第14話 決闘祭1日目、終了
大変長らくお待たせしました!
それでは14話、どうぞ!
その後も盛り上がりを見せていた決闘祭も一日目の戦いが全て終了した。
外には未だ熱が冷めやらぬようで談笑しているヒトが大勢いる中、合流し全員で帰路を辿っていく恋たち。暫く歩いたところでナムコット博士の方から彼らに声が掛けられると別れを告げられる。
どうやら二人はこの近場の宿泊施設にかなり前から予約を入れていたらしく、決闘祭が開催されている期間はそこで寝泊りをするらしい。
軽く手を振ってから白衣を揺らしながら一足先に進む博士を見て、リーズネットは恋たちに別れの挨拶をすると駆け足気味に追いかけて行った。
「そういえばレン、『グリモワール』の決闘のとき随分熱心に見てたよね。何か気になることでもあったのかい?」
「あぁそれか。ほら、一週間前に図書館行っただろ? そこで知り合ってたからどう戦うのか気になってたんだ」
「おっ、彼女たちと話したんだ。なかなかやるね」
夜にも関わらず賑やかさの衰えない街の中を歩きながら発せられた言葉の真意が分からず恋は首を傾げた。
そこに葵がずいっと顔を出してくる。どうやら彼女は二人が話題にしていたことで気になることがあるらしく何か言いたそうな表情を浮かべている。それを察したのか恋が彼女に促すと自ずとその口を開いた。
「……ベネト、その子たちって有名だったりするの?」
「あ、それ思ったー。なんか他の人もすごい見てたよね」
葵の指摘に恋たちはそのときの記憶に思いを馳せる。
確かに桐花の言う通り、グリモワールの決闘は観客の盛り上がりが他の戦いと比べてもかなり大きかったし、彼らと同じように決闘の様子を見ていた他の選手たちもどこか警戒しているような厳しい目つきで見ていたような覚えがあった。
「有名も有名だよ。彼女たちは史上最年少で『遠征星団』になった、正真正銘の鬼才だからね」
「スプレンデンス? なにそれ?」
初めて聞いた単語に首を傾げる紗百合。ベネトは人差し指を立てると意気揚々と話し始めた。
「『遠征星団』っていうのは星が認めた探検家って言えばいいのかな。他星を調査するための遠征隊で、その資格を得るには厳しい試験を乗り越えないといけないんだ。確か――」
ベネトは自身の懐をまさぐるとA4用紙ほどのタブレット端末を取り出す。電源を入れ慣れた手つきで操作すること約二〇秒後、恋たちが見せられたのは『遠征星団最年少記録更新! その年齢なんと一四歳!?』という大きな見出しで取り上げられた記事のようなものが写された画面だった。
記事には今話題となっている五人の少女がそれぞれバッジのような物を手にしながら笑い合っている写真が張り付けられていた。
「一四歳って、私たちの一つ下じゃん」
「うわほんとだ。しかも三人はボクと紗百合ちゃんと同い年……」
その記事が映っているのは遠征星団の公式ホームページなのか顔写真と共に軽いプロフィールも併せて掲載されていた。そこには年齢も含まれておりルルとアルの二人が一四歳、セラ、ナコ、イヴの三人は一五歳と記されていることに紗百合と育は驚いた様子だった。
「まぁそんな感じで、彼女たちは国中から注目の的なのさ。かくいう僕も結構前から気になってて、特にこのナコって子の『網膜に投射された星辰の魔法利用』っていう論文は結構面白かったかな。眼球を疑似的な天球儀として利用するっていうのは実用性はともかくアイデアとしてはすごく良いと思ったし」
「な、なんか急に分からない言葉がたくさん……」
「おっとごめんよ。こういう話になると饒舌になっちゃうのが僕の悪い癖だね」
ベネトが目を回す育に謝ったところで目的のホテルへと辿り着く。端末を持ち主へと返した恋たちはホテルのロビーにて別れ、一日を終えるのだった。
「お姉ちゃん、もう少し押してー」
「おっけー」
「んっ、ふー……」
汗を流し夕食を食べ終えた五人は就寝までそれぞれ時間を過ごす。女子三人が集まる部屋では紗百合が戦闘の疲れを少しでもとるために、桐花の助けを貰いながら柔軟運動を行っていた。
紗百合は深い呼吸と共にゆっくりと時間をかけて体を伸ばし終え軽く肩を回すとその視界に小さな文庫本のページを捲る葵の姿が映った。日本人離れした銀髪と整った顔立ちはとても絵になっている。
紗百合にとっての立花葵は兄と慕う恋の同級生であり、一つ年上の先輩というだけだった。
言葉を交わしたのも数えても両手で足りるほど。それも軽く挨拶したりなどで同学年の育の方が何かと気楽に話せたのだ。
それに恋や桐花という家族が身近にいたため自然とそちらと会話することが多くなり、そもそも会話する切っ掛けも無かった。
だが、それは紗百合がメモリーズ・マギアを手にしたことで一変した。特訓として用意された決闘祭前の一週間、そこでの話し相手はかなりの割合を葵が占めていたのだ。
その理由は二人の使う魔法に共通点があったこと。片や魔力の矢を弓で射ることで攻撃し、片や魔力の弾を放ち攻撃する。形こそ違えど彼女たちは同じ遠距離攻撃を得意としていた。
そこからは大して時間は要らなかった。
紗百合は魔法の使い方から攻撃のとき気を付けることなど魔獣との戦闘経験を基にした教訓などを葵から学び、逆に葵は苦手としていた攻撃の受け流し方といった防御方面の事柄を紗百合から学ぶという相互関係により瞬く間に親交を深めた。今では先輩後輩といったことは関係なく、他愛もない雑談をするくらいには自然と話せるようになっていた。
「立花さん、なに読んでるんですか?」
「……『クロユリ』っていう恋愛ファンタジー。続き物」
「へー! ちなみにどんな内容なんです?」
「……小さいころ自分を助けてくれたヒーローのことを好きになった少女が、あらゆる手段を使ってヒーローと結ばれようとする。今読んでるのは一巻で、まずヒーローと再会するために秘密裏に自分を誘拐させるよう敵側に依頼を出すところ」
「え、なんですかそのヒロインがラスボスっぽい恋愛小説……」
戦慄した表情を浮かべる紗百合を他所にキリの良いところまで読み終わったらしい。サイドテーブルに置いていた植物の花の絵が描かれた栞を挟み込むと、本を閉じて鞄へとしまい込んだ。
「にしても、立花さんも恋愛小説とか読むんですね。結構意外です」
「……逆に恋愛モノ以外はほとんど読まない。紗百合ちゃんはよく読めるね」
「まぁこればっかりは慣れですかね。活字とは友達です」
笑顔を浮かべた紗百合は、懐から待機形態のメモリーズ・マギアを取り出す。その中から1枚のメモリアを取り出した。
それは変身に使用する『TRANCE』と刻印されたカード。天井に向けられ照明から透けるそれは額縁のように花に囲まれその中心で胸元で手を組み合わせ目を閉じている人型が描かれており、まるで祈っているようだった。
「だからこそ空想の産物だと思ってた魔法が、現実に存在するなんてビックリしたんです! お姉ちゃんもそう思うでしょ?」
「私? うーん……私は特に何も思わないかなー」
「ぶーぶー、だって魔法だよ? 憧れとかあるでしょー」
「そんなこと言われてもなー。考えもしなかったよ」
「もー、前々から思ってたけど、お姉ちゃんってば夢が無いよねー」
――瞬間、桐花が止まった。
凍り付いただとか、そういう次元の話ではない。まるで彼女が存在する空間だけ時間が切り取られたかのような、途轍もなく異質で不気味なモノだった。
しかしそれは刹那。紗百合はそのとき体をベッドの上に寝転ばせていて、葵は喉を潤すために鞄に仕舞った魔法瓶を手に取る所で彼女の変化に気付いたものは自身を除いて他にはいなかった。
それに気付いた桐花は静かに胸を撫で下ろすとその場から窓に映る異世界の空を見る。街に設置された光源に塗り潰されること無く自己の存在を主張する満天の星空を見つめ口を開いた。
「――こうしてここに居ることが、私の一番の夢……かな」
「……え、何言ってるのお姉ちゃん。頭打った?」
呟かれた一言は確かに空気を揺らし、この場に居る葵と紗百合の耳へと届いた。しかしその内容は二人にとって意味不明なものであり、特に妹である紗百合は今まで見せたことも無い儚げな雰囲気におかしくなってしまったのかと心配する。
「こんの! ちょっと真剣に言ってみればこれかー!」
「ちょっ、ひたいひたい! ひっはらないれーッ!」
しかしそれは桐花の怒りに触れてしまったようだ。その身体を小刻みに震わせた後に紗百合の元へと歩み寄り頬を抓る。
傍から見れば仲睦まじい姉妹の喧嘩だったが揉み合いになったところで桐花の服のポケットから待機形態のメモリーズ・マギアが落ちる。しかも不幸かそれは落ちた勢いで蓋が開けられ収納されていたメモリアが床へと広がってしまった。
それを見かねてか手の空いていた葵が地面へと手を伸ばしカードを纏めケースに戻そうとしたとき、ふとあることに気付く。
桐花のメモリア――変身するための『トランス』が一枚とその他魔法が五枚の計六枚なのは他のメンバーと変わらないのだが、魔法のメモリアに刻印されている種別のマークを見ると『ENCHANT』の一枚が攻撃型で、他の『BOOST』『DIVIDE』『PHANTASM』『GRAVITY』と魔法の名前が刻まれたメモリアが特殊型だったのだ。
「あれ、葵ちゃんどしたの?」
「……桐花さんって、防御魔法無いんですね」
「そうそう。でも基本は剣で捌けるし、あんまり必要に感じたことは無いかな。……あ、でもあの時みたいなのはちょっと気を付けなきゃだね」
苦笑いしながら告げられたその言葉から葵の脳裏に浮かんだのは、一週間前にやっていた特訓での光景。
様々な組み合わせで模擬戦を行っていたのだが、紗百合の魔力弾と同じように葵の矢も育の糸も桐花の『エンチャント』に吸収されてしまったのだ。区別も際限も無く他者の魔法を喰らうその様は底無しの穴、まさにブラックホールのようだった。
しかしそんな魔法でも万能では無かった。吸収の対象はあくまで魔法――というよりは、魔法で起こった事象や物だろうか。それにしか対応していないため物理攻撃には何の意味も成さないし、強化系の魔法は吸収することができないようだ。
実際に模擬戦では育の『エンハンス』によって強化された蹴りを桐花が『エンチャント』を使用して受け止めようとしたのだが効果は不発。自身の魔法の強力さ故に慢心もあったのか、脚力一点集中の強化が乗った攻撃は彼女の防御をぶち抜きクリーンヒット。その意識を刈り取るという出来事があった。
「おのれ育くん、決闘祭が終わったら何度もボコボコにしてやる……!」
「お姉ちゃん、それただの逆恨み」
「だって悔しいんだもおおおおん!!」
自身の腹に抱き着く桐花をまるで母親のようにその頭を撫でて宥める紗百合。
そんな姉妹が逆転したかのような光景を見て葵は口元を僅かに吊り上がらせると、今度こそ持ち主に返すべく綺麗に重ねたメモリアを青色の幾何学模様が刻まれたケースに仕舞う。
そのとき、先頭にあった『トランス』のメモリア。
描かれている巨大な渦の中心で一人膝を抱えながら眠る人型が、何処か寂しそうに感じた。
お久しぶりでございます! 雨乃白鷺です!
ここまで読んでいただきありがとうございます!
色々大変でしたが無事、執筆活動に戻ってくることが出来ました!
ここからまたガンガン進めて行くので応援よろしくお願いします!
最後に1つ。
みなさん、疲労や心労による体調不良にはマジでお気を付けください(迫真)




