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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第49話 深淵踏破

お待たせしました、49話です!

それではどうぞ!


「まずは、さっきのお返し」


 ドレスから生まれるようにして現れた四本の西洋剣がアルの合図によって同時に射出される。

 葵は瞬時に一射目で一本を迎撃、連続して二射三射でもう二本を弾く。最後の一本は弓を盾代わりとして軌道を逸らすことで対処する。


「……ふッ!」


 空かさず反撃する葵。一息の内に放たれるのは矢継ぎ早の三連射。

 一矢を射ってから矢を番え再び放つまでの速度は刹那、それは最早銃撃と遜色ない速度。それでいながら矢の進行方向にはアルを正確に捉えている。

 アルが防御を意識するよりも前に身を包む黒のドレスが蠢き震える。腹部の布を利用して鞭のように変化すさせると、迫る矢をいとも容易く叩き落とした。


「ロード」

Loading(取得), CLUSTER(拡散弾)


 自身の攻撃が防がれようとも葵に動揺は無い。次なる魔法によって空へ向けて放たれた矢は弾けるように拡散、葵の前方一帯に矢の雨が降り注ぐ。

 この攻撃に対しアルは頭上に円形の大盾に造り出すことで防御。硬い接触音を連続で発しながら地面に紫色の矢が転がっていく。

 だがこの瞬間、アルの動きは封じられたも同然だった。


「セット」

【MEMORIA BREAK】


 葵はその隙を見逃さない。手元に現れた巨大な矢を番え呼吸を整えると、自身に迫る黒の帯を無視して放った。

 宙に撃ち出された矢は無数に分裂、アルの周囲を敷き詰めるように配置された直後連鎖的に爆撃が広がった。

 余波で巻き上がった戦塵を振り払うように薙ぎ払われる。その発生源はマントに変化しアルの全身を包むように防いでいたドレスだった。


「……範囲攻撃も駄目か。思ってたよりもかなり厄介」


 アルが使う黒衣の魔法。その脅威を身を以て体験した葵は確かめるように弓を握り直す。

 葵が持つ最速の一撃に対して、防ぎ切るとは言わないまでも軽症で済ませられるほどの反応速度。加えて広範囲の攻撃に対しても対応するどころか黒衣に傷一つ付いていないのを見るに、相当な強度を誇ることが伺えた。

 攻撃と防御、その両方を兼ね備えた魔法。変幻自在な様はまさに“万能”と評しても差し支えないだろう。


(……だけど、付け入る隙が無いわけじゃない)


 葵が視線を向けたのはアルの左腕。そこに僅かではあるものの、焦げたような痕が付いていた。

 一見欠点が無いように思えるアルの魔法。しかし強力でありながらその実、取り扱いにはかなりの繊細さが求められるものだからだ。


 一つは魔法の効果について。

 アルが度々行う投げナイフなどの投擲や射出による遠距離攻撃。これはドレスから分離するため一時的にアルの近くにある布の量が少なくなるということ。それは同時に防御に割ける布も少なくなってしまうことを意味し、最大スペックが発揮されない状況に陥ってしまうことを表す。

 アルが左腕に傷を負ってしまった原因はそこにある。剣の回収が間に合わず、左腕の一部だけが露出する形の防御となってしまったわけだ。


 そしてもう一つは、魔法自体の性能限界。

 アルが攻撃を喰らったのは決闘祭の中では二回だけ。一回戦に闘ったセイルによる斬撃、そして葵の必殺技である『グローリア・シューティング』だ。

 二人の攻撃に共通しているもの。それは極限まで速度が高められた一撃であること。

 つまり、魔法による自動迎撃の反応速度を超えた攻撃は通用するということだ。


 加えるなら、単純にアルの防御を真正面から打ち砕くだけの破壊力を用意することが対策に成り得る。しかし葵にとって先程繰り出した『アサルト・ストライク』が最大威力の攻撃である以上、それが通じないとなれば実質的には無いに等しい選択肢だろう。


(『グローリア・シューティング』を決め手として闘うか、遠距離攻撃を繰り出した後を攻めるか)


 葵の中でアルとの決闘における主軸が定まってくる。ただ、前者はともかく後者については考えるところがあった。

 本体からの分離によって一時的に魔法の性能が下がることはアルにとっても当たり前の事実の筈。それを分かっていながら実行したということは――


「……私と同じか」


 要するに確認作業だ。先程までは観客席から得た情報にどれだけ差があるのか、想定と実際の擦り合わせてギャップを埋めるための戦闘だった。

 即ち――ここからが本当の決闘になる。葵はプロテクションのメモリアを装填すると一息、次の交錯に備えた。


「……抜かれちゃった」


 小さな呟きの後アルの視線は傷を負った左腕に注がれる。ジクジクと染みるような痛みを感じるが戦闘に支障は無い。直ぐに決闘相手である葵に意識を戻した。


(覚悟はしていた。けど、想定よりもずっと強い)


 閃光の如き一射、広範囲に渡る連鎖爆撃。どちらも事前情報は持っていたが実際に攻撃を喰らうとその脅威がよく分かる。

 一瞬でも気を抜けば射抜かれるという緊張感。葵の鋭い瞳は『いつでもお前を狙っている』と言外に伝えていた。


「どうしようかな……」


 呼吸を整え終えたアル。その思考は彼女自身の魔法に向く。

 武器を変形させるというのはセラの魔法『赤片の(クイーン・イン)女王(・レッド)』に似ているものがあるが、その自由度は明らかにアルの方が遥かに高い。

 セラは刃という形を保っていたが、アルの場合は身に纏う常闇のドレス――形が変わっているだけで元々は魔導書だが――その布を変形させる。それは例えるなら、本を構成する(ページ)一枚一枚で折り紙をするようなもの。


 そして、アルの魔法が強力なのは“発動する”という意志すら必要としないことにある。

 魔導書に記された魔法を使用するための陣や文言。その中に組み込まれている論理演算によってドレスから得た周囲情報から状況を分析、使用者の指示を待たずして自動で魔法が駆動するようになっている。

 ある時は敵を撃滅する剣に、ある時は脅威から守る盾に、ある時は全身を包むほどのマントに。その都度に合わせて最適な形に変化する。


 無論、アルの意志によって魔法を行使することも出来る。基本的には攻撃をアル自身が担当し、防御は自立稼働する魔法が担当するという役割となっている。

 この魔法の利点は攻撃面ではなく防御面。アルが知覚していない脅威に対しても自動的に対処できることにある。例え攻撃の最中だったとしても脅威が迫っていれば身を守ることを優先するのだ。


 だからこそ、その牙城を乗り越えて攻撃を通してくる葵は手強い。強力な攻撃を数多く(よう)しており、一切外さないと思わせる射撃能力には目を見張るものがある。


「……うん。やっぱり、慣れたやり方が一番だ」


 相手が強いからこそ自分のスタイルを崩さない。それがアルの出した結論だった。


(……来る)


 見合う両者の間に一陣の風が吹いた瞬間アルが一気に跳び出す。葵は徐に駆ける相手へ向け連続で攻撃を撃ち出した。

 だが、そのいずれもがドレスに備わる自動迎撃によて防がれてしまう。時折ギリギリ命中しない軌道のものが混じっているが、そちらには見向きもしなかった。

 矢の雨を潜り抜けたアル。互いの距離は近接戦闘の領域へと突入した。


「喰らえ……!」


 アルの手に握られるのは一振りの大剣。遠距離攻撃に用いられた剣よりも重厚感のある幅広の刃が横薙ぎに振るわれる。

 弓と大剣が激突、突風が吹き荒れる。鍔迫り合いの最中、葵の視界の端に映ったのは幾つもの黒い帯。

 刹那鳴ったのは激しい衝突音。葵の周囲に出現した紫色の壁が帯状の触腕の攻撃を妨げていた。


「……ッ?」


 その時、葵の手にかかる負荷が消失する。先ほどまで目の前にあった大剣は解け、腕を振り抜いたアルの姿があった。

 しかしそれも束の間。振り被られたアルの脚にドレスが集い、剣の形をとった靴へと変化させた。


「斬ッ!」


 返す刀で繰り出される真一文字の剣線。鍔迫り合いに力を込めていた影響でアオイの体勢は崩れている、もう一度受けるにも今からでは間に合わない。

 そこで葵は回避を選択。前にあった重心を急速で後ろに引き戻すと上体を思い切り反らすことで斬撃をやり過ごす。


「っ、はぁッ!」


 刃の先端が頬を掠める。葵は弓を一時的に消すとバク転の要領で地面に手を付くとそのまま蹴り上げを繰り出した。

 魔法による自動迎撃が機能し難なく防御される。葵は流れるように腕力だけで跳ね上がると、そのまま空中で弓矢を構え連続五連射の矢を放つ。

 五本目の矢が帯状の触腕に弾き飛ばされた時発生する極光。それは魔力の高まりを表すと同時にメモリーズ・マギアにおける必殺技の予兆でもあった。


「貫き通す……!」


 再び放たれる閃光の一矢。自動防御に任せては間に合わないと踏んでアルは自身で魔法を使用すると盾を生成、防御態勢を整える。

 ――だが、此度の攻撃はその防御すら貫き、アルの脇腹を抉った。


「ぐ……っ!?」


 痛みに顔を顰め体勢を少々崩したアルだったが自動防御は健在。貫通力が高められた程度の魔法矢は問題無く防ぎ切った。

 ただ、困惑は拭えない。自身の防御を真っ向から打ち破られるというのはアルをして滅多に無い経験であり、葵がそれを可能とするとは夢にも思っていなかった。

 だが、それは葵も同様。自身の攻撃が相手のドレスを貫けるとは微塵も考えていなかった。寧ろもう一つのメモリアブレイク『アサルト・ストライク』を完璧に防がれているため、歯牙にもかけないとばかり思っていたのだ。


 不可解な事象だが、先の一撃で葵は確信した。『グローリア・シューティング』ならば、アルに決定的な一撃を与えることが出来ると。 


「……今度こそ撃ち抜く」


 葵の言葉は自身に対する宣誓。次のメモリアブレイクでアルを倒すという決心だ。

 問題は使用するタイミング。二度目は万全の防御体勢を整えられたため、接触した際に矢の軌道がズレてしまった。

 つまり、事前にどれだけアルの守りを崩せたかで命中するか否かに直結する。


(だけど、防御も気を付けないとヤバい。下手すると一瞬で持っていかれる)


 葵が見つめるのは風で揺れる黒のドレス。そこから想起されるのは大剣と鍔迫り合いをしているときに襲い掛かってきた帯状の触腕。

 アルにとって手にしている武器など何の参考にもなりはしない。言うなれば全身が武器、あらゆる距離からあらゆる攻撃手段で襲い掛かってくる。距離を空けた今でも一刻たりとも気は抜けない。


「……シッ!」


 駆け出した葵。一定の距離を空けアルの周囲を回りながら息もつかせぬ怒涛の連射を繰り出していく。


「っ、そういう事……!」


 数本の矢を叩き落としたアルは続くように駆け出す。なんとか近距離戦闘に持ち込むために接近を試みるが、葵は絶対に距離を詰めさせない。何よりも、走りながら弓を射るという状況でありながら全ての矢がアルに命中する軌道を描いている。

 葵の目的は明確。アルの自動防御を敢えて発動させることで隙を生み出し、『グローリア・シューティング』によって勝負を決めることだ。


 一気に攻勢に出た葵は傍から確かに勝負を仕掛けたという風に捉えられる。事実葵は攻めの好む性格であり、決闘祭中も積極的に攻撃する姿が見られている。

 ただ、控室でその決闘を見ていた恋たちは違った思いを抱いていた。


「……やっぱり、葵先輩いつもと違いませんか?」

「ああ。攻めっ気があるのはいつも通りだけど、なんかこう……」

「焦ってる?」

「そう! 桐花が言った通り、なんか焦りが見えてる気がする」

「言われてみると、確かにそうだね……」


 交流を重ねた成果か。知り合って半年もいかない桐花と紗百合でさえ、葵の微妙な変化を違和感として読み取れるようになっていた。

 そして、それは的中している。葵には、この決闘に一秒でも早く決着をつけたかったのだ。


(また、この風……!)


 それはアーチェリーをしている葵だからこそ気付けたのだろう。決闘が開始されてから時折吹く風に嫌な予感を覚えていたのだ。

 このまま戦闘が長引けばマズいことになる。馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるのが簡単だが、葵にとって悪い予感とは得てして当たってしまうモノという認識だった。


 攻め続ける葵だが、アルの堅牢な防御は中々崩れない。寧ろ時間が経つに連れて学習しているかのように対処が確立されていく。

 崩したくとも崩せない、そんな状況にも葵は動じない。しかし状況が膠着しているのも確かだった。


 ――そして葵の胸騒ぎが最高潮に達した時、遂に()()はやってきた。


 突如として闘技場を包む薄暗さ。風に乗ってきた雲によって陽光の発生源である天体が姿を隠されたのだ。

 そして葵は確かに見た。アルの口元が吊り上がっていたのを。


「……“天運が味方した”って、こういうことを言うんだね」


 手を翳すアル。次の瞬間、葵の脚が黒刃によって斬り裂かれた。


「な、んッ……!?」


 走る勢いのまま地面を転がった葵。立ち上がりながらその眼で見たものは、地面に映された影がアルの立つ地点を中心として蠢いている様子だった。

 だが、それこそがアルの魔法の本質。真の姿だった。


「『深淵踏破』……貴女は、闇を歩く覚悟はある?」


 機械のように色の無い表情でアルは告げる。艶のある黒の長髪が風に揺られていた。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

次回、アルの魔法が遂に真価を発揮。葵はどう立ち向かい、勝利することができるのか。

どうぞお楽しみに!

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