表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
61/166

第26話 準決勝第3戦 育vsエドワード

更新を待っていた読者の皆様、申し訳ありません!

予約投稿ミスってました……。


何はともあれ、26話です!



「……ん、っ」


 浮上する意識に乗じて瞼をゆっくりと開けたシルヴィア。初めは白しか映らなかった目も時間が経つに連れて輪郭を把握し、自身の瞳に映る景色が医務室の天井であることが分かった。

 まだはっきりとしない意識の中、自身の手が握られていることに気付く。かけ布団から伸びる腕を辿るとその正体がノエルであることを認識したと同時、2人の視線がぴったりと合った。


「あ、気付いた! 具合はどう?」

「……平気。身体、めっちゃ重いけど」

「そっか。もう傷は治ってるけど、暫くここにいる?」


 数秒の思考の後にシルヴィアは帰ることを選択、ノエルに背負われる形で医務室を後にする。一定のリズムで揺られる心地よさを感じながら先の戦いに思いを馳せていた。


 視界一面に広がった蒼、煌めく魔力の光が星の瞬きにも見えた一撃。微睡む中で繰り出された攻撃ではあったが、瞼を閉じれば今も目の前にあると錯覚するほど記憶領域に刻み込まれていた。

 ゆっくりと瞳を開くと目の前にあるのはノエルの背中、意識は醒めた筈なのに脳がそれを認識しきれていない。あえて言葉にするならば、夢と(うつつ)がぐちゃぐちゃに掻き混ぜられているような、なんとも混沌とした感覚だった。

 しかし、いまはそんな調子でいるわけにはいかない。シルヴィアには、直ぐにでも確認したいことがあった。


「ノエル、倒される前の私、どうだった?」

「うーん……心ここにあらず、っていう感じだったよ。明らかに不自然だったし、トウカちゃんが使った魔法が原因?」

「うん。精神干渉系、催眠の類……だと、思う」


 シルヴィアが言葉を濁すのには理由があった。

 魔法が使い手の想いを形にするものである以上、精神を攻撃されれば使用する魔法の根幹を崩されてしまう。『魔法使い』という存在はほぼ全てが精神領域に他者からの干渉を防ぐ防御膜(プロテクト)を張っているのだ。故に魔法使いたちは精神攻撃系に対して強固な耐性を持っており、それはシルヴィアとて例外ではない。それにリソースを持っていかれていることが原因で魔法使いたちは物理攻撃に対する障壁を張れる者が少ないのだが、それは割愛。


 ここで重要なのは、桐花との戦いで今までの常識は真っ向から覆された点だった。

 瞳に映し出されていた戦闘風景が、いつの間にか創り出された偽りにすり替わっていた。それも気付かせること無く、酷く自然な形で。精神干渉の魔法以外で起こる現象ではないが、とても本当に起きた出来事なのか。


「―――……」


 シルヴィアは思索する。

 そもそも、精神に関係する魔法というのはどれも扱いが死ぬほど面倒なのだ。

 破滅と救済の残痕、傷付けた対象を強化または弱化させる自身の魔法。精神に干渉することも出来るが単純な効果に限定される。せいぜいが極限まで意志力を削ぎ落すことで無気力状態にさせ戦闘続行不可能にさせるくらいだ。


 だが、桐花が使っていた魔法はそんな安っぽいものではない。精神防御を易々と貫く干渉力、一切の不和を覚えさせない現実感。それだけ高度な催眠魔法を一瞬で使えるなど専門の魔法使いでもそうはいないだろう。加えてその他の魔法も使えて技能も恐ろしい、正直人間離れもいいところだ。


「案外、人間じゃなかったりして」

「……え? ごめん、聞き取れなかった。なんて言ったの?」

「ううん、なんでもない」


 よくよく考えれば人間でなくてもサブテラーでは対して問題ではない。人間か、人間でないか。他種族に対して排他的意識を持たないシルヴィアにとってはどうでもいいことだった。

 既に終わった戦いにこれ以上頭を働かせる必要は無い、そう結論付けたシルヴィアは控室へと辿り着くまで広がる青空を無心で眺めていた。




 桐花の勝利で終幕した第2戦。恋たちメモリーズ・マギアが勝利したことで状況は1対1となった。これからどうなるか、観客たちは次の決闘を今か今かと待ちわびる。

 そんな中、先の戦闘を目の当たりにしたエレガトロは膝を抱えて座り込みブツブツと呟いていた。ただ微かに聞き取れた「私と戦ったときはあんな魔法使ってなかった」という言葉、どうやら桐花の全力が引き出せなかったことに対して落ち込んでいるようである。


「いつまで不貞腐れてんだオマエ。馬鹿じゃねぇの」

「ちょ、ヴァルドさん! 何もそんな風に言わなくても……」

「どう取り繕うが負けたっつう結果は変わらねぇ。それなら、次に戦う時は絶対負けねぇって気持ちで鍛えりゃ良いだけだろ。それなのにいつまでも……あん?」


 エレガトロはヴァルドの腕を掴む。その手から発せられる力は徐々に増していき、ヴァルドが不味いと感じる頃には骨が軋むような音を発し始めた。


「い、イデデデ! 離せ馬鹿猫!」

「うるっさいにゃ! 負け犬の癖して一丁前に説教かましてるんじゃないにゃ!」

「お前がいつまで経ってもグチグチしてるからだろーがよ! いい加減に鬱陶しくもなるわ!」

「このっ、男なら落ち込んでる女性に気の利いた言葉の1つくらい吐いてみせろにゃ!」

「んなことするわけないだろ面倒くせえ!」


 繰り広げられる取っ組み合いの口論。両者言いたい放題ではあるがそれも信頼の裏返しなのだろう、同チームのメンバーは優しい瞳でもって2人を見守っていた。

 これ以上の心配は要らないだろう、セリカは傷一つ無くなった決闘の場へと視線を向ける。歓声を全身に浴びながら入場する2人、華奢で可愛らしい育と筋肉質で雄々しいエドワードはまさに対極とも言えた。


「セリカちゃんはどっちが勝つと思う?」

「そうねぇ……カギを握るのはメモリーズ・マギア側だと思うわ」

「イクって子だよね。ヴァルドさんと真正面から肉弾戦するんだから凄い印象に残ってるよ」

「まぁ、結局は運も絡んでくるし一概には言えないわ。でも……メモリーズ・マギアが不利なのは確実でしょうね、幾らなんでも()()()()()()()()()

「え? それってどういう……」

「まあ見てなさい、いずれ分かるわ」


 セリカと共に決闘の場へと視線を移すユーカリプス。見ている者全てがこれから始まる決闘へと意識を集中させ始める。2人が遂に中央にて顔を合わせた。


「うふふ、今日はヨロシクね。良い戦いにしましょう」

「はい! こちらこそよろしくお願いします!」


 笑顔で握手を交わした両者は規定の場所へ。育は慣れた手つきで魔法少女へと変身、魔力糸を射ち出す腕甲が装備された右腕を構えて合図を待つ。

 そこで育は気付く、エドワードがいつまで経っても装備類を展開する様子が無いのだ。着の身着の(まま)で準備運動をしている姿は今まで戦ってきた相手の誰とも合致していなかった。


「エドワードさん、もしかしてそのまま戦うんですか?」

「そうよ? アタシにとっての武器は、アタシ自身だものッ」


 エドワードは上半身の衣服を脱ぎ捨てる、露わになったのは筋骨隆々とは言い難いが極限まで無駄を絞り出した肉体。それは同性でさえも『美しい』と感じてしまうほど、まさに黄金の均整と言っても過言ではないほど完璧な身体だった。


「両者準備が整ったみたいですね! それでは準決勝第3決闘……始めっ!」


 司会者の合図と共に決闘が始まる。

 育はエンハンスとコネクトを装填、魔力で生成した糸を全力で射出する。ヴァルドとの戦いでは効果が薄かった魔力吸収だが、対処法が無ければ即座に相手を戦闘不能にすることが可能。もし通じないとしても試す価値は十二分にあるだろう。

 殺到する緑に口角を吊り上げるエドワード、瞬間踏みしめた地面が割れ爆発的な勢いで体躯を射出。空間の支配を抜け出し肉薄した後に繰り出された左足の蹴り―――育は屈むことによって回避する。


「アラッ?」

「はあああっ!」


 育の腕に合わせて伸ばされていた糸が広範囲を斬り裂く。しかし、手応えが無い。

 瞬間、育の顔に影が差す。魔法による脚力強化も合わせての全力後退は功を奏し、遅れてやって来る強烈な破砕音。顔を上げれば先ほど立っていた地面は振ってきたエドワードの蹴りによって蜘蛛の巣状に割れていた。


 腰を落とした育は魔法で強化された脚力で接近。お返しとばかりにエドワードの脛へ向かって蹴りを放つが、いとも簡単に回避され両者の距離が再び開く。その瞬間を待っていたと言わんばかりに猛然と牙を剥く糸の攻撃、大きな動きで避けるエドワードを見て育は確信した。少なくとも糸に触れるのは不味いとバレてしまっている、魔力吸収が出来る可能性は限りなく低いだろう。


 だが、それでいい。

 育の魔法『コネクト』は、効果が相手に露見してから存分に力を発揮する。


 あの糸に1度でも触れたらアウト、そう認識した相手は全身全霊で回避に徹するだろう。

 普通ならば攻撃が届かなかった、と済まされるのだろう。しかし、魔法の効力を知っているとしたら話は別だ。


 1度のミスも許されない状況に置かれたヒトは少なからず委縮し、緊張し、集中する。掠ることすら許されない攻撃は大げさな回避を強要し、些細な動きにも反応するほど神経を高ぶらせる。

 確かに初めの内は攻撃が当たらないだろう。だが、戦いそのものが長引けばどうだろうか。相対した敵は、果たして戦闘開始直後と同じパフォーマンスが保てるだろうか。


 否、それは不可能だろう。精神面と肉体面、両方からの攻撃は体力を加速度的に奪い去る。抵抗する力も失った相手を仕留める戦闘スタイルは蜘蛛を彷彿とさせる。


 しかし、利点があれば欠点があるのは必然。

 2回戦で戦ったヴァルドのように糸の干渉を受け付けないよう障壁を張れば糸を気にせずに戦える他、短期決戦の攻め一辺倒で来られると防御が心もとない育では押し切られてしまう可能性が高い。それを誤魔化すためにも育は率先して身体強化を用いた接近戦を行うが、武術を修めている恋たちと比べて見劣りするのも確かで。

 仲間と共に戦うことで真価を発揮する。それが育の、魔法少女としての姿だった。


「ぐう……っ!」


 拳による強烈な一撃、腕甲で受け流した育は後方へと跳び退くがエドワードがそれを許さない。育が1歩引けば1歩詰め、長い手足を活かした肉体の砲弾が襲い掛かる。なんとか糸を動かし攻め入るも当たる様子は無く、格闘戦も体格の違いから上手く攻撃できないことが多々ある。戦いの流れは明らかにエドワードへと傾いていた。


 だが、育も勝利を諦めている訳ではない。

 相手も人型、行動の間隙は確実に存在する。刹那とも言えるその瞬間を狙い撃ち、確実に仕留めることを決意していた。

 問題はどのタイミングで行動に起こすか。不意打ちというのは初撃が何よりも重い意味を持つ、もし外せば警戒され2度とチャンスは無いかもしれない。そうなれば、後はエドワード得意の格闘戦で押し切られてしまうだろう。


 育は思わず笑みを浮かべる。本来ならプレッシャーをかけるのは自分側であるはずなのに、いつの間にか精神的にも追い詰められている。不安で胸の奥が締め付けられるような気がした。

 反して、身体はとてもリラックスしている。まさに自然体そのもので、駆動に不自由は一切無かった。


 想起されるのは春の頃。恋、葵と共に魔獣と戦った日々。

 大切だったのは身近な人たちで、彼らを助けたいと考えたら緊張など吹き飛んで身体が勝手に動いていた。戦いが終わった後も地球を救ったなどと考えることは出来ず、時間によって気持ちの整理を付けた形だった。


 この戦いは誰を守る為の戦いではない。

 だが、誰かの為に戦うことは出来る。考え方を変えるだけで、育の身体は驚くほどに緊張を飼い慣らしていた。


 風を唸らせる拳が育に迫る。一撃で昏倒へと至らせるだけの威力が込められている、察するのは容易。

 育はそれを真正面から受け止めた。衝撃が足を伝って後方へと流れ、地割れを引き起こす。

 琥珀色の瞳はただ真っ直ぐ、エドワードを見据えている。


「―――これは、想定外だわ」


 エドワードの雰囲気が一変する。余裕があった表情は影を潜め、戦士と言えるだけの覇気を身に纏い次の攻撃を繰り出そうと拳を振り上げる。

 だが、遅い。


 育は全力でエドワードの腕を引き前傾姿勢へと崩す。その先に待つのは緑の糸、触れれば戦いを終わらせる劇毒。

 体勢を著しく崩されたエドワードに回避する術はない。

 育の糸はエドワードの左腕にこれでもかと絡みつく。それと同時にコネクトを発動、あらん限りの魔力を吸い出した。


 叩き上げられた鋼の巨体は、いとも容易く地面へと崩れ落ちた。


やったか!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 勝ったな風呂はいってきます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ