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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第34話 準決勝最終戦 恋vsノエル

さぁ、いよいよ準決勝最終戦です!

盛り上げていきます!


 勝利で終えた四戦目、果たしてその結末は熾烈を極めるものであった。

 葵は気力だけで立っていたようですぐに意識を失い搬送、二戦続けて相打ちに近い形での決着は力量が切迫していることを意味する。最後の戦いに臨む恋はそれを改めて認識した。


「よし、行ってくる」

「頑張ってください! 恋先輩なら絶対勝てますから!」

「お兄ちゃんいつも通りね、相手のペースに呑まれちゃダメだよ」


 育と紗百合からの応援に答える恋、扉に手をかけたところで何時になく真剣な桐花の言葉がかけられる。


「気をつけてね」

「……ああ」


 恋の胸の内が騒めき立つ、控え室を後にしてもそれが止むことはない。

 入場口の前に立ってから手のひらを見つめ、握る。司会者の言葉とともに躍り出た円形のフィールドはすっかり元どおりとなっていた。


「キャーーー! レン頑張ってーーー!」


 透き通った女性の声が恋の耳に届く、ふと視線を動かせばそこに居たのは満面の笑顔を浮かべながら両手を振るセリカ。隣にいるユーカリプスはそんな彼女の腕を押さえつけようとしているが全く効果がないようだった。


 よし、俺は何も見なかった。恋は目の前の戦いに集中するべく視線を戻す。

 向かい合うはノエル、わずかに凪ぐ風によって頭巾の裾がひらひらと揺れている。セリカといい彼女といい、赤色と縁があるなと恋は感じた。


「さあ、遂に準決勝の一戦目もいよいよ大詰め! ここまで凌ぎを削ってきた両チームですが、引き分け以上で勝利となるメモリーズ・マギアが有利と言ったところでしょうか!」

「そうだねぇ、やっぱりさっきの勝利が大きかった。でもここで負けてしまえば戦績互角で延長戦だ、そうなると結果はいよいよ分からなくなる。彼ら的にもなるべくここで決めておきたいんじゃないかな」

「メモリーズ・マギアがリードを生かし見事勝ち逃げるか、それともコードトーカーが一抹の希望を繋ぐのか! 決着は今ここに! レン選手対ノエル選手、いよいよ始まります!」


 沸き立つ観客席、恋の意識は既にノエルに対してのみ向けられていた。

 向かい合う二人、互いの視線が重なる。

 

「私ね、レンと戦いたくてしょうがなかったんだ」

「……一応、理由を聞いてもいいか?」

「あはは。そんなに身構えなくてもレンは何もしてないから大丈夫だよ。ただ——」


 ノエルは横に手を掲げ、虚空より現れた戦斧を軽々しく片手で振ると構えを取り一呼吸。


「一目見て思ったんだ。キミには絶対勝ちたいって」

「……そうか。だったら俺も、応えなきゃな」


 恋はケースからメモリアを取り出し装填する。


TRANCE(変身), |Stand-By《待機】

「メモリアライズッ!」

Yes Sir(了解). Magic Gear(魔法機装), Set up(装着)


 気合の入った一声、光に包まれた恋の姿が瞬く間に魔法少女へ変わっていく。脚甲、胸鎧、最後に籠手が装備され、戦闘形態への換装を完了させた。


「両者の戦闘準備が完了! それでは――」

 

 ジャリ、と。僅かに動いた足が地面を擦る。

 開戦寸前、恋の脳裏に想起されるは観客席から見たノエルの戦う姿。身の丈以上の戦斧を容易く振り回すその力は脅威以外の何物でもない。正面から戦うのは危険だろう。


「――決闘、開始ッ!!」


 反響する司会者の宣言、張り詰めた空気が弾け飛ぶ。

 恋がメモリアを取り出すためにケースへと手を伸ばす――瞬間、両腕をクロスして身体を傾けていた。


(――、え?)


 重ねられた腕から伝わるのは万物を叩き潰さんばかりの力、攻撃を受けたことを認識すると同時に闘技場の壁へと吹き飛ばされる。

 遅れて浸透する衝撃、それを認識した時には既に恋の目の前には戦斧を振り(かぶ)るノエルの姿があった。


「――ッ、おぉ!」


 壁を蹴った恋はその勢いに乗せ拳を放つ。籠手と戦斧が激突しノエルを後退させることに成功した。

 だが攻撃は当たらなかった。ノエルは恋が拳を振り被ったのを見ると攻撃を中段、戦斧を盾のように扱い防御したのだ。

 反応速度はまさに武人と言っても差し支えない、加えて素早い攻守の切り替えを可能とする技量。魔法による強化を受けたであろう剛力と相乗的な強さを発揮している。


 戦いにおいてパワーというのは一種の真に迫る解答だ。

 確かに技量も重要ではある。体捌きは勿論、小手先のテクニックで勝敗が分かれることもあるだろう。

 しかし、そういった技量というのはあくまで戦う相手が自身と同程度の相手にのみ適応されるもの。そもそも体格が違ったりする相手にはほぼ意味が無い。柔道やプロレスなどの格闘技が体重別に階級分けされているのはそもそも技量を競うためだ。


 六〇キロと一〇〇キロの男性では骨格も、身長も、生み出せる力の総量も違う。先に挙げた柔道をこの二人で行った暁には、最早虐殺とも言える試合内容になることは想像に難くない。それだけ”純粋な力”が闘争に及ぼす影響というのは大きいのだ。


「ッ、重い……」


 恋は痺れる腕を一瞥、取り出したメモリアを装填する。その心境にあったのは困惑だった。

 ノエルの動きは観客席から俯瞰(ふかん)で見ていたよりも明らかに速くなっていた。攻撃の威力も想定よりずっと高く、もし防げていなかったと思うとゾッとする。

 これがコード・トーカーのリーダー。その実力を改めて実感した恋は気を引き締める。


「……やっぱり遠目で見ただけじゃ駄目だね。思ってたよりもずっと強い、か」


 対して、戦斧の持ち手を握り直すノエルも同じような考えを抱いていた。先の攻防による衝撃を噛みしめるように呟く。

 魔法少女――女の子の姿に変貌を遂げたことには驚いたが、生み出される膂力は同じ魔法使いから見ても頭一つ抜けている。加えてカードを使っていない状態であの威力、下手をすれば昏倒は免れない。

 ノエルは息を吐き精神を研ぎ澄ませる。前から分かってはいたが、想定よりも遥かに上を行く恋の実力。()()()()()()()()()を鑑みても、油断はできない相手だった。


 己が武器を構え直した二人、再び激突するまでには一秒とかからなかった。

 戦斧と籠手が激しく擦れ火花を散らし互いの位置を入れ替える。

 すれ違った恋とノエルは息つく間もなく振り返ると連撃を放つ。断続的に噴き上がる金属音は戦いの苛烈さを一層引き立たせた。


「うおぉぉぉッ!!」

「はあぁぁぁッ!!」


 咆哮、同時に引き起こされるのはひと際大きな衝突。一瞬の拮抗、直後魔法による衝撃を乗せた恋の拳が戦斧を真っ向から退けさせた。

 恋は反撃で迫り来る巨塊を受けると全身で力を逃がし、逸らす。がら空きとなった胴体へ向けそのまま正拳突きを繰り出そうとして即座に屈む。次の瞬間恋の頭上を黒の影が風と共に通過した。

 その正体は戦斧。攻撃を逸らされたノエルは瞬時に反応、残された力を利用して回転し戦斧を横薙ぎに振るったのだ。


 ―――それはノエルが初めて見せた明確な悪手だった。

 恋はしゃがみ込んだ体勢から身体全体をバネのように跳ねさせる。上昇する肉体の勢いを乗せた拳が、ノエルの腹部を捉えた。


「ロード!」

Loading(取得), IMPACT(衝撃)


 発生した衝撃が浸透、ノエルの身体を吹き飛ばす。拳から伝わる手応えは想定よりも小さいものだったが、これは明確な進歩だろう。

 しかし恋の顔は優れたものではなかった。

 それどころか、決闘が開始してから困惑の色が徐々に強くなっている。


「……やっぱり、そうなのか?」


 恋は自身の拳を見つめ呟く。紅玉の瞳が動いた先にはノエルの姿があった。

 ――ここまで戦ってくれたみんなのためにも、戦いに集中しなければならない。そう言い聞かせていた。

 だが、燻ぶった想いが消えることは無く。更に勢いを増していった。


 思えば最初から不思議だった。

 ノエルと面と向かって話したときに思ったのは可愛い女の子だとか、そういった感想ではない。彼女と出会って一番最初に抱いたもの――それは既視感だった。


 そしてその既視感は戦いの最中にも見て取れた。

 攻撃、防御、回避。ノエルが行う行動、その全てから得られる既視体験。


 ――まさか、そんなはずは無い。

 そんなことを思っても、実態としてその疑念は確信へと変わりつつある。


 ノエルの初撃、戦斧による攻撃を恋は認識していなかったにも拘らず防げた。それは何故だ?

 魔法使いになっての経験か? はたまた身に着けた武術による成果か?

 ――いや違う。恋はその考えを直ぐに否定する。


 赤いボロ衣を頭から被った女童子、手にするのは斧。そして真っ向から対峙する構図。

 ()()()()()()()()()()()()()()


 『櫻木恋』という存在の内――自身でも認識できない領域にあるモノが震える。その波は繋がりを伝って身体と脳を揺さぶった。

 恋にとって決闘初めての防御は身体も思考も、光すら置き去りにした行動だった。


 何処か納得がいくと共に疑念が膨らむ。だが、結論付けなければなるまい。


「――前にも、戦ったことがあるのか?」


 自己の内にある重大な欠落。

 忘れようと努めていた、しかし心の何処かでは諦めきれず探していた。その答えが、あの赤ずきんの少女にあるのではないか。

 一度噴き出した想いを止めることは、今の恋には出来なかった。





「ッつ、直前で跳んでもこれかぁ……」


 体勢を立て直したノエルが苦い笑いを零す。

 ノエルが行ったのは至極単純。回避不可能と判断した恋の拳がヒットする寸前で後方へと跳び、その威力を減衰させたのだ。

 だがその威力は想定よりもずっと強く、とても殺しきれるものでは無かった。体内を駆け巡った衝撃は受け流しきれず、その身を内側から破壊せんと暴虐を尽くした。


 ノエルはこれからの方針を考える。

 ――真正面から受けるのは危険。しかし自分は戦斧を扱う者、リーチの差はあれど攻撃するには近接戦闘を余儀なくされる。

 かと言って魔力弾は使えない。魔力操作は才能ゆえに仕方ないが、この時ばかりは仲間であるアリスが羨ましく思えてしまう。

 だがそんなことをしても現状は変わらない。自分には自分の武器がある、それを活かして全力で戦うだけ。


「――あはっ」


 ああ、やっぱり楽しい。レンとの戦いが、やり取りが、輝かしい思い出へと昇華されていく。

 もっと、もっと欲しい。まだまだ足りない。彼から全力を引き出すためにも、更に攻撃のペースを上げなくては。

 そんなことを考えた時だった。


呵々(カカ)。ならば意地など張らず、さっさと(オレ)を使えばいいだけの話だろう。何を躊躇(ためら)う必要があるのだ』


 ノエルの脳内に声が響いた途端、昂っていた気分が一瞬にして絶対零度へと達した。

 そこに先程までの快活な雰囲気はない。まるで感情が抜け落ちたかのように虚無の表情を浮かべるノエルがいた。


 反響する声は活力に迸る屈強な豪傑にも、静けさを漂わせる古強者(ふるつわもの)にも聞こえる声。

 光輝であり、雄大であり、天使ありながら。

 漆黒であり、驕慢(きょうまん)であり、悪魔でもある。

 確実に人間ではないナニかが、ノエルの内側から語り掛けている。


「……うっさいなぁ。ちょっとは落ち着けないの?」

(やかま)しいのは貴様の方だ小娘。少しは清閑することを覚えよ。晴れ渡る蒼天かと思えば次の刻には氾濫する汚濁。はたまた次には色鮮やかな花々が咲く大地。そして今は草木無き永久凍土の世界。こうも天変地異の真似事を起こされては堪ったものではないわ』

「ふん、私のこと勝手に呪ったくせによく言うよ。文句があるならさっさと出て行ってくれない?」

『そうはいかん。貴様と(オレ)は波長が合う。口煩く意に沿わないのが玉に(きず)ではあるが、巫女としては特一級品よ。みすみす逃す道理はない』

「……チッ」


 舌打つノエル。浮かべる表情からは鬱陶しさを感じさせる。


『それにだ小娘。貴様にとっても悪い話ではあるまい? こうして貴様があの女男と戦えているのも、(オレ)がこうして力を貸してやってるに過ぎないのだからな』


 盛大に歪むノエルの表情。

 テレパスによって脳内に響く声を否定することは、無かった。


「……ホンット、お前嫌い」

呵々(カカ)! 理解したのならばさっさと封を解け。少なくとも今のままであの女男に勝てるとは思わぬ方が良いぞ。貴様らの小競り合いから感じ取ったが……あ奴()め、どうやら随分と凶悪な存在(モノ)を内に飼っているらしい。貴様のような小娘如きでは戦いを長引かせるのが関の山だろうて』

「ハイハイ。でも、その前に一つだけいい?」

『どうした、感謝でも述べたくなったか? 呵々、良き計らいだ。貴様の口からは一度も労いの言を聞いておらん。その鈴の音のような声で発せられる奉謝(ほうしゃ)はさぞかし心地良いだろうよ』

「じゃ、お言葉に甘えて」


 ノエルは軽く息を吸い、一言。


星辰(ほし)の影に抱かれて死ね、このクソ蜥蜴(とかげ)

『――、』

第一封縛(ファースト・ウィル)刻印解除(コード・リリース)


 ガチャリ、という音が空気を波打つ。合わせてノエルの右手首に装着されていた金属の手枷がずり落ち――地面に埋まった。

 それと同時、磨かれた陶器の如き肌を持つノエルの右腕に底気味悪い紋様が這い擦り始める。

 輝きを塗り潰すように肩口に進んだソレは首筋を伝い、頬を突き進んで、瞳を侵食したところでようやく停止した。


「じゃあ、始めよっかレン。私たちの戦いを」


 ノエルは片手で軽々と身の丈より大きい戦斧を持ち直す、まるで石ころでも拾うかのように。

 声色は喜悦に満ち、纏う雰囲気は堂々たるもの。

 天藍と黄水晶の輝きを放つオッドアイは、恋を捉えて離さない。





 斯くして舞台は整い、次の演目へと移ろいゆく。

 少年と少女が戦花散らす先にあるのは、果たして希望か絶望か。

 我らは淵の底より眺めるのみである。


 ――だが、もし許されるのであれば。


 どうか願わくば、汝らが望む結末足り得ることを。

 そして――その魂に、暖かな明日があらんことを。


ここまで読んでくださりありがとうございました!

ただならぬ雰囲気と変貌を遂げるノエル、彼女の実力は如何なものなのか。

ぜひ次回をお楽しみに!


では、あとがきもここまで! 最後まで読んでいただきありがとうございました!

誤字、脱字を見つけた場合はご報告をお願いします!

感想、評価、ブックマークどうぞよろしくお願いします! 感想については必ず返信させていただきます!


これからも著作「メモリーズ・マギア」をお願いします!

それでは、また次回でお会いしましょう!


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