第15話 2回戦第1戦 紗百合vsアルシア
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それでは15話、どうぞ!
決闘祭二日目。
雲一つ無い晴天で暖かな風が吹いており、催し事をするにはもってこいの気候。朝食を終え身支度を整えた恋たちはベネトと共に闘技場へとやってきていた。
開戦までにはまだ時間はあるものの、既にかなりの数の観客がいる。賑やかな様子が闘技場に入る前からでも聞こえていた。
「さてみんな、二回戦の意気込みはどうかな?」
「……ナムコット博士の依頼も考えると、勝ち進んだ方がいい」
「立花さんと同じで、目指すのは優勝だよ。あと私、負けるの嫌だし」
「どうやらやる気は十分みたいだね。だけど、本当に優勝を目指すなら今日の戦いからが、みんなにとっての本番になる」
受付を済ませ控室へと辿り着くと、設置されたモニターにはトーナメント表が映し出されている。そこには『メモリーズ・マギア』を含め、一回戦を突破しているチームに繋がる線に重ねて赤線が引かれていた。
そのままトーナメント表を目で追う。二回戦の位置でぶつかっていたのは『C.o.C』というチームだと分かると、紗百合は心得がいったような表情を見せる。
「紗百合ちゃん、何か知ってるの?」
「うん。私の記憶が確かなら、メンバー全員が亜人種族で構成されたチームだったはず」
「……亜人種族?」
「人と人ならざる者の血が混ざりあった種族のこと。魔獣とか精霊とか、はたまた神様との混血なんてのもいるんだって。ほとんどが純粋な人間より長寿らしいよ」
「はぇー、紗百合ちゃん良く知ってるね!」
「ここに来てから色々読みまくったからね。ベネト、私が言ったので間違ってたところあった?」
「ううん、大まかには合ってるからそれで問題ないよ」
「良かった、流石にこれで間違ってたらみんなに申し訳なかった……」
紗百合は自身が読んだ本の知識が間違っていなかったことに安心し小さく息を零す。ベネトはそれを一瞥すると再び口を開いた。
「それじゃあさっきの話の続きをするね。何でここから先の戦いがキツいのかだけど、言ってしまえばみんなが魔法使いとして未だ未熟だから。これに尽きる」
「まぁ、私なんてメモリーズ・マギア使い始めてやっと一週間だからね。出来ることはしたけど……」
「正直厳しいだろうね。でも、恐れることは無い。魔法での戦いは想いの力の戦い。どれだけ不利な状況でも“絶対に勝つ”っていう気概が何よりも大切なんだ。それさえ忘れなければ、それこそ神様にだって負けないさ!」
ベネトの表情は自信満々で心の底からそう思っているのだと感じさせる。『神様にだって負けない』とはかなり荒唐無稽で馬鹿らしく思ってしまうような言葉だが、魔法を実際に使っている恋たちは彼なりの激励なのだと受け取った。
「よし、二回戦も頑張ろう!」
『おー!』
恋の掛け声に四人が応じる。
それを見るベネトは眩しいものを見るように目を細めていた。
紗百合は入場門に辿り着くと深く呼吸する。そうして再び上げられた顔に浮かべられていたのは先ほどまで恋たちと一緒に居た少女のものではない。瞳は鋭く、纏う空気もまさに“戦う者”と言うべきものだった。
開けられた門を大きく踏み出せば大きな歓声と共に迎え入れられる。こういった経験は紗百合には無かったものだが少し嬉しくも感じられたが、そういった感情は早々に思考の隅に追いやって目の前を見据える。
――あのヒトが、私の相手。
視線の先から同じく闘技場の中心に向かって来る相手に対し、紗百合の関心が1番初めに向けられたのはその端正さ。絹のように美しく長い白髪と同じ色で揃えられた汚れを知らない装備、細かい所作などは丁寧でどこか浮世離れした印象を受ける。それはまるで物語に出てくるお姫様のようだった。
次に目が行ったのはその華奢な手に握られているのは杖。シンプルな形状で薄っすらと蒼い金属で造られたそれは先端には星の形をした石が配置され、その周囲を覆う銀線の隙間から零れる怪しげな緑光が不気味さを感じさせる。
そして何より彼女の髪から飛び出た耳の先端が尖っていた。それらの特徴から紗百合は自分がサブテラーに来てから読んだ本にあった亜人種族――エルフだった。
エルフ――サブテラーでは亜人種族として登録されている。正確な起源は未だ分かってはいないようで、人型の妖精説、神と人と混血説、生物進化の分岐説など文献によって様々な考察がされている。しかしそれらに共通していることがあった。
すなわちエルフとは、寿命が長く、魔法を操る術に長けているという点だった。
紗百合が読む本のジャンル幅広い。伝記やミステリー、歴史書、ライトノベル、はたまた図鑑なんかにも手を伸ばしている。そんな彼女の特に好きなジャンルがファンタジーだった。
非現実的なものを題材とするこの題材。表紙や偶に挟まるほんの少しのイラストと文字だけで、まるでその先にもう一つ世界が広がっているような感覚がある、それがたまらなく関心を惹きつけた。
エルフという種族がよく物語の題材とされることが多いと知っている。しかし文字やイラストだけで認識していた架空の種族がいざ目の前に現れると、自身の想像を軽く超えるものが出てきてしまったという印象があった。
「アルシアと申します。よろしくお願いしますね」
「紗百合です! こちらこそよろしくお願いします!」
互いに手を差し出すと軽く握手を交わす。比べると良く分かるがアルシアと名乗った女性エルフは身長は紗百合よりも頭一つ分ほど高い。女性としてはかなり身長が高い方だという印象を受けるだろう。事実紗百合は視線を合わせるために少しばかり見上げる形となっていた。
そうしていたからだろうか。紗百合はアルシアがやけに笑顔で自身のことを見ていることに気付いた。
「えっと、何かありました?」
「あらごめんなさい。貴女と戦うの、結構楽しみにしていたのよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。初出場とは聞いていたけれど、貴女の動きは戦い慣れている者のソレ。しかも同じく杖使いならば関心も高まるというものです」
「……、」
まずい、と紗百合は内心で独り言ちる。
分かってはいたことだが、初日を勝ち進んだ自分たちはそれなりにマークされているようだ。つまりここから先は油断は殆ど無いことが察することが出来た。
しかし紗百合にはどうにも気になることがあった。
アルシアは笑顔を浮かべている。特別偽る事が得意な場合は除くが、紗百合から見た限りでは、先ほどの言葉も本心から言っていると思えた。
何故かは分からない。だが紗百合が自分で認識できているのは、まるで写真でも撮ったかのようにアルシアの笑顔がくっきりと残っていた。
――この感覚はなんだ? 自分は目の前にいるこのヒトの、何を疑問に思っている?
自問しても答えが出ることは無い。妙な思考の引っかかりが頭の中に靄がかかったような不快感を齎していた。
「えっと、大丈夫ですか?」
「……え、あ、すみません! お綺麗で見とれちゃってました!」
「あらお上手なのね。でも嬉しいわ、ありがとう」
頬に手を当てながら上機嫌な様子になっているアルシアを見て、紗百合は胸を撫で下ろす。幾ら戦う相手とはいえ、不機嫌にさせてしまうのは望むところではない。
これから始まる戦闘に向けて意識を切り替えると、直ぐに司会者から戦闘準備をするように声が掛けられる。
紗百合は魔法少女に姿を変えると杖にあるカードホルダーから『SHOOT』『CHARGE』『PROTECTION』の三枚を取り出し装填。対してアルシアは自身の杖を軽く回すと緑石が備わっている方を紗百合に向けて構えた。
「それではいきます! 決闘開始ッ!」
「ロード!」
【Loading, SHOOT】
開始と同時、紗百合によって発射された6つの魔力弾が別々の軌道を描きながらも吸い込まれるようにアルシアの元へと殺到する。それを軽く跳び退くことで避けようとしたアルシアだったが、その動きに追従するように魔力弾の進行方向が変化する。
最低限の体の動きだけで魔力弾を避け切ったアルシア。しかし彼女が見たものは自身が躱した魔力弾が再び自身に向かってくる光景だった。
――自動追跡……では、無いようですね。全て自己操作ですか。
アルシアの思考通り、魔力弾の動きは全て紗百合によって制御されている。フェイントのような動きをしたり避けようとした先に置いてあるなど、機械的では無い動きを何度もしていれば察するのは簡単だった。
そうして何度目かやり過ごしたアルシアだったが、その視界には自身に向かってくる3発の魔力弾が映っている。しかしその外では彼女が次に避けようとしている場所にはもう3つの魔力弾が先回りして向かっていた。その攻撃は予想される着地のタイミングと完璧に合っており、攻撃を受けることは確実だろう。
それを受けてアルシアは――笑った。
「我が身を照らすは星の加護」
アルシアの口から紡がれた詠唱と共に、杖の緑石の妖しい光が強まると零れ出すように6つの魔力弾が発射される。それらはまるで意志でも持っているかのように紗百合の魔力弾へと向かうとそれぞれが衝突し、小さな爆発と共に相殺された。
「天の光は大地を焦がす」
続けられたアルシアの詠唱に呼応し杖の緑石が再び輝くと魔力弾が撃ち出される。それは奇しくも先ほど紗百合が射出した魔力弾の数と同じく6つ、大きさ、速度もほぼ同じものだった。
「へぇ、やってくれるね……!」
紗百合は足を動かし魔力弾を避けようとするがそれを逃がさんと魔力弾も追従する。自身とそっくりの相手の魔法を使われた彼女は不敵な笑みを浮かべた。
アルシアは言外に伝えたのだ。“私は対処出来ましたよ。貴女はどうですか?”と。それは先ほど様子見で攻撃した紗百合にとって一種の意趣返しのようなものだった。
ならば此方が取る方法は一つ、迎撃だ。
「ロード!」
【Loading, CHARGE】
機械音声と共に杖に表示されているゲージが一段溜まる。紗百合は杖を片手で握り締めると視界内から相手の魔力弾が三発無くなっていることに気付く。
配置こそ違えど、それは先ほど紗百合がアルシアに行った攻撃そのもの。
「ディスチャージ!」
【Count CHARGE:1. Full Burst】
鍵先に集まった魔力に蓄積された分が合わさると一筋の光線が生まれ、そのまま杖を振り回せば軌道上にあったアルシアの魔力弾が全て消滅する。その光景はレーザー兵器を彷彿とさせた。
紗百合は杖を軽く回し地面に突き立てるとアルシアの方に視線を向ける。俯かせていた顔が徐々に上がると笑みを浮かべていることが分かった。
「凄いわ貴女、結構遊べる人なのね」
「御眼鏡に適ったようでなによりです。さて、もし良かったらなんですけど……私と踊っていただけませんか?」
「……ふふ、とっても魅力的ね。年下の、それも人間のお嬢さんに誘われるだなんて初めてだわ」
「そうなんですか? 私なら放っておきませんけど」
「本当に言葉が上手ね。……いいわ、踊りましょう。貴女となら退屈せずに済みそう」
「なら、期待に沿えるよう頑張らないとですね」
紗百合は鍵先を、アルシアは緑石側をそれぞれ相手に向け微笑む。
二人は杖という同じ武器を使い、射撃や砲撃など魔力を直接撃ち出すといった攻撃方法を主として戦う魔法使い。性質や戦い方は酷似している。
しかし魔法を使い始めて一週間の紗百合と、物心ついた時から魔法が身近にあったアルシアとでは、その実力には隔絶した差があることは明白だろう。
そんなこの状況こそ、紗百合にとってはまたとない機会だった。
相手にするのは魔法と馴染みが深いとされる深いエルフ、それも扱う武器も魔法もほぼ同じ。つまり彼女にとってこの戦いはアルシアの戦闘技術などを実際に体験し、盗み、学ぶことが出来る絶好の機会。
それに加えて紗百合には一つ、アルシアには絶対に負けないと考えられるモノがあった。
恋と桐花、この二人が対人戦闘に置いてかなりの強さを誇るのは理由があった。恋は徒手格闘を、桐花は剣術をそれぞれ桐花の祖父――柊龍玄から習っていたからだ。
そして紗百合も同じく、戦う術を龍玄より教わっていた人間の一人だ。
相手は歴戦の魔法使い。魔法での技量と経験は圧倒的に及ばない。しかし武術なら、目の前にいる女性と対等以上に戦える自信が紗百合にはあった。
つまりこの決闘、紗百合が勝利するためにはどれだけアルシアに食らいつけるかが鍵となる。
「言い忘れていたけれど。私、激しく自由に踊るのが好きなの。リードする気なんて更々無いわよ」
「大丈夫ですよ。死ぬ気で追いついて、リードしてあげますから」
「……ふふ。本当に素敵だわ、貴女」
互いの魔力が高まり、その余波で辺りの空気が震える。
そして三度目の衝突の瞬間、総数五〇を超える光の塊が空を翔けた。
読んでいただきありがとうございます!
これからバンバン書くと言った矢先に更新遅くなって申し訳ありません……。
忙しいのは当たり前なので、なんとか時間を見つけて執筆していかなければいけませんね。私の都合で読者の皆様を待たせてしまうのはやっぱり駄目ですよね。心に刻まなければ……。
さて、ここからは話は変わりまして作品のことを。
突然ですが、皆さんってエルフ好きですか? 小説家になろうでは数多くのファンタジー作品でエルフが登場するので恐らく皆さん好きなのでしょうが、私としましてはこの作品で登場させるかはかなり迷い所でした。
紗百合は5人の中でも1番魔法の戦闘経験がありません。葵も同じ射撃系ですが武器は違いますし。
そうなったとき、紗百合を魅力的に描写するにはどうすればいいかと考えた先に「敵側に紗百合と似た魔法使いを出す」ということに落ち着きました。そこから「エルフなら長寿で魔法経験も豊富そうだし、読者も……多分嬉しいと思う」と考え登場させるに相成ったわけですが……ここで私の悪いところが。
個人的になんですが、エルフって男性も女性もめっちゃ好きなんですよね。知的な雰囲気を出しやすいですし、そういったキャラって紗百合と絡ませやすいので滅茶苦茶悩みました。
結局は女性になりましたが、初めは男性で書いてました……。今回はボツ案行きとなってしまいましたが、いつかそれも利用して色々書いていきたいです。
さて、次回ですが紗百合の戦闘になります。相手にするは魔法のプロフェッショナル、どうやって勝ちを目指していくのかにご注目ください!
ではあとがきもここまで!
著作『メモリーズ・マギア』をこれからもよろしくお願いします!




