第39話 決勝第一戦 紗百合vsルル・ミスカ・シュリューズベリィ
お待たせしました! 39話、決勝戦の1戦目です!
それではどうぞ!
「ロード!」
【Loading, SHOOT】
紗百合はメモリアを一度に三枚装填、振るわれた杖に合わせて魔弾が射出。そのどれもが標的であるルルに当たる軌道を描く。
だが、そのまま当たるほど決闘は甘くはない。軽快にステップを踏みながら避けていくルル、咄嗟に曲がる魔弾にも難なく対応している。
彼女の戦闘スタイルは一定の時間相手の攻撃を回避し続け、不可視の攻撃による一撃を与え戦闘不能にさせるというもの。それは決闘祭の中で常に一貫されている。
合間に攻撃を挟んでくるならば、まだ対処法はあっただろう。防御と攻撃が移る瞬間、動作の転換点には必ず隙が生まれるからだ。
だが、ルルという少女にはそれがない。ひたすら逃げに徹し続けているため、生じる間が最小限のものとなっている。
「なかなか巧いですね。でも、その程度の攻撃なら当たりませんよー?」
「そんな軽口叩けるのも今の内だよ、ロード!」
【Loading, GATE】
魔法の発動と同時に再び魔法陣から撃ち出される魔弾、それを回避するルル。同じ光景が焼き増しのように繰り広げられる。
しかし今度は違った。杖から発せられる音声の後ルルの背に襲い掛かる衝撃。唐突な視界の外からの攻撃に肺から空気が吐き出される。
前のめりになりながらも後ろを見たルル。視線の先にあったのは明らかに異様な空間の裂け目。
「な、門の創造……っ!?」
驚愕に染まるルルの表情。瞬間ただならぬ気配を感じ正面に向き直れば杖を構え追撃の姿勢をとる紗百合の姿。
「やばっ」
「セット!」
【MEMORIA BREAK】
魔法陣が大きく展開され魔力が収束、間髪いれずに放たれた砲撃が場を揺らす。後に残ったのは壮大に削られた地面。
攻撃による破壊痕に目を向けたルルは胸を撫で下ろす。ギリギリのところではあったが、全力で横に跳ぶことで回避に成功していた。
そこを狙い撃ち出されるレーザー。避けられたものは門の中へと吸い込まれ再度ルルへと降り注ぐ。
軽やかに身を翻し回避。地面に残された爪痕を見てその攻撃力の高さを再認識した。
「これは、ちょーっとキツいかもですね……」
攻撃の雨を回避するルルは傍らに浮く魔導書に目を向ける。開かれたページに書かれた文字が時間経過と共に変化していることが見て取れた。
それが表しているのはタイマー。ここまで全ての敵を昏倒させてきた魔法が発動されるまでの待機時間である。
ルルが今まで戦ってきた存在に攻撃能力が高い存在は多くいた。だが、その中でもとりわけ苦手としているのは手数が多い手合い。
無論そう易々と攻撃を通しはしない。そういった相手の対処も身に着けている。
しかし――
「コネクトブレイク、ディスチャージ!」
【Count CHARGE:2. Full Burst】
戦場を横に薙ぐ面の一撃。上空に跳んで回避したルルだが、門を通して繰り出された魔力弾によって地面に叩き落とされる。
更に追撃として放たれる魔弾。それも先ほどから空間を埋め尽くさんとばかりに敷き詰められている。
「あーもうっ! なんでそんな意地悪な攻撃ばっかりするんですかぁ!?」
紗百合のように広範囲攻撃を駆使する存在は大の苦手であった。
息つく間もなく次々と繰り出される攻撃。そもそも回避自体が困難であり、尚且つ紗百合は回避の先を予測して攻撃している。
それを躱すというのは更なる負担を強いられ、より窮屈な状況へと追い込まれる。自らの身が盤上に乗せられている駒のように感じていた。
対して鬼気迫る様子を見せる紗百合。メモリアブレイクを躊躇いなく使うなど、ペース配分を全く考えていない攻勢は確実に標的を追い立てていく。
そうまでして攻め続ける理由はただ一つ、ルルの魔法にあった。
不可視の攻撃に注目していた紗百合。その方法については終ぞ解明することは叶わなかったが、ある共通点を見つけ出すことに成功していた。
一つ目は、ルルと闘った相手は例外なく突然息が出来なくなったかのように苦しみ脱力して倒れること。そして二つ目は、その現象が起こるのは必ず戦闘開始から九六秒が経過した時だということ。
九六秒。それが必殺の魔法を発動するまでの制限。
回避するにはその時間に達するまでにルルを倒すか、魔法を解除させるかの二択しかない。
気付けたのは紗百合本人の勤勉さ、目星を付ける能力の高さからだろう。雪辱を果たすためにも血眼になって観察していた結果の賜物だった。
(五一、五二、五三……!)
戦闘開始からのカウントは既に一分間際。残された時間は僅か、意地でも仕留め切るために思考を回す紗百合。
攻撃の操作、門を創り出す位置、自身と相手の位置関係。刻一刻と変化し続ける戦況を常に把握、最適な方法を算出し実行する。
それはさながら全力疾走の最中で盤上遊戯を行うようなもの。類い稀なる集中力と演算能力の高さを最大限に生かした戦法だ。
そして勿論、その戦い方はそれほど長い時間続けることは出来ない。決闘祭の中で今まで使っていなかったのは情報面での有利を取りたかったのもあるが、体力の消耗が高すぎるという理由もあった。
だが、ここは決勝の舞台。後のことを気にする必要は無い。
そして何より、紗百合は後悔していた。
「今度こそ、全力で!」
限界など知ったことではない、自らが持てる力を出し切り勝利する。その想いが紗百合を突き動かす。
戦況を意のままにコントロールするため全神経を研ぎ澄す。決闘祭の中でも紗百合の集中力は間違いなく一番の高まりを見せていた。
「このままいきたかったんですけど……流石は決勝、そう甘くもないですか」
劣勢に立たされたルルは魔導書に手をかざす。
それと同じくして放たれる六本のレーザーが囲むように空間を走った。
「セット!」
【MEMORIA BREAK】
三度目の大技の行使。集積した魔力が放たれる直前、レーザーの射出角度を絞ることで退路を断つ。
「――昏き淵より、大いなる主は光を見る」
放たれた砲撃。衝撃が会場を大きく揺らす。
閃光が視界に広がる中で紗百合は杖から伝わる感覚に不信感を露わにする。確かに攻撃は当たっているが、妙に歪な感触を受けた。
――瞬間、砲撃が掻き消える。
「ぐっ!?」
腕を交差し防御態勢をとった紗百合。突如発生した暴風によってその位置を大きく後退させる。
そして、次に見た光景に目を剥いた。
「私、これでも頑張っていたんですよ? なるべく自分の魔法は隠して、一撃必殺を心がけていました。なんでだと思います?」
崩れたローブを整えたルルの背後。腰を中心として空間そのものが砂糖水のように揺らいでいる。
それを見た紗百合は直感した――それは現象ではない、何かが存在していると。
「だって――コレを見せたら、みなさんどうやっても委縮しちゃうんですもん」
裂けんばかりに嗤うルル。
勢いよくページが捲られる魔導書の表紙、歪んだ五芒星の中心に描かれている閉じた瞳がゆっくりと開く。まるで眠りから醒めるように。
――歪んでいたヒカリが、正された。
顕現したのは計八本の腕。あえて表現するならばタコの脚が一番近いだろうが、それにしても異様な有り様をしていた。
床狭しと敷き詰められている鱗は苔むした泥色。また暗闇に溶ける暗さを併せ持ち、夜に向けて羽ばたかんと打ち震えている。
先端に備わるのは長い鉤爪。肉を喰らい、風を斬り裂く光景を幻視させる形状は下手な刃物よりよっぽど凶悪な代物に思えた。
「な、にそれ……」
「何って、私の魔法ですよ。素敵でしょう?」
何が素敵なものか――紗百合は声を大にして叫びたかった。
だがそれすら許されないほど、ルルの背後で蠢く触手から伝わる気配は異質だった。
「ッ、フゥー……」
紗百合は小さく呼吸を整える。嫌に波打った精神が静かなものへと転じていき、数度繰り返せばなんとか正常に近い調子へと戻すことに成功した。
「わぁ、凄いですねサユリさん! 慣れてない人が私の魔法を見ると大体は精神を揺さぶられて調子を崩すか、酷ければ錯乱しちゃったりもするんですけど」
「どうもありがとう。許されるなら一瞬たりとも視界に入れたくないけどね……!」
「もう、そんなこと言わないでくださいよ。貴女になら見せてもいいって思えたんですから」
汗が紗百合の頬を伝う。
要するに、今までルルに倒されていった選手たちはあの触手にやられたという訳だ。
実際に対峙してもその存在を欠片たりとも認識できなかった。そもそもこの空間内にいたのかすら疑わしい。そんなモノの攻撃をどうすれば防げるというのか。
だが見えるのならば話は別、それなりの対処も可能だ。問題は触手にどれだけの力を秘めているか。
「まずは小手試し!」
試しとばかりに攻撃を放つ紗百合。門を通過した魔弾が四方八方からルルへ向けて射出される。
それに合わせて動く触手たち。弾幕全てをいとも容易く掻き消した。
「やっぱり定着が甘いですか……まぁしょうがないですね。そこは割り切りましょう」
ルルは自らの手を見つめ、確かめるようにそれぞれの指をゆっくりと動かす。
それを見て紗百合も警戒の色を濃くする。必殺技を簡単に退け、範囲攻撃にも対応できる能力は驚異の一言に尽きた。
「さて、と。攻められてばかりというのもなんですし、反撃といきましょうか!」
不敵に笑いながらルルは歩み始める。その間隔は一歩ずつ短くなり、直ぐに疾走へと変化した。
そしてある程度距離を詰めたところで振るわれる腕。導かれるように呼応した触手が一気に伸びる。
大きく跳び退き避けていく紗百合。時折魔弾で射撃をするもその悉くが触手によって叩き落とされる。
「あはは、効きませんよ!」
「面倒な……!」
内心舌打つ紗百合。槍術を収めている身であるため接近戦はお手の物だが、ルルの操る触手と近接戦闘など絶対に御免だった。
精神的な苦痛が伴うのもそうだが、なにより膂力の高さが目立つ。その証として地面は地雷でも爆発したように抉れていた。
だがそこは紗百合も同じこと。チャージによって蓄積した魔力を用いて攻撃の威力を増し、牽制を欠かさない。
まさに拮抗状態。二人の距離はなかなか縮まる様子を見せない。
「やっぱり巧いですね。それならこうしましょうっ!」
少し屈んだルルは四本の触手を用いて地面を殴打。その反動により一気に小さな身体が躍り出る。
触手攻撃の射程距離、その範囲に紗百合を収めた。陽光に光る鉤爪に貫かれようものなら重賞は避けられない。
「さぁ、こっちの番ですよ!」
「残念だけど譲らない、ロード!」
【Loading, GATE】
触手の突きを素早く察知した紗百合は魔法による門を自身とルルの間に創り出す。
そのまま門の中へと突っ込む触手。現れた先はルルの右斜め後方、視覚外から本人の元へ鋭利な爪が向かうが別の触手が身を挺して防がれた。
「あっぶないですね! 柄にも無くヒヤッとしちゃいましたよ!」
「これにも反応するか! そのまま喰らっとけばよかったのに!」
「私もチームを背負っていますので、そう簡単にやられるわけにはいかないんですっ!」
強引に身を捻ったルル、それに合わせて伸び切った触手が大きく横に薙ぐように動く。紗百合は杖で防御し身体全体で威力を外へと流す。
「標的補足、二軸指定。夢見るままに窓を打て!」
「――ッ!?」
詠唱の瞬間紗百合に悪寒、なりふり構わず全力で横に跳ぶ。すると先ほどまで紗百合がいた場所が爆ぜた。
それは地面から突き出た触手。ルルの方を見れば触手の一本がぶつ切りされたように途切れている。
紗百合は、その光景を見て確信した。
「それが不可視の攻撃の正体ってワケ!」
「あはっ、その通り! これが私の魔法『座標握撃』の本領ですよ!」
ルルが腕を振るい、それに応じて触手が何もない空間から現れ攻撃を繰り出す。何の冗談か、それは紗百合が得意とするゲートを用いた亜空間攻撃と酷く似通っていた。
「奇しくも同じタイプの魔法使いに当たれたんです! 全力で楽しませていただきます!」
「上、等! 打ち砕いてやる!」
笑顔を浮かべる紗百合とルル。それは闘争を楽しむ者しかできない、輝いた表情だった。
ここまで読んでいただきありがとうございました!
決勝戦、ガンガン書き進めていきたいと思います!
果たしてどちらが勝つのか。登場キャラ達の応援、よろしくお願いします!




