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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
83/162

第48話 決勝第四戦 葵vsアル・グリーヴァ・アルハザード

今回は葵vsアルの導入です!

それではどうぞ!


 三戦目の終了に伴い思いの丈を表す観客たち。その中でもリーズネットは我が身に起こった出来事のように声を上げていた。


「あーんっ! 最後の惜しかったのにぃ! というかあの大鎌、刃だけ変形させるとか自由度高すぎじゃないですか? ねぇ博士!」

「………………、」

「……えっとー、博士? 聞こえてますー?」

「――ん。ああ、すまない。少し考え事をしていた。何か言ったか?」

「セラって子の武器、もとい魔法がすごいって話です! 特にあの全身が赤色に染まってからの彼女は凄いとしか言えなくて! あの魔法ってどうなってるんですかね?」

「なんだそんなことか。それなら――」


 その時、何かを察知してかナムコットは突然言葉を切り背後を向く。観客席上部に位置する立見席を一瞥すると大きく溜息を吐いた後に立ち上がった。


「席を外す」

「え、ちょっと博士、今何か言おうとしましたよね! 気になるんですけども!」

「安心したまえ。次の決闘が始まるまでには戻る」

「そんなこと聞いてないんですけど!?」


 白衣の背中に発せられる「この自己中博士めー!」という非難もナムコットはどこ吹く風とばかりに流して歩む。階段の踊り場は日中であるのに大した光も無く、不気味な暗がりと静寂で満ちていた。


「さてと。なんでキミが居るのかな――ペトー」


 壁に背を預け腕を組むナムコットが機械質な瞳で捉えるのは深紅の装いに身を包んだ麗人。その名はペトー・レナトゥス・タルレイン、星を統べる赤き女王がそこに居た。

 浮かべる笑顔は花のように見目麗しく、振りまかれる儚さは蜜のように甘い。普通なら立見席に居る時点で大騒ぎになって然るべきだが、周囲の人間は彼女を正しく認識出来ていなかった。

 ナムコットは極めて冷静に、酷く無感情に、いつも通りの体裁で視線を向ける。


「あら、まるで私が此処に居ることが不都合みたいな言いぐさね。仲間外れにされているみたいで悲しいわ。しくしく」

「気色悪い泣き真似をどうもありがとう。……それで? わざわざ認識阻害の魔法を施した衣服を身に着けている辺りお忍びなんだろうが、公務はどうした」

「緊急性のあるものは既に終わらせてあるわ。後は私じゃなくても出来るものばかり。私じゃなくていいのなら他者に任せるのは当然ではなくて?」

「キミの場合“任せる”ではなく“投げる”という表現が適切だろうが」


 ペトーは静かに笑うだけ。沈黙は肯定とも捉えられるが、それを体現しているような素振りだ。

 それでも沈黙は数秒ほど。彼女は徐に闘技場に訪れた理由を話し出した。


「最近は特に缶詰め状態だったから息抜きがしたかったの。外に出るからには国の様子を見て回ろうと考えたのだけれど、それなら客人の様子も確認しておこうと思ってね」

「そうか。女王様のお目に適ったかい?」

「ええ、合格よ。今はまだ粗く小さいけれど星の原石であることに変わりはない。どうせならこのままサブテラーに永住してくれないかしら」

「それは無いだろう。彼らの居場所は地球だ」

「……分かってるわよ。言ってみただけ」

「ハッ。言葉と(かお)が一致してないぞ。残念で仕方ないといったように見えるが?」


 ニヒルに笑う研究者と少々慌てる女王。かけ離れた身分の二人によって重ねられる会話は意外にも軽いものだった。

 だが、それも当然なのかもしれない。

 二人はかつて、同じ師の元で魔法を研究した間柄なのだから。


「ま、まぁそっちはいいのよ。この星で快適に過ごせているのなら問題無いわ。それよりも私が興味を惹かれたのは――」

「やはり『彼女』か」


 ペトーは咲いたような笑顔で頷く。

 ここで二人が共通認識としている『彼女』。それはセラの事に他ならない。


「随分と豪勢な魔法を使っているものだからつい見入ってしまったわ。現時点でも『器』としての強度は破格。遠征星団(シルヴァリオ)の試験にも合格しているし、次代を担うに相応しい超新星ね」

「次代を担う、ねぇ。それはどういった意味を持つのかな?」

「ふふふ、何を言ってるの――そのままの意味に決まっているでしょう?」


 ぐにゃり、と。空間を満たす闇が歪に曲がる。

 しかしそれは一瞬。空間が悲鳴を上げるような音を発し始めた矢先、巻き戻るようにして世界が元通りとなった。

 異常の発生源だったペトーは愉快に嗤う。


「彼女たちには数々の運命が訪れる。それを超えた先、皮を脱した姿がどうなるのか興味は尽きないわ。ナムコットもそうでしょう?」

「……ああ。死ぬほど認めたくは無いが、行動原理で区分するとしたならば私とキミは確かに同類だ。手段は全く違うがね」

「そうね。でも、それが生きているってコトなんだと思うわ」


 そう言って踵を返したペトー。下へと向かう階段に歩を進める。


「帰るのか?」

「ええ。侍女の子を振り気って来たものだから、そろそろ顔を見せて安心させてあげないとね」

「……キミが脱走しなければその従者も普段通り仕事をこなせたろうに。同情するよ」

「好きな子は虐めたくなってしまうものでしょう? 涙を浮かべる彼女の顔、とっても可愛いの」

「相も変わらず悪趣味だな。さっさと戻ってやれ」

「分かってるわよ。……ああ、そうだ」


 階段を降りようとした寸でのところで振り返る。


「ナムコットなら測定しているだろうけれど念のため。私の眼から視ても『彼女』の魔力波動は似ていたわ」

「……ふむ、そうか。多方面からの証言が得られたのは良いことだな。礼を言う」

「どういたしまして」


 「それじゃあね」と控え目に手を振り立ち去っていく姿を見届けたナムコットは嘆息。白衣を翻し観客席へと帰還を果たすと、観客席ではリーズネットとベネトが何やら議論を交わしているところだった。


「ただいま。何を話しているんだい?」

「あ、おかえりなさい! アオイちゃんが決闘する相手の魔法について話してました!」

「なるほど。それだったら私も参加させてもらおうかな」


 ナムコットを含めた観客たちは思い思いの時間を過ごす。次の決闘に向けて、着実に熱を蓄えていった。





「よーっす! 勝ったよー!」


 決闘を終えたセラは勢いよく控室の扉を開ける。快活な声は彼女を象徴するものだった。


「お疲れ様。セラにしてはだいぶ手こずったわね。満足……は、言うまでもないって感じか」

「うんっ! 強かったから楽しかった! これでルルが調子に乗って負けた分は取り戻せたよね!」

「お姉ちゃんお願いだから思い出させないで。死にたくなるから」


 セラとしては『お姉ちゃんとして負けた妹の分まで頑張ってきた』というニュアンスで話しているつもりなのだが、如何せん言葉選びが致命的過ぎる。

 さめざめと涙を流すルル。セラはそれを見てただ首を傾げるだけだった。

 彼女たちグリモワールの中では姉妹漫才とも評されるやりとりの中、アルが静かに腰を上げた。


「……行ってきます」

「いってらー。自由に闘ってきな」

「……ん、わかった。頑張る」


 イヴの言葉に小さく拳を握って見せたアルはそのまま控室から出て行く。後に残った少女たちはそれぞれ談話を続けた。


「アルと決闘するのってあの弓使いの人だっけ?」

「ええ、あの弓使いよ」


 葵の戦闘は良くも悪くも見る者たちの印象に深く根付いていた。


 光が生み出す陰すら置き去りにせんとする異次元の射撃。かと思えば、拡散した矢に込められた魔力を開放することで引き起こされる連鎖爆撃。そして標的を捉えていなくとも自動で追尾する矢は記憶に新しい。

 異常なまでの攻撃性能。それが葵に対するグリモワールの評価だった。


「ねぇ! これすっごく面白い決闘になりそうじゃない?」

「……まあ、アルの魔法とあの人の魔法、どっちが上なのか興味はあるわね」

「だよねだよね! ……あー、でもアルが全力で闘えないのはちょっと残念かも」

「魔法の性質上、日中は大幅に能力を制限されるからしょうがないじゃない。そもそも、ルルとアルは不利な状況での戦闘を経験させること、私とセラとイヴは初見相手の対応力を鍛えることが目的でしょ」

「……おお、そういえばそうだった! 戦うのが楽しくて忘れてた!」

「お姉ちゃん……」


 残念なものを視る目がセラに降りかかるが、当の本人は理解していないようだった。


「まぁ、こっちには余裕があるからアルには伸び伸び決闘してもらえばいいさ。なんかあっても私が頑張ればいいだけだし」

「…………、」

「む、何さナコ。言いたいことあるなら言っていいよ」

「いや、イヴの口から“頑張る”なんて言葉が聞けるなんて思いもしなかったから」

「あー……まぁ、そう言われても仕方ないって自覚はしてるけどね」


 苦笑いしたイヴは端末を置き、代わりとして自身の魔導書を手にする。漆黒に塗られた装丁を優しく撫でた。


「私はね、気になるんだ。今の自分の実力はどの程度なのか、魔法使いとしてどれだけの位置に居るのか。……言ってしまえばただの力試しなんだけど」


 普段の気だるげな様は鳴りを潜め、夢見る子供のように瞳を輝かせるイヴの姿が在った。

 持っていた魔導書を異空間に収納するとナコに視線を向ける。


「そんな訳で、今回は真面目にやるよ。そもそも手加減とか出来るような相手じゃないしね」

「いいなー、私もレンと闘いたかったなー。……そうだ! 決闘祭終わった後に頼めば闘ってくれないかな!?」

「お姉ちゃん、決闘祭が終わった後は遠征星団(シルヴァリオ)の研修だよ?」

「そ、そうだった……」


 がくり、と肩を落とすセラ。満足したとはいえ戦闘好きに変わりはない。強敵との闘いほどセラが望むものは無かった。


「ほら、落ち込まないで。みんなでアルの決闘を見守りましょ」


 その一声で全員がモニターに視線を移す。

 モニターには、入場門から歩み出すアルの姿が映し出されていた。





「よろしく」

「……こちらこそ、よろしくです」


 交わされた言葉は最低限と静かな邂逅。握手を交わすと直ぐに初期位置に向かう姿は二人の性格を表しているようだった。

 葵は魔法少女に変身。弓を構えた状態で見据えるのは黒いドレスに身を包んだアルの姿。


「さあ、決闘祭も遂に大詰め! 強力無比な魔法を使うグリモワールがこのまま勝ち切って優勝を掴み取るのか! いやいやメモリーズ・マギアも負けてはいない! ここで勝って最終戦へと(もつ)れこませるのか! 運命の第四戦……開始です!」


 ――瞬間、翔けたのは紫の閃光。次いで発生した大きな破砕音と土煙が場を支配する。

 光にすら追いつく一矢は見間違いようもない。葵の必殺技である『グローリア・シューティング』だった。

 開幕からの特大攻撃に静まる観客たち。しかし、土煙が薙ぎ払われたことによって杞憂に終わることとなった。


「……やっぱり、速い」


 そこには夜空色のドレスを巨大な手のように変化させ矢を掴み取るアルがいた。肩口から血を流している様子からは完全に防ぎ切れなかったことが伺える。

 バキリ、と。音を立てて真っ二つに折られる魔力の矢。矢の残骸を捨て去ればドレスが生き物のように独りでに蠢き始めた。

 次の矢を番える葵とドレスを刃物のように鋭く変化させたアル。

 決闘祭、優勝を決める第四戦目。最初から全開の決闘が今、幕を開けた。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

次回から本格的に戦闘描写になっていきます!

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