第22話 準決勝第1戦 紗百合vsエレノア
大変申し訳ありません! こちらのミスで投稿が出来ていませんでした!
それでは22話になります!
晴天の中で執り行われる決闘祭準決勝。控室の1つにコードトーカーの姿がある。各々がリラックスしており、緊張の様子は見られなかった。
「さてさて、今日はどうしようか。折角新ジャンルに手を出したんだから、私としてはもっと派手なモノを描きたいのだが」
「こら! 昨日あれだけ言ったのにもう忘れちゃったの?」
「忘れては無いさ。だが、やはりそこは私だ。興が乗ってしまえば自然と筆が動いてしまう」
「ノエル、幾ら言っても説得は無理よ。この子は根っからの絵描き精神だもの。他人がどれだけ言おうと、心の底から好きなことを止めるのは出来ないの」
「流石はエド、話が分かる。それでは行ってくる」
控室の扉が開かれ、顔を覗かせたのは運営側の人物。その役目は選手入場のための呼び出しだ。手元に置いていたスケッチブックを手に取り懐に仕舞う。
「さてと、今日はどんな絵を描くことが出来るのか。胸が躍るな」
扉を開けて廊下へと歩み出る。今日も自らの作品を描き上げるために。
闘技場の観客席最上階に恋たちが2回戦に戦った『C.o.C』の面々がいた。その内、セリカは小さな身体を左右に揺らしていた。
「まだかなー、まだかなー。ふふふ」
「……お前の目当ては5戦目じゃねぇか。まだ始まってすらないんだから少し落ち着けや。鬱陶しい」
「貴方はレンと戦わなかったからそんなことが言えるのよ。身のこなしは美しく洗練され、それでいて情熱的だった。それだけでも素敵なのに、顔が可愛いのも私好み。そして極め付きはその血よ。とっても魔力が豊富で甘い。舐めた瞬間、瞼の裏に赤い星の海が見えたわ。それなりの年月を重ねたけど、血に酔ったのは生まれて初めて。そう考えるとこれって運命よね! キャーッ!」
「もしそうだったら可哀そうでしょうがないな。相手が頭お花畑のハーフヴァンパイアなんだからよ」
ヴァルドから吐き出された溜め息は重々しく呆れの色が濃い。そこにユーカリプスから差し出される壺型の植物。中には薄黄色の濁った液体が満ちている。その香りから果物を絞って作られた飲み物だということが分かるだろう。
「サンキュー。全く、なんでこんなヤツが俺らのリーダーなんだ?」
「まぁまぁ。いざという時は頼りになりますから」
「それは否定しねぇけどよ。戦ってハイになる癖がなけりゃ、普通のお嬢様なんだがな……」
「そのせいで婚約者に逃げられたのは笑い話だにゃー」
「ふふっ、慣れればそれも彼女の愛嬌と感じられるんだけれどな」
「それはアルシアだけだ」
他愛もない雑談をしていた時、司会者による進行が始まる。いよいよ準決勝の1戦目が始まるのだ。紗百合とエレノアがそれぞれ戦衣に身を包む。そして開始の宣告と同時に両者が動き出した。
エレノアは絵筆を地に滑らせ駆ける。黄色の塗料が潤滑剤となり、加速する。
紗百合は下段から襲い掛かる攻撃をいなし、返す形で横に杖を薙ぐ。だがそれは尻側から地面に突き立てられた筆によって遮られた。更なる攻撃を繰り出すために杖を握り直し、上段攻撃に移行する。
それを見たエレノアは直ぐに反応。地を蹴ると腕に力を籠める。そしてポールダンスをするかのように筆に身体を絡ませ回避した。
「ヴァルド、どう思う?」
「あの絵描き女、相当動けるぜ。足腰もかなり鍛えてある。恐らくだが、普段からああいう馬鹿みたいにでけぇ筆を使う事もあるんだろ。動きのベースは……槍術じゃねぇな。どちらかといえば棒術か? 独学かは分からないが、自分の魔法と合わせて上手く扱ってやがる」
「うーん、なんでパパッと魔法使わないんだにゃー? 昨日みたいに隕石落とせば一発なのに」
「簡単だ。見てみろ」
そう言ってヴァルドが指差したのは紗百合たちが立つ地面。戦闘が始まって5分と経っていない中、既に地面のあちこちに穴が出来ており、抉れている場所もちらほらあった。その原因となっているのは紗百合だ。展開した6つのシールドビットが頻繁に地面に突き刺さる。赤、緑、青、黄。様々な色の線が途中で途切れていた。
「あの絵描き女の魔法、事前準備として魔法陣を描く必要がある。それを鍵杖女が片っ端から潰してるんだよ。だが……」
「ああ、完全に潰せていない」
紗百合は昨日の2回戦で、エレノアの描く記号が意味のあるものと推測。そこから闘技場に刻まれた線は地面を削ることで途切れさせていた。
それは確かに魔法を発動するにあたって妨害として機能している。事実、エレノアは今現在に至るまで紗百合の攻撃を全て身体技能によるもので防いでいる。
しかし、それだけでエレノアを封殺できるかと言えば、そうではないのだ。
「魔法陣とは即ち、魔法を発動するための陣。線を繋ぎ、図形を描くのが一般的だ。しかしそれだけが魔法陣ではない。途切れた線だとしても、陣として利用することは出来る」
一度口を噤み、再び言葉を発する。
「実際に戦い、こうして見てみると分かる。彼らは魔法に対しての知識があまりに乏しい。魔法使いにとって常識ともいえるものすら欠けているように思える。かと思えば、妙に戦い慣れている。まるで戦場を経験した兵士のようだ」
「あ、あのトウカってヤツ! それであんなに子供っぽかったのかにゃ!?」
「アレは……まぁ、本人の性格もあるのだろう。私が言いたいのは、戦闘の慣れに対して知識があまりにも釣り合っていないことだ」
「いいじゃねぇか細かいことはよ。俺だって自分の魔法以外はそこまで詳しいわけじゃねぇ。結局は、自分が今持ってるモンでどこまでやれるかだ」
ヴァルドの視線の先。そこではエレノアが引き、断ち切られた線たちのほとんどが脈動していた。地面に突き立てた筆の柄尻へと吸収される。筆先はパチパチと火花を散らし、雷光を発していた。
紗百合の頬に流れ落ちる一筋の汗。自然と杖を握るその手に力が入ったように見える。小さく呼吸を整え、いつでも動き出せる体勢を作る。
「さぁてと、随分と待たせたな。エレノア・シールエンタが創り出す幻想世界、とくとご堪能あれ!」
筆が横薙ぎに振るわれた瞬間、空中に雷撃の刃が走る。それを紗百合は合わせてしゃがむことで回避した。
しかしそれはエレノアの挙動を見ていたから可能だったもの。肝心の雷撃の刃はとても視認出来る速さではない。まさしく刹那の一撃だった。
紗百合は盾を結合し、前に構えながら突き進む。襲い来る数々の雷撃にもビクともしない。あと数歩で杖の射程内の場所に到達した時、エレノアの行動が一変した。
筆に備わっている黄色のボタンを押す。筆を振るえば過剰に充填された絵の具が小さな雫となり飛び散った。そして次の瞬間、その雫たちが一斉に火花を散らし連結して雷撃を発生。その範囲内に踏み込んでいた紗百合を襲った。
「ぐ……うっ! はぁぁぁぁ!!」
紗百合は崩れ落ちそうになる体を無理やり踏み留まる。構えられた杖から展開された魔法陣から黄色の魔力弾が斉射され、エレノアの身体を打ち付け吹き飛ばした。そのまま『チャージ』の魔法を使い魔力を蓄積。追撃のために地を踏みしめる。
―――次の瞬間、紗百合の身体に無数の切り傷が走った。
紗百合に走ったのは激痛、そして疑念。想定にも想像にも無いタイミングの攻撃。視界に収めているエレノアは何もしていない。強いて言うならば体勢を整えているが、空間には塗料が浮いていなかった。つまり、魔法発動の予兆が完全に無かったのだ。
(まずい! 早く動かないと……!)
正体不明の攻撃を受けている今、少なくとも動きを止めることだけはしてはいけない。直ぐに走り出し、エレノアの雷撃を回避しながら魔力弾によって牽制する。そして再び接近を試みようとした時―――紗百合の身体が宙を舞い、視界の天地が逆転した。
「ふざッ……!?」
視界の転じ方から、滑って転ぼうとしていることを自覚した紗百合。先ほど自身が踏んだ場所には薄く氷が張っている。動転しながらも反射盾によって雷撃の防御に成功するが、その思考は謎の攻撃に向けられていた。
斬撃と氷結。これはエレノアの魔法によるものというのは確定している。問題はそれらの魔法をどのように使っているのか。
先ほどの氷を観察しようと紗百合が視線を下げた時、地面に点在する塗料が嫌に目に付いた。
(―――まさか)
紗百合は視界の端に筆を構えるエレノアの姿が映る。地面を転がり、回避した先で立ち上がろうとした時、手を付けようとした地面には紅蓮色の絵の具が塗りたくられていた。思考する間もなく反射的に手が引かれる。
(まさか、まさかまさか!)
紗百合の背に冷や汗が流れる。脳裏には先ほどまでの記憶が張り巡らされ、思考が加速する。
斬撃を受けた時、自分が踏んだ場所には何か無かったか?
―――あった。緑色に塗られた地面が。
転倒してしまった時、自分が踏んだ場所には何か無かったか?
―――あった。水色に塗られた地面が。
つまり、色のついた地面は接触すれば魔法が発動するトラップと化しているということだ。
紗百合は跳ね上がるように周囲を見渡す。視界には、辺り一面に絵の具で染められた場所が映った。つまり先ほどの雷撃も、塗布された地面を触れさせるための誘導だったのだ。
そして理解する。この戦い、長引かせては不味いと。
紗百合は杖のゲージを確認する。表示されているのは4段階目。放つ威力としては十分だと判断する。今度は地面に付着した塗料を避けながら一気に突き進んだ。
「ちっ、流石に気付くか。……まぁいい。それなら次は派手にいくとしよう」
それを見たエレノアは絵筆を空中へと振るい線を引くと、そこに全く同じ線を描き重ねる。段々と濃くなる線に合わせ迸る電撃の激しさも増す。6度に渡って重ねられた黄色は弾け飛び、目が眩むほどの光を発しながら射出された。荒巻く雷は一直線に紗百合へと襲い掛かる。
普通ならば避けることは出来ない攻撃。しかし、紗百合にはそのような攻撃にも対抗できる策があった。
紗百合は素早く武器からケースを展開。『ゲート』のメモリアを取り出し装填。それと同時に浮遊していた反射盾が消え去る。前方に創造された門へと雷撃が吸収され、エレノアの背後に創造した門から雷撃が射出する。そして、その攻撃は見事にエレノアを撃ち抜いた。
「セット! コネクトブレイク、ディスチャージ!!」
【MEMORIA BREAK. Count CHARGE:4. Full Burst】
紗百合は杖を構えて腰を落とす。展開された魔法陣には魔力が収束し、4つの光球が統合。巨大な魔力の塊が形成される。
放たれるのは極光の奔流。前方全てを呑み込み破壊する一撃。それが今、アレシアを襲う。
防げない状態に追い込み、必殺の攻撃を叩き込む。確実に決まった筈だ。
だが、紗百合は一抹の不安を感じ取っていた。エレノアは1回戦、2回戦共に情報が極端に少ない。明らかに自身の情報を縛っているのだ。それは紗百合も同じことをやっており、まだ幾つか見せていない札もある。それと同様の事を考えている可能性が高い。
その予感は、直ぐに的中することとなる。
魔力砲の向かう先。まるで空間そのものを抉り取るように渦を巻き始める。魔力砲が歪み、飲み込まれる。最後には影も形も影響を残さずに消え去っていた。
「……全く、それだけ派手な攻撃をされてしまったのなら仕方がない。私も本業でいくとしよう」
立っていたエレノアは平然とその両足で立つ。やせ我慢などでは無く、その身体には魔力砲で傷付いた様子は無い。
その手にあるのは1冊のスケッチブック。見開きには黒の渦が描き込まれている。綺麗に剥ぎ取られたそのページは塵となって消えて行った。
エレノアは懐に手を入れ1本のペンを取り出す。スケッチブックに描かれたのは複数の矢。そのページを切り取ると紗百合の頭上から矢が降り注いだ。紗百合は射撃魔法で最低限の退路を確保。回避する。
「さぁ、いくぞ。私の速度についてこられるかな」
エレノアは紙とペンを構える。その姿は、威風堂々としたものだった。
それではあとがきもここまで! 最後まで読んでいただきありがとうございました!
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次回は紗百合vsエレノアその2となります。エレノアの魔法、その真髄が炸裂する!
ぜひお楽しみに!




