第24話 準決勝第2戦 桐花vsシルヴィア
おまたせしました!
今回は約4500文字と少なめですが、どうぞ!
「紗百合ちゃんが、負けた……」
モニターに映された決闘の一部始終に育が力無き声で呟く。それだけ紗百合が負けたことによるショックは大きく、少なからず恋と葵も動揺を見せていた。
紗百合は5人の中で誰よりも魔法に対して真摯に向き合っていた。
日々の特訓をしっかりこなすのは勿論、空き時間があればナムコットから魔法の授業を受けたりと、その志は高い。槍術を身に着けていたこともあって後追いで魔法少女になったにも関わらず恋たちと遜色ない実力を有している。
そんな紗百合でも負けた。
これが決闘祭、魔法使いたちが頂点を目指して争い合うということ。恋たちは改めて戦いの苛烈さを身に染みて思い知ったのだった。
桐花は立ち上がると次の戦いに向けて軽く屈伸。扉に手を掛けると振り返り「じゃ、勝ってくる!」と笑顔で軽く告げて控室を後にした。
鼻歌を歌いながら真っ直ぐ廊下を突き進むと入場門から決闘の場へと踏み込む。一気に開けた視界から襲う陽の光に目を細め、慣れてくるころには闘技場中央へと辿り着いていた。
「シルヴィアちゃんよろしく! いい戦いにしようね!」
「ん、こちらこそ」
両者は握手を交わすと規定位置まで後退し戦闘形態へと移行する。桐花は魔法少女へと変身し、武器である機械刀を構え正面を見据える。
同じくしてモノクローム色調のコートを身に纏い、黒白二振りの直剣を握るシルヴィアも構えを取った。淀みないその動作だけでも戦闘前から技量の高さが伺えるだろう。
そして、火蓋は切られた。
桐花は地を駆けながら素早くメモリアを2枚装填。魔法によって機械刀を分割し二刀流の戦型になると、右手に持った剣でもって前進の勢いを利用した突きを放つ。
対してシルヴィアは右手の白剣をあてがい外側へと押すことで往なし、攻撃の後隙へと狙いを定め左手にある黒剣を振り抜く。完璧に刺さるかと思われたその攻撃だが桐花の身体が加えられた力を利用し反転、左から放たれた裏斬りが防ぐ形となった。
続けて黒剣の先を地面に引っ掛けることで生まれた反発を利用した切り上げを放つが、桐花はこれをクロスさせた剣で防御。何が何でも攻撃を通さないという意思を感じさせる挙動であった。
次々と切り結ぶ2人に観客席のボルテージも上がっていくばかり。しかし、その中でエレガトロだけは眉間に皺を寄せ不機嫌そうにしていた。
「あーうざいにゃ。魔法が通じなかったとか色々言いたいけど、素で強いっていうのが1番腹立つ」
「エレちゃんまだ言ってるの?」
「当たり前にゃ! 魔法の相性さえ悪く無ければ絶対勝てたのにぃーっ!」
うがー! という唸り声を上げながら頭を掻き毟るエレガトロ。2回戦での負けが尋常でないほど響いているようである。
そんな彼女を尻目にヴァルドは繰り広げられている戦いを観察していた。
「……気味悪いな」
「どうしたヴァルド。何かあったか?」
「あの双剣使い……これだと両方そうか。エレガトロが負けた方のヤツなんだが、妙なんだ」
「うるっせぇにゃ! ペシャンコにしてやろうかにゃ!?」
「まーまー、落ち着いてエレちゃん」
ユーカリプスから羽交い絞めにされているにも関わらず、息を荒げ今にも襲い掛からんとするエレガトロ。しかし当のヴァルドは無反応のまま言葉を続けた。
「さっきの続きだ。妙、とは?」
「それを話す前に確かめたいことが出来た。おいエレガトロ、お前あの双剣使いと戦ってどう思った?」
「めっちゃうざかったにゃ」
「……それはよく分かった。なんでうざいって思ったんだ?」
「なんでって、そりゃいっぱいあるにゃ。魔法が通じなかった事なんて最たるモノだし、近接戦も防御がいっつも先回りしてきて……んん?」
自分が経験した戦いの一部始終を思い返しながら戦っている桐花の姿を重ね合わせる。首を捻ること数秒、揺らめいていた尻尾がピンといきり立った。
「そうだにゃ! アイツ、ここぞっていう時はいつも動きが完璧だったにゃ!」
「確かにそうだったな。魔法も捌かれていたし、ほぼ無傷だったのを記憶している。画面越しだが相当のやり手だと思ったよ」
「違うにゃ! そんな生っちょろいモンじゃないにゃ!」
「……どういうことだ?」
「色々おかしかったところはあるけど、特に動き出すタイミングが異常なまでに速いんだにゃ! まるで、その事象が起こることを前もって知ってるみたいに!」
「なに……?」
C.o.Cの面々が決闘の場へと視界を移したとき、シルヴィアが桐花の足を蹴り払い体勢を宙へと崩す。そこに向かって視覚外から一撃を叩き込むために黒剣を振り上げた時、既に桐花の剣が挟まれ剣筋を遮断していた。
「ほら、明らかにおかしいにゃ! 幾ら何でも速すぎる!」
「今のは確実に見えていない角度からの攻撃だったし、魔法も使っていないように見える。ヴァルド、これは……」
「簡単な話だ。あのメモリーズ・マギアの双剣使い、周りのモンを全部捉えてやがる」
「……あぁ、なるほど。そういうことだったのね」
騒然とする中、突如発せられた声の元に全員の視線が集まる。それは今まで無言を貫いていたセリカのものだった。
「セリカちゃんは分かったの?」
「ええ、種さえ割れてしまえばね。あのトウカって子は、周りの事象から次に起こる事象を感知しているの」
「え、えっと……?」
「そうね、貴女だと馴染み深いのは自然の様子かしら。『これから雨が降る』って何となく分かったりする経験はある?」
「勿論あるよ! だって空を見れば雲が……あ」
何か思い当たった様子のユーカリプス。それを見たセリカは満足げに「そういうこと」と呟いた。
天候が変わるのなら必ず空に予兆となる現象が現れる。それと同じで、なにか事象が起こるとき、そこには様々な他の事象が関わっている。
これを剣での戦闘に置き換えてみよう。
切り払う時は必ず『振り被る』し、突きを放ちたいなら『引き絞る』。それ以前に『踏み込む』必要があるなど、行動には必ず予備動作が必ず付いて回る。
即ち、予備動作から次に来る攻撃を察知することが出来るということでもある。
「でもトウカさんはさっき見えてない攻撃も防いで……あっ、そっか、肌で感じ取った空気の流れとか音も含めてるんだ。でも、よくそんなこと出来なぁ……」
「自分の感覚に絶対の自信が無ければ出来ないわよ。まぁ、あの子がそんなことを意識的にやっているとは思わないけど」
セリカの目下には笑顔で戦闘をこなす桐花の姿。2回戦の様子も踏まえて、考えてから行動するより自分の直感のままに行動するタイプだと結論付けていた。
それよりも、セリカの関心はシルヴィアへと向けられていた。より具体的に言えば、戦闘が始まってから未だ1つの傷も負っていないことに対して。
先ほども述べたように桐花は感覚に頼った素早い反応が持ち味で、それを活かす戦法が得意だ。時には苛烈に攻め、時にはじっくりと待ちの姿勢に入りカウンターのタイミングを待つ。
更に二刀流と一刀流を戦いの最中で換えることによって動きの幅を広くしている。これに魔法も加えた変幻自在の手練手管で臨機応変に戦うのが桐花のスタイルだった。
だが、届かない。いや、そうしないと言った方が正しい。
あと1歩踏み込めば決定打を与えられる、そういう状況になった時に桐花は決まって攻撃の手を止め体勢を立て直す。そうして互いにリズムが整ってから改めて攻撃を再開するのだ。
それは一見、攻め時に攻めない悪手。だが、その行動を愚行と断じるには違和感があった。
シルヴィアには何か、得体の知れないものがある。両者共に目立った魔法を未だに使っていないことからも、セリカの疑念を促進させていた。
そしてそれは、控室にてこの戦いを見届ける恋たちも同じだった。
「桐花さんの動き、全然違いますね。いつもはガンガン攻めるのに」
「これは俺も分かんねぇ。チャンスをわざと見逃してるのは確定なんだが」
「……何か、桐花さんにしか分からないことが起こってるのかも」
疑念が更なる疑念を呼ぶ。モニターに映る桐花の戦い方は、仲間である恋たちですら不可解なものだった。
その時、控室の扉が開けられる。入り口に立っていたのは医務室から帰って来た紗百合の姿だった。
「おかえり紗百合ちゃん! 身体は大丈夫?」
「うん、もう傷1つないよ。心配してくれてありがと」
控室へと入った紗百合はベンチに腰を下ろすと真っ先にモニターに視線を移す。繰り広げられている桐花とシルヴィアの戦いを観察していると、自身の姉の戦い方が違うことに気が付いた。
「どう紗百合ちゃん、何か分かったことある?」
「んー、色々考えられることはあるけど、面と向かってしか分からない類のことが起こってるのが有力かな。だとしたら、お姉ちゃんが気付いてる筈だよ」
紗百合の信頼は的を射ていた。桐花の視線の先にはシルヴィアが武器とする二振りの直剣。
あの剣の攻撃を喰らっては駄目だ。
桐花は感覚が囁いてくる言葉に従うがままじっくりと攻める。それは重装兵がジリジリと詰め寄りながら圧し潰すような戦い方だった。
だが、シルヴィアがその攻め方にも対応してきている以上、勝つためにはこのままの戦い方を続けるわけにはいかない。次に体勢を崩したタイミングで魔法を仕掛ける、それが桐花の出した結論だった。
「せいっ!」
「ふっ!」
互いの声と共に剣が交差する。
シルヴィアによる白剣の振り下ろし。桐花は横に身体をずらすことでこれを回避。地面を思いきり踏み込むと右手で持った剣で突きをシルヴィアの胴体目掛けて放つが、横から現れた黒剣によって逸らされてしまう。
桐花が2撃目に選んだのは蹴り。地を踏んだ反動で飛び出した足は滑り込み、シルヴィアの腹部を正確にぶち抜いた。転がりながら体勢を立て直すその瞬間、桐花の魔法『グラビティ』がシルヴィアの身体を重力の檻へと閉じ込めた。
圧力は増し、シルヴィアの身体を地面へと縫い付ける。立ち上がろうと腕を突き立てるが、その努力も嘲笑うかのように押し潰した。
「完全に入った! これで決着もあるにゃ! やっちまえにゃー!」
「エレちゃん、あんなこと言ってた割には普通に応援するんだね」
「……ハッ! いやこれは違うにゃ! ただ私に勝ったアイツが負けるのが癪に障るだけで!」
「うんうん、分かってるよ。そうだよね、トウカさんに頑張って欲しいんだよね」
「その鬱陶しい笑顔止めろにゃ!」
「頑張れー、トウカさーん!」
「無視するにゃー!!」
盛り上がる会場に合わせてエレガトロとユーカリプスも声を上げる。観客たちの声援は桐花側へと傾いていた。
このまま順当に行けば桐花の勝利で2戦目は幕を閉じるだろう。
だが、相手は決闘祭準決勝まで勝ち進んで来た猛者。小さな身体だが、シルヴィアもまた魔法使いとして強者であり剣使いとしても歴戦である。
だが、追い詰められているのも事実。そんなシルヴィアの思考は―――
(……あー、ちょー面倒くさい)
―――大らかに、怠け切っていた。
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次話ですが、シルヴィアの独白から始まる予定です!
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