第20話 想いを力とする者、世界に証を刻む者
おまたせしました! 今回は繋ぎ回になります。
それではどうぞ!
「んー! 勝ったー!」
背伸びした桐花から明るく発せられた声。浮かべている笑顔も相まって、ご機嫌なことは明白だった。
陽の光に照らされた廊下を恋、葵、紗百合、桐花の4人が歩く。壁に張り出されている案内図と、ベネトから貰った日本語に翻訳済みの地図を照らし合わせ、目的の場所の扉を開いた。
そこは、闘技場内で運営されている医務室だった。清潔に保たれた広間には数多くのベッドが設置され、窓から入り込んだ風に乗った消毒液などの薬品の匂いが鼻を擽る。室内では特注の制服を身を纏った医療員が患者の治療を行っていた。
部屋に入った恋たちは、他の人の邪魔にならないよう速やかに端の方へと移動する。そして室内を一望すると奥の方へと進んで行く。そこにはベッドの上から決闘祭の中継を見る育の姿があった。
「育、大丈夫だった?」
「問題なしです! 魔法の治療って凄いんですよ! あっという間に傷が塞がって、もう痛みも無いんです!」
腕を上げて見せる育。その言葉に嘘は無いようだが、やはり戦闘の影響か疲れは見て取れた。
そうして談笑していたところに、医療員の男性がやって来る。彼が言うには治療は終わったとのことで、もう行っても構わないという旨の説明だった。
五人になった一行は観客席に向かって歩き出す。その道すがら話していた内容は二回戦目の戦いについてだった。
育が搬送された後の四戦目、葵が戦ったのは森精霊と人間のハーフであるユーカリプス。若芽色の髪に飾り付けられた彩り溢れる花の冠が特徴の少女で、使用魔法は植物を生み出す『新たなる芽吹き』。
この魔法がまた曲者で、誕生させる植物が多種多様なのだ。果実が爆弾になったり、種子が弾丸になったり、葉が刃物になったり等等。多彩な攻撃手段を持っており、それらを器用に織り交ぜたトリッキーな戦い方を好むようであった。
そんな相手に対して葵が取った戦法は、圧倒的なまでの面制圧。
拡散矢の魔法『クラスター』。そのメモリアブレイクによる絨毯爆撃を連続で放つことで純粋な破壊力の勝負に持ち込んだのだ。勝利した後の彼女は「面倒な時は、この手に限る」と、どこか満足げだった。
そして五戦目、恋が戦ったのは吸血鬼と人間とのハーフのセリカ。月光を彷彿とさせる髪色、真紅の瞳を持つ瀟洒な少女だ。お伽話の吸血鬼に見られる、日光や流水に弱いといったことは彼女には当てはまらない。そして血液を操る魔法『真紅なる女帝』を使っていた。
血液を凝結させた斧を振り回す。とても小さな身体では扱えそうにないものだが、吸血鬼の血が混ざっているが故の膂力がそれを可能としていた。
そして何よりも、尋常では無いほどの耐久力をセリカは備えていた。衝撃魔法を乗せた恋の拳を嬉々として受け、メモリアブレイクすらも正面から受け切ったのだ。そしてセリカは傷から流れ出た血を利用し、更に強大な攻撃を繰り出す。まさに血みどろの戦いだった。
最終的にはセリカの血の目潰しを受けた恋が気配だけで攻撃を察知。四発目のメモリアブレイクがカウンターとして腹部に炸裂したことで、勝利が決まった。
ただ、恋にとってセリカという少女は苦手な分類に入っていた。
『心のままに、愛し合いましょう?』
『あはぁ。貴方の血、とぉっても甘い……』
『素敵よ貴方! もっと、もっと激しくして!? ねぇ!!』
戦闘中にセリカが発した言葉の内、簡単に思い出せるだけでコレである。しかも恍惚とした笑みを浮かべ、潤んだ瞳からは情欲の色が感じられる状態だ。初めて戦うタイプで、大いに戸惑ったのも苦戦した理由の一つである。
他は――まあ、思い出したくはない。
「どしたのお兄ちゃん、苦いもの食べたような顔して」
「……いや、何でもないぞ。うん」
決闘の中継は選手の発した音声が乗ることは無い。これは胸の内に仕舞っておこう。そう決めた恋であった。
そうして話に花を咲かせながらも階段を上がり、立見席へと辿り着く。決闘の場は既に修復され、次の決闘が始まろうとしていた。
ヘイズリッジの選手はアガニ。黒いローブで全身を包んでいるせいで性別、種族は読み取ることは出来ない。その手に武器は無いため、どういった戦い方をするかは皆目見当もつかない。ただ、僅かに覗く両手首にはバンクルを身に着けている。
対するコードトーカーからはエレネア。脳天から毛先にかけて黒から青へとグラデーションになった髪を持ち、怠そうにしている身長150センチほどの人間の少女だ。
その手にあるのは絵筆。持ち手の部分だけでエレネアの身長より少し短い。その持ち手には9個の丸いボタンがあり、虹の7色と白黒の2色が配色されていた。
そんな二人を真剣な面持ちで眺める恋たち。その雰囲気は戦う時と同等のものだった。
そうなるのも無理はない。次の準決勝で戦う相手が、これから行われる決闘の勝敗で決まるからだ。
「さぁ、いくぞ者共! 決闘開始ィー!」
司会者の号砲。真っ先に動き出したのはエレノアだった。
駆け出しながら持ち手にある青と白のボタンを押すと、真っ白だった筆先がアイスブルーに染まる。そして筆を地に滑らせ勢いをつけ、アガニに向けて振り上げた。その攻撃は惜しくも当たることは無かった。しかし意表は着いたようでアガニは警戒する態勢を取る。
「なるほど、そういう戦い方か」
絵筆でどう戦うか分からなかったが、眼下の光景を見て納得する。
エレノアが行った攻撃は理論的には抜刀術に近い。絵の具が潤滑材として機能し、摩擦を減らすことで一気に加速させる。そこから繰り出される攻撃は強力の一言に尽きるだろう。
しかしその予備動作は大きく、分かりやすい。対戦相手であるアガニは筆の範囲には必ず入らないよう、距離を一定に保つ。
方向転換などで身体が停止する一瞬を狙い、的確に放たれる魔力弾。その威力も軽々と地面を抉るほどだ。エレノアは筆による対処に追われ、そこを更に魔力弾で狙い撃つ。派手では無いものの、堅実な戦い方だった。
これに対してエレノアは魔力弾を掻い潜り近付こうとするが、一向にその距離は縮まらない。徹底なまでの間合い管理に手も足も出ていない。攻撃が当たるのも時間の問題だろう。
「……え。いや、まじ?」
「どうした紗百合。何かあったか?」
「いや、あのエレノアって人……何か描いてる」
「え?」
紗百合の言葉を受けて、恋だけでなく他の三人も決闘の場を見る。2人のやり取りに目を向けすぎて気付いていなかったのだ。エレノアが今まで動いた軌跡がそのまま線として描かれ、一定の幾何学模様を形作っていたことを。
エレノアは最後に描いた線に筆の柄を刺す。幾何学模様が輝きながら筆へと吸収され、全て消え去ると毛の部分が氷に覆われた。
「いやー、今日ってほんとあっついよねー。アンタもそう思わない?」
「……、」
「だんまりかよつまんねー……、まぁそんな訳もあるんだけど。一回戦は不完全燃焼でさ、派手に涼しくしようと思ったんだよねぇッ!」
エレネアは空中で筆を横一閃。まるでその場にキャンパスがあるかのように、絵の具は空間に留まった。
次の瞬間、轟音が闘技場を揺らす。エレノアが描いた軌跡に合わせて巨大な氷塊が突き刺さっていた。周囲には白い靄が漂い、その冷たさは遠目でも理解できるほどだった。
その氷塊が地鳴りを立てながら僅かにズレる。現れたのはアガニの姿。しかし両手は焼けたように赤く、ローブの袖が千切れ、細いながらも筋肉の付いた腕が露わになっていた。
拳を構えるアガニ。それを見てエレノアが浮かべた表情は、ニヒルな笑みだった。
「おいおい。まさか今ので終わったと思ってるんじゃないだろうな? そんなわけないだろう。私の魔法―――『虚構現出』は其処らのチンケな魔法とは訳が違う」
「……!?」
エレノアは筆を振るい空間に形作ったのは、下に先端が向いた四角錐。
それが消えた時、闘技場全てが暗くなる。陽が雲に隠れたのかととも思われたがどうも違う。何故なら、徐々に暗さが濃いものへとなっているからだ。
突然の出来事に騒めく観客たち。そして全員が上空を見て―――唖然とした。
―――そこにあったのは、隕石だった。
少なくとも、そうとしか表現できない。それほど巨大な氷の四角錐が、この決闘場に向かって堕ちてきている。その大きさは決闘の場を全て覆い尽くすほど。観客席は無事だろうが、アガニとエレノアはただでは済まない。生じる威力など考えたくも無い。
「『絵』というものは本当に凄い。物の大小、色の濃さ薄さ、その他様々な手法で遠近を表現する。ニ次元の筈なのに、三次元の空間がそこに在るんだ。初めて絵画に出会った時、感動に震えたのを今でも覚えているよ」
アガニは腰だめに手を構える。掌には漆黒の魔力が渦を巻き、怨嗟の声を思わせる音が低く響いていた。
しかし、その攻撃が放たれるには遅すぎた。
「刻まれた絵が現実になる。それが私、エレノア・シールエンタの魔法。普段なら金を取るところだが、出血大サービスだ。有難く受け取れ」
絶対破壊の一撃が降り注ぐ。巻き起こる風は冷気を纏って人々を襲い、急激に温度を奪っていった。
静寂が訪れてから一〇秒。氷の隕石が虚空へと吸い込まれていく。巨大なクレーターの中心ではアガニが全身から血を噴き出した状態だった。
ただ、意外にもその身体はしっかりと繋がっていた。迎撃によって隕石の威力を軽減した効果だろう。
「……しまった、筆が乗り過ぎた。また説教か……」
「しょ、勝者、エレノア選手ー! まさか隕石を降らせやがりました! というか明らかにやりすぎ! 修復班と医療班、走れー!」
退場していくエレノアに歓声と拍手が贈られる。そんな中、恋たちは先の戦闘について言葉を交わしていた。
「ふおー! めっちゃカッコいい! 私もやってみたい!」
「いやいやいや、なにアレ。何で隕石落としなんてやってんの? さすが魔法か?」
「さ、流石にこれは……」
「……凄まじい」
「メモリアブレイクだったら相殺出来そうだな。ならまだマシか」
五人がそれぞれの反応を見せる中、数分程で修復が終わり恙無く進行していく。ただ、決闘が終わってみれば『コードトーカー』の全勝に終わっていた。
二戦目は白と黒の双剣使いの少女シルヴィア。たった一太刀浴びせただけで勝利するという、強烈な印象を植え付けられた戦闘だった。
三戦目は派手な髪形をした男性エドワード。高い身長と露わにされる筋肉から生み出される膂力で戦う、純粋なパワーファイターのようだ。
四戦目は銀色の杖使いの少女アリス。ただ決闘の内容は異質で、対戦相手が何もないはずの空間を攻撃するという摩訶不思議な光景が繰り広げられていた。
そして最後の五戦目、巨大な戦斧を武器とする少女ノエル。純粋な人間であるはずだが、戦斧を軽々と振り回すことが出来る怪力を持っている。対戦相手の全てを真正面から打ち砕く、そういった戦闘スタイルだった。
以上がコードトーカーの戦闘。恋たちが次に戦う相手、その概要である。
決闘が終わってから次の決闘までのインターバル、恋たちはあることに気付く。何やら他の観客たちが騒めいているのだ。それは歓声では無く、戸惑ったようなもの。聞き耳を立ててみると、隣にいる偉丈夫の男性が「もう一つのダークホースか」と呟いたことを聞き取った。
「すみません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど、大丈夫ですか?」
「あん? ……おお! あんたらメモリーズ・マギアか! 確かイク選手だったよな? めっちゃ熱い戦いだったぜ!」
「あ、ありがとうございます!」
握手を交わす二人。この男性は決闘祭が好きで、今回ようやくチケットを取れてやってきたようだ。
笑顔で会話が出来ている辺り、印象は良いようだ。
「おっと。確か聞きてぇことがあったんだよな? 俺が知ってることなら答えるぜ」
「そうでした! えっと、さっきの言ってたダークホースっていうのは?」
「ああ、それか。さっき戦ってたコードトーカーっていうチームな、アンタらと一緒で初出場なんだ。しかも勝った相手が優勝候補の一つだってんだからすげぇよな」
「なるほど、そういうことだったんですね」
「そういや、準決勝はダークホース同士の戦いになるんだな! 俺はアンタらの方を応援してるぜ!」
「本当ですか! 期待を裏切らないよう頑張ります!」
特に不備も無く会話を切り上げた育。先の会話は近くにいた四人もしっかりと聞き取れていた。自分たちがダークホース扱いされていたのには少し面食らったが。
コードトーカー。純粋なパワー勝負から得体の知れない魔法まで取り揃えられたチーム。激戦になるのは必至だろう。
だが、負ける気は毛頭ない。そんな気迫が伝わるほど、五人全員の表情はやる気に満ち溢れている。
やるからには全力で。最早ナムコット博士の依頼など頭の片隅にも無い。顔を合わせ頷く全員の心が、優勝という目標に向けて一つになっていた。
「ん~、良く動いたわァ~。今日もぐっすり眠れそう」
「ねーねー。アリス、頭大丈夫?」
「その聞き方絶対ワザとでしょ!? うえーんノエルー! シルヴィアが虐めてくるよぉーっ!」
「よしよし。大丈夫、悪気は無いから」
「それが一番タチ悪いのーっ!」
そんな時、賑やかな声を聴覚が恋たちの聴覚が捉えた。その方へと視線を向ければ、先ほどまで戦っていた選手たちの四人が恋たちの方に歩いてくる。
彼女たちもこちらの視線に気付いたのか、その場で立ち止まる。
メモリーズ・マギアとコードトーカー。準決勝に戦う彼らが、初めて対面した瞬間だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
露わになった『コードトーカー』の先鋒、エレノアの魔法。そしてその他の面々。
準決勝での激しい戦いをお楽しみに。
では、ここからは少し久しぶりに本作「メモリーズ・マギア」の裏事情をば。
いやぁ……これまじでどうするんだ? エレノア、ヤバすぎ。 そもそも『絵に描いたものを具象化』なんて書く前にヤバいって気付け。いや、気付いてたけど楽しくてやっちまった。でも絶対盛り過ぎた。ヤバすぎる。応用力が高すぎるだろ。紗百合勝たせてあげたいけど、マジで無理かもしれない。
どうも、雨乃白鷺です。上記にあるのは、私がこの作品を書いている時の脳内です。
自分が面白いと思ったものをガンガン突っ込むせいで、後先考えないことになっているためですね。
いやぁ……ヤバいですね☆
いや冗談抜きでヤバい。信じられますか。エレノア、この魔法で1戦目なんですよ? 言わなくても理解してくださいこのヤバさ。
しかも何がタチ悪いって、このエレノアっていうキャラ、私自身めっちゃ好きなんですよね……()
アーティスト系キャラって良い……良くない?
それで敵に好きなキャラ配置するもんだから、勝たせてあげたいって欲がめちゃくちゃ湧くんですよね。でも紗百合も好きだから勝たせてあげたいし……と、こんな風に2人の自分がぶつかり合っています。
結局はその時の流れ次第。私に出来るのは、2人が繰り広げる戦闘を、ただ自分の語彙力でもって綴るだけの無力な存在なのです……。
とまぁ、私の執筆状況の報告でした。
それではあとがきもここまで! 最後まで読んでいただきありがとうございました!
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これからも著作「メモリーズ・マギア」をお願いします!
それでは、また次回でお会いしましょう!




