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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
72/166

第37話 輝き、燃える

37話、ついにvsノエル決着です!

それではどうぞ!


「ん……っ、ここ、は……」


 差し込む明かりに意識が浮上する。

 ゆっくりと瞼を開ければ飛び込んでくる白色。それは既に葵が見たことの医務室のものだった。


「……! 決闘は……ぐっ」


 勢いよく上体を起こす。ダメージが残っている状態ではあるが、なんとか我慢し備え付けのモニターに視線を移す。

 そこにはいつか見た黄金の剣を振るう恋の姿。そして画面脇には編集で付け足されたであろう勝敗表が映っている。その四番目――葵が戦った場所に〇印を見つけると胸を撫で下ろした。

 その時、隣のベッドから少女の声が発せられた。


「あ、起きたんですねアオイさん」

「……アリス、ちゃん?」

「はい。お身体はどうですか?」

「えっと……動けないほどじゃないから、大丈夫」

「それならよかったです。心配だったので」


 ふわりと柔らかい笑顔。心から安堵しているのが伝わってくる。

 それを見て、葵は直ぐにピンときた。


「……やっぱり静穏ちゃんだ」

「へ? せいおんちゃん?」

「……貴女のこと。見た目はそのものだけど、大会前に喋ったアリスちゃんとは雰囲気が違う」

「あ、あはは。やっぱり隠し通せるものでもないですよね」


 きゅっ、と小さく拳を握ったアリス。それは何かを決心するようだった。


「えっと、ですね。()()()のことを説明するにはアリスが使う魔法……より正確に言えば、『アリス』という存在そのものを知ってもらわなくてはいけません」

「……?」


 妙な言い回しに首を傾げる葵。

 その疑問に答えるようにアリスは口を開く。


「――アリス・シャーロットという少女は多重人格者なんです。()()()は数多く存在するアリスの人格、その内の一つにすぎません」

「……え」


 多重人格。

 またの名を解離性同一性障害。


 聞いたことがある。人間は過剰なストレスや強烈なショックから身を守る為に、精神を切り離すことがある。このとき切り離された精神が自己の裏側で密かに成長、結果一つの肉体に複数の精神が存在する状態になってしまうと。


 それが多重人格だったはず――記憶を探り当て、知識を引き出す。如何せんうろ覚えのため正確かどうかは分からないが、ここではさして重要ではない。

 自身の目の前にいる少女が多重人格者であること。それが葵にとっては驚愕だった。


「ごめんなさい、びっくりさせちゃいますよね」

「ううん。でも今なら納得できる。決闘の最中、本当に人が変わったみたいだったから。……でも、あの幻影の魔法って……」

「はい、複数ある人格を映し出していたんです。それを可能にする魔法こそ、『人格補正式アリス』」

「……人格、補正式?」


 馴染みの無い言葉に葵は再び思案。

 それを見かねてか、直ぐにアリスが言葉が返ってくる。


「分かりやすく言えば、自我崩壊を引き起こさないように人格を調整する魔法です。これのおかげでわたしたち『アリス』は今日を生きています。……切り離されたときの傷を刻印として利用しているのは、少し複雑ですけど」


 自嘲気味に苦い笑みを零すアリス。

 直ぐに「でも」とアリスは困り顔で、かつ微笑まし気に続けた。


「主人格のアリスはこの魔法の名前が嫌いなんです。“無機質でダメ!”なんて言って。それで天に煌めき(ゼーレトゥルス)()返す欠片よ(ゲーネズィス)っていう名前に変わったんです。……あ、ごめんなさい。長く話し過ぎてしまいましたね」

「ううん、大丈夫。……うん、やっぱりカッコいい魔法だと思う」

「あ、ありがとうございます。そう言って貰えると、主人格も喜びます」


 交わされる笑顔。そこで一度会話が切れる。

 そこで何か思い出したのか、アリスが再び口を開いた


「そういえば、気になっていたことがあるんですけど……いいですか?」

「……どうしたの?」

「その、さっきアオイさんが言っていた『静穏ちゃん』というのは?」

「……アリスちゃんの幻影、分かりやすいように名前を付けてた。明るい子が遊楽ちゃん、クールな子が灼凍ちゃん、赤ちゃんっぽい子が狂気ちゃん。それで、あなたが静穏ちゃん」

「――――」


 アリスは目を見開いた。信じられないものを見たと言わんばかりに。


「……ごめん。嫌だった?」

「――はっ! い、いえいえそんなこと! むしろそんな素敵な名前を貰ってしまって恐縮というか、初めてのことでびっくりしたというか……とっ、とにかく嫌では無いデス!」

「そっか。なら良かった」


 わたわたと手を振るアリス。見た目も相まって小動物らしさが強調されておりとても微笑ましい。

 そうして談笑していた時だった。ひと際大きな歓声が聞こえたのは。

 自然と二人の視線がモニターへと移る。そこではノエルと恋が激しく競り合う光景が繰り広げられていた。


「凄い、三つ開けたノエルさんと互角なんて……」


 葵は映像に見入る。その集中力はアリスの言葉が耳に入らないほど。

 激しくかつ軽やかに戦う恋。剣を扱う彼はそれだけ活き活きとしているように見えた。

 だが、それと同時に葵に駆け抜けたのは――恐怖だった。

 なぜそう感じたのか、具体的なことは分からない。漠然とした思いだけが胸に揺蕩(たゆた)い、得体の知れない違和感だけが残る。


「レンちゃん……」


 葵にできるのは、恋の勝利を祈ることだけだった。





「おおおぉぉぉッ!!」

「はぁぁぁっ!!」


 咆哮、剣と戦斧が真っ向から衝突する。

 目の前の敵を撃滅せんと振るわれた一撃は余波だけで地面を捲り上げ、大気を震わせ、悲鳴のような金属音を鳴らす。


 黄金の剣を手にした恋。その変化は劇的だった。

 攻撃、防御、回避。一つの動作を経る度に増していく鋭さ。

 それに惹かれるようにノエルの動きもまた一段と研ぎ澄まされていく。

 互いに互いを高め合う戦い。それは宝石の如く、見る者全てを魅了させる。


「ふッ!」


 三秒にも満たない鍔迫り合いを制した恋は斬り付ける――そう見せかけ剣の持ち方を変更、柄尻による打撃を繰り出す。

 これにノエルも瞬時に戦斧を持ち変え刃部分をずらすことで対処。そしてそれは見事に嵌り防御に成功した。


「せぁっ!」


 力任せに振るわれる戦斧に恋は堪らず跳び退く。間もなく走り込んでくるノエルの姿を認めると即座に防御態勢、繰り出された三段蹴りを剣の腹で防ぎ切る。


 ノエルの動作から次の動きを予測。そして回し蹴りに移行していた間隙、支柱となっている足を刈り取らんと蹴り抜く。

 しかし当たる寸前、ノエルは片足だけで跳び上がった。


 天と地、刹那の中で二人の視線が交差する。

 そして流れるままに放たれた二つの攻撃が交差。反動によりそれぞれ後退した。


「まだ、足りない……!」


 ビリビリと痺れる腕。それはノエルの攻撃の威力を如実に表していた。

 恋は空気を取り込み、吐き出す。


「もっと……もっとだッ!!」


 打破すべき敵を視界に収め、はち切れんばかりに脚のバネを引き絞り駆ける。

 心を入れ替えてから、その動きは目に見えて良くなっている。にもかかわらず攻め切れないのは、ひとえにノエルも戦いの中で成長しているからだ。


 恋が一段上を行けば、ノエルがそれを跳び超える。

 ノエルが一歩先を行けば、恋がそれを追い越す。

 ただひたすらに繰り返される適応と進化。限界など知らないと言わんばかりに、二人は高みへ昇っていく。


「「絶対に勝つッ!」」


 チームの勝利の為、繋いでくれた仲間の為。そんなお題目はとうに彼方へと消え去った。

 見えているのは目の前に立つ相手のみ。他のことなど頭の片隅にも存在しない。

 それはもはや、勝利だけを求める鬼神だ。

 だが、無意識だろうか。二人が浮かべているのは獰猛な笑みだった。


「……楽しそう」


 歓声で埋め尽くされる観客席、その誰かがぽつりと呟く。

 戦場で散らされる火花に当てられるように、観客たちのボルテージも最高潮に達していた。


 そして遂に、均衡を保っていた戦いに変化が訪れる。


「ぜぇあああッ!!」

「ぐっ……!?」


 上段から振り下ろされた両手剣を防ぐノエル。重い一撃は戦斧越しにも伝わり、その威力に戦慄する。

 限界を超える戦い。ここにきて恋は更に前のめりな攻めを敢行する。

 武器を振り被る瞬間、重心を入れ替える瞬間。動作の隙間に捻じ込まれる攻撃にノエルは対処を余儀なくされる。


 剣で、拳で、脚で、魔法で。感覚と思考回路を擦り切れるほどに働かせ、最適な攻撃を選択していく。そこに防御は一切考えられていない。


 一手でも間違えれば即座に負けもありうる、綱渡りな戦い方。

 だが、退かない。ひたすらに押し続ける。

 徐々に、しかし確実に。戦局が恋へと傾き始める。


 最初は一瞬とも言えぬ遅れだった。しかしそれが積み重なって、致命的な隙を生み出してしまった。

 恋の攻めが、ノエルの牙城を突き崩した。


「ロードッ!」

Loading(取得), SLASH(斬撃)


 詠唱に呼応し淡い輝きを見せる剣身。獲物を仕留めんとする黄金の牙が、立ち(ふさ)がる戦斧に喰らいつく。 

 亀裂が入る音が衝撃の狭間から鮮明に届いた。


「なっ……!?」

「うおぉぉぉッ!」

「っ、く……!」


 ノエルは体勢を無理やり変え、剣筋から身体を逃がす。

 次の瞬間、戦斧は無残にも半ばから両断。それだけでなく、恋によって繰り出された蹴りが見事命中し地面を転がった。


「はぁ、はぁ……ふぅ」


 立ち上がり呼吸を整えるノエル、視線は自身の武器へと注がれる。

 戦いに熱中していて武器の疲労度を度外視してしまっていた。何度も激しく打ち付けたのだ。よくここまで持ってくれた方だと思うべきだろう。

 幸い再生可能な特殊金属であるため修復自体は可能だが、それには何十分と時間を要する。とてもこの決闘の最中では間に合わない。

 そして認める。今のままでは恋には勝てないと。


「私も、覚悟を決めなきゃね……!」


 ノエルの魔法は身体に多大な負荷を及ぼす。

 それは魂に刻まれた呪い――内に宿る存在に起因するもの。相性が良いとはいえ、そもそもが別次元の存在。使い過ぎれば身を滅ぼしてしまうのが道理。

 解除できる封印は四つ。それが余裕を持って戦闘を行える限界点。


 だが、三つ解除した状態でも恋は食いついて離さない。無手で闘えないこともないが、あの黄金剣の担い手に対して真っ向から挑むには無謀が過ぎる。


 更なる制限解除。戦闘可能時間は三分がいいところか。

 やらなければ、やられる。

 二つに一つの選択肢。ならば答えは決まっていた。


「ロード!!」

Loading(取得), IMPACT(衝撃)


 よからぬ気配を察知し即座に跳び出す恋。

 接近し攻撃を繰り出そうとした寸前、その身が宙を踊り地面に叩きつけられた。


「な、に?」


 恋は違和感に従って視線を下ろす。

 その正体は脚に絡みついた鎖。目で辿(たど)った先に、戦斧の柄尻に繋がれている様子が映る。

 魔法で強化した剣で鎖を断ち切るが、稼がれた時間はもう戻ってこない。


第四封縛(フォース・ライズ)刻印解除(コードリリース)――――」


 枷を外すための詠唱。されど今までのものとは決定的に違う。


「――――いざ(あお)げ。そして畏れよ。我らは夜天に座する星辰なり」


 それは安らかな清流のように。あるいは煌煌と燃える炎のように。

 少女の言葉を発露にして、場の空気が塗り変わっていく。


「流れ出でた壺水(こすい)より生じ豊穣の女主人。内海を満たす情欲は雷霆を超越し、混沌より這い寄る影を()き尽くす熱とならん」


 少女から発せられるのは爆発的な熱波。

 それも生半ではない。天より降り注ぐ光熱を凌駕し、戦場を満たしていく。


(こい)した人を手に掛けた。愛した娘を捨て去った。湖に我が身を投げようと、焦がれる(ほむら)は未来永劫潰えない」


 それは罪であり、同時に罰。

 かつて少女が犯した愚かしい行為と、永遠に消えることが無い罪科。自戒と自嘲がふんだんに込められた皮肉の文言。


「くそッ――――!」


 走れ、走れ、疾走(はし)れ。

 感覚が鳴らす特大の警鐘に従い、全力で大地を蹴り上げる。

 だが、近付けない。活発になった大気が途轍もない勢いで押し寄せてくるせいで、まるで嵐の中を突き進んでいる感覚。

 あと数歩。あと数歩で届くのに、それが恐ろしく遠い。


「今こそ原初の姿に還る時。目覚めのまま大いなる顎門(アギト)は開かれん。不浄(はら)う我が(わざ)こそ神の祝福と知るがいい――――!」


 四つ目の枷が外されたその時、周囲の大気が爆ぜる。

 吹き荒れる風と粉塵。

 これには恋も堪らず脚を止め、顔を庇う。

 数秒後、暴風が止んだ先では愕然とする光景が広がっていた。


 ひび割れた地面に灯る(あお)(くら)い焔。爆心地の中心には、以前のノエルは存在しない。


 蒼穹を衝かんばかりの角が(そび)え立つ冠を頭上に載せ。

 天藍の虹彩をした右目は蛇のように鋭く。

 オーロラのような二本のヴェールが幾重にも重ねられた羽衣を身に纏い。

 四肢を侵食する刻印は全てを飲み込む常闇に色付き。

 暗影の内ではその漆黒さえ塗り潰さんとする、蒼く輝く無数の光源が揺らぎながら明滅する。

 その姿、宇宙(ソラ)を宿しているかの如し。

 恐ろしいまでに冷徹で荘厳。されど遍く全てを抱き締めるような柔らかい明るさを讃える。

 それは炎。肉体の遥か奥底、魂より出でし輝きそのもの。


「――この姿になるの、本当に久しぶり」


 ゾワッ!!! と。恋の神経全てが一斉に栗立つ。

 脳に直接届くように響く、甘ったるい声。

 そして流れる風に乗って漂う()()()()()()()()

 極めて慈悲深くありながら、その実酷く冷淡である眼差しに晒される。


 ――次の瞬間、恋は大地に立つことを許されなかった。


「――――ぇ?」


 口から零れる血反吐。視線を下げてみれば削られた脇腹から血で染まる肉が顔を覗かせている。

 顔を上げれば、なにやら手のひらを向けているノエル。そこで中央からあっという間もなく壁に叩きつけられていたことに気が付く。

 攻撃を喰らった――それを認識するまで数秒を要した。

 そんな恋を遠目で見つつ、ノエルの眉間には皺が寄る。


「……やっぱり制御しきれない。だから嫌なんだ、この力は」

『神であろうと灰塵すら残さん(オレ)の力を一端とはいえ行使できるのだ。有難く思うのが道理だろう?』

「それで自分を滅ぼしちゃ世話無いんだよ」


 手を開き、閉じる。自らの力を再認識するように。

 ノエルの視線の先には、立ち上がった恋が映っていた。


「これを使った以上は私も捨て身。だからここからは――時間との闘い」


 許される時間はあと僅か。

 ノエルが恋を仕留めるか。はたまた失敗に終わり力尽きるか。

 それとも――恋が更に超えてくるか。


「さぁ、決着を付けよう! 行くよレン――いや、黄金の剣を担う者(クリューサーオール)ッ!!」

「……ッ、おおおおぉぉぉッ!!」


 地面を蹴ると同時に衝撃を発生させ、莫大な推進力でもって駆け出す。

 その経路は一直線。示すのは最短最速の突撃。


「押し潰す!」


 ノエルが差し向けた手のひらに集う光。

 それは彼女が内に宿す魂の星々、その全てが発する生命の輝き。

 臨界点に達した直後、闘技場を埋め尽くさんと極光が放たれる。


 迫る特大の砲撃に塗り潰される恋の視界。

 それはかつて経験したアルカエスの極大レーザーと同等か、それ以上。

 退路など既に存在しない。故に――真っ向から打ち破る。


「セット!」

【MEMORIA BREAK】


 黄金の剣に魔力が集い、なおいっそう輝きを増す。

 それは夢を支配する宇宙樹を切断した一振り。

 そして此度は、星の輝きを束ねた一撃を斬り裂かんと刃が走る。


【CRESCERION SLASHER】


 蒼天と黄金がぶつかった瞬間、反発した力が引き起こす衝撃が闘技場を揺らす。あまりの威力に周囲の空間が悲鳴を上げた。


「ぐ、ぁ……!」


 荒れ狂う力の奔流、震える剣を必死に押さえつける。

 今こそ正念場。この一撃を退けなくして勝利は無い。


 地面を思い切り踏みしめ、力を籠めた。

 ――ブチリ、と。筋肉が断たれる音が鳴る。


 腕を引き締め、剣にありったけの魔力を注ぎ込んだ。

 ――視界は歪み、意識の混濁が始まる。


 しかし絶対に倒れることは無い。猛然と荒ぶる光の奔流に立ち向かい続ける。

 それを可能としているのは至極単純な理由。

 絶対に負けたくない――業火の如きの想いが、限界を超えた更に先の力を引き出した。


「そこを、どけぇぇぇぇぇッ!!!」


 天に轟く咆哮と共に走り抜ける三日月の軌跡。

 蒼き星々の輝きは、(ほつ)れた糸のように淡く溶けた。

 ――瞬間、赤き星が地を駆ける。


(こご)える炎が宇宙(ソラ)を包む!」


 天女の羽衣が如きヴェールが硬質化、鎌となって空間を走る。

 描かれた軌道は清廉な川を彷彿とさせつつも、威力は濁流に等しい。川が山を切り拓くように、自然における切断機構を体現していた。

 だが、それでも仕留められない。

 視認できる速度を優に超えた攻撃は(かす)りこそすれど、捉えるまでには至らない。既に攻撃を見てもいないのだ。

 上下左右、必要最低限の動きで躱し続ける。避けれない攻撃は剣で斬り裂く。

 前へと進むスピードが落ちることは決してない。

 怒涛の勢いで帯を斬り捨てた恋は新たにメモリアを装填し、そのまま発動。剣の攻撃が届く範囲に踏み込んだ。


()(はら)え、灰の(かいな)!」


 ノエルに宿った星空が歪んだ瞬間その内部から青白く燃える腕が現れ、うねりながら恋の胸部を貫く。

 カウンターの為に取っておいた手札。予備動作の一切無い攻撃。回避は不可能。

 その証拠に確かな手応えを――


「――――えっ」


 ノエルは目を見開いた。

 恋はこの手で、確かに貫いた。

 だが――その背後にもう一人、剣を構える恋の姿が映った。


 なんで。どうして。

 疑問ばかりが脳裏に浮かぶ。その答えは直ぐに分かった。

 蒼の腕で貫かれた恋が、徐々に霞み始めているのだ。


「幻影、魔法……っ!?」


 それはノエルの仲間であるアリスが用いる魔法と同種のもの。

 恋にも隠し持っていた手があった。その衝撃が身体を硬直させる。

 生まれる一瞬の間。しかし今この時においてそれは隙以外の何物でもない。


「ロードッ!」

Loading(取得), IMPACT(衝撃)


 足裏から発せられる衝撃が地面を突き、反動で恋の身体を吹き飛ばす。

 もはや幾度となく繰り返された動きに淀みは無い。ノエルから繰り出された拳は対象を失い空を切る。

 恋の眼前には、がら空きの胴体が広がっていた。


「っ、第五(■■・)――」

「セットォォォッ!!」

【MEMORIA BREAK】


 黄金に輝く大剣が、少女の身に刃を立てる。

 光を束ねて折られた布が一枚、また一枚と斬り裂かれていく。


「――――ぁ」


 それは自身の運命を悟ったが故に漏れた、か細い声。


【CRESCERION SLASHER】


 擦れ違い、一閃。

 恋の剣は間違いなくノエルを捉え、斬り付けた。


「…………ぁは。やっぱりレンってば、強いや――――」


 静寂の中に吹き抜ける風。

 崩れ、地面にその身を倒すノエル。

 恋は――依然、残心を欠かさず二本の足で立っている。


「けっ……決着ゥー! 立っているのはレン選手のみ! メモリーズ・マギア対コードトーカー、勝ったのは――メモリーズ・マギアだァーッ!!」


 司会者の宣言を聞いた瞬間、恋は地面に膝を付く。

 混濁した視界、平衡感覚は失われ、急激な眠気に襲われ始めた。


「俺の、勝ち……だ……」


 力なく倒れ伏した恋。

 彼が最後に浮かべていた表情は――穏やかで、透き通った笑顔だった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

祝! メモリーズ・マギア決勝進出!


いよいよ戦いは最後の舞台へ! サブテラーでの集大成、頑張って欲しいところです!

さて一大決戦。その対戦相手は……語るまでも無いでしょう。


さてこれからの展開ですが、小休止回を挟んでから決勝戦に移ろうと考えています。

恋たちそれぞれの心境はどうなのか、周りの人々は。そういったところに焦点を当てていきたいです。


さて、今回はここまで!

あとがきまで読んでくださった方、ありがとうございます!


それではまた次回でお会いしましょう!



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― 新着の感想 ―
[一言] うおおおおお!!! あつかった!! すごいよかったです!!!(語彙力)
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