないのか。だったら……」
話を聞きながら結果をベネトが記録していく。そうやってデータを纏めることで戦闘で魔法をどう使えばいいか分析してくれるのだ。そのおかげで一人で戦っていた時もなんとか切り抜けることが出来た場面もあった。
葵の方を見るとさっき使用したクラスターをもう一度使用して的を破壊していた。しかしそれだけでは足りないのか再出現したサークルを次々に魔法を使用して破壊していく。
「アオイー! その魔法気に入ったのかもだけど、今は何ができるのかを確かめることが先だよー!」
「……しまった。つい私の中の遊び心が」
ベネトの注意に夢中になっていたのかはっとすると装填していたクラスターを抜き取り、次のメモリアを装填する。その時、葵の口元が僅かに緩んでいた。
「……レンちゃん、この魔法すごい。動く的にも矢が勝手に当たってくれる」
「おー、ほんとだ。追尾機能があるのか」
「当たるまで追い続ける矢か。追撃にも良さそうだし、単純に牽制としても優秀だね」
「……蛇みたいで、可愛い」
「……すまん、それはちょっとわからん」
狙った目標に向かって曲がる矢の魔法――“曲がりながら動く弾丸の絵”が描かれた『 CHASER』――に対する感想がどこかズレている葵に突っ込む俺。
「へー、葵のプロテクションは壁の形なんだな」
「レンちゃんのは違うの?」
「俺のは盾なんだ。ま、それも後で見せるから楽しみにしててくれ」
「ん、わかった。わくわく」
「口で言う人見るの葵が初めてだわ」
防御魔法――“厚い一枚の壁の絵”が描かれた『PROTECTION』――では名前が同じなのに形が違うことに興味津々といった感じの葵。
「「っ!?」」
「……予想してたより眩しかった。ごめん」
「目を隠した方が良い、なんて言うからなんだと思ったら光の魔法だったのか」
「いやでもこれはすっごく実用的だよ! 目の前に放てば閃光弾として目潰しに使える!」
「ベネト、俺はその発想が真っ先に出てくるお前が恐ろしいよ……」
まるで太陽がそこにあるかのような光を生み出した魔法――“懐中電灯の絵”が描かれた『FLASH』――の使い道を力説するベネト。
全ての魔法を見せてくれたことでベネトがまとめたデータを元に、葵の魔法について各々が考えたことを話し合いながら時間を過ごした。
そしてそれがひと段落つき、今度は俺が魔法を使う番になった。
「よしやるか。ロード!」
【Loading, IMPACT】
「おぉぉおおおおらァッ!」
地面に拳を振るうと同時に魔法を発動させると衝撃が地面を襲い大きなクレーターが出来上がる。それを見た葵は感嘆の声を上げながら小さく拍手をしていた。
「……すごい」
「でしょ? 流石は僕が選んだ魔法少女だよね!」
「なんでベネトが誇ってるんだよ。あと魔法少女ではあるけど一応は男だからな」
目を細めベネトを見ると当の本人は顔を逸らし口笛を吹き始めた。しかもそれが上手いものだから起こる気も削がれてしまう。ため息を零すと葵が手を上げていたため向き直る。
「……レンちゃんは昨日戦ってるときビュンビュンしてた。あれはどうやってたの?」
「ビュンビュン……ああ、アレか。ロードッ」
【Loading, IMPACT】
今度は魔法を発動させると同時に地面に踏み込む。直後靴底から発生した衝撃により地面にクレーターを作りながら体が真上に射出された。
空中で体勢を整えると葵の目の前に綺麗に着地を決めて見せる。
「こんな風に衝撃を利用して跳んでたんだ。衝撃を発生させる魔法だからこそ出来ることだな」
「……理解した。魔法、奥が深い」
顎に手を当て考えたようにうんうんと唸り始める葵。その脳内で何を考えているかは分からないが、恐らく自分の魔法も別の使い方が出来ないかと考えているのだろう。
そんなことを恋が思っていると先ほどまでデバイスを操作していたベネトが近づいてきた。
「レン、ちょっと調べたいこと出来たから少し出ていくけど大丈夫?」
「おう、大丈夫だぞ。こっちは任せてくれ」
「ありがと! すぐ戻ってくるから!」
そう言うと結界が揺らぐと同時に外に出ていくベネト。それを見送ると二人だけしかいなくなった結界に一時の静寂が訪れる。
「あー、続きするか?」
「……うん。もっとレンちゃんの魔法見たい」
恐る恐る提案すると葵からの答えで俺の魔法披露会は続けられた。
「これが俺のプロテクションだな」
「……綺麗」
「綺麗なんていってもなあ。葵みたいに壁なら使い勝手もよかったんだが……」
「………………」
「……? 葵、何かあったか?」
「……大丈夫、少し神経質になってしまった」
「そうか? ならいいけど」
自身の盾を作り出す魔法――“盾を構える人影の絵”が描かれた『PROTECTION』――を披露したことで葵の雰囲気が少し怖くなったり。
「……すごい。レンちゃんが二人いる」
「見た目と感触が再現されてるだけだよ。魔獣は嗅覚が鋭いのが多いから使う機会が少ないんだ……って、どうした葵。俺と幻影の間に入ったりして」
「……両手に、レンちゃん」
かと思えば自身の姿を実体のある幻影として生み出す魔法――“揺らめく人影の絵”が描かれた『MIRAGE』――を見せると明らかに上機嫌になったりしていた。
「……その魔法、使う前に知らせてくれないとびっくりする」
「わ、悪い。驚かせたいっていう悪戯心が……」
「……でも、便利そうな魔法。お互いの位置を入れ替えるって」
「まあ自分の視界内にいる人としか入れ替わることが出来ないっていう制限があるんだけどな。今までは一人で戦ってたから使えなかったけど、葵と一緒なら使う機会もありそうだ」
使用条件のせいで日の目を浴びることが無かった魔法――“小さな人影に手を伸ばす大きな人影”が描かれた『SWITCH』――の使用に目途が立った。
「……これで全部?」
「あーいや。実はもう一つあるんだけど……」
使える魔法は一通り見せたが、まだ披露していなかった魔法であるブラストのメモリアを装填し魔法を発動させる。球体の魔力弾が生成されサークルに向かって飛ばす……が、魔力弾はサークルから大きく外れ結界の壁に当たった。
「この通り、狙った通りに飛んでくれないんだ。葵はどうやったらいいと思う?」
「……原因とか、分かってるの?」
「射撃の明確なイメージが出来てないから変な方向に飛ぶってベネトに言われた。近接戦闘なら経験があるからなんとかなったけど射撃の経験なんて無いし、どういう風にすればわからん」
地面に座り込み転がっていた石を軽く放るとそれは綺麗な弧を描いて砕けた石が山を為す場所に落ちる。ため息を吐き出し自身の傍で浮いている魔力弾を指で弄っていた時、葵から肩をがっしりと掴まれた。
何事かと思い目の前に迫った顔を見つめると迫真の雰囲気に思わずたじろぐ。
「レンちゃん、それ」
「そ、それ? どれだ?」
「その弾、身体で飛ばせばいい」
「……身体で飛ばす?」
突然言われたことを理解出来ずオウム返しで答えてしまう。葵は首を縦に振った後、自ずと言葉を続けた。
「その魔力弾、レンちゃんは触ることが出来るみたいだから」
「……確かに。今まで無意識にやってたけど、触れるな」
目の前に浮く魔力で出来た球体に手を這わせ掬うように持ち上げる。重さは感じないがほんのりと暖かさを感じた。
これが一体どうしたというのだろうか。特に役立つこととは思えない事実を再確認していた恋だったが、続けられた葵の言葉にその価値観はひっくり返る。
「それを利用して投げる、蹴る……なんでもいいから、弾に外から力を与えればいい。その弾をボールって考えれば、イメージはしやすいと思う」
「……お、おお……! それならいける気がする!」
その言葉に今まで見えていなかった道が見えたような気がした。勢いよく立ち上がりサークルへと向き直ると腰を落とし構えを取る。
「ふぅぅぅ……はぁッ!」
深く呼吸をして体をリラックスさせると目の間にある魔力弾を思いきり殴り殴りつける。その魔力弾は勢いよく真っすぐサークルに向かって……見事にヒットし、破壊した。
「……当たった。当たった……!」
その結果に思わず笑みが零れ、拳を握り締める。
「葵のおかげだ! ほんとにありがとう!」
「……どういたしまして。力になれたみたいで、よかった」
喜びのまま感謝を伝えると確かに微笑んでいた。ふと魔法が使えるようになって喜んでいた自分はまるで子供みたいだと考えた途端急に顔が熱くなってくる。
「んん゛! まあ俺は近接攻撃が主体だから牽制くらいにしか使わないと思うけどな。葵が一緒に戦ってくれるわけだし」
「……勿論。遠距離は任せて」
胸の前で両手を握るその様子に微笑ましさを感じていると結界が一瞬だけ揺らいだ。どうやらベネトが帰って来たらしい。
「遅くなってごめんよー……ってどうしたんだいレン? なんかいいことあった?」
「聞いてくれベネト!ブラストの使い方がやっと掴めた!」
「ちょ、僕がいない間に何があったのさ!? ずるいよ早く見せて!」
ベネトにさっきの出来事をを話すと興味津々といった風に食いついてきたことに思わず笑いが零れる。「なんで笑うのさー!」なんて声が結界内に響く中、ふと背後から視線を感じ振り返ると葵がじっと自分のことを見つめていた。
「……むー、やっぱり仲がいい」
「ど、どうした葵?」
「……妬いてる」
「なんで!?」
小さく頬を膨らませながら呟く葵に突っ込みを入れていると後ろからグイグイと引っ張られる。顔を後ろに向ければベネトが俺の腕を引っ張っていた。
「レーン、早く見せてよー!」
「だぁーっベネトお前は少し落ち着け! 引っ付くな!」
そんなやり取りをするともう一方の腕も引っ張られる……だけでなく、少し柔らかい感触がする。恐る恐るそちらを見れば葵が俺の腕を抱きかかえるようにしていた。
「……ずるい、私も」
「ちょ、葵は女の子なんだから自重してくれ!?」
「……? なんで女子だと駄目なの?」
「そ、それは……俺、男! 葵、女! オーケー!?」
「……?」
「やだこの子なんで分からないの……?」
遠回りで指摘したことも悪いと思ったが本気で首を傾げる葵に畏怖を感じてしまう。彼女とそんな会話をしているとベネトの方から振動が伝わってきた。
「ぷ……れ、レン……くふっ、早く魔法を、見せて……ッ」
明らかに笑いを堪えているような様子。つまりベネトはこの状況を見て面白がっているということであり、それを認識した時ぷちっと何かが切れる音がした。
「……そうだな、ロード」
【Loading, BLAST】
決められたコードを唱えると自身の周りに魔力弾が生成される。それを見てベネトはゆっくりと離れ後退し始めた。
「れ、レン?」
「さっきは止まった的だったからな……丁度動く的が欲しかったところだッ!」
「ギャー!? ほんとに狙って飛んでくるー!?」
魔力弾を蹴り抜き発射しそれを避けるベネト。訓練をするはずだった結界内は爆発音と悲鳴で一気に騒々しくなったのだった。
この作品を読んでいただたきありがとうございます!
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作者のTwitterはこちらとなっています。名前通りの白い鷺のアイコンが目印です!
〔@Ameno_Shirasagi〕
ここまであとがきに付き合っていただきありがとうございました。
今後もこの作品『メモリーズ・マギア』をよろしくお願いします!
それでは第9話で再びお会いしましょう!