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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第29話 静寂の決着

第29話になります。

育君とエドワード戦、遂に終幕です。

それではどうぞ!


 育は自分の手に収まった新たな武器を見つめる。

 (れん)がエノ・ケーラッドとの戦いで見せた現象、新たな魔法による武器の創造。それを自らの手で行った育に湧いた感情は困惑だった。

 剣や弓というわけでもなく、輪という形を成した円盤とも言える金属武器。初めて見る形状の武器の扱い方については皆目見当もつかない。


 だが理解できる、これをどう使えばいいのか。


 エドワードが拳を構え走り出す。

 育が銀輪を正面に構えた瞬間、繰り出された拳と銀輪がぶつかった。腕から浸透してくるビリビリとした衝撃は先程までと比べてもその威力は増しており、今の状態で喰らってしまえば今度こそ耐えられないと思わせた。


 続けて放たれるエドワードの回し蹴りを、魔法で強化した両腕の力によって振るわれる銀輪が迎え撃つ。真っ向から衝突した両者は互いの攻撃の威力によって後退した。


 エドワードの足には小さな切り傷、しかしそれは一瞬にして修復される。やはり生半な攻撃は一切の決定打にならないことを察した育は持ち手としている箇所にあるトリガーを押し込む。それと同時にけたたましい音を響かせながら刃が回転を始めた。


 銀輪の振り下ろしをエドワードは半身傾けることで躱し、返す形で握り締めた拳を放つ。それを認識した育は身を屈めることで回避、回転する刃を目の前にある腹部へと押し付ける。

 瞬間、接触箇所から発せられるのは硬質な物を削る音。その手応えは金属を思わせたが、回転する刃が徐々にその防御を削り取り傷を与え始めた。


「ちょっと、調子に乗りすぎねぇッ!」


 間髪入れずに繰り出された打撃によって育の身体が弾かれる。体勢を立て直す頃にはエドワードの肉体に刻まれたはずの傷が存在していなかった。

 しかし、育の瞳に宿る闘志が萎えることはない。例え弾かれようとも再び切り込み、積極的に攻撃を繰り出していく。


 無謀にも思える戦いの中、育は思考を巡らせる。脳内はすっきりとしていて淀み無い、気絶する前よりも遥かに冷静に物事を捉えることが出来ていた。


 相対するエドワードの再生能力は目を見張るものがある。それに加えて魔力は減る度に満タンとなる量を回復する、故に魔力切れは狙えない。素の身体能力も高く、戦闘技量も相当なもの。決闘という形式の戦いにおいては無敵とも言えるような存在、それがエドワード・ジャックという男だ。


 だが、果たしてその認識は正しいのだろうか。

 戦闘技能に関しては紛うこと無き実力だということは明らか。育が疑問に思っているのはその体質、特異な肉体の方だ。

 肉体再生と魔力生成の永久機関、これは果たして本当に”無限”に行えるのだろうか。

 いや、そうは考えにくい。


 どれだけ精巧な機械だったとしても稼働する以上、使用しているパーツは摩耗する。それと同じだ。必ず見えない場所で―――例えば摩擦のような負担があるはず。そう考えて何度も攻撃を仕掛けていたが、どうやらその考えは当たっているらしい。


(やっぱりそうだ。ほんの少しだけど、動きに無駄が出てる)


 繰り返される戦いのやり取り、その中に潜む違和感を感じ取る。決闘を始めて既に短くない時間が経過したが、最初の頃に比べて少しだけ動作が違うことに気付いた。

 そこで疑問が生まれる。肉体が常に万全の状態であるエドワードに、果たして”疲労”という概念が存在するのだろうか。

 恐らくある。育はそう思っている。


 肉体は精神に作用し、精神は肉体に作用する。それは普通に過ごしていても起こりうる事象だ。風邪を引いた際に気分が落ち込む、精神が病んでいる時に体調を崩すことなどは最たる例だろう。

 外と内、その関係は相互作用。今のエドワードは疲労の影響が表れ始めている状態だと予想できる。


 エドワードの再生能力は、思っているほど万能じゃない。


 戦闘という行為はかなりの体力と集中力を要する。肉体の持久力が低ければ最高のパフォーマンスを維持する時間が短くなってしまう。呼吸や視線など相手の微細な挙動に注意を払い、タイミングを見計らい、瞬間的に変化する戦況に合わせて最適な行動を考える。そのような状態が長く続けば確実に精神を蝕むだろう。

 加えてエドワードは痛覚を遮断しているわけでもない。つまり、攻撃を加えれば痛みはしっかりと伝わる。寧ろ常に身体を正常な状態に治す都合上、今の自分のように痛覚が麻痺するということも無い。


 そこに勝機がある。

 だが、育に許されている時間は少ない。


「……ッ、」


 視界が微かに乱れる。身体が思うように動かなくなる現象が顕著に表れ始めている。指先が凍ったように冷たく感じていた。


 肉体の活動限界。


 神経が麻痺しているのをいいことに無理やり身体を動かし続けていたのだ、この不調は当然の帰結。

 とうに自己を管理する能力は失われている、このペースのまま戦えばまず間違いなく自分の方が先に力尽きるだろう。自分の身体にそれを思い知らされている気分だった。


 だが、先程と違って取り乱すことは無い。寧ろ異常なまでに思考は静かだった。

 一度大きく息を吸って、吐く。肺から押し出された空気と共に余計な物が内側から消えていく感覚、それは頭上に広がる雲一つない蒼穹を思わせた。


 ―――楽しい。


 普段なら絶対にこんなことは考えない。

 だが、今この時、育の胸を満たしていたのは歓喜だった。

 極度の限界状態で動き続けていたせいで色々とオカシクなったのか。

 でも、それでいいのかもしれない。だって―――こんなにも心地良いのだから。


「―――ふふっ」


 微笑みを浮かべた育。それは可憐であったが、同時に見る者たちに不気味さを感じさせた。それは恋たちも例外では無い、育が初めて見せる姿に戸惑いを隠せない様子だった。

 空気が変わった、エドワードはそう認識する。ゆらりと銀輪を構える少年が今までと同一人物とはどうにも思えなかった。


 まるで、歯車が切り替わったかのような―――


 エドワードの意識が思考へと裂かれた瞬間を狙ったように育の姿がブレる。僅かに捉えた影の行く先を認識し防御態勢、迫った銀輪が腕に激突した。


「ぐぅっ!?」


 クロスした腕の中心で暴れ廻る刃を視界に収める。耳障りな音をかき鳴らすそれは身体強化によって硬質化された肉体を徐々に削りながら食い込んでくる。

 エドワードは銀輪を弾き飛ばすと跳んで距離を離す。育は踏ん張りが効かなかったのかよろめくが、その様子はまさに幽鬼。地獄から這い出てきたように薄ら寒さを与える。

 だからだろうか。そんな彼の瞳が気味悪く輝いているように見えるのは。


「あは、やっぱりエドワードさんの再生能力はすごいですね。どんな大怪我も瞬時に治せるし。……でも、継続的な攻撃や身体欠損レベルは負担が大きいみたいですね?」


 それを聞いた瞬間、エドワードは明確な反応を見せた。

 限りなく小さく、下手をしなくとも見逃してしまうほど些細なもの。だが、育は確かに見た。エドワードに焦りの色が生じた事を。


 エドワードの腹部を襲った銀輪の攻撃、その対処はやけに速いものだった。

 先程の一撃で改めて確認した、鋸の攻撃は再生する速度を超えてダメージを与えていたことを。

 そしてエドワードが明らかに疲労を見せ始めたのが育がその両腕を裂いてから。つまり、大規模な肉体再生には多くの体力が消費されることを意味している。

 育はケースから新たに創造されたメモリアを銀輪にあるスロットへと装填する。


「ロード」

Loading(取得), SEVERANCE(切断)


 魔法の発動に合わせて銀輪のギアが切り替わり、一段と高くなった回転音が辺りの空気を震わせる。攻撃性能が上がったと察するには充分だった。

 そんな銀輪が突如、投擲された。


「なッ!?」


 予想外の行動に刮目するエドワード。咄嗟に軸を横に動かすことで回避するが、首には僅かに切り傷が。それも直ぐに元通り消え去るが、そんなことを考える余裕は無い。

 あの車輪のような武器は、その手に持っているだけで近接攻撃を躊躇させるだけの脅威がある。それをわざわざ手放すことの意味が理解できなかった。


 その思考は直ぐに吹き飛ぶ。銀輪が通過した空間に伸びている緑の糸を見て背筋が凍る。そのまま背後を見れば、飛んでいく銀輪の中心には糸が通されていた。

 時を待たずして勢いよく腕を引く育、当然その動きは糸を通して銀輪に伝えられる。ピンと張った糸が緩み、回避したエドワードの背面から容赦なく襲い掛かる。


「くっ」


 エドワードはこれに対して足に魔力を集中、衝撃として変換し空中へと退避。銀輪は風を切りながら育の手元へと舞い戻る。

 両者の視線が重なった。


「セット!」

【MEMORIA BREAK】


 銀輪から鳴る機械音声、魔力で輝く刃が回転し光輪を作り出す。大きく半身を翻し投擲された銀輪は周囲の大気を巻き込みながら目標へと突き進む。

 形振り構わず身を捻って回避しようとするエドワード。その時、攻撃が到達していないにも関わらず身体に切り傷が創り出された。

 巻き込まれた空気は回転に合わせて刃状に射出、エドワードの肉体を広範囲に渡って斬り裂いたのだ。


【GRIM MURDER】


 直後、武器本体が脇腹を大きく削り取った。

 噴き出す鮮血、しかしそれは想定していたよりもダメージが少ない。本来

 しかし、それは常人であるならばの話。エドワードにとっては数秒も経たずに消えて無くなる傷だ。

 それならばもう一度攻撃するまで。

 幸い序盤に大量の魔力を吸収していたおかげであと一発メモリアブレイクを放てるだけの余裕はある。

 すぐさま音声コードを入力しようとしたその時、強烈な打撃音が響く。


 発生源は育の胸部。原因は、エドワードの拳によるものだった。


 見る者全てが唖然とする。

 攻撃を喰らい宙に浮かんだエドワードは転瞬、頭から落ちるかと思いきや地面に指を立て、片手の腕力だけで育に向かって飛び出すという荒業をやってのけたのだ。

 再び必殺技を放とうとしていた育は棒立ち。瞬く間の出来事に回避行動は取れず、エドワード渾身の攻撃が突き刺さった。


 育の全身から力が抜け落ちる。銀輪は手から零れ、地面へと崩れる小さな身体。


 ―――爛々と輝く琥珀が、確かにエドワードを捉えていた。


 育は地面を思い切り踏み締め留まる。そのまま転身、首にあるマフラーを解くとエドワードの首へと一巡だけ巻き付け背中合わせの体勢に。

 そうして、マフラーの両端を握り締め―――全力で引いた。


 締め上げられるエドワードの喉。まともな呼吸は出来ず、か細く空気が通るのみ。脳に運ばれるはずの血流は堰き止められ、思考が妨げられる。


 育はエンハンスによって限界まで腕力を強化する。エドワードによる肘鉄が何度も降り注ぐ、骨が折れるような音がするがそんなのは知ったことではない。育の頭にあるのは一秒でも早く敵を倒すことだけ、それを果たす為に自身の持つ力の全てを動員していた。


 十……二十……三十。


 決闘場のモニターに表示されている戦闘時間がそれだけの秒数変化したところで、エドワードの肉体から力が失われた。

 育がマフラーから手を離す。地面に転がったその身体は起き上がる気配を見せない、意識は完全に消失していた。


 まさかの大逆転劇に様々な歓声が飛び交う、司会者の声も機材越しで熱が伝わってくる。

 そして戦闘不能と確認される秒数が経つ―――その寸前、育の変身が解除される。


 小さな少年の身体がぐらりと揺れ、地面へと倒れ伏した。


 すぐさま立ち上がろうとする育。しかし、それは叶わない。

 地面に突き立てられる腕は震えており、支えとしての機能が著しく欠けている。その身を持ち上げること叶わず地面へと降ろした。


 腕を立てる―――力が入らない、倒れた。

 視界も歪んでいてあべこべ、天地が混ざり合ってまともに認識することも敵わない。触覚から僅かに伝わる砂の感触だけが判断材料だった。

 震える身体で何度も繰り返し、失敗する。そしてまた立ち上がるために力を籠める。

 誰もが口を噤み、その光景を見守っていた。


「勝たな、きゃ……いけないんだ。みんなの、ために……!」


 瞳は虚ろ、しかし宿る光は輝く陽よりも強い。地面を掻き毟りながらも立ち上がらんとする様は鬼気迫るものを感じさせた。

 その胸に抱いていたのは強迫観念染みた想い。ここで自分が勝てばチームの勝利に大きく前進する、故に諦めることなど出来なかった。


 ちっぽけな身体にある力を振り絞って四つん這いになる。戦いの最中に分泌されていた脳内物質はすっかり収まり、火事場の馬鹿力も尽きた。


 風前の灯を燃やしながらようやく、二本の足で地面に立つ。

 それを最後に育が仰向けに地面へと倒れ瞼を落とす。

 動き出すことは、無かった。


「……はっ! え、えっと……引き分け! 激戦が繰り広げられた第三戦、結果はなんと引き分けです! まさかの相打ちで幕を閉じました!」


 歓声は起こらなかった。

 誰もがその激闘を称える拍手を鳴らし、医務班によって運び出される二人を見届けていた。




「……ふぅん、エドを倒すなんてやるじゃない。この調子なら二回戦みたく退屈せずに済みそうね」


 控室にてその戦いを見届けたアリスは勢いよく椅子から立ち上がる。壁に立て掛けられた銀の杖を手に取ると扉に向かって歩き出した。

 その時、自身に向く視線を感じた。

 立ち止まって目を向ければシルヴィアとばっちり視線が合う。キャンパスに筆が滑る音だけが聞こえる中、シルヴィアがその口を開く。出て来たのは「頑張って、アリス」という応援の言葉、それを受けてアリスが浮かべた表情は困惑だった。


「……え、なにこれドッキリ? シルヴィアが急に応援とか怖いんだけど。何か企んでるんじゃないでしょうね」

「別に、深い意味は無いよ」

「……そう、なら安心して待ってなさい。見事に勝利を持ち帰ってあげるから!」

「頑張ってね! もし負けても私がフォローするから大丈夫だよ!」

「ちょっとノエル! そんなこと言わないでくれる!?」

「あっ……ご、ごめんね? 少しでも緊張を紛らわせようと思ったんだけど、迷惑だったかな……?」

「え、えと、その……ま、まぁ? 確かに後ろに頼もしいリーダーがいるっているのは変に力が入らなくて良いわよね!」

「そう? えへへ、それならよかった」


 花が咲いたような笑顔を浮かべるノエル、それを最後にアリスは意気揚々と控室を後にした。

 鼻歌を歌いながら廊下を進む。これから戦いに身を投じるにも拘らず、その様子はピクニックにでも行くようだった。


「さて、と。アオイはどこまで()れるのかしら。楽しみね、()()()


 ソプラノ声が空気を撫でる。

 手にする杖に反射で映り込んだ蒼眼の少女には、聖母のような笑顔が浮かべられていた。


ここまで読んでいただきありがとうござました!


大変お久しぶりになりました、雨乃白鷺でございます。ちゃんと生きてましたよ()

仕事であったり、もう一本書いている小説の設定資料を作っていたりしたらここまで遅れてしまいました。なかなかやることが多くて大変ですが、なんとか頑張っていきたいと思います。


更新頻度に関してですが、暫くは元の2~3日に1話のペースに戻せそうです。というのも、少しだけ環境が落ち着いたからですね。某ウイルスのせいで色々とした処理が大変だったんです……まじで許さん。


さて、世間話はそこそこに。ここからは本編の話をば。

今回の話はどうでしたでしょうか? 英数字を漢数字にしてみたのですが、読み手としてはどちらの方が読みやすいのでしょうか。感想にて意見を頂けるとありがたいです。


内容としては新たな武器、新たな一面を見せる育君。しかし根底は変わらず、根底にあるのは誰かの為に頑張る優しい少年。やっぱり男の娘は……最高やな!

育君の武器に関してですが、一応モチーフはあります。チャクラムと呼ばれる武器で、日本で言うところの手裏剣のような立ち位置の投擲武器です。本作では鋸の要素を追加することで接近戦もこなせるように。

にしても……なんでこんな武器なんでしょうね。怖いなー戸締りしとこ()


次はいよいよ4戦目、葵vsアリスとなります。1勝1敗1分けの状況、この1戦は何よりも重いものになるでしょう。しかし、肝心のアリスには何やら不気味な雰囲気が。どのように転がるのか、展開をお楽しみに!


では、あとがきもここまで! 最後まで読んでいただきありがとうございました!

誤字、脱字を見つけた場合はご報告をお願いします。読者の皆さんと共に、より良い作品を作っていきたいと考えています!

感想、評価、ブックマークなど是非お願いします! 特に感想は気軽にどうぞ! 必ず読ませていただき、返信させていただきます!


これからも著作「メモリーズ・マギア」をお願いします!

それでは、また次回でお会いしましょう!

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― 新着の感想 ―
[一言] かなり凶悪な武器ですねーw というか糸と合わせて使えば近〜遠距離まで攻撃可能は割とチート級では……まぁ、使いこなすのは難しそうですけれどw 次のアオイちゃんも頑張れー!!
感想一覧
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