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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
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第11話 青の魔導書

第11話、今回はルルちゃんの戦闘シーンです!

それではどうぞ!


 無事に初戦を突破した恋たち。控室に係員がやってきて今後の説明が終われば、自由行動が可能になる。一日目は一回戦だけが行われるので、決闘が終わったチームから解散となるからだ。

 ただし妨害行為など決闘祭を運営する上で不利益な行動を行えば、最悪出場停止などの罰が与えられる。その他に体調管理なども完全に個々人の責任となっているため、考え無しの行動は出来ない。


 そんな訳で、恋たちは二戦目の決闘を見届けることにした。周りから視線を感じるなか立見席へと移動したその時、二戦目の一番手を飾る選手が決闘開始の合図の後に激突した。


「うっわ、こっち側だとすごい熱気」


 紗百合の言葉に四人は内心同意する。

 確かに彼らにも観客席からの声は聞こえていたが、控室に居たときは壁に遮られて少ししか感じられない。そもそも戦闘中は目の前の敵に集中するため、そういったことは意識に薄らとしか入らない。

 しかし、いざ観客席側へと来てみれば認識が変わる。人々が発する歓声と熱量は会場の外まで届くほどで、夏日と錯覚してしまいそうだ。


 そんな中、決闘祭は盛り上がりを見せていく。

 ある者は自身が持つ肉体を強化し拳をぶつけ合い、ある者は炎や水といった派手な魔法を使い射撃戦を、またある者は自身の得物を操り互いの技量を競い合う選手たちの姿。

 腕試しとして出場した者、名声を得たいがために出場した者。その動機は十人十色だ。

 それでも選手含め、この場に居る人々で決闘祭を楽しんでいない者は一人としていなかった。

 恋たちも例に漏れることはない。他の選手が使う魔法を見て自分たちが戦うのならばどう対処するかなどを考えながらも、その熱狂の一部となっていく。


「……ん?」


 そんな中、恋は闘技場へと入場してくる選手が目に入る。

 第一印象は赤。端が焼け落ちたようになっている歪な形の真っ赤な頭巾が足元まで伸びており、背中一面を覆っている。頭巾が風を受け揺らめき、結ったブロンドの長髪と整った顔立ちが覗いたことで(ようや)く少女と気が付いた。

 首と手首には重々しい金属の枷が嵌められ、そこから千切れた鎖がぷらぷらと揺れている。その様子はさながら脱走した囚人を思わせた。


 そんな奇妙な雰囲気を見る者に感じさせる少女が闘技場の真ん中へとやって来るともう1人の選手へと相対する。それは彫りの深い顔をした筋肉隆々な男性でとてもではないが真正面からぶつかり合えば誰だって吹き飛んでしまうような迫力があった。


 会場のモニターには現在戦っているチームである『ベストマッスル』と『コードトーカー』の対戦表が映し出されている。そこには『コードトーカー』が勝利数を4つ収めていているものだった。


「それでは両者、準備に入ってください!」


 それを受け男性の姿が全身を鉄色の鎧に包まれたものへと変化する。関節部などは動きやすいように調整されていながら遠目からでも分かるその重厚感から頑丈さは相当の物だろう。

 それを見た少女は軽く顔を下げ手を軽く開くその手元に巨大な戦斧が現れる。まるで敵を叩き潰すと言わんばかりのそれは少女の体よりも遥かに大きく、とてもではないが扱えたものではないという印象しか与えることが無かった。


「決闘開始!」

「はァッ!!」


 瞬間、野太い声と共に男性の足元が爆発し一気にその身を少女へと接近させる。そしてそのまま拳を構え勢いの乗ったパンチを繰り出そうとする。


 しかし彼はそのヘルムから見えてしまった。

 相対する少女の顔がいつの間にか上がり……悪魔のような笑顔を浮かべているのを。


 少女は両手でしっかりと戦斧の持ち手を握り締めると大きく前に踏み出し体を捻る。すると少女の体よりも大きな戦斧はまるで嘘のように持ち上がり一瞬で振り抜かれる。

 それはまるで野球のようで、戦斧の攻撃を受けた男性はまるでライナーのように地面と水平に飛んでいくと闘技場の壁へと激突した。

 その鎧には傷1つとして付いてはいなかったが強烈な衝撃により気絶してしまったせいか男性はピクリとも動かない。そのまま戦闘続行不能の判断を下されその決闘は幕を下ろした。


「なんですかアレ、めっちゃ怖いんですけど……」

「魔法ってすごいね。あんな武器でも軽々持てるんだ」


 顔が青ざめめる育と戦闘を分析する紗百合。

 だが、恋はどうにも気になることがあった。


 ――何処かで見たことあるような気がする。


 何故かは分からない。だが、漠然にもそう感じたのだ。

 謎の既視感に襲われていた恋だったが、暫く悩んでも結局は分からなかったため保留することに。その視線は再び闘技場の方へと向いた。

 そこからは今までと変わらない。敵となるかもしれない選手たちの戦闘を観察する。

 途中で昼食のために購入していた食事をそれぞれが食べながら、決闘祭の日程は進行していく。


「あ、レンだ! おーい!」


 いよいよ中盤も過ぎたところでどこからともなく声が聞こえる。恋は聞いたことのある声であることと、それが明らかに自身に向かって発せられていることに気付き周りを見渡す。

 すると、少し離れた場所に黄色のローブを羽織ったセラが笑顔で手を振っていた。恋が軽く手を振ると、セラは瞳を輝かせ恋の元へと走り寄ってくる。

 ぶつかる寸前でかけられる急ブレーキ。面を上げれば元気いっぱいの笑みを浮かべていた。


「一週間ぶり、セラ。元気だったか?」

「もっちろん! 恋こそ大活躍だったね! ……あっ、あと少しで私たちの番だから行ってくるね!」

「そうなのか。応援してるから頑張ってな」

「ありがと!」


 短いながらも言葉を交わすとセラは元居た場所へと戻っていく。それを視線で追えばその場所には恋が以前会ったときと同じ色のローブを身に纏いルル、ナコ、アル、イヴの姿があった。

 セラは笑顔で他の四人に恋の方を指すとその視線が交差する。ルルとイヴは笑顔を浮かべ小さく手を振り、アルは真顔で軽くお辞儀し、ナコは挑発するような表情を浮かべた後にその場を去った。


 そこで初めて、彼女たち五人組が決闘祭に出場するのだと実感した。

 彼女たちの小さな体つきは観察する限りでは中学生、せいぜい女子高生前半といったところだ。実際の年齢はそうでもないのかもしれないが、彼女たちが決闘祭という戦闘に重きを置く催し物に出場することに恋は驚いていた。

 そんなことを考えていた恋は服を引っ張られる感覚を感じ取る。その方を見れば、葵が服の裾を指先で摘まみ軽く引っ張っていた。


「……レンちゃん、あの子誰?」

「セラっていうんだけど、一週間前に図書館で会ったんだ。少ししか話してないけど、だいぶ懐かれたみたいでさ」

「……そうなんだ。あの子も出場してるの?」

「ああ。確か『グリモワール』って名前で登録してるって言ってた」


 それを受けて葵は持っていたトーナメント表が印字された紙を開き、恋も横からそれを覗き見る。

 チーム名を一つ一つ確認していくと、最後から三番目の位置にセラの所属するチーム『グリモワール』の名が書かれていた。それがまた一つの実感として腑に落ちていく。

 選手たちの準備中で司会者と解説者が場を持たせている中、葵の隣にいた紗百合は何やら話している恋たちに気付き興味を示す。


「なになに? お兄ちゃんたち何話してるの?」

「サブテラーで出来た知り合いがいるチームの話。チーム名は『グリモワール』っていうんだ」

「グリモワール……魔導書? いかにも魔法っぽい名前だね」


 三人で話していると彼らの視界の外で黒いローブに身を包んだ人が姿を現す。それは音を立てずに忍び寄り恋の肩に手を伸ばすと勢いよく掴んだ。

 身体を跳ね上がらせた恋は急いで後ろを振り返ると、小さく笑った後にフードを取っ払ったベネトがいた。


「おいベネト、心臓に悪いからやめてくれよ……」

「あはは、ごめんごめん」


 大きく溜息を吐き疲れた様子の恋と笑いながら謝るベネト。まるで古くから付き合いのある友人のように振る舞いながら、そっと距離を空ける。

 話していた育と桐花もベネトがやってきたことに気付いたらしい。視線がベネトに向けられる。


「あれ、ベネト来たんだ。確かどっかで見てるんじゃなかったっけ?」

「そうだったんだけどね……」


 ベネトの視線が少し遠くにある観客席に向き、それに合わせて恋たちの視線も彼が見る場所へと動く。そこではナムコット博士が隣にいるリーズネットに何かを話している様子だった。

 しかしその口の動きはかなり速く捲し立てて話しているのが伝わった。それに加えてリーズネットの表情がどこか鬱陶しそうにしていることから、ベネトがあの場所から離れた理由も自然と察することが出来るだろう。


「まぁそんな訳で少しこっちにいるよ。折角だし魔法の解説とかもしようかなって」

「それめっちゃありがたい! お願いね!」


 そうして五人にベネトが加わり決闘祭が進む。紗百合が主になり、偶に恋や育も質問することで時間が過ぎて行った。



「さぁ、後半戦も盛り上がっている決闘祭! 次の対戦は『グリモワール』対『ナイトレイダー』だー!」


 時刻は夕方。異世界であるにも関わらず地球と同じようにオレンジ色と夜色が共存する夕暮れの空の下、入場口から二人の選手が闘技場中央に向かって歩いていく。

 片方は青色のローブに身を包んだルル、もう片方は鍛え上げられた肉体を晒す大人の男性。

 観客たちの視線に晒される中で両者が規定位置に着くと視線がぶつかり合い、真っ先に男性の方が口を開いた。


「俺の名はデュークだ。嬢ちゃんは?」

「ルルと申します。どうかお手柔らかに」

「がはは! ソイツは聞けねぇ相談だな!」


 ルルは笑顔を浮かべながら綺麗なお辞儀をする。その所作は洗練されておりどこかの貴族を思わせるものだった。

 それに対しデュークは豪快に笑い装着された機械の腕輪を操作するとその姿が光に包まれる。彼の頭はヘッドギアに覆われ籠手と急所を守るためのライトアーマーを装備していた。

 その様子はまさに戦士。露わになった肉体も筋骨隆々で重々しい攻撃が繰り出させるのは簡単に想像できた。


 一方ルルは笑顔を浮かべたまま空に向かって掌を向けるとその手の中には1冊の本が現れる。彼女の見た目と同じく青色の装丁で造られており表示には五芒星が描かれていていかにも魔法の書物、という雰囲気を放っていた。


「へぇ、魔導書形式か」

「魔導書?」


 紗百合から発せられた疑問にベネトが魔導書について語り始める。

 その内容は、魔導書とは魔法を発動するための呪文を記したものでかなり古い時代から使われていた形式であること。そして書き記した呪文は読んで内容を理解出来れば他の人でもその魔法を使うことが出来るというものだった。

 ただサブテラーでは魔法を発動させるために機械デバイスを使うようになっているためアナログな方式になりつつあるがそれでも使うヒトが多くいることが彼から話された。


「なるほど、私たちのメモリアカードがあの子たちの魔導書って感じの解釈で大丈夫?」

「うん、それで問題無いよ」


 ベネトの言葉に紗百合は納得したようでその視線を決闘の場へと視線を戻すと、既に魔導書が開かれ彼女の目の前でふわふわと浮いていた。


 そして数秒後に決闘開始の宣言がされると同時に魔導書のページを撫でていたルルに向かって一瞬で肉薄し拳を振るうデューク。ルルはそれを身を捻ることで躱すが自身の攻撃が外れたことに動揺の表情すら見せず素早く腕を畳み込むと鋭いパンチを何度も繰り出すがそれも躱されることで内心で舌打ちをした。


 ――なんだコイツ、攻撃する気がまるで無いじゃねぇか!


 一分ほど闘技場を駆け回り攻撃を繰り出していた彼は、常にルルを捉えていた。彼女は先ほどから逃げに徹するばかりで、最初に魔導書に触れた以来魔法を発動させるような仕草も見せていない。

 ルルからは、戦闘の意志そのものが感じられなかった。


「おいてめぇやる気あんのか! いつまでも避けてるだけじゃ勝てねぇぞッ!」


 拳に炎のような魔力を纏わせながら拳を振るうがそれも躱されると我慢の限界だったのか少し離れた場所に降り立ったルルに対して声を張り上げる。


「あのー、一ついいですかね?」

「なんだ!」


 彼女は戸惑うような、悲しむような表情を浮かべながら発した言葉ににデュークも攻撃の手を止める。そして彼女が小さく溜め息を吐き顔を上げた時、その表情は一変していた。

 瞳には光は宿らず虚空を見つめているかのように冷たく能面の表な表情からは何も読み取ることが出来ない。まさに“無”と言えるものが彼女の顔にあった。


「――――あなたこそ、いつまで私を倒せないんですか」

「ッ!?」


 そして次の瞬間、彼の姿は腕が体に沿うようにぴったりとくっ付き直立したものになる。傍から見ればそれは滑稽以外の何物でもないが当人は驚愕の表情と浮かべていることに観客たちも何かただならぬことが起きていることを察して騒めき始めた。


「大いなる存在に抱かれながら、意識の海に沈みなさい」


 冷たくそう言い放ったルルは勢いよく手を握り込むとデュークの身体から力が抜け地面へと崩れ落ちる。顔を打ってしまってもびくともせず、数秒経っても動きを見せないことから気絶したことが自然と分かった。


「決着! しょ、勝者はルル選手です!」

「……ふー、ありあとうございましたっ」


 彼女は息を吐くと笑顔を浮かべながら来た道を戻っていく。そこには先ほどまでの無表情はそのなりを潜め笑顔が浮かんでいたが、観客たちはどこかその表情にうさん臭さと恐怖を感じるのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回は少し不気味さを感じるように書いてみたんですが、それが伝わっていればいいなと思います。

ルルちゃんの魔法ですがまだ明かせません。まぁ当たり前なんですけどね()

みなさんはルルちゃんがどんな魔法を使ったのか是非予想してみてください!


さて次回ですが残りのメンバー全員分の戦闘シーン入れようとすると大変なので2人、2人といった感じに分けようと思います。

ルルちゃんは使える魔法の特性から短い戦闘シーンになっちゃったんですよね……まあ今後はしっかりと描写していく予定です。


では後書きは終わり!

また次回でお会いしましょう!

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