第10話 少女は彼に何を思う
第10話です!
それではどうぞ!!
「いぇーい勝ったよー!」
「よくやった! 流石は我が妹!」
「えへへー、でしょでしょ? お姉ちゃんも頑張って!」
「おうっ!」
快活な声と共に控室へと扉を開ける紗百合。その表情は晴れやかなものだった。
桐花も満面の笑みを返すと入れ替わりで控室を出て行く。紗百合は先ほどまで桐花が座っていた場所に腰を下ろすと、設置されているサーバーの飲料で喉を潤した。
「紗百合、初めて魔獣と戦ってどうだった?」
「いやー、『チャージ』使わないで済めば良かったんだけどそんな甘くなかったね。お兄ちゃんたちあんなのと戦ってたの?」
「いや……俺たちが戦っていた魔獣の方が強かった気がする」
恋は過去の戦闘を思い出しながら考えに浸る。
確かに『ビースト・テイマーズ』が相棒として魔獣は強力だ。それはメモリアブレイクと互角の攻撃を繰り出していたことからも分かる。
しかし、エノ・ケーラッドが作り出していた魔獣と比べるとどこか違う。具体的にどう違うかと言われれば言葉に出来ず、押し黙るしかないのだが。
そうして話は終わり、全員が控室に設置されたモニターに目を向ける。そこには既に相手と向かい合っている桐花が居た。
「ねぇねぇ、桐花さん勝てるかな?」
「うーん……まぁ勝てるでしょ」
「わ、言い切るんだ。それってやっぱり姉妹だから信じてるみたいな感じ?」
「……ぷっ、そんなんじゃないよ」
育の言葉に何か感じるところがあったのか控えめながら笑うと視線をモニターへと戻す。そこでは司会者の進行と共に黄色の毛並みを持つ虎の魔獣と魔法少女へと変身を済ませた桐花の姿が映っていた。
「もっと簡単な話。お姉ちゃんが負けるのが想像できないだけ」
そう言って見つめるモニターでは、次の試合が始まろうとしていた。
「行くぞタイガ! ぶっ飛ばせ!」
「グルァァァ!!」
決闘開始の瞬間、真っ先に動き出したのはビースト・テイマーズの二番手ゼイン。彼は跨る虎の魔獣に命令を出すと、魔獣は最初の踏み込みで一気に加速。第二足で最高スピードに達した。
彼らの戦法は先手必勝。初撃を相手よりも速く放ち、その一撃で勝負を決める。
体現するのは一撃必殺であり、この戦法を破った者は過去数多の戦いの中でも両手指の数より少ない。
一直線に突き進む彼らはまさしく黄色の砲弾。その突進をまともに受ければ、たとえ鎧で身を固めていようとも昏倒は免れない。
そして遂にその攻撃が桐花へと激突する――かに思われた。瞬間桐花の身体が捻られ、突進攻撃を回避する。
その動作はまるで舞踊。腰布が風に揺れ、華やかさを演出する。
目標が無くなったことで攻撃を空振り、通過していくゼインと魔獣。勢いは攻撃を躱されても止まらず、闘技場の壁へと激突してしまうだろう。
しかし、ゼインは歯を剥き出しにして獰猛に笑った。
「ハッ、馬鹿が!」
魔獣の脚が魔力によって輝き出す。直後魔獣はその身を反転、闘技場の壁へ脚を着けると破裂音と共に跳ね返った。
それは壁に全力でゴム玉を叩きつけたかのよう。加えてその速度は先ほどの突進よりも速くなっており、視認すら困難になっている。
先の攻撃は言うならば第一の牙。仕留められるのならそれに越したことはない――が、躱された時のことを考えていない訳が無い。
タイガと名付けられた魔獣の魔法は脚力と速度の強化。それも速度上限は理論上存在せず、行使し続けるほど速度が上がり続ける。
この場は闘技場。どれだけ攻撃が外れようとも、壁の反射を利用して第二第三の牙が相手に襲い掛かるだろう。
つまり、初撃を正面から迎え撃たなかった時点で勝負は決したようなもの。
すぐさま第二撃が桐花の背後から迫る。魔獣の前脚が振り被られ、鋭利な爪がその背中を――
「――ぁ?」
何の前振れも無く、ゼインの視界が歪む。バランスを崩すと共々壁へと激突し、意識を闇へと落とした。
「……ふー」
機械刀を振り抜いた体勢だった桐花は一息、振り向いて自身の相手であるゼインたちを見る。
意識は途絶。あれだけの速度で壁に叩き付けられたのだ、意識が戻ることもないだろう。
「……え、あ! しょ、勝者はトウカ選手です!」
戸惑いながらも告げられたアリアの宣言により、会場が歓声で沸き立つ。
桐花は変身を解き、軽く身体を伸ばす。そうして入場した門から、控室へと向かって行った。
「まさかの一瞬で決着がついたこの決闘! どちらの動きも速すぎて過ぎて呆けてしまったんですが……ルーネさん、解説お願いします!」
「分かりました。まず先ほどの決闘の内容ですが、トウカ選手はゼイン選手の初撃を躱し、続く第2撃にカウンターで合わせて沈めたという形です」
「カウンターですか!? いや最後の2人からもそれは理解できますけど……あの速さですよ?」
「いや、速さは特に関係無いですね。トウカ選手、決闘が始まった瞬間からゼイン選手のことを見てなかったので」
「は、はい? 見てない?」
「ええ。これは私の予想になってしまうのですが、恐らく勘で斬ったのだと思います」
「勘!? え、なんですかそれ!?」
驚くアリアに対してルーネは笑いながら言葉を続ける。
「偶にいるんですよね。視覚聴覚触覚味覚嗅覚という五つの感覚とは違う、第六感とも言うべき超感覚で答えを弾き出す人。アリアさんも見たことありませんか? まるで世界の中心にはその人が居て、その人の為に世界が存在するんだな、って感じるような人を」
「あ、何となくわかった気がします! 異常なくらい運が良かったりたりする人のことですよね! 自分の持つ常識で測っちゃいけないタイプの人間です!」
「それは大体の物事に言えると思うのですが……まぁそんな感じです」
アリアのキラキラと光る目とそれに少し狼狽えるルーネ。
そうして決闘祭は順調にその予定を進めて行った。
少し時刻は遡る。
闘技場からほどほどに遠い転移装置前、そこに三人の少女たちが居た。
「……、」
その内の一人である赤いローブに身を包んだ赤めのピンク色の髪をした少女――ナコが無言で腕を前で組み、壁に背を預けている。普段なら真面目ながらも少女らしい雰囲気は何処か刺々しいもので、踵を支点としてつま先のブーツの底で地面を何度も叩き音を鳴らしている。
フードを被ってこそいるがそこから、覗く表情は烈火の如く燃え盛っている。眉間には皺が寄り、青筋が浮かんでいた。
端的に表してしまうと、彼女はキレていた。
「……ナコ、落ち着こう?」
「そうそう、深呼吸でもしてリラックスしな」
その傍にいるのは黒いローブを纏う黒髪の少女アルと、白いローブを羽織る銀髪の少女イヴだった。アルに関しては読書をしていたのだが、靴底と石畳がぶつかり合う音が何度も鳴っていると流石に集中出来なかったようだ。
それに対してイヴはタブレットから目を離さず、頻りに指を動かしている。画面に映る内容からどうやら彼女は文字パズルゲームをプレイしているようだった。
二人からの発言を受けてナコは深呼吸をする。息を大きく吸って、吐き――爆発した。
「いや何なのよホントありえないんだけど! セラのやつ、どんな神経したら当日に寝坊するなんてことが出来るのよ!?」
閑散とした空間にナコの声が響き渡る。
“怒髪天を衝く”を体現する怒り様に、アルとイヴも自然と苦笑いを浮かべた。
「まぁ気持ちは分からなくもないよ。私たちの決闘ってかなり後の方だから」
「でも集合時間は一戦目に間に合うようにって約束でしょ! しかも理由が『楽しみ過ぎて寝付けなかったから』って何!? 子供か!」
「……私たちも子供だと思う」
そんな漫才のようなやり取りが行われて暫く時間が経つと彼女たち三人の近くにあった転移装置の扉が開く。そこから出て来たのは青のローブを羽織っている少女ルルと、黄色のローブを身に着ける少女セラだった。
「ごめんなさい! 遅れましたっ!」
「遅れたー!」
ルルは頭を下げながら必死に頭を下げるが、セラは悪びれもせず満面の笑みで片手をあげて軽く告げる。ナコは拳を握り締め震えるが、時間を無駄にするわけにもいかず、直ぐに全員を引き連れ闘技場へと向かった。
時間にして二〇分後。闘技場に辿り着いたナコたちは人をかき分け、立見席にて会場にある巨大モニターを見る。
そこには今対戦しているチームの表が映し出されている。『メモリーズ・マギア』の欄に四戦目まで全て丸印が付いていた。
「お、レンだー!」
セラの言葉で五人が闘技場中央へと視線を向けられる。
戦場では五戦目である恋と『ビースト・テイマーズ』の選手が入場し、中央で向かい合う。司会者の言葉と共に両者が戦闘準備を始める。
ビースト・テイマーズの選手は相棒である金色の毛色をした巨大猿を、恋はその姿を魔法少女のものへと変える。
「きゃー! お兄さん可愛いー!」
「……本当に女の子になった」
他の観客の盛り上がりと共にそれぞれのリアクションを見せる少女たち。ルルは興奮した笑みを浮かべ、アルは目をパチクリを瞬かせていた。
次の瞬間、号砲と同時に決闘が始まる。
まず先手を取ったのは『ビースト・テイマーズ』の選手。黄金猿が誇る樹の幹のように太い腕が風を薙ぎながら振られる。
恋は体を屈ませ回避するが、そこに振り被られたもう片方の腕からスタンプ攻撃が繰り出される。後方に跳ぶことで難を逃れるも、先ほどまで居たその場所は拳による鉄槌で地面が割れていた。
恋は体勢を立て直すと、一足跳びに魔獣へと肉薄。機械籠手に包まれた拳を相手の顔面へと振り抜けば、激しい拳打の音の後に魔獣が地面へと叩き伏せられる。
そのまま空中で体勢を整え、「セット」と詠唱を発する。脚部装甲に赤い魔力が溢れ、急速落下と共に魔獣の胸部に向かって蹴りを放った。
攻撃によって発生した衝撃は魔獣の身体を襲うだけでは足りず、地面へと一気に流れ込んだ。轟音と共に地面が大きく陥没し、反動で周囲の地面が隆起する。
花が咲いたような地面の中心には完全に意識を落としている『ビースト・テイマーズ』の選手。一定時間動きを見せなかったことで正式に勝利宣言の言葉が発せられると、観客たちは一気に沸き立った。
「……ふ、ふーん。なかなかやるじゃない」
ナコからそんな言葉が発せられる。しかし少し汗をかき語調は震えていてそれを聞く者に何処か誤魔化しているという印象を与えた。
「すごかったなー! レンつよつよだったなー!」
「はぁ……。お兄さんってば、可愛くてカッコいいとかズルくない!?」
「……ごめんルル、良く分からない」
先ほどの戦闘を見て笑顔で喜ぶセラにうっとりとした様子で自身の頬に手を添えいやんいやんと体を揺らすルル。そんな彼女のテンションにアルは少し引き気味に答えるのだった。
「で、私たちの五番手はイヴなわけだけど……どう?」
コホン、と咳払いをして復活したナコが隣にいる白の少女へと問いかけると他のメンバー全員の視線を集めた。先ほどまで一切の反応を示さなかった彼女だがかけられた言葉に視線を向ける。
「正直に言っていいの?」
「当たり前でしょ。誤魔化しても何にもなりゃしないわ」
「……まぁ六分で微有利かな。使える魔法もあの衝撃を生み出すヤツだけじゃないだろうし、油断はできない」
「……その割には、楽しそう?」
変身を解き、入場口へと帰っていく恋。
その姿を目を細めて見るイヴだったが、アルからの言葉に自身の顔に手を添える。そこで初めて自身の口元が緩んでいることに気が付いた。
「……期待してるのかも。久しぶりに、全力で戦えそうだから」
イヴの手元に、一冊の本が現れる。
汚れの無い真っ白な装丁であるそれは、世界から切り取られて作られたような異様な雰囲気を放つ。表紙を撫でる彼女の表情は、何処か望郷の念を暗示させるものだった。
そんなイヴを見たナコは驚きからか目を見開く。しかし直ぐに微笑むと、優しく彼女の頭を撫で始めた。
「いいなぁ、私もお兄さんと戦ってみたかったなぁ」
「全員で決めた順番なんだからしょうがないでしょ。ほら、次が始まるわよ」
落ち着いていた観客たちの声が再び盛り上がり、闘技場を揺らす。
彼女たちの視線は、第二試合の選手へと向かっていた。
ここまで読んでいただきありがとうござします!
まずは謝罪を。投稿遅れてしまい申し訳ありません!
現在、諸事情でかなり慌ただしくなっています。重ねて申し訳ないのですが今月末まではまともに安定した小説投稿はできそうにありません。
なので読者の皆様を待たせてしまう事になりますが、絶対にエタらせることだけはしません!
なので、どうか気長にお待ちください。
長々とした作者の話はここまで!
次話ですが、遂に『グリモワール』の戦闘を書きたいと思っています!
どんな戦い方を見せるのかお楽しみに!
それではまたお会いしましょう!




