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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第16話 彼女がその手に掴むものは

おまたせしました! 紗百合vsアルシアの続きです! 大増量の約9000文字でお送りします。

一応注意として、回想は紗百合の1人称視点になっています。

それでは第16話、どうぞ!


 黄色と薄緑色の魔力の弾が弾け、光線が地面を削り取る。パチパチと火花を散らすような音は何処か心地良さすら感じさせるものだったが、それらが断続的に続くその光景は迸る炎のようだった。


 その中から薄緑色の魔弾が幾つか紗百合の元へ降り注ぐ。大きく跳び退くことで回避に成功した紗百合は帽子の唾を摘まむと軽く下げ、地面に着弾した際に発生した風圧から身を守った。


(強い……! 全然当たる気配が無い!)


 顔を上げ、視線の先にいるアルシアを見つめる。その表情からは楽しげな様子が伝わり、未だ余裕だと感じさせるものだった。

 撃ち合いを始めてから30秒弱。互いに被弾すること無く進んでいるが、有利なのはアルシアの方だった。フェイントを交え、タイミングをずらしながら攻撃を繰り返すがそのどれもが通用しない。時に攻撃で相殺され、時にその身を動かす。どれだけ弾幕を敷いても、どれだけ誘導しても、必要最低限の動きで僅かな隙間を抜けて行くその姿は風のようだった。


(だからこそ倒しがいがある!)


 紗百合は不敵な笑みが浮かべ再び攻撃を仕掛ける。飛び交う攻撃に対処する最中、その脳裏には1週間前の記憶が浮かんでいた。



『メモリーズ・マギア』として出場することになった私は、特訓の合間の時間を使ってナムコット博士の研究室を訪れていた。


 照明が点いてから一目で分かったのは白を基調とした清潔感のある部屋だということ。厚みのあるファイルが幾つも収納されている棚が複数設置されているが、私たちがいる現状から5、6人ほど入っても窮屈にならないほどの余裕があった。

 入って直ぐの場所には机があるが、その上に乗せられている資料によって本来の姿を隠している。カーペットの敷かれた部屋の床を進んで行ったナムコットは散らばり気味だった資料を素早く纏め上げ、綺麗に積み重ねると元々の白色が露わになった。

 その資料に吸い寄せられるように視線を向けてしまうが、この場所に来た理由を思い出しテーブルと共に置かれている椅子の1つに座る。ナムコットは部屋の壁に寄せてあったホワイトボードを紗百合に見えるように動かすと、備わっていたペンのキャップを外し『魔法とは何か?』と書き出しているのを見て自分の心が自然と高鳴るのを感じた。


 自分で言うのも何だが、私は知的好奇心が旺盛な方だ。

 小学生の頃から分からないことが何かあれば、自分が納得する結論が得られるまで本や電子機器で調べ物をしていたことが理由として挙げられる。

 空が青い原因、なぜ自分が星空に魅かれるのか。上げればキリがないほどに沢山の物事を調べ、知識として吸収して今日まで生きてきた。


 今回もその例に漏れず、地球では御伽話の存在だった魔法を知った私は、その好奇心を押さえられなかった。ナムコット博士がメモリーズ・マギアの製作者ということもあり魔法のことを聞いてみたいと考えるのも、ごく自然な流れだった。

 そうして、決闘祭の特訓の空き時間を利用してナムコット博士から魔法の授業をしてほしいと頼み込み、今日こうして実際に授業を受ける。


 お兄ちゃんたちも誘ったけど、難しそうな話だからって断られた。少しもったいないと思ったから、決闘祭が落ち着いたら勉強したことを分かりやすく教えて上げられたらいいなって考えた。その為にもしっかり理解できるように頑張ろうと内心で気を入れる。


「それじゃあ始めよう。まず私たちが扱っている『魔法』とは、魔力を消費することで使用者の強く思い描いた超常現象を引き起こすことを一般に指す。言わば空想の現実化、確固たるイメージを現実世界に引っ張り出す手法だ。その在り方から、魔法は究極的な自己表現であると考える者も多い。事実、『相手を知るには魔法を知れ』なんて言葉があるくらいだからな」


 ホワイトボードに書かれたことを話された内容を綺麗な字でノートに纏めながら思考を回す。

 以前ベネトは、魔法を使うためには『信仰』が必要だと言っていた。科学の発展した地球では魔法と言ったものは絵空事として揶揄され、誰もが”存在する筈がない”と考えてしまう。それ故に魔法は使う事は出来ないのだと。


 博士の魔法についての説明は少しだけ違うようにも思えたが、起こしたい現象を強く思い描くことが『信仰』に当てはまるのだろう。わざわざ他にも”確固たるイメージ”と言ったことからも、自分の空想を心の底から信じなくてはいけないことが伺える。確かにそれなら地球に居る人たちの殆どは魔法を使う事が出来ないわけだ。


「ただ、どんな現象でも魔法として出力できるわけじゃない。どれだけ明瞭なイメージを浮かべたとしても、見合った魔力を支払わなければ魔法を発動させることは出来ない」

「……でもそれ、魔力さえあればどんなことでも出来るってことになりません?」

「ふふふ、流石に気付くか。その指摘は正しい。私たちが扱う魔法というのは、魔力さえ確保すれば世界すらも自身のイメージ通りに出来る! まさに無限の可能性を秘めたモノなのだよ!!」

「あのー……博士?」


 何やらスイッチが入ってしまったようで博士の語調に熱が帯び始める。それは留まる所を知らず表情は喜悦に染まり、私の呼びかけも聞こえていない様子だった。


「中でも人間は素晴らしい! かつて宇宙全土を震撼させ混沌を巻き起こした大事件『胡蝶ノ夢』も最終的に解決したのは、矮小な彼らだった! 意志の力が極限まで高まった際に引き起こされる精神の奥底に沈んだ想いの噴出、『イドの開放』にはまさしく宇宙の法則すら振り切るほどの可能性が――」

「ちょ、博士! ズレてる! 話の趣旨がズレまくってる!?」


 しかもそれは留まる所を知らず、明後日の方向に飛んでいかない内に身振り手振りで彼の目の前に出る。そうやって初めて話が脱線していることに気付いた博士はハッとして乱れた白衣を正した。


「ははは、申し訳ない。いやはや、自分の研究分野だと熱くなってしまっていけないね。話を戻そうか」


 謝ってこそはいるが、博士の顔に浮かんでいる表情は子供のような笑顔で微塵も反省している様子は無い。少し思うところはあるけど、魔法の研究者ってこんな人ばっかりなのかな。

 ただ言えるのは、私のナムコット・キット・クロックワークという研究者の印象が変人であることを再認識させられたということだった。


「といっても、魔法についての概要は先ほどの通りだ。次は……そうだな、魔力の話に移ろう」

「魔力……魔法を発動させるために必要なエネルギーって認識ですけど、何かあるんですか?」

「その認識で正しい。しかし、魔力というエネルギーは個人によって違うのだよ」


 その前に、説明しなければならないことがある。

 そう言った博士が部屋の奥にあるパソコンのモニターが設置されたデスクの引き出しを漁って戻って来たとき、その手にあったのは深青色の多面結晶だった。


(……なに、あれ)


 昔、宝石の写真をネットで探していた時に見たサファイアに似ていると一瞬思ったが直ぐに振りほどく。記憶にあったあの美しい宝石の色はそれよりも黒く、昏い。まるで海の底だ。長く見ていると吸い込まれてしまいそうで本能的な恐怖を刺激される。


「これは『魔石』と言って、魔法の触媒として様々なデバイスに搭載される鉱物だ。魔力のフィルタリング機能と増幅機能がある。折角だから手に取ってみるといい」


 目の前に差し出されたその結晶体に恐る恐る触れる。部屋の温度は少し暖かいと感じる程度だったが、それに比べてひんやりと冷たい。まるで冷蔵庫から取り出したガラス製のコップのようだ。

 次にそれをまじまじと観察する。面の大きさはてんでバラバラだが、どれも綺麗に磨き上げられていた。何も聞かされずに”こういう宝石だ”と言われれば納得できるくらいだ。


 そうして魔石を眺めていた時だ。とても透明感のある水色の光が、魔石を取る手に映り込んでいるのが見えたのは。


 もしかして。

 そう思い、天井から部屋を照らす白色の人口光源に透かして見てみる。

 すると先ほどまで見えていた深青色は何処へやら、海の中から海面を見上げたかのようにキラキラと光り輝く水色が露わになったのだ。

 不思議な現象と神秘的な光景に心を打たれてか、先ほどまで胸に居座っていた恐怖はすっかり消え去っていた。


「魔法は今日までに様々な分野へと枝分かれしてきたが、『色彩魔法学』という授業があるほど色と魔法は密接に繋がっている。魔石という結晶体もその1つだ。ちなみにだが、それを見てどう思ったか聞かせてくれるかい?」

「えっと、海みたいだなって思いました! ……あ!」


 先ほどの博士の話を思い出す。

 魔法を発動するために必要なのは起こしたい現象に対する強固なイメージと、それに見合った量の魔力。


 私はこの青い色の魔石から海、もっと簡単に言えば水を想起した。これに関しては要因も自覚できる。


 ”綺麗な水に関する絵を描いてください”と言われた時、人間はどんな絵を描くだろう。

 海? 川? 雨? プール? それともコップ一杯の水?

 描かれる風景は千差万別、まさに十人十色だろう。

 だが、例え十人が違う絵を描いていたとしても……自身が描いた水に対しては”青色”を塗ると思う。


 実際に掬えば分かるが、綺麗な水の色というのは無色透明に限りなく近い。しかし人は水の絵を描くときには必ず青系統を着色する。逆にそれ以外の色が塗られていた場合、何らかの違和感を感じるだろう。

 それは海の色そう見えるからか、それとも他の何かの影響を受けているのか。


 ここで重要なのは、『水=青色』という方程式が私を含めて無意識の中に刷り込まれていること。

 つまり逆を言えば、青を見れば水に関する物事を想起できるということに他ならない。

 それは人間それぞれが勝手に創り出したイメージだけど、それを利用して魔法を使うんだ。


 この考えを話すと、博士は口を三日月のように吊り上げて笑う。正直悪役のようにしか見えない笑い方だけども、彼にとっては凄く愉快なことだったらしい。

 数秒でそれは落ち着き、息を大きく吐いて博士は再び口を開いた。


「ふふ、その通りだよ。キミが青色を水と連想したように、赤色は火を、緑は風を、黄色は土を想起させる色とされている。想起させるということは、魔法使いにとってはイメージを固める1つのファクターになるということだ」

「じゃあじゃあ、私の魔法少女の姿が黄色なのは土の属性ってことですか!?」

「ん? 違うが」

「違うんかーい!」


 あまりにも綺麗な即答に大げさにリアクションをする。しかし内心では何となく分かっていた。

 だってお兄ちゃんは赤色なのに炎の魔法使わないし、お姉ちゃん、育、私も同じ。ただ立花さんだけは紫色で何の属性か考えると……毒、だろうか。でもそんな魔法使ってないからやはり違うんだろう。つまり先ほどまでの属性の話と私たちは合致しないということだ。

 まぁ知らないだけで別の法則が働いているのは確実だと分かっただけでも今は良しとする。


「さて、ここまでが事前に必要な知識だ。何か分からないことがあれば遠慮なく聞いてくれたまえ」

「あ、特には無いです。強いて言えば、さっきまでの話と魔力とどう関係するか気になります」

「ふむ、それならもう言ってしまおう。個人によって魔力は違うと言ったが、具体的には『色』が違うのだよ」

「色、ですか? あの赤とか青とか緑とかの?」

「そう、その色だ。魔法という学問では魔力の量や質……そういった個人ごとの違いを”色の違い”として考える分野があるのさ。そして魔力の色は血筋、性格など様々な要因が混じり合って決定付けられる。まるで絵の具を混ぜて別の色を作るようにね」


 ……はっはーん。なるほど、それはつまり!


「魔力には属性があるんですね!」

「ああ、その通りだ」

「やっぱり! それなら私も属性さえ合ってれば炎属性の魔法を使えたり――」

「いや、それは無理だ」

「どうしてぇ!?」


 博士の手のひら返しに素っ頓狂な声が出てしまう。絶対の自信を持って言っただけに恥ずかしさが込み上げてくる。

 しかし先ほどまでの話を総合すると、色がある魔力には属性があることになると思ったのに……。

 そうして悶々と考えているとそれを見かねてか、博士の口が開かれた。


「キミたちが使っているメモリーズ・マギアは少し特殊なデバイスでね。性格や精神、潜在的無意識などの深層心理の面だけだ。属性は基本的にカットされている」

「じゃ、じゃあ、私って炎を巻き起こしたり、波を作ったりとか出来ないんですか!?」

「……ンー」


 魔法という絵空事に憧れていた私としてはかなりの問題だ。今は無理でも魔法について知識を深めれば使えるようになると思っていたけど、そもそもメモリーズ・マギアの機能的に無理ならどうあがいても使う事は出来ないということ。それは勘弁してほしかった。


 博士は米神の部分を指で掻く。それは私が初めて見た、博士の困った表情だった。

 しかしそんな姿を見せていた博士は2秒も経たない内にいつもの様子に戻っていた。


「――――()()()()使()()()()()()()()()

「ほ、本当ですか!? 嘘じゃないですよね!?」

「本当だとも。この大天才、ナムコット・キット・クロックワークが断言しよう。まぁ、今は魔法に対する知識が全く足りていない状態だから不可能だがね。しかも使えるようになるためには、成長では足りない……()()と言えるだけの努力を必要とするぞ」


 重苦しく告げる博士の言葉は、私にとっては増進剤となる。

 自分が今使える魔法も好きだが、やはり創作の中で見た派手な魔法も使ってみたい。しかもそれが努力すれば手にすることが出来るという。それならやらない手は無い。


「決闘祭に出場する者たちは誰もがキミよりも魔法使いとしては経歴が長い。苦戦することもあるだろうが、その時は服装や武器の色などから攻略の糸口を掴めることもある。試せることは全て試し、大いに経験を積んでくれ。そうすれば私のデータも潤うからな」

「分かりました! よし、頑張るぞー!」



(……今思うと、我ながらかなり無謀だなぁ)


 紗百合は1週間前の自分を思い返し、苦笑する。

 相手のアルシアはエルフ。亜人種族の中でもひと際魔法の扱いが長けているとされている。

 実際、紗百合の攻撃はただの1撃たりともアルシアに傷を与えていない。互いの魔法威力に大きな差は無いが、それ以外の部分……特に正面きっての魔法の撃ち合いという点に置いて紗百合はアルシアよりも劣っている。


 だが、そもそも魔法の戦いにおいて経験が足りないのは紗百合自身が何よりも自覚している。自身の実力が不十分な分野で戦いを挑んでいるのだ。押されるのも道理である。


 では、紗百合はどうやってアルシアに勝つつもりなのか。

 答えは非常に簡単だ。自分が得意とする戦いに相手を引きずり込めばいい。

 紗百合が先ほどから押されてでも魔弾による交戦を続けていたのは相手の戦闘のリズム、呼吸を見るという目的があったからだ。それはこれから勝利を目指す紗百合にとって重要な情報である。

 

 そして決闘が始まってからの観察の結果、アルシアはとりわけ防御の反応の良さが目立っていることから防御寄りの選手なのだと暫定的に結論付けた。他にも幾つか気になる点はあるが、現状はそう考えて動くことにした。


(……よし、やろう)


 紗百合は自身の武器である鍵の杖を握り直して。

 これからする行動に不安が無いと言えば嘘になる。防御が得意と思われる相手を崩すのだ、生半ではいかないだろう。

 しかしそれ以上に、”楽しみ”という気持ちが胸を満たしていた。


 アルシアは魔力によって形作られた弾やレーザーを主として使っている。しかし相手にしている彼女はエルフ、現状でも押し気味である以上は手札を切るとは考えにくい。

 故に、まずは自分から動く。この戦況を此方側へと傾けるために。


「ふぅー……ロード!」

Loading(取得), PROTECTION(守護)


 魔法を発動させるコードを口にすると1枚の盾が現れる。大きさは紗百合の身体が隠れるほど、6つの角に6つの切れ込みを持つ黄色い結晶で形作られたそれは雪のようにも、花のようにも捉えられる。そんな盾が、紗百合に寄り添うように空中に佇んでいた。


 アルシアからの魔弾が襲い掛かる。

 それに対して紗百合はまるで停止を促すように手のひらを向ける。それに合わせて盾が魔弾と紗百合の射線上に移動するとその攻撃を受ける。

 次の瞬間、甲高い音と共にアルシアの魔力弾が加速された状態で彼女自身の元へ射出された。


 思わぬ反撃に一瞬戸惑いを見せたがそこは歴戦の魔法使い。向かって来る魔弾に対して新たに生成した魔弾を当てることで即座に相殺した。


「加速反射板、ですか。良い魔法です。しかしそれだけでは私には届きませんね」


 発生した爆風に揺れる髪を払いながら紗百合に視線を向ける。未だその表情は余裕そうだった。

 しかし、それも紗百合が次にとった行動で一変した。


「ふふ、勿論それだけじゃないですよ! 『開け』っ!」


 その言葉の直後、ガラスにヒビが入るような音が鳴り始める。その発生源は紗百合を先ほど守った盾からだった。

 繋がっていた花弁に中心へと向かって亀裂が走る。そしてそれらが集まれば1枚の盾は崩れ去り、6つの平行八面体が環状線を走る電車のように紗百合の腰周りを回っていた。


「……な!」


 紗百合は目を見開くアルシアに対し杖の先端を差し向ける。それを合図として6つに分かれた結晶盾が風を切って射出された。

 身を翻して避けるアルシアの軌道に沿って結晶盾が地面に突き刺さる。尖っている見た目から、そして

盾の半分以上が埋まっていることから威力は折り紙付きだろう。


 回避から体勢と立て直そうと彼女が足を踏み直したその瞬間、黄色の魔弾が彼女の視界に映る。それを迎撃せんと魔弾を撃ち出した時、紗百合の魔弾がアルシアではなく地面に向かって曲がった。


 疑問が脳裏を過ぎる。

 しかし次の瞬間、アルシアは己の不覚を悟った。


 黄色の魔弾が向かう先、そこには地面に突き刺さった結晶盾があった。

 そう、()()()()()()()()()()である。


「喰らえッ!」


 結晶盾に接触した魔弾はその速度を高めると、思いきり跳ねさせたスーパーボールの如くアルシアの腹部に突き刺さった。

 直後、巻き起こった爆発に観客たちは絶叫とも言える声を上げる。同じ遠距離攻撃を主体とする魔法使いの戦い、初撃を当てたのはまさかの紗百合だったのだ。良い意味で予想を裏切られることになっただろう。


 ここぞとばかりに歓声を飛ばして燃え上がる観客たち。しかしそれに対して紗百合は酷く冷静だった。


(私の盾は魔力をそのまま利用した攻撃なら全部跳ね返せる。それを利用した攻撃も、初見込みでも上手くいった)


 紗百合の『プロテクション』は魔力を反射する。特訓の際の検証では恋の『ブラスト』、そのメモリア・ブレイクですら反射しきったという実績もあるほどだった。

 その特性を利用し紗百合が編み出したのは三次元多角攻撃だった。幸い、彼女の『シュート』は魔力をそのまま攻撃に用いる魔法であったため、その相性の良さは抜群だった。


 自身の魔法で攻撃し、分割した盾を操作することで攻撃し、相手の魔力攻撃を反射して攻撃に利用する。

 脳筋とも聞こえるが、実際には常に自身の魔力弾を操作しながら盾も操作し、敵の動きも把握しなければならない。脳の並行処理能力が多大に求められる戦法であり、これを実践できる者は限られるだろう。だがその条件に見合った凶悪さは備えていた。


 しかし、当たり前ではあるがこの戦法にも穴は存在する。

 1つ、脳の並行処理機能を多用するためかなりの集中力を必要とすること。

 そしてもう1つ。紗百合の『プロテクション』が反射できるのは魔力であるという点。つまり魔法によって引き起こされた”現象”まで反射することは出来ないのだ。


「――ふふ、ふふふ」


 女性の声が風に乗って紗百合の元へと届けられる。それは笑い声であり、同時に嗤い声でもあった。

 ゴウッ! と、空気が鳴く。爆発によって舞った砂塵は一瞬で取り払われ、露わになったアルシアの表情は恍惚としたものだった。


「それは原初から生まれた大いなる一つ。紡がれ、刻まれ、されど溶けて消え行くもの」


 それは詠唱。

 魔法を発動する際の言葉であり、自己へと語り掛けるモノである。


 紗百合は杖を強く握り直し、アルシアの発する言葉を脳に刻む。

 効果は? 威力は? 射程は?

 どんな攻撃にも対応できるよう地面にあった盾を引き戻し、全方位に神経を尖らせる。


(ウタ)う、(ウタ)う、私は(ウタ)う。揺られ流されるるままに」


 詠唱が続く中、紗百合は自身の目に映る光景に愕然とする。

 アルシアの姿が、徐々に輪郭を失い始めていたからだ。

 目を擦ってもその現象は止まらない。それどころか見える世界そのものが歪み始めていた。


「さあ、差し出された手を取って。共にその身を投げましょう」


 アルシアが手にする杖、そこに飾り付けられている緑色の石が怪しい光を発している。輪郭は歪んでいてもその光景は紗百合にもありありと伝わっていた。


 それと同時に襲い掛かる謎の耳鳴り。

 何か、自分が予想も出来ないほどの、途轍もないことが起こっている。


 そう思った時には遅かった。


「――世界は、あなたの傍にある」


 少し持ち上げられた杖を勢いよく地に降ろし、尖った柄尻が甲高い音を鳴らす。

 ――直後、紗百合の身体が宙を舞った。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

2回戦からとんでもない強敵に相手に当たってしまった『メモリーズ・マギア』。トーナメント故にした田が無しってやつですね()

これからどうなるのか、見ものですよ!


さて、ここからは今回の内容をば。

アルシアの魔法ですが、今のままでも予想できるものとなっております。

読者の皆様、ぜひ推理してみてください! そしてその推理を感想で聞かせて貰えるとありがたいです。

間違ってたらニヤニヤ、合っていたらくっそ悔しいがるだけですが、一緒に作品を楽しんでいきたいと思っております。ぜひ当てて『ザマァ!』って言い捨ててください()


さて、次回は紗百合とアルシアの戦いの続きですが……これまだ2回戦なんですよね。敵が強すぎないか?

まぁ困るのは未来の私なんで知りません。その時その時のノリでカバーします()


それでは後書きもここまで!

また次回でお会いしましょう!

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[一言] 考えたけど全く分からなかったので次回を楽しみにすることにしましたw
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