表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
73/166

第38話 虚白の天、二人は語らう

少しだけ難産だった……

今回は中継ぎ回となっております。

それではどうぞ!


 そうして準決勝一戦目が終結。

 恋が目を覚ましたのはそれから暫く経ってからだった。


「……あ、起きた」


 発せられた声。反射的に視線を向けると葵がこちらをじっと見つめていた。

 ゆっくりと上体を起こす。戦いによる反動で痛みは残っているが、思っていたより動けるようにはなっていた。


「……もう大丈夫なの?」

「痛みは残ってるけど、とりあえずなんとか。……他のみんなは?」

「紗百合ちゃんが一度だけ来た。今は三人で観戦してるよ」

「そっか。悪いな、葵も疲れてるのに」

「私は大丈夫。……レンちゃんは他人のこと心配しすぎ。もっと自分の心配しなきゃダメ」

「……はは、そうだな」


 確かにそこは反省すべきところだろう。素直に謝れば怒り気味の空気も霧散した。

 そこで改めて辺りを見渡し、止まる。自分と反対側のベッドではノエルが未だ眠っていた。


「……俺は、勝ったんだよな」

「ええ、そうよ。貴方たちの勝ち」


 意識外からの返答。ハッと顔を上げる。入り口の方に居たアリスが近寄り、何やら値踏みするように見つめてきた。


「えっと……?」

「ああ、ごめんなさい。同じ幻影魔法使い、戦闘スタイルは違えど気になってしまったのよ。それに……ノエルのこともあったから」


 そう言ってアリスは対面のベッドに移動。静かなに眠るノエルの頭をそっと撫でること数秒、再び面を向かわせる。


「負けたのは悔しいけれど、これもいい経験。貴方たちメモリーズ・マギアと闘えてよかったわ」

「こっちこそ。アリスたちと戦って、自分たちもまだまだだなって見直した」

「ふふ、勤勉なのね。それでこそ魔法使いよ」


 謳うようにアリスは言葉を紡ぐ。


「『魔法は己が内にある』――魔法を学ぶということは自分自身と向き合うことと同義。研鑽を欠かさないその姿勢、凄く好感が持てるわ」

「あ、ありがとう?」

「どういたしまして。……アオイ、次の機会があったら今度こそ勝つわよ。今日と同じ結果になるとは思わないことね」

「……私も、止まるつもりなんてない。返り討ちにしてあげる」

「ふふ、それでこそ倒しがいがあるというものね」


 不敵に笑うアリス。葵ともに好戦的な言い回しだが、そこに剣呑さは無い。ライバルと表現するのが一番合っている関係だった。

 良好な関係を築けていたからだろうか。アリスは逡巡した後に口を開く。


「でも――次に貴方たちが闘うチーム、グリモワールは本当にヤバいわよ」

「……それは、どういう?」

「単に忠告よ。負けた私が言うのもなんだけれど、あの子たちは正真正銘の傑物(けつぶつ)よ。異端と言い換えてもいい。それほどまでに圧倒的なの。……ほら、噂をすれば」


 アリスの視線の動きを追う。先にあったのは決闘の中継を映すモニター。

 それを見た恋と葵は目を剥く。

 表示されている戦績表はグリモワール側に丸印が四つ並ぶ。つまりそれは、グリモワールが既に四勝している証拠。


 そして現在行われている五戦目。イヴの変幻自在な魔法によって一方的に追い詰められていく対戦相手、一歩たりとも近付かせないという意志を感じる。

 そしてそのまま物量で押し切り決闘が終了。危なげも無くグリモワールの全勝で幕を閉じた。


 グリモワールの相手も準決勝という舞台に進出した選手たちだ。当然弱いということはない。

 ただ――イヴたちの方が強かった。それだけのことだ。


「ね、これだけでも分かるでしょう。あの子たちの実力がね」

「ああ、確かに凄い。だけど……だからこそ闘ってみたい。そんでもって、勝ちたい」


 自分らしくないな、と恋は思う。口から自然と零れ出した言葉は高揚に満ちていた。

 どうやら、まだ闘いの熱が残っているらしい。強敵との闘いを前に胸が躍っている。それはどうも恋だけでは無く、葵も同じようだ。


「私も負けるつもりはない。勝ちを目指すのは当然のこと」

「そう、それなら良かった。もしかしたら萎縮しちゃうんじゃないかと思ったけど、杞憂だったみたいね」

「……アリスちゃん、心配してくれてたの?」

「なっ……! い、言っておくけどね! 貴女たちが一方的に負けるなんてことがあったら、それこそ負けた私たちの格にも関わるの! そこのところしっかり覚えておいてよね!」

「……ふふ。うん、胸に刻んでおく」

「なんで笑うのよ……!」


 そんな仲睦まじい会話から再び時間を空けて。

 歩ける程度まで復活した恋は葵と共に、立見席で育たち三人と合流する。闘技場を見れば何やら上部の形状が変化していた。

 次にそこで繰り広げられたのは空を翔けて闘う魔法使い二人の姿。聞いてみれば空中戦部門の一回戦を行っているらしい。


 障壁によって定められた区画内の空を縦横無尽に飛び回る魔法使いたち。決闘の性質上、攻撃方法は遠距離が多いが近接戦闘もレベルが高い。勉強になる動きなどが数多くあった。

 そしてなによりも特筆すべきなのが決闘自体の華やかさ。暗くなり始める空に走る魔力の攻撃は花火を彷彿とさせる。

 地上戦部門はまさに実力を競うというものだったが、空中戦部門はさながら舞いの美しさを競うよう。煌びやかな闘いに観客も女性が多いように思えた。


 そうして観戦を終えるとホテルに帰還。決勝戦に向けて各自ベッドで眠る。

 しかし――


「……寝れない」


 誰もが寝静まった頃、恋は上体を起こす。

 心臓の鼓動がやけに聞こえてしまい落ち着けない。疲れているはずなのに、いつまでも睡魔がやってくることはなかった。

 どうしようか考えていた時、ふと部屋の窓に視線が向く。


「……ちょっとくらい大丈夫、だよな?」


 きょろきょろと周りを見れば小さく丸まり寝息を立てる育の姿。起きる気配は無いことを確認する。

 ゆっくりと窓を開け放つ。流れ込む外気はひんやりと冷たい。

 恋はメモリーズ・マギアを起動し変身。器用に外へ出ると窓を閉じ、そのままホテルから跳び降り屋根へと飛び移っていく。


 そうして辿り着いたのは一つの塔、その屋根に腰を下ろす。未だ活気溢れる夜のサブテラーを一望できる場所だった。

 視線を上へと移す。空に広がる満天の星空の中、巨大な白の天体を見つける。

 地球で一番大きく見えるのは月だが、それよりも更に大きい。滑らかな地表面まで肉眼で見えるほどだった。


「……、」


 何を想ったか、恋の腕は徐に空に向けて伸ばされる。

 遠く、さらに遠く。遥か先まで。

 まるでその星辰(ほし)に引き寄せられるように――


「こんばんは、良い夜だね」

「――……ッ!?」


 ハッと我に返る。

 突如声がした方に振り返れば、そこにはノエルの姿があった。


「隣、座ってもいい?」

「あ、ああ……」


「ありがと」と言ったノエルは一人分のスペースを開けて屋根に腰を下ろす。

 恋は伸ばしていた手を数秒見つめた後、意識を隣へと向けた。


「アレ、気になるの?」

「え? ……ああ、まぁな。俺たちのところにはあんなの無かったから」

「あはは、だよね。じゃあ僭越ながら私が説明しよう。アレは『白痴(はくち)(うろ)』っていう星でね。昔はあそこに神様が住んでたんだよ。今は何にもないただの白い星だけどね。抜け殻ってやつ」

「神様……とても信じられないな」

「まぁそうだよね。でも、本当なんだ。魔法の起源は未だ解明されてない。『魔法とは遥か遠き神から生じたモノ。我々はその残滓(ざんし)を扱っているに過ぎない』って考えてる人も一定数いるくらいだしね」

「……そうなのか」

「あ、興味なさそう」


 ギクリ、と強張る肩。ジト目で見つめてくるノエルから視線を逸らし、なんとか別の話題を探し出した。


「そ、そういえばノエルの魔法ってどんなのなんだ? 途中から姿も変わってただろ」

「分かりやすっ。……まぁいいけどね。えっと、私が使える魔法は二つあるの。一つは『封縛刻印』っていって刻んだ幾何学線を起点として封じ込める魔法。簡単な例で言えばコレね」


 軽く腕を振ると嵌められた枷が小さく揺れる。予想通り拘束具としての役割があったようだ。


「それでもう一つは? 多分、枷を開放した時に強化で使っていた魔法だよな」

「そうだよ。私に刻まれた呪いを利用した呪術。その魔法の名前は――『生ける炎』」


 聞かせられた魔法の名前。それはパズルのピースのように噛み合っていた。


「この魔法ほんと最悪なんだよ。確かにすっごく強いけど負担が馬鹿みたいに大きい。使いすぎると私っていう存在が内側から燃えるんだ」

「……それは比喩か?」

「え、言葉通りの意味だよ。それがどうしたの?」

「いや、よくそんな危ない魔法使ってられるな!?」

「私の場合、みんながよく使う魔法はイマイチでね。唯一と言っていい適性があったのが呪術っていう魔法のジャンル。封縛刻印だってその影響で使えるようになった魔法だしね。まぁ魂に刻まれた呪いが消えるわけも無いから上手く付き合っていくよ」


 そのようにして星明りの元、二人だけの時間が過ぎていく。

 会話を重ねるが何処か覚束ない距離感。明らかにあるものを避けて会話を続けている。

 その理由はお互いに分かっていた。

 だが、こうしているだけでは駄目だ。今の話題がひと段落した恋は呼吸を整え、遂に切り出す。


「なぁ、ノエル。あの約束なんだけど……聞いてもいいか?」

「……うん、いいよ。でもその前に、一つだけいいかな?」

「ああ、勿論」


 膝を抱え込み、ノエルは儚く笑う。


「レンは――()()()()()()()()()()?」

「――――やっぱり知ってるんだな」


 恋が独りで抱え込み、何よりも求めてモノ。

 それは――失った過去。

 脈打つ鼓動を深呼吸で落ち着け、ゆっくりと話し出す。


「……十一歳の時だ。俺は間違いなく何かの事件に巻き込まれたはずなんだ。でも、その記憶が一切無い」


 今でも鮮明に思い出せる。

 長い冬が開けた春。頬に当たった雨で意識が覚醒する。

 暗くジメジメとした路地裏に、自分の身体より大きい衣服を身に纏った状態で立っていた。


 自分はなぜこんなところにいるのか、前後の記憶にイマイチ繋がりが無い。

 何故か止まらない涙と、胸にぽっかり穴が開いたような虚無感。

 また、失ってはいけないモノを失ってしまった――自然とそう感じた。


 次の瞬間、居てもたってもいられず脚が動き出した。

 路地裏を跳び出し、全力で駆けていく。


 息が途切れ途切れになっても。

 身体が悲鳴を上げていても。

 何度も転びながら、泣きながら、()ても無く土砂降りの中を走り続けた。


「……そっか」


 それを聞いたノエルは飲み干すように頷く。


「レンと出会ったのは私が十三歳のとき。五年前だね」

「……やっぱり、そうだったか」


 五年前――それは恋が十一歳の年。

 失った記憶に、大なり小なりノエルが関係している。

 恋は何処か納得していた。初対面なのに謎の既視感を覚えたこと。当たり前のように話せたこと。それら全ての理由がようやく分かったことに安堵すら覚えた。


「レン、今何歳?」

「……十六だ」

「私は今年で十八。やっぱり五年って長いね。お互いこんなに大きくなっちゃった。でもレンの方が大きいのはちょっと悔しいかも」

「……ノエル、俺はッ」


 唇に指を当てられ、言葉が遮られる。


「謝らないで。それはしょうがないこと。寧ろ記憶を持ってる私が例外なんだよ」

「……だったらせめて、ノエルと一緒にいた頃を話してくれないか?」

「うん、約束したしね。……といっても、そんなに話せること多くないんだ。一番印象に残ってるのだと、私とレンが殺し合ったことかな?」

「なるほど、殺し合い――――――はい?」


 殺し合い。命のやり取りを、ノエルと。

 余りの衝撃に呆けたのが意外だったのだろうか。思わずといった様子でノエルが噴き出す。


「あははっ! そんなに驚く?」

「いや、そりゃそうだろ! え、そもそも何でそんなことになったんだ!?」

「そこまぁ、成り行きというか? お互いに譲れなかったというか? まっ、そんな感じだよ」

「いや、何やってんだよその時の俺……」


 どういう状況になれば殺し合いをすることになるのか。色々と考えてみるもその理由には皆目見当もつかなかった。


「んー、そんなに信じられないなら証拠を出してあげよっか。あ、殺し合いの方じゃなくて、レンと私が昔会ったことがあるっていう証拠ね」

「……本当にあるのか? 俺にはその時の記憶が無いんだぞ」

「あるんだなーこれが。――ねえ、レン。『双竜』は持ってこなかったの? 決闘では使ってなかったけど」


 その時、恋は心臓が掴まれたような錯覚に陥った。

 同時に、全てに納得がいった。何故ノエルがこうも自信に満ちていたのか。


「………………それを知ってるってことは、確かに会ったことがあるみたいだな」

「えへへ、信じてくれた?」

「ああ。……他のことは?」

「レンとの思い出は言葉にするには色々複雑なんだ。だから残りは、レンが思い出して」

「……でも、それは」

「大丈夫。いつかちゃんと思い出せる日が来る。そうしたらまたお話ししよう?」


 重なる視線。

 一体いつになるのかも分からないのに。そもそも思い出せる保証もないのに。

 それでも尚信じると。未来を信じる意思が宿った、真っ直ぐな瞳だった。


「……分かった。思い出したら、改めて」

「ほんと? やった。じゃあ約束ね」

「ああ、約束だ」


 ノエルは立ち上がり、天蓋に散りばめられた煌めきを見上げる。


「こんな遅くにありがと。そろそろ帰るね」

「……そういえば、ノエルはなんでここに来たんだ?」

「あはは……医務室で寝過ぎちゃったからかな。全然寝付けなかったんだ。そういうレンは?」

「俺も似たような感じだ」


 恋とノエルはそれぞれ笑う。そこには屈託は無かった。


「決勝戦、応援行くから。私たちの分も頑張って!」

「任せとけ。ここまで来たんだ。優勝を目指す以外に道は無い」

「ふふ、頼もしいなぁ。それじゃ――」

「「またね」」


 挨拶を交わしそれぞれが帰る場所に向かう二人。

 音を立てずにホテルへと帰ってきた恋は変身を解きベッドに寝転ぶ。そのまま待機形態のメモリーズ・マギアを見つめた。

 一回戦、二回戦、そして準決勝。立ちはだかる強敵難敵を下し、ようやく辿り着いた決勝の舞台。

 最後の試練は魔導書を扱う少女たち。激戦になることは必至だろう。


「……よし」


 小さく意気込む恋。次に目を閉じれば意識は自然と落ちていった。





「さぁさぁ皆さん! これまで数々の激闘が繰り広げられてきた決闘祭地上戦部門。今日、遂に優勝チームが決まりますッ!」


 歓声の雨を浴びて入場する二人。

 恋たちメモリーズ・マギアから紗百合。グリモワールからはルルが決闘の場に歩みを進める。

 そして両者、自身の相手を真正面に収めた。


「今日はよろしくお願いしますサユリさん。いい闘いにしましょうね」

「うん。だけど、勝ちを譲るつもりはこれっぽっちも無いから」

「同感です。こう見えても私、結構負けず嫌いなので」


 ルルは魔導書を開き、紗百合はメモリアを装填する。戦闘形態への移行を確認した後、視界からの言葉が再開される。


「さぁ、それでは参りましょう! 泣いても笑っても一発勝負! 決闘祭決勝、第一決闘――始めッ!」


 宣告と共に爆ぜる歓声。

 最強を決める闘いの序章。その幕が今、切って落とされた。


ここまで読んでいただきありがとうございました!


いよいよ始まる決勝戦。相手はグリモワールの少女たちです!

果たして恋たちは、魔法使いたちの頂上に立つことができるのか。


次回、紗百合vsルル。ぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ