第21話 交わる道
第21話です!
それではどうぞ!
「あら? あらららァ!? メモリーズ・マギアじゃない! まさか会えるなんて! ねぇねぇ、良かったら少しお話しない? どんな子たちなのか気になってたの!」
恋たちは改めてエドワードの姿を目にする。
まず、その背丈が高い。低くとも一九〇センチはあるだろう。女性らしさを思わせる喋り方も合わせて、一度顔を合わせたなら当分忘れることが出来ないインパクトがあった。
そんなエドワードからの誘い。突然の事に話し合う恋たち。その結果、物腰の柔らかさと特に断る理由もないことから受けることに。邪魔にならないよう少し離れた場所にあるスペースに移動する。
「さて、改めて。アタシはエドワード・ジャック。ヨロシクね」
「浮泡育です! こちらこそよろしくお願いします、エドワードさん!」
「ええ勿論! アナタたち、全員可愛くて注目してたの! まるで咲き誇る花たち! 中でもイクちゃん! さっきの戦い、すっごく興奮しちゃったわ。明日は楽しみにしてるわよ!」
「はい! でも、勝つのはボクたちですよ!」
「あらヤダ、自信満々ってカンジ? こっちも負けてられないわね!」
啖呵を切り合う二人。両者の表情からはそのやり取りを楽しんでいる節があった。
それを切っ掛けに、それぞれのメンバーたちが会話を始める。
「シルヴィア・ドランスライト。よろー」
「私は桐花! こっちは妹の紗百合! よろしくねシルヴィアちゃん!」
「にしても、白と黒ってすっごい髪色してるね。でも白髪じゃないみたいだし。染めたりしてるの?」
「生まれつき。トウカとサユリは、何で黒と金?」
「私たちも生まれつきなんだよ! 仲間だね! イェーイ!」
「いぇーい」
はきはきした声と間延びした声。快活と弛緩。対照的な二人がハイタッチを交わす。シルヴィアも気になることは自分から話しかけるなど、問題なく関係を築くことが出来ていた。
「……立花葵です。よろしく」
「私はアリス・シャーロット! よろしくね、アオイ!」
「うん。……可愛いね」
「えへへ、ありがと! でも、褒めたからって手加減してあげないんだから!」
「うん。絶対負けないから」
「ふっふーん! 残念でした! 勝つのは私よ!」
「……違う。私が勝つ」
「私だもん!」
碧眼と蒼眼が火花を散らす。ただ、そこに険悪さは無い。アリスも葵と同じく負けず嫌いなのだ。容姿も違う。生まれも違う。しかし、それぞれの意地がぶつかり合う様子は似た者同士だった。
恋は問題なく会話出来ている仲間に安堵の表情を浮かべる。すると同じように仲間を見ている存在が居ることに気付く。それは五戦目に戦っていた少女、ノエルだった。
純粋な人間なら年齢は同じくらい。身長は一六〇センチほど。身を覆うほど長く、端が焼け落ちたように黒ずんだ赤頭巾。横から見ても分かるあどけなさが残る顔つき。金色のミディアムヘア。パンクロックな服装が印象的だった。
ふと、ノエルは顔を上げると恋に顔を向ける。恐らく観察する視線に気付いたのだろう。その菫とも青緑とも取れる瞳は、恋の姿を捉えていた。
「―――、初めまして! 私はノエル・ローダンセ。ノエルって呼んでね」
「櫻木恋だ。よろしくなノエル」
「うん、よろしくっ!」
明るい笑顔を浮かべたノエルから差し出された手を、恋は握る。小さな手からほんのり伝わる暖かな体温が心地よい。それに釣られてか、胸の内が暖かくなるような気がした。
そしてそれと同時。恋の頭の隅にあった小さな記憶が思い出された。
「なあノエル。もしかして一週間くらい前、大きい建物の屋根上に居なかったか?」
「……あっ! もしかしてあの時の馬車に乗ってたの!? 手振ったら振り返してくれたよね!」
「やっぱりそうか! いや、すごい偶然だな」
女王との会合前、馬車に乗っていた時だ。恋は確かに、一人の人間と意志疎通を行っていたのだ。それが目の前にいるノエルだったことに驚きを隠せない。巡り巡っての出会いに、恋は因果染みたものを感じていた。
「ナニナニ? 二人して盛り上がっちゃってどうしたの?」
「私、前にレンと会ってたんだ。面と向かったのは今日が初めてだけど」
「あらそうだったの!? それは……運命ね!」
大げさに盛り上がるノエルとエドワードに、恋は苦笑いするしかなかった。
そんな時、恋の手が引かれる。繋がれた先には葵の姿が。その顔には、いかにも「私は拗ねてます」といった表情が浮かべられている。
「……はっはーん、なるほどなるほど。レン、貴方も隅に置けないわねぇ!」
「ちょ、痛っ!? 背中強く叩きすぎです!」
「アラ、敬語なんて使わなくていいわよ。そういう堅苦しいの苦手だから。ところで話は変わるんだけど。アナタ、ウチのお姫様のことどう思う? 見た目は言わずもがな、炊事洗濯も得意なの。結構な優良物件よ?」
「ちょ、ちょっとエド何言ってるの!?」
あからさまに慌てるノエル。ただ、恋はそれどころでは無かった。なぜなら、葵が途轍もない圧を放っているからだ。まるで矢を番えた弓を向けられているような錯覚を受ける。
「そうよエド! 貴方はいったい何を言ってるの!」
助ける者は居ない。そう思われていた中、待ったをかける者が現れた。
アリスだ。黒リボンのカチューシャが兎耳のように揺れるのもそのまま。大きく息を吸い、この場にいる全員に聞こえるよう声高々に告げた。
「――お姫様は私でしょ!!」
「いやそっち!?」
紗百合が思わず突っ込む。それに対してアリスは胸を張って言葉を続けた。
「当然! 私こそサブテラー建国に尽力したシャーロット家、その当主よ! しかもこーんなに可愛い! お姫様扱いするのは当然のことよね!」
その言葉が本当ならば、確かにお姫様という言葉も納得がいく。王族とまではいかなくとも、かなり高い身分であることは明白だからだ。ただ今度は、なぜそんな人物が決闘祭に出場しているのか、という疑問が恋たちに湧く。
その答えは、直ぐに明らかになった。
「借金してる身でよく言えるよね、ホント。ある意味尊敬する」
「ぐふっ!? う、うるさいわよシルヴィア! それは言わない約束でしょ!? これから復興していくから問題無いの!!」
「そうだね。その為に決闘祭出たんだもんね。賞金狙いで」
「う、うぐぐぐ……!」
「やーいやーい、没落貴族ー」
「うわぁぁぁん! ノエルーっ!!」
いとも簡単に崩壊したアリスの涙腺。ノエルはアリスの頭を優しく撫で、励ます。さながら年の離れた姉妹だ。
そうして暫く話していた時、観客たちが一層沸き立つ。モニターを見れば、3戦目にて3勝したグリモワールが2回戦突破が決定した瞬間だった。
それに合わせてエドワードが腕時計を見やる。長針と短針は共に真上を指し示していた。
「もうお昼時ね。エレちゃんも探さないといけないし、そろそろお開きにしましょ」
「……あ、確かにエレノアさんだけ居なかったですね。どうしたんですか?」
「あの子、ノエルの説教が怖くて逃げ出したのよ。全く、そういうところだけ子供なんだから」
「説教ですか。何か悪いことでもしちゃったんです?」
「それはヒ・ミ・ツ。本人が居ないところで話したら、流石に可哀そうだし。―――それに、綺麗な花には棘があるのが相場だしね?」
「―――そうですか! 見つかるといいですね!」
「ありがと。ほらアリス、そろそろ行くから泣き止みなさい」
「な、泣いてないもん!」
立ち直ったアリスに合わせて、コードトーカーの面々が立ち去ろうと身を翻す。
―――その時、恋の手がノエルの手を掴んだ。
「……え?」
それを発したのは恋か、ノエルか、はたまたその場にいた他の誰かか。
ただ一つ言えるのは、両者共に困惑しているということだった。
「……また、明日!」
恋はノエルの背。そこに助けを求めるような、溶けて消えてしまうような儚さを感じた。繋ぎ止めなければいけない。焦燥にも似た感情に自然と身体が突き動かされる。
そうして発されたのは別れの言葉。ただし、ただの別れの言葉ではない。次の出会いが約束された言葉だ。
「―――うん! また明日! 勝つのは私たちだから!」
突然手を掴んでの言葉。下手をすれば不快に思ってしまうだろう。しかしノエルは嫌な顔1つしなかった。向かい合い、正面から握手をする。満開の笑顔で、力強い言葉で持って返した。
それを境に離れる手。離れて行くその背中を見ても、儚さなど微塵も感じなかった。
「レンちゃん」
背後から聞こえた言葉にハッとする。振り向くのも憚られた。まるで奈落から響く唸り声のように低いそれは、明確な圧があったからだ。
しかし、このままでは駄目だというのも確か。ゆっくりと顔を後ろに向ける。そこには腕を組んだ葵が―――否、般若が居た。
「説明、して」
約五分。それが葵を納得させるのに要した時間だった。
二回戦の日程が終了し、闘技場から帰る人々。その中に恋たちの姿もあった。その隣にはリーズネットとナムコットが歩いている。
「いやーみんなお疲れ! 今日も見ごたえある戦いだったよ!」
「ありがとうございます! ……あれ、そういえばベネトは?」
「ベネトさんなら今日はお仕事。いやー、大変だよねー。流石サーの称号持ちって感じ」
「そういえば前から気になってたんですけど、ベネトっていったいどんな功績を立てたんですか? サーっていうのが勲章のようなものとは聞いているんですけど、詳しい内容までは知らなくて」
「あ、聞いちゃう? それ聞いちゃう? いや聞いて驚いて。マジでやばいから」
そう前置き、リーズネットは続ける。
「ベネトさんが立てた功績……いや大偉業と言った方が正しいかな。それはね―――宇宙の果てを観測したんだよ」
「……宇宙の、果て?」
「そう、宇宙の果て。窮極なんて生温い。0と1の区別すら微睡む混沌。更にその最奥ってこと。マジでやばいでしょ?」
嬉しそうに語るリーズネット。しかしその言葉の欠片も理解出来なかった。そこにナムコットからの助け舟が出される。
「宇宙をシャボン玉と考えたまえ。ベネトがしたのは、シャボン玉で言うところの”膜”を観つけたのだよ」
「お、おお……なるほど。それなら分かりやすい!」
「そうだろう! 流石私だぁ……」
思い浮かべやすい例えに思わず感嘆の言葉が漏れる。リーズネットはいつものようにハイになったナムコットを引きずり、ホテルへの道を歩いていく。それを見送り恋たちも帰りの道を歩く。地図もあるため、迷うことは無い。
「あ、そうだ育君。準決勝、マジで気を付けて戦った方が良いよ」
「へ? どうしたの急に」
「あのエドワードって人、会話の誘導に引っかからなかった。少し露骨にやり過ぎたのもあったけど、それでもアレは鋭すぎ。多分、常にアンテナ張ってるタイプだね」
「えっと、色々気になるんだけど。誘導って?」
「エレノアさんがお説教されるって話題から、魔法の情報を少しでも抜こうとしたの。気付かれて失敗したけど」
「そんなことしてたの!? 怖っ!」
「まぁそれはいいの。大事なのは、育君が自分の戦闘スタイルを貫き通すこと。あとは戦闘中でも考えることを止めないこと。最後に、死んでも諦めないこと。それが出来るなら勝ちは狙える」
「わ、わかった! 頑張るね!」
胸元で手握りを作って気合を入れる。それは小動物を思わせた。
「とは言いつつも、私の方もヤバいんだよなー。馬鹿みたいに大きな氷落としてくるんだよ? 負けるつもりは無いけど、アレ連発できるなら流石にキツい。やっぱ何か考えないとなー」
「私はシルヴィアちゃんと二刀流対決! めっちゃ楽しみー!」
「……私も頑張らないと。絶対負けないって言ったんだし」
「そうだな。気を引き締め直そう」
それぞれが戦いに向けて意識を集中させる。とても良い空気が創り出されていた。
そして、夜が明ける。
準決勝第一決闘、メモリーズ・マギア対コードトーカー。
戦いの時は、目と鼻の先だ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
さぁ……遂にここまで来ましたね! いよいよ準決勝です!
ここからもう1つギアが上がります。見ごたえある戦闘をお届けしますよ!
第1戦目、描いた絵を具象化するエレノア。はたして紗百合は勝つことが出来るのか!
それではあとがきもここまで! 最後まで読んでいただきありがとうございました!
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