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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第35話 戦場に咲く、葉無しの赫

35話です!

それではどうぞ!


「――いくよ」


 凛とした言葉がノエルの口から鳴る刹那、赤い残像が尾を引く。直後に空気を裂いたのは金属同士が激突する音だった。


「ッ、くそ……!」


 またこれだ。恋は攻撃を防ぎながら歯噛みする。

 自分の意志とは別に身体が勝手に動く。人間には経験則から考えるよりも先に身体が動くことがあるが、これは似て非なる現象だ。


 例えるならそれは、自分という存在が遥か外なる存在からコントローラで操作されているような強制力。脳と身体が直接繋がっていないような乖離感があった。

 視点の移動、攻撃や防御のタイミング。それらの動きが嫌でも灼き付いていく。地に足ついていない感触は不気味の一言に尽きた。


「ノエル、過去に俺と会ったことがあるだろ?」


 自分が自分で無くなってしまうような感覚。駆られる焦燥。

 拳と戦斧による競り合いの最中、問いかけずにはいられなかった。


「っ、なんでそんなこと聞くの?」

「俺にも分からない。でも身体が覚えてる。ノエルとは少なくとも一度、戦ったことがあるって」

「――――――――、」

「考える前に身体が勝手に動くんだ。俺の中の深い場所に、ノエルの動きが刻み込まれてる! 教えてくれ。俺とは昔、会ったことがあるのかッ?」


 ギチギチと削り合う金属。

 目を伏せ、面を上げたノエルからの返答は――是だった。


「そうだよ、私とレンは会ったことがある。でもそれが何?」

「聞きたいことがある! ずっと探していて、ようやく見つけた手掛かりなんだ!」

「……そっか。それなら――私に勝ったら教えてあげるッ!」


 恋は戦斧から伝わる力弱められるのをいち早く察知。素早く防御態勢をとった直後襲った衝撃で後退する。ノエルの体勢を見れば蹴られたらしいことが分かった。


第二封縛(セカンド・アクト)刻印解除(コードリリース)!」


 ノエルの詠唱と同時に金属の割れる音、外れたのは右の足枷(あしかせ)。遠目からでも衣服の隙間から覗く足が侵食されていくのが分かる。

 ――その時、少しだけノエルの顔が歪んだ。


「もっと戦おう! キミの実力はこんなものじゃないでしょう!」


 戦斧を握り締めたノエルは突撃の構え。跳び出した速度は、さっきまでと比べて数段速い。

 腕を盾代わりに受け流す。しかし万全とは言い難く、身体に衝撃が残り硬直してしまう。その瞬間に合わせて反転したノエルの拳が突き刺さる。


「ロードッ!」

Loading(取得), IMPACT(衝撃)


 発生させた衝撃と合わせて吹き飛ぶレン、地面を転がる勢いを利用して立ち上がる。

 なんとか攻撃を流したがその場しのぎ。攻撃を受けた箇所は刺すばかりの痛みを発している。戦えなくなるほどの傷ではないことだけがラッキーか。


「ッ、フゥー……」


 呼吸を整えながらノエルを注視する。

 右手と右足の枷が外された途端に増した膂力。まず間違いなく身体に浮き上がる模様がノエルの魔法だろう。恐らくは身体能力などを増加させる強化系だ。

 問題はその上昇率。決闘開始では押していたにも関わらず、今では魔法による攻撃込みでようやく渡り合えているレベル。


 恋の視線が動いた先には、ノエルの左半身と首に嵌められた計三つの武骨な枷。

 枷を外すことによってパワーが増すというなら、ノエルはあと三段階も力を温存していることになる。


 ――だが、それがどうした。

 ノエルは強い、その実力は相対する恋自身が一番良く分かっている。


 拳を合わせて分かったが、ノエルは典型的なパワーファイターだ。その身に宿る剛力を武器に真正面から押し潰す戦い方。競り合い時などの駆け引きで細やかな技術を使いこそすれ、その頻度は決して多くない。

 付け入る隙は確かにある。


 無論問題もある。それは必死に積み上げた戦術が更なる暴力によって瓦解すること。これに対処するにはノエルの強化を防ぐ、即ち枷の更なる開放を妨害する必要がある。

 最も手っ取り早いのは詠唱をさせないことだろう。しかし彼女が発していた文言はとても短い。望みは薄いと考えておいた方が良いだろう。


 だが、次の開放は暫くないと判断できる。

 根拠は二個目の枷を解いたノエルだ。確かにパワーこそ増しているが、攻撃から精細さが無くなりつつある。加えて時折浮かべる苦悶の表情。

 それらから、どうにも力を制御出来ていないような不安定さを覚えた。


 これは想像でしかないが、あまりに強大な自己強化に身体の方が追いついていないのではないだろうか。

 だとしたら未だに三つ目の枷を外さない理由も分かる。一つ目の開放と二つ目の開放にあまり時間差が無かったのは、素の状態である程度耐えられるから。二つ目以降を解除する為には、その都度状態を慣らす必要があるのだろう。


 だとすれば、勝負すべきは今この瞬間(とき)。魔法を使って拮抗できる内に討ち倒す。


 大きく空気を吸い、吐き出す。恋の精神は波一つ立たない湖が如く、冷たく張り詰めていた。

 全員がたった一つの優勝を目指して必死に戦っている。託された最終戦、その期待を裏切る訳にはいかない。

 そして個人的にも、目の前の少女にだけは負けるわけにはいかない――恋の奥が震えて訴えていた。


「勝つ……絶対にッ!」


 爆発する感情に乗せ、地面を思い切り殴打。同時に魔法によって拳から衝撃が発生、その勢いで一気にノエルの前への躍り出る。

 それはこの決闘で初めて見せた、恋の明確な攻勢だった。


「おらぁッ!」

「ぐっ……!」


 ありったけの力を込めて振るわれた恋の拳。差し込まれた戦斧によって防がれてしまうが、それすらも押し切らんと更に力を込めていく。

 だが、そんな単純な力押しこそノエルの十八番。恋は彼女が得意とする戦いに自ら突っ込んだ。


「私と力比べなんていい度胸だねぇっ!」


 受け止めていた拳を振り払ったノエルは戦斧を振り回す。その所作は軽々しく行われているが、巻き込まれた空気は鈍器のように荒れ狂う。肌から伝わる風が立ち向かう存在の力強さを否応なく恋に感じさせた。


 それでも引くわけにはいかない。今なら多少強引でも、ノエルを倒すために攻めることができる。これ以上強くなられては攻撃する間を確保するのは至難だ。

 強いて対抗する手段があるとすれば――エノ・ケーラッドの時に形作られた魔法。あれから未だ使用できない状態である『リアライズ』。

 あの黄金の剣ならあるいは――恋はそこまで考えたところで思考を止める。今この場に無い物をねだっても仕方がないからだ。


 恋はケースから壱枚のメモリアを取り出し装填。雄叫びと共に再び突撃する。しかしそれは誰から見ても無謀だった。


「何度やっても変わらな――っ!?」


 風を薙ぎながら振るわれる戦斧。確実に当たると思われた攻撃は豪快に空を切った。

 刹那の時、恋の姿はノエルの背面にあった。


「セット!」

【MEMORIA BREAK】


 極大まで励起した魔力が増幅、脚部へと凝縮される。

 その技はクリムゾンインパクト。恋が誇る必殺技の一つ。

 見返りざまに恋から放たれた水平蹴りは、的確にノエルの腹部を直撃した。


 発せられたのは轟音。瞬間振動が遅れて闘技場を揺らす。

 瓦礫がパラパラと音を立てて崩れる中、ノエルの身体が地面に崩れた。


「はぁ、はぁ、はぁっ……!」


 戦斧を支えに立ち上がらんとするノエル。呼吸は荒く、肩が激しく揺れ動いてる。

 上げられた面には幾筋もの汗。覚束ない足取りと合わせて尋常ならない状態であることは明白だった。


「出し惜しみはしない。セット!」

【MEMORIA BREAK】


 恋は迷わず追撃を選択。魔力が再び脚部に集い、燃えるような赤色の光を発すると跳び上がる。

 空中で転身、落下の勢いを乗せた蹴りが炸裂する。

 大きく吹き飛ばされ壁へと激突するノエル。頭は垂れ、身体は力無く地面に落ちた。





 会いたい、会いたい、会いたい。

 ソラに煌めく星辰(ほし)を見ながら、またキミと肩を並べてお話がしたい。


 幾度となく想った、幾度となく望んだ。

 されど叶わなかった、私の願い。


 どれだけ叫んでも、どれだけ泣いても。

 彼との思い出が、私の心に灼き付いて離れない。

 

 彼との最後の思い出が忘れられず、時間を見つけては高い場所でソラを眺める日々。

 いつにも増して晴れ渡る日。いつも通り、監視塔の天井に上りソラを見上げていた時だった。

 ふと視線を感じて通りを走る馬車を見た時――間違いなく人生で一番びっくりしたと思う。


 だってその馬車に乗っていたのは、私がどうしても会いたかった人だったのだから。

 その時、()せた世界が一瞬で色付いた。


 考えるよりも先に手を振っていて、振り返してくれたのが堪らなく嬉しかった。

 今考えれば恥ずかしかったかな。私ももう十八歳、無邪気にはしゃいでしまったことに少しだけ後悔。


 何かの精神攻撃か、幻術でも見せられているのかとも考えた。

 でも決闘祭で彼の姿を見て確信した。――ああ、()()()()()()()()()()()、って。


 直接お話して、私の心は更に踊り跳ねた。

 可愛らしい見た目は私が会った頃の面影が感じられたし、成長して随分カッコよくなったとも思う。正直、何とか平静を装うので必死だった。


 まさに夢のような時間だった。

 そして今、私は夢見心地だ。彼――レンは記憶にあった頃よりも遥かに強くなっていた。

 与えられた傷は甘く痺れて私の脳を犯してくる。高揚感に満ちた影響か、いつもはやらない即時の第二開放をしてしまった。

 ああ。やっぱり彼と戦うのは――愉しい。


『随分とご機嫌だな』


 当たり前だよ。

 別れたあの日からずっと、レンと会いたかったんだから。


『そんなもの聞かずとも分かるわ。深層領域にこれだけ花を咲かせていればな。まるで庭園だ』


 元はと言えばあんたのせいなんだけどね。

 こんな呪いさえなければ――いや、それだとあの時に死んじゃってたか。


『然り。貴様は(オレ)と契約し、力を得た対価としてその身を差し出した。全ては貴様の選択が招いた事象だ』


 ――それは自覚してるけど。張本人のあんたに言われると、やっぱり腹立つ。


『貴様のことなぞ知ったことか。それよりもそろそろ戻れ。このままでは()けるぞ』


 分かってるよ、全く。

 確かにレンと戦えてすっごい幸せ。

 でも――私は強欲なんだ。もっと、もっと愉しみたい。まだまだ満足なんてしてない。


『……フン。ならば()く失せよ。色乱れる人間の相手など懲り懲りだ』


 測り知れぬ深みに差し込む一筋の白光。

 それは大きく広がってゆき、意識を世界へと舞い戻した。





 時間にして約三秒、壁に背を付けていたノエルの身体が立ち上がる。

 ふらつきは無い。確かな足取りでもって戦線へと復帰した。


 恋は魔法による衝撃を利用して一気に踏み込む。狙うは顔面、今度こそ確実に意識を刈り取る。

 空気を唸らせ繰り出される強打、それはあっけなくノエルに捕まれた。


「くッ……」


 ミシミシと軋みを上げる拳。

 強烈な圧迫に恋から苦悶の声が漏れ出した。


「……やっぱり強いや、レンは」


 紅き鋼玉の瞳が剥かんばかりに見開かれる。

 そこにあったのは、柔らかく破顔するノエルだった。


 恋が呆けた転瞬腕が上に弾かれる。がら空きになった腹部に掌底が突き刺さった。


「かはッ――」


 体内にある空気が全て吐き出される。

 咳き込みながら顔を上げる恋。二色の眼と向かい合った。


「私、レンと戦えて幸せだよ。――だからこそ」


 至極穏やかな気配を纏い、ノエルは(こと)を紡ぐ。


「だからこそ、私は負けたくない。レンには絶対勝ちたいんだ」


 それは少女から少年への宣誓。

 全力で最後まで戦い抜くという意思表明。決意と覚悟の顕現だった。


『馴染むまで数刻はあるぞ。それでもやるのか?』

「野暮なこと言わないでよ。そんなことよりも、私は今この瞬間を愉しみたい!」

呵々(カカ)、なんとも浅ましき刹那主義よ。だがその意気や良し。さぁ見せてみよ。矮小な生命らしい、儚くも美しき輝きを』

「言われなくても――」

「ッ、させるか!」


 魔法の衝撃と共に恋は跳び出す。独りでに呟くノエルが何かするという予感、その行動を止めるために。

 詠唱と同時に脚部に集う魔力、肉薄した後に三度目の必殺技を叩き込む。


「――第三封縛(サード・インパクト)刻印解除(コードリリース)


 ノエルの左足、嵌められていた拘束具が勢いよく弾け飛ぶ。

 瞬間発生する大気の鳴動。両者は勢いのままに飛び退いた。


「……マジかよ」


 恋は戦慄する。

 自身が持つ必殺技が、単純な蹴りによって相殺されたことに。


「さぁ、ここからは私も(なり)振り構わないよ」


 ノエルの姿、その変化は劇的であった。

 侵食は左足にまで到達。加えて肌を覆っていた紋様は禍々しく明滅している、それは瞳の集合体であると思わせる。

 彼女から発せられる魔力は、風に揺れる(ほむら)の如く(ほぐ)れて消えていた。


「――殺すつもりで来てよレン。私も、キミのこと殺すつもりでいくから」


 戦斧を構えたノエルは愉快に笑う。

 それはまさに、無邪気な少女そのものだった。


封印を開放したノエル、その力は圧倒的だった。

防戦を強いられ追い詰められていく恋。せめぎ合う中、戦う少女に何を見るのか。

その答えを得た時、恋は異世界にて再臨を果たす。


次回第36話。

戦いは更なる領域へ――


◇◆◇◆


とまあ、次回予告風の文章を書いてみました。筆が乗ったんだ、ユルシテユルシテ……。


さて、気を取り直しまして。ここまで読んでいただきありがとうございます!


【速報】恋君、まさかの異世界の人と知り合い。


今回は新しい情報をかなりぶっこんだ回なので、色々新鮮な気持ちで読んでいただけたと思います。

知り合い……で、済ませていい関係なのか? まぁ、そういうのもいっか!(脳死)


私的にはなりますが……殺し愛、アリだと思います。

命のやり取りで生まれる愛ってめっちゃ綺麗そう。


……コホン。それはさておき。

鍛えた技量と持ち前の戦闘センスで戦う恋、小細工ごと真正面から打ち砕く根っからのパワーファイターのノエル。

果たして恋はノエルに勝てるのか。次回をお楽しみに!

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