第4話 敵に迫るために
お待たせしました、第4話です
「――ン! レン!」
「うお、びっくりした。急にどうしたんだ?」
「どうした、じゃないよ。何回も呼んでるのに反応しなかったから心配したんだよ?」
あの日のことを考えていると大声で自分の名前が呼ばれていた。それほど集中してしまっていたらしい。
「あー、ごめん。ちょっと考え事しててな」
「考え事?」
「魔法少女になったときのこと」
「ああ、あの日のことか」
目の前に飛ぶ小さな黒い鳥、ベネトに手を合わせて謝ると自分がしていたことを素直に話した。
一週間前、櫻木恋は魔法少女になった。
謎の世界『シャドウ・ワールド』に入ってしまい、スライムに襲われるもそこでベネトに助けられる。生き残るために魔法少女に変身してスライムを撃破。魔法少女として、魔獣と呼ばれる怪物と戦う非日常へと足を踏み入れた。
初日はスライムだったが次の日はサイズが桁違いに大きいアリ、その次の日は異常に甲殻が硬いアルマジロだったりと色んな魔獣と毎日戦ってきた。
そんな中、やはり疑問が生まれてくる。魔獣がいる間だけ存在する結界空間『シャドウ・ワールド』、あれはそもそもどういう理由があって作り出しているのか。
今回の戦闘ではその理由を探るため、ベネトと別行動を取っていた。
「それでベネト、どうだった?」
「……申し訳ない。何もわからなかった」
頭をがっくりと垂らす姿から相当落ち込んでいるのが分かる。そんな様子のベネトは翼で頭を掻きながらぶつぶつと零す。
「魔獣が出現するのは決まって現実世界が暗くなる時間帯だ。それはまあ人間をこの世界に引き込むのには都合のいい時間帯だからまだ納得できる。でも、一日に一匹しか魔獣が出現しないのは奇妙だ。目的を達成するための計画に都合があったりするのかもしれないけど、だとしたらわざわざそうする意味は……」
「おーい、ベネトさんや。戻ってきてー」
自分の世界に入ってしまったベネトは呼びかけにはっとした様子を見せる。無事に戻ってこられたようだ。
少し照れ臭そうにするとこほん、と一呼吸置くと再び話し始めた。
「とにかく、犯人の目的はまだ掴めていない。何か手掛かりがあればいいんだけど……」
「手掛かりかぁ……」
ここ一週間、魔獣こそ撃破出来ているが目ぼしい手掛かりは見つかっていなかった。
魔獣が出現するときにはシャドウ・ワールドが構築され、その結界内へ侵入する形で魔獣と戦っている。そしてそんなことを起こしている人物がいるはずなのだが、これが全く見つからない。
調査をしても得られる情報がないことに焦りを感じるが、ここは一度落ち着くべきだろう。
「とりあえず、帰ってから分かってる情報だけでも整理しないか?」
「……そうだね。何か見落としがあるかもしれないし」
「決まりだな」
立ち上がるとパンツの臀部についた汚れを軽く払う。公園から出て家へ続く道を歩く中、ベネトはふわふわと浮くように飛んでいた。
自宅へ帰って食事、風呂、食器洗いなどを済ませると寝室への扉を開ける。そこにはスケッチブックとペンを机の上に用意しているベネトの姿があった。
「さて、家事も全部済んだし始めますか」
「うん。じゃあまずは僕の方からだね」
そう言うとベネトは翼で鉛筆を持ち、スケッチブックに絵を描き始めた。
気になったんだが、あの翼はどうなっているんだろう。手として使えるなんて便利すぎないだろうか。
そんなことを考えている絵が描き終わったようで鉛筆を置いた。スケッチブックを見るとデフォルメされた可愛い絵が描かれている。そして描かれた絵をなぞる様にペンを動かしながら話始める。
「まず違法転移者はこの星でいうところ約二年前、サブテラーから地球へとやってきた」
ベネトはスケッチブックには地球へ移動していく赤いバツ印とそれを追う赤、青、マゼンタ、緑、黄色のマル印が描く。しかしそのうち青、緑、黄、マゼンタの丸印が海の上――地図で言うところの太平洋――で黒く塗りつぶされた。
「サブテラーは僕を含めた五名の小隊を結成し、犯人の捕縛を任務としてこの地球へ追跡。そして転移してすぐに犯人が作り出した魔獣達と交戦して敗北した。生き残った僕は身を隠しながら調査をしていた……っと」
そう言ってペンが置かれるとスケッチブックには残った赤い丸――ここでいうところのベネトだ――が一直線に日本へと向かっている。
「そして犯人はここ、日本へと向かっていった。それを追って僕も日本に来たというわけさ」
「うん。そこまでは理解した」
話の内容に頷きながら答える。するとベネトは今まで書いたページを綺麗に切り取ると新しいページに日本、それも俺が今住んでいる地域を描いた。
「そしてそんなことから今。全く尻尾を出さなかったけど、ここ最近になって突然この地域周辺で魔法の反応が確認された」
「それが、子供たちが行方不明になる事件」
「そうだね。犯人は現実世界の影を起点とした結界空間である『シャドウ・ワールド』を作り出し、魔獣に攫ってきた人間を襲わせている。その割合は子供が多いね」
ページをめくり、今度は四角の中に人がいる絵と魔獣がいる絵が描かれた。魔獣がいる世界が『シャドウ・ワールド』を表しているのだろう。人間がいる世界から魔獣がいる世界へ向かって矢印が延ばされる。
「疑問なんだけど、なんで子供ばかり攫っているんだ?」
ふと思ったことを口にする。ベネトは少し考えた様子を見せるが短い時間で答えが返ってきた。
「子供っていうのは魔力が多いからさ。ちょっと話が逸れるけど、魔法ってどういうものだと思う?」
「と、突然だな。うーん……呪文を唱えて、魔力を消費して火を出すイメージがある。あとは錬金術みたいに何かを材料に別の何かを作ったりとかかな」
「おっ、錬金術は知ってるんだ。レンが言ってくれた認識も大まかには合ってるし、これは楽に分かってもらえそうで良かった」
かつて得た知識を披露するが、どうやらほとんと変わらないものだったらしい。創作物の知識も役に立つことがあるんだな、と認識を改めた。
「僕たちが言う魔法っていうのは、魔力という名前のエネルギーを消費して思い描いたモノを形にすること。それを発動、手助けするための詠唱や魔法陣なのさ。ちなみにレンが例として挙げてくれた『錬金術』も魔法の一種だね」
「そうなのか。気になったんだけど、同じ魔法でも人によって詠唱が違ったりすることもあるのか?」
「それは割とあるよ。詠唱だけじゃなく、それこそ起こす事象の規模だって他人と違うモノになることは珍しくない」
「ほー、なるほど」
また一つ魔法への理解が深まったようで少し嬉しく思う。そんな俺を見てベネトは苦笑いを浮かべた。
「まあ最近はレンに使ってもらった『メモリーズ・マギア』みたいに魔法の発動処理を機械……ああ、『魔道具』っていうんだけどね? それに任せちゃうのが主流になってきてるんだ」
「ちなみに僕のはこれ」と言われて取り出されたのは。先ほど脱出する際に使われた小さな球状のものだった。
「なんかそう考えると、魔法も科学もあんまり違いはないように感じるな」
「まあ使うエネルギーが違うだけで『自分たちの文明を発展させよう』ってことは一緒だからね。僕たちも便利なものを必要としているのさ」
そう言われると、異星というのもあながち遠くにある物じゃないのかもしれない。
そんなことを考えているとコホンという咳払いが聞こえた。
「話を戻すね。魔力っていうのは自覚してないだけで、どんな生物でも持っているもの。人間だろうと犬だろうと、それこそ虫だろうとね。状況さえ揃えれば無機物にも魔力が宿るんだけど、これは本筋から外れるから今は語らないでおくよ」
「……なんかいまいちピンとこないな。そもそも、魔力なんて何処にあるんだ?」
精神に関わるということは脳か、それとも今も鼓動を続ける心臓か。恋が予想できるのはその位だ。
しかし、返ってきた答えは予想の斜め上を行くものだった。
「魔力が存在するのは“魂”だよ」
「魂って……あの、人間とかの生命に宿るっていう?」
「その認識で間違いは無いよ。霊魂、魂魄、エーテル体――呼び方は様々だけど、本質的には同じものを指す言葉。すなわち霊的エネルギーの器のことだ」
一呼吸置き、ベネトは話を続ける。
「個人が保有する魔力量は生まれた時、要は魂が宿った瞬間にある程度決められる。魔法使いは訓練なんかを経て魂を拡張していき、保有魔力量を増やしていくんだ。……あっ、ちなみに消費した魔力は大体六時間から九時間の熟睡状態を経れば全快するよ。レンが魔法を使っても翌日また魔法を使えるのはこれが理由だね」
「なるほど……」
そこで恋がふと思い当たる。
「なぁベネト。話を聞いてる感じだと人間……地球人でも魔法を使おうと思えば使えるのか? 魔力自体はあるんだろ」
「お、いいところに目を付けるね。でも残念。そこまで簡単な話でもないんだよ」
ベネトは苦笑いを浮かべる。
「魔法を使うには『自分が魔法を使える』って思ってなくちゃいけないんだ。これがこの星の人にはとても難しい問題でね」
「……ん? どういうことだ?」
相手の言いたいことが分からず首を傾げる。そんな俺に対してもベネトは優しく教えてくれた。
「地球では魔法じゃなくて科学が発展したから、魔法自体の存在が信じられていないんだ」
「……ああ、なるほど。そもそも魔法の存在が信じられていないから、俺らは無意識に『魔法なんて使えるわけがない』って考えてるのか」
「そういうこと。加えて、魔力を出力する方法も合わせて知っていないと意味が無い。もし魔力があるだけで魔法を使えるなら、今頃地球上のあらゆる人々が魔法を使っているだろうさ」
ベネトはペンを持つと少女の絵を描き、そこから出る雲の吹き出しの中に魔法少女の絵を描いた。
「でも、魔法が普遍ではない世界だからこそ子供たちはそれを強く夢に見る。そしてその想いの強さがそのまま魔力量に影響を与える。特に子供っていうのは環境などによって精神性に大きく影響を当てるからね。その分魔力に与える影響も大きい。
まあ魔法が一般化されていない世界で魔力が多い子供が多く生まれるっていうのは、僕からしたらちょっと皮肉に感じちゃうけど」
言葉を区切ると机に置いてある俺のコップに常備してるペットボトルから水を注ぎ始める。
「話の続きだけど、想いが強いほど魔力量は多くなる。これが基本さ」
ベネトはコップの中ほどまで水を注ぐと器用にコップを持ち水を飲みゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。
「前にも言ったけど、レンが狙われたのは魔力の量が多いからだね」
「……俺、そんなに多いのか?」
「それはもう。この星で見ても結構な量、いや宇宙全体で見ても相当珍しいと言えるくらいにはあるね」
「はぁ……」
相手の話にいまいちピンと来ない。しかし、先ほどまでの話を総合すると一つの仮説が思い浮かぶ。
「なぁ、さっきの話で言うと俺がまるで『魔法があって欲しい』って考えてるような感じにならないか?」
「あ、一概にそうとも言えないよ?」
「え?どういうことだよ」
相手の言葉に頭がこんがらがる。そんな俺を見てベネトはごめんごめん、と謝ると話を始めた。
「魔法が使えたら、っていうのはあくまで例えさ。大事なのは想いの強さで魔力量が変わること」
ベネトはスケッチブックのページをめくると円を描き、その内側が様々な色に塗られた。
「普通ヒトは色んな想像をするから想いの力が分散されるんだ。だからそこまで強い想いを抱くことは無いんだけど……極たまに、たった一つのことに自身の全てを懸ける者がいる」
ベネトはおもむろに赤色の鉛筆を手に持つ。パラリとスケッチブックを捲る音が聞こえると鉛筆を白紙のスケッチブックへと擦り付けると、白紙だった紙は赤一色で埋め尽くされた。
「まあ何が言いたいかっていうと、そういうヒトは魔力量が多い傾向があるのさ。まあ例外もあったりするし、それだけが要因ってわけでもないから、あくまで一つの目安として覚えておいて」
「なるほど。なんかそう言われると、こう……変な感じがするな」
相手の説明に納得してしまい無意識に後頭部を掻く。俺が『守りたいものを守れる自分』に強く憧れていたのは確かだからだ。
そんなことを考えていると体温が高くなるのを感じた。
「僕はレンの“守りたいものを守れる自分”って良いと思うけどね! 面白いし!」
「……なんか馬鹿にしてないか?」
「そんなことないよ! 他人の為に自分を犠牲に出来る人間は多くないし、それはキミにとって大切なモノなんだろう? 馬鹿にすることなんてないさ」
「急に真面目になったな……」
ベネトの変わりように面食らうが先ほどのは冗談の類と置いておく。
それよりも先ほどの話を聞いていて、新たな疑問が頭に浮かんだ。
「なあ、それならなんで俺には魔法が使えたんだ?」
「あ、やっぱり聞いちゃう?」
「そりゃあそうさ。魔力があるのは分かったけど、俺だって魔法があるなんて信じてなかったし」
そう言って籠手に包まれた自分の手を見つめる。こう言っては何だが、俺は魔法の存在なんてこれっぽっちも信じていなかった。
でも実際はこうして使えているわけで、そうなると使える理由が知りたくなる。顔を上げるとベネトは俺の机の上にあるケースを翼の先端で指し示した。
「それに関してはメモリーズ・マギアのおかげさ」
「……これの、ねぇ」
そう言って自分の物となったメモリーズ・マギアと、ケースを開いてその中から変身するために使ったカードを取り出す。ケース状態のメモリーズ・マギアは初めに渡された時と違い黒色だったケースに赤色の幾何学模様が刻まれており、カードの方には“何かに手を伸ばす人影”が描かれている。
「『記憶励起型魔法機装』、略してメモリーズ・マギア。規定の魔力量を満たす人間であればたとえどんな世界でも魔法を使えるようになる。使用者の記憶からひと際強い想いを読み取って魔法式として『メモリア』というカードの形にするのさ」
「……結構とんでもないものなんだな、これ」
納得すると同時に自分の手元にある物の凄さに感心する。これを作った人はとても頭がいい人なんだろう……まあ、魔法少女になってしまうのは納得できないけど。
「細かいことはいくらでも喋れるけど、キリが無くなっちゃうからまた今度ね」
「ん、了解」
短く返事をするとカードをケースに入れて机の上に置きベネトへと向き直る。
「……で、どこまで話したっけ?」
「魔力が多い人間が狙われてるってとこ」
「そうだったそうだった。ありがとね」
翼で頭の後ろを掻くベネト。コホンと咳払いをすれば話し合いが再開される。
「それで、どうして犯人が魔力の多い人間を魔獣に襲わせているのかなんだけど。正直これといって確信が持てるものが無い」
「そこなんだよなあ……」
実はこのことを話し合うのは初めてじゃない。前にも犯人の目的について話し合ったが、結局そこから先に繋がらないのだ。
「うーん。やっぱり大量の魔力を必要としている、とかじゃないか?」
「魔獣に魔力を取り込ませてそれを回収する。方法は褒められたものじゃないけど理解できる形ではある。問題は……」
「一体何のために集めているのか、か」
二つの悩まし気な唸りが発せられる。
人だけでなく、生きているモノ全ては何か行動するのは何かしらの理由が発生する。それは自分のためだったり、義務だったり、他人のためだったりと色々だ。
それは魔獣による騒ぎも例外ではない。何処かに必ず発端、原因があるはず。
「考えられるとすれば、大規模な魔法を使おうとしているとかがあるかな」
「大規模、っていうと?」
「うーん、攻撃魔法を限界まで強くしてそれを何処かに放つとか。あとはそうだな……何かを召喚したりとか?」
「予想だけならいくらでもできそうだな……」
俺たちにできることはかなり限られている。だから出来ることはとことんやりつくさなくちゃいけない。
「とりあえず、魔獣から一般人を守るのは継続だね。何度も魔力が回収できないことに痺れを切らして姿を現すかもしれないし、もしそうならなくても魔力収集の邪魔をすることが出来る」
「おっけー……っと」
話がひと段落したところで体を思いきり伸ばし体をほぐすと、自分のコップにペットボトルから水を注ぎそれを一気に飲み干した。久しぶりの水分補給に心なしか体が喜んでいる気がする。
ふと時計を見ると、その針はちょうど夜の九時を示していた。
「さて。明日も学校あることだし、寝ますかね」
「そうだね、明日も頑張ろう」
そう言って部屋の電気を消すとベッドに寝転ぶとベネトは枕元に立った。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみレン。いい夢を」
そうして揃って目を閉じる。今日は特に疲れているからか、なんだかよく眠れる気がした。
意識が僅かに浮上する。
気付けばふわふわと浮かんでいる感覚があり、すごく暖かくて、気持ちがいい。
――ここは……どこだ……?
微睡んだ意識の中うっすらと目を開ける。するとそこには藍色の空間に様々な色で光り輝く点が散りばめられている。どうやら自分はそんな空間に浮かんでいるらしい。
――そうだ、これ……前にも見た……。
一週間前に見た夢と似ていることに既視感を覚える。しかし前とは違い幾らか意識がはっきりとしている。目だけを動かして辺りを見渡してみると、ひと際輝く場所があった。
そこでは初めに視界に映った点と同じものが渦を巻いていた。その数は前回の比ではなく、まるでそこに吸い込まれているが如く無数に重なり合っていた。また、全体では渦こそ巻いているが点の一つひとつが音を鳴らしながら踊るように動いている。
そんな渦の中心には、真っ白な球体がゆったりとしたペースで膨張と収縮を規則的に繰り返していた。その様子から、眠っているときに聞いた母親の鼓動を思い出してしまう。
だからだろうか、アレを見ていると凄く落ちる自分がいる。
そんなことを考えると再び瞼が重くなり始めた。それに従うがまま自分の視界が狭まっていく。
――すごい、眠い……。
そんな思考とは別に、自身の手は渦巻くモノに伸ばされる。勝手に動くその感覚は、まるでその腕が自分のものではないようだった。
瞼が閉じかける中、それでも必死に手を伸ばすが急激な眠気が襲い掛かってきた。そんな中、遠方に漂う白い球体を見て思う。
――ああ……綺麗だなぁ。
次の瞬間、意識が沈んだ。
「――ン! レン! 早く起きて! ねぇ!」
「ん、ん……、ぁ……?」
耳元から聞こえる大きな声に思わず顔を歪める。ゆっくりと瞼を開きぼやけた視界のまま声のする方を見れば黒い塊が動いている。
そして揺らされる自身の体。その状況にどうやらベネトが起こしてくれたらしいと寝ぼけた頭で理解する。
「おはよ……ふぁ……」
起こしてくれた相棒に起床の挨拶をする。まだ眠気が取れないからかあくびが出てしまった。
「うんおはよ……じゃなくてっ! レン、急いで!」
「急ぐ……? なんでだよ……」
「じ、か、ん! ほら時計見て!!」
「んあ……時間……?」
ベネトによって目の前に晒された時計を寝ぼけた目で見つめる。
時計の針の短針は八を、長針は二を示していることから朝の八時一〇分であることが理解出来た。
――――八時、一〇分?
「はあああああああああッ!?」
ベッドから飛び起きる。そして寝間着を脱ぎ捨てるとハンガーにかけられている制服に素早く着替えていく。
姿見を見て全身をチェックし問題が無いことを確認すると鞄を持ちリビングへと飛び出す。
「大丈夫、落ち着け俺。まだ間に合う……!」
そんな独り言を大声で発しながら冷蔵庫を開くと弁当箱とゼリー飲料を取り出して鞄に詰め込む。
「鞄よし、弁当よし、水よし、電気よし、ガスよし、戸締りよし!」
部屋の様子を指さし確認を済ませ家から飛び出ると扉に鍵をかけ、きちん閉まったかどうか確認する。
「よしおっけ! んじゃ行ってくる!」
「行ってらっしゃい! 何かあれば念話で呼びかけるよ」
「わかった!」
軽く会話を済ませると道路に躍り出る。そこからは学校に向けての全力疾走が始まった。
「なんで同じ月に二回も登校で全力ダッシュしなきゃいけないんだよおおおおッ!」
悲痛な叫び声は、道路を走る大量の車にかき消されていた。
読んでいただきありがとうございます!
感想、評価をいただけると励みになるのでぜひともお願いします!
また誤字、脱字等を見つけた場合は言っていただけるとありがたいです。
Twitterのアカウントも作ってあるので、もしよかったらフォローお願いします!
Twitter→@Ameno_Shirasagi