第25話 それは時にあっけなく―――
お待たせしました! 桐花vsシルヴィア決着です!
それではどうぞ!
私、シルヴィア・ドランスライトは面倒臭がりだ。
余計な行動は疲れるから基本的にやらないし、会話も必要最低限。感情を浮かべることすらも体力を使うため不必要と切り捨てて抑制している。
そんな私が珍しく、今回の戦いでは嫌気が差しかけていた。その理由は戦っているトウカにあった。
繰り出される剣筋は常に真っ直ぐで正確。立ち回りは淀みなく流れ、身体が生み出した力だけでなく私の攻撃の威力も次の動きに利用している。
防御も堅牢。そもそも崩すのが至難の業で、たとえ崩しても、異常とも言える速度で攻撃先を即座に塞いでくる。加えて、軽やかな回避は風を切っているような手応えの無さを感じた。
だが、私が面倒だと感じている原因にそれらは含まれない。トウカの1、2回戦での戦いっぷりを見ていて知っていたからだ。
問題だったのは、決定打を繰り出す為に踏み込んで来ないことだった。
繰り返しになるが私は面倒が嫌いだ。面倒を避けられるなら、どんな努力でもするくらいに。
矛盾だと感じるかもしれないが、私はそういう人間なのだ。
そんな私が辿り着いた戦闘論は、最低限の労力で最大限の効果を及ぼすこと。1撃でも当たれば勝負を決めてしまえる、そんな戦い方だった。
2本の剣を操る双剣スタイルはその過程で身に着けた。初めは盾と剣を使っていたが微妙に合わず断念、手数が稼げる点が何よりも良かった。
相手を観察する力はいち早く身に着けた。癖や弱点を見抜いて執拗に突く、戦いは相手にとって嫌なことをすれば有利になると知っていたからだ。
ああ、さっさとトウカに攻めて欲しかった。その為に崩されたように見せかけていたのに。
だけどトウカは絶対に最後の1歩を踏み出さない。誰が見てもチャンスであるように鍛え上げた演技は通用しなかった。
原因は多分、第六感的なものだと思う。私の攻撃に対する反応速度が明らかに速すぎる、直感タイプの人間は理論とか抜きに気付いてくるから本当に戦うのが面倒だ。
私がこうやって這い蹲っていても近付いてくる様子は欠片も無い。おそらく重力魔法だけで圧し潰す気なのだろう。
私の魔法は本来なら防御しても関係ないのだが、メモリーズ・マギアの装甲や武器が自動修復するせいで通用しない。
加えて魔法の通りも悪い、ある程度までの魔法干渉を防護機能があるのだろう。再生阻害の効果を幾度となく刻んでいるのに全く効果が無いことがその証拠だった。
戦う事自体が面倒になり始め、負けてもいいか考え始める。決闘祭はチームで勝てばいいのだ。残りは後続が勝ってくれるだろう。
楽観的な思考で思考が大体数を占めていく。なんだかこうやって考えるのも馬鹿らしくなってきた。
身体の力を抜き、重圧の締め上げのまま意識を失う――その時、脳裏にアリスの顔が浮かんだ。
停止する脳内の甘い囁き。
自分が負けたらアリスはどんな顔をするだろうか。『プークスクス、あれだけ私には色々言っていたのに自分は無様に負けるのね!』なんて、日頃の仕返しとして盛大に煽ってくる姿が容易に想像できた。
もしくは『なんで負けたのよ!』と怒りながら問い詰めてくるかもしれない。
―――まずい、それは滅茶苦茶面倒だ。アリスは癇癪を起こしたら長い、ご機嫌取りする必要も出てくるだろう。
結論。
とりあえず勝ちを目指して、負けても馬鹿にされない程度には頑張ろう。後のことは……今は考えない方が楽そうだ。
幸いといっては何だが、私の魔法は当てるだけで勝ちが確定する類のもの。そして、トウカの異常なまでの先読みの原理も何となくわかった。
今までは使う魔法が透けないよう立ち回っていたが、いよいよ限界だと割り切る。剣の柄を軽く握り直すと魔力を込めた。
突如、空間が張り裂けるような悲鳴を上げ始める。耳の奥を突き刺す力は徐々に高まり臨界点へと到達した時、甲高く硬質な音と共に重力の檻が消え去った。
ゆらりと立ち上がるシルヴィア。握られた二振りの剣の腹に刻まれた幾何学模様が爛々と拍動していつ。
シルヴィアは自身に向かって白剣の先端を向けると迷い無く突き立てる――瞬間、桐花の剣が割り込み阻害した。
白剣に込められる力が増すが動く気配は無い。機械刀と擦れ合い、ギチギチと音を鳴らす。
「やっぱり分かってる。これ、駄目だって」
「うん、取り返しがつかない気がした」
「……ほんと面倒。でも、勝つ」
剣に加える力の向きを流転するシルヴィア。桐花は即座に離脱、その場所に十字の剣筋が走る。
シルヴィアは1歩大きく踏み込み連続剣を放つ。真向、逆袈裟、水平薙ぎ、袈裟。淀みなく連結された一連の動作は確実に桐花を追いつめていた。
だが、決まらない。ただの1度の掠りも無く防ぎ切る凄まじい技量は見る者を戦いへと引き込む。
それは控室にいつコードトーカーの面々とて例外では無かった。
「これまたとんでもない戦いになったな。あのシルヴィアがやる気とは」
「それでも仕留められていない辺り、トウカちゃんの強さがおかしいんだけどねぇ。なんで捌けるのかしら、私だったら一瞬で微塵切りにされちゃうわーっ!」
「馬鹿を言え、お前ほど頑丈なヤツなど滅多にいないだろうに」
モニターの先で繰り広げられる戦いに各々が見入っている中、ノエルは横を覗き見る。隣に座っていたアリスがどことなく落ち着かない様子だったからだ。
「どうしたの?」
「シルヴィア頑張ってるなって。正直、長引いたらわざと負けると思ってた」
「あはは、確かにやりそう。……でも、いま戦ってるメモリーズ・マギアは強い。自分の負けが後に響くのが嫌だったんじゃないかな。シルヴィ、責任感はあるから」
それぞれが戦いの展開に思いを巡らせる。
桐花とシルヴィア、両者とも二振りの剣を手繰り戦う者。剣士としての膂力、技量に明確な差は無い。
ならば、勝敗の決め手になるのは魔法である。
「シルヴィアの魔法『破滅と救済の残痕』は剣で傷付けた対象を弱化、または強化する。掠り傷1つでも付けばそれだけで終わり。……なのに、なんでまだ勝負がついてないの?」
「それなんだが、向こうの武装には修復機能が備わっているみたいだ。武器や装甲の部分の破損が瞬間的に元通りになるのを確認した、それで装備への工作が出来ないんだろう」
「なるほど……」
「結構動いてるけど、魔力切れは狙えそうにないわね。まだまだ元気って感じ」
「トウカちゃんとシルヴィ、どっちが相手を出し抜けるかの勝負だね」
画面の向こうで奮闘するシルヴィアを見守る4人。
勝敗の行方は、もはや誰も予想できなかった。
駆ける、跳ぶ、回る。鎬を削る2人は演舞の如き華やかさを作り出す。間欠性の剣戟音は澄んでいて、その試合を彩っていた。
身体を捩じり生み出した勢いで旋風脚を繰り出す桐花。シルヴィアは即座に両腕をクロスしてこれを受け止め、勢いを殺したところで上方に弾き飛ばし、剣先を地面に引っ掛ける。先程もやってみせた超速斬撃の構えだ。
それを視界の端に捉えた桐花は武器のホルダーからメモリアを2枚放り手足を縮め回転。紙一重で斬り付けを躱したところでメモリアが装填、統合された機械刀の持ち手を確かに握り視界の中央にシルヴィアの姿を捉えた。
「ロード!」
【Loading, BOOST】
体躯に残る遠心力を総動員、魔法による膂力強化の相乗効果によって剣速が爆発的に上昇する。差し交わされた黒白剣の防御を易々と押し通しシルヴィアを壁まで吹き飛ばした。
着地した桐花は時を移さずに接近しながらエンチャントを発動、刀身に充填した魔力で横薙ぎ一閃の遠隔斬撃を放つ。シルヴィアは黒剣を地面に滑らせ相殺、取り落とした白剣を爪先で蹴り上げると2度目の蹴りが剣の柄尻を捉え射出される。猛然と突き進む剣弾だったが、桐花によって大きく弾かれ不発に終わった。
再び接敵した両者、機械刀と黒剣が切り結び火花を散らす。剣を一振り失ったためか防御を重視した立ち回りへと変化していた。
武器が弾かれ合うこと3度、ぶつかり合った刃元で競り合いが始まる。両者細やかな力の調整によってフェイントを織り交ぜ、動き出す瞬間を探っていた―――シルヴィアが桐花の背後、壁に突き刺さる白剣に視線を移すまでは。
均衡が崩れるのは一瞬。シルヴィアは腕の力をわざと緩め、迫る機械刀を逸らすと躊躇なく地面に踏み付ける。
振り抜かれる黒剣。横一文字の斬撃は正確に桐花の身体を捉えている、機械刀で防ぐことは出来ない。この攻撃は当たる、観客たちの誰もがそう思った。
だが、桐花はその上を行く。
瞬時に機械刀を手放すと背を逸らし斬撃を躱す。更にその勢いを利用し後方転回、振り子のように上がる足が黒剣の腹を蹴り上げ宙に飛ばした。
「上手い!」
「や、やりやがったにゃアイツ!」
繰り出された超絶技巧に観客席が沸く。その瞬間、間違いなく決闘祭イチの盛り上がりだった。
立ち上がりに繰り出すのは掌底、魔法によって底上げされた攻撃は見事にシルヴィアの鳩尾に命中した。
仰け反るシルヴィアを尻目に剣柄を踏み抜き反動で跳ね上がった機械刀を握り締める。トドメの1撃を振り抜こうとした瞬間、身体に流れる血液が凍り付くような感覚を受けた。
シルヴィアが此処には無いはずの剣の持ち手を握っているのだ。
ここに居てはいけないと叫ぶ本能に従って全力で宙に跳び退く桐花。瞬間、鞭を打ったような鋭い音の後に闘技場の大地を2本の亀裂が駆け抜けた。
空を舞う中、桐花はシルヴィアへと視線を向ける。
手の中にあったのは確かに黒白の剣だった。しかし、その形はガラリと変わっていた。
等間隔に切り出された剣の身、その断面の中央が1本の銀線で繋がれている。剣先は闘技場の端まで伸びており、際限は計り知れない。
空気を裂き、地を騒々しく蠢く様はまるで這い擦る蛇のよう。特徴的な見た目から付けられたその武器の名は―――蛇腹剣。
その場に無かったはずの剣が握られていたタネも簡単だ。シルヴィアは黒剣が弾かれた時点で剣に刻まれていた印を起動、手元に戻ってくるよう剣身を伸ばしたのだ。
振るわれた腕が伝動し、食い破らんと迫るシルヴィアの剣。桐花は『グラビティ』のメモリアを装填して発動、自身にかかる重力を急増させて一気に地面に降り立つ。
2人の視線が交錯する。自分の勝ちを信じて疑わない、どこまでも真っ直ぐな瞳だった。
桐花がメモリアを新たに取り出して装填すると駆け出す。辿るのは直線で最短のルート、両者が真正面から向かい合う形。
展開された蛇腹剣がしなやかに揺れると反動で一気に加速、闘技場の端まで到達する長さは回避行動を極端に制限させる。
だが、桐花は意にも介さず軽々と跳び上がり回避。目の前にあった小さなの切り込みに触れないように通過した。
「ロード!」
【Loading, PHANTASM】
シルヴィアは手首のスナップを効かせ直剣の状態に戻すと両方の剣先を定め射出。その軌道は左右への動作を潰しており、回避する手段は限られる。
桐花が取った行動は、更に身体を前に倒すことだった。
地面に腹が付いてしまうほどの前傾姿勢。普通ならば倒れてしまうところだが、桐花が持つ驚愕的なボディバランスによってそれを可能としていた。
あと数歩で剣の間合いに入る、刀身に魔力の光が集い始め攻撃の予兆を感じさせた―――直後、翡翠色の瞳が限界まで見開かれる。桐花は無理やりに身体を捩じって軸を横にずらす。
「……気付くのはすごい。でも、遅いよ」
地面を割って現れた黒白の蛇腹剣が桐花を掠める。刻まれた傷が発光、桐花の身体が力なく地に伏した。何秒待っても起き上がる様子は見られない。
シルヴィアは大きく息を吐き出す。戦いが無事に勝利で終わったことの安堵が胸中を占めていた。
退場しようと歩を進め始めた時、はたと足が止まる。
(……待って、なんであんな簡単に上手くいったの?)
シルヴィアの狙いは明確だ。相手の回避が難しいタイミングで初見の攻撃を繰り出す、ただそれだけ。
先に回避させて体勢が崩れたところに地面を通して蛇腹剣を伸ばし奇襲する。回避不可能な体勢に誘導させ、そこを確実に潰す予定だった。
その思惑は見事に成功した。確かに地面に桐花の身体は地面に転がり起きる気配を見せていない。
だが、それは思惑通り完璧に決まり過ぎた。故に感じる違和感、完成品のパズルを見ていながら手元に1つピースが残っているような気味の悪さ。
(……ちょっと待って)
シルヴィアは思い出す。自身が地面に作り出した魔法の罠を通過する際に魔法を発動していたことに。
それを認識した瞬間、パチンと弾ける音がした。
覚束ない意識で辺りを見渡す。倒れていた桐花はおらず、妙に騒めく観客たち、手の内から滑り落ちている蛇腹剣。そして―――剣を構える桐花の姿。
振り上げられた機械刀は蒼く染まり、収まりきらない魔力が輪郭を失った光の粒として辺りを漂う。溢れた力の奔流が空間を震わせていた。
シルヴィアが見ていたのは夢だった。
全てが理想の通りにいった、幸せな世界の夢。
魔法によって作られた、吹けば飛んでしまう―――泡沫の夢。
瞳に映る蒼の一撃を最後に、シルヴィアの意識は闇へと溶けていった。
読んでいただきありがとうございます!
シルヴィアちゃんも頑張りましたが、今回は桐花の勝利で幕を閉じました。
両方とんでもない戦略兵器だよこれ……。戦闘の規模が明らかにインフレを始めてきましたね。まぁこれから更にインフレ始めるんですけど()
考える頭が足りないせいで滅茶苦茶大変ですが、なんとか頑張って書いていきたいと思います。
さて、戦績は1勝1敗。次は育vsエドワードになります!
果たしてどんな魔法なんでしょうか。次話をお楽しみに!




