第6話 王立図書館に行こう
第6話です!
それではどうぞ!
突然のカミングアウトに俺たちは唖然とする。
当然だろう、自分たちの知らないところで勝手に催し物に参加を決めさせられたのだ。抗議の一つもしたくなる。
「まぁ待ちたまえ、これはキミたちにとっても悪いことじゃないんだ」
「どういうことですか?」
「この『魔法決闘祭』には様々な魔法使いが参加する。キミたちが対人の戦闘経験を積むうえではこれ以上無い場だと思ったのだよ」
「……なるほど」
――確かに、言われてみればそうかもしれない。
恋、葵、育が今まで戦っていたのは魔獣。確かに強敵ではあったが所詮獣と言われればそれまでで、単調な攻撃も多かった。
そう考えると、これから地球を守っていくという上で対人戦の経験値が得られるのは良いと思った。
「私はデータが得られる、キミたちは戦闘経験が得られる。互いに利点があると考えるが?」
「まぁ、それは納得できますけど。もっとこう……伝え方とか」
「一言でいうなら……サプライズというやつさッ!」
――あ、この人ベネトと同類だ。
それは五人の心が一致した瞬間だった。
「さて、じゃあまずは肝心の魔法決闘祭のルールを説明しようじゃないか」
そこから暫くの間、ナムコット博士から口頭で決闘祭のことが話された。それを噛み砕き要約すると――
・五対五のチーム戦。
・メンバーをそれぞれ先鋒、次鋒、中堅、副将、大将として割り振り一騎打ちを五回行う。
・敗北判定は戦闘続行不能になったと確認された場合。具体的にはダウンしてから十カウント。
・勝者数が多いチームが勝利する。
・もし先に三勝しても副将、大将戦は行われる。
・引き分けが発生して勝利者が同数になった場合は両チーム代表を一人選出し決闘を行う。これは決着が着くまで実施される。
――とのことだ。
幾つか聞いたことのない単語が出てきたがその都度に質問して自分の中で知っている言葉に置き換えた結果がこうなった。
戦う順番だが、ナムコット博士が独断と偏見によって決めたらしく紗百合、桐花、育、葵、俺でエントリーされている。つまり俺が大将ということで、緊張で少し拳に力が入りそうだった。
他にもなど細かい説明はあったが、これだけ頭に置いておけば困らないだろう。
「あとメモリーズ・マギアにある決戦形態、今回は使用禁止だからね」
「え、そうなんですか?」
「……イク君、アレは名前の通り対怪物を想定して使用する代物なのだよ。それは経験したキミが一番分かってると思うがね」
「そ、そうですね! すみません!」
ペコペコと頭を下げる育。
そんな時、紗百合から手が上がったことで俺も含めたみんなの視線がそちらに向く。
「質問なんですけど、禁止されている魔法とかってあるんですか?」
「キミたちに出場してもらうのは地上戦部門だからそれさえ踏まえてくれれば基本的に禁止されている魔法は無いよ。例え死んだとしても蘇生出来るくらいの設備はあるから安心して戦いたまえ」
「そうなんですか。……いやそれ安心できませんって!?」
紗百合から鋭い指摘が飛ぶ。しかしナムコットは「ハハハハ」と笑って流すのみだった。
歓談も交えながら粗方の話を終えると白い箱の空間から出ると、コンピュータのディスプレイを食い入るように見つめるリーズネットさんが居た。表情を唸りながらコロコロと表情を変化させているその様子はまるでにらめっこでもしているようだった。
「やぁリズ君、順調かい?」
「いや全然。トランス理論で詰まってます」
「はっはっは、まぁこの私の研究だからねぇ。無理も無い」
「クッソ腹立つ……ていうか何なんですかこれ。こんなん理解できるわけないでしょ」
「当たり前じゃないか、それを理解できる人間は宇宙に存在しないよ」
「……はっ!? てことは時間の無駄になることをさせてられてたんですか私!?」
笑うナムコット博士と怒るリーズネットさんの言い合いを視界内に収めつつも画面へと視線を動かす。そこには未知の言語で式のようなものが羅列されていて正直見ただけで頭が痛くなりそうだった。
「あ、ナムコット博士。聞きたいことがあったんですけど」
「どうしたサユリ君」
「いや、本当なら私って予定されてなかったんですよね? どうやってチーム戦にエントリーしたんですか?」
「簡単な話だ。空いている枠にリズ君の名前を書いた」
「ちょっと待って博士それ初耳なんですけど!?」
「言ってないからね。しかし幸か不幸かベネトから新しくサユリ君が参加したと報告されたからメンバーの修正を行ったのさ」
「サユリちゃん、キミは私の救世主だよ!!」
紗百合の手をその両手で包み涙目でブンブンと振るリーズネットさん。その反応でどれだけ普段が大変なのか分かった気がした。
「決闘祭までの期間、魔法の練習をしたい場合はここに来ると良い。私は少し用事があって忙しいが、リズ君は基本ずっといるからね」
「ベネトさん経由で連絡してくれれば開けとくんで、歓迎しますよ。ここ寂れてるし」
「寂れてるは余計だぞッ!!」
リーズネットさんに見送られながら実験室から出た俺たちは地上へと帰って来た。
「さて諸君、決闘祭の時は私も応援に行かせてもらうから頑張ってくれ」
「はい、ありがとうございます」
ナムコット博士から差し出される手。代表して俺が前に出て握手を交わす。
――その瞬間、妙な感覚を覚える。
握っているナムコット博士の手が、異様に冷たい気がしたのだ。氷に触れた感覚にも似ている。
だが、物理的なことではない。その証拠に自身の手にはしっかりと相手の体温を感じる。
しかしこう何か……そう、まるで生気が感じられないような――
「どうしたのかねレン君、私の手をがっちりと握り締めて」
「――え? あ、あぁ、すみません」
どうやら自分でも気付かない間に強く握り締めてしまったらしい。
それを認識した恋は直ぐに手を離した。
「それでも、キミたちはサブテラーに来るのは初めてだろう。決闘祭のことだけでなく観光も楽しみたまえ」
踵を返し研究所へと帰って行った博士を見て俺たちも次の目的地へと移動を始める。
しかし、その手には先ほどの感覚が嫌に残っていた。
紗百合と桐花の模擬戦と魔法決闘祭のルールも説明されたことで時間も経ち昼ご飯の時間になったので近場の店で美味しい料理を食べた後に図書館へとやってきた。
――巨大と神秘。たった二語だが、図書館の外観を語るには充分だった。
王城よりも先に訪れていたのなら、こちらを城と間違えてしまう位には巨大なその建造物。白を基調とした石造りになっており、美麗な装飾と合わさってどこか触れ難い雰囲気を醸し出す。玄関ホール前の広場には噴水が設置されていたり、綺麗に切り揃えられた青々しい植え込みとデザインにもかなりの力が入っていることが見て取れた。
ベネトに利用にあたっての注意事項を聞いた後扉を潜ると、そこに広がるのは想像を絶する光景だった。
「すっげ……」
外観と釣り合う豪華な内装。本、本、本。数えるのが馬鹿らしくなるほどの本が所狭しと存在していた。
見上げれば魔法によってか空中に浮いている本棚も幾つか。その神秘的な光景には流石は魔法が発展した国と納得する自分が居た。
また長机が幾つも設置されており、そこで読書をしている人やノートを広げ勉強をしている人も見受けられた。
大きな音を立てないように階段をゆっくり降りて行く。
紗百合へと視線を向ければその目は爛々と輝き今にも飛び出しそうな様子だった。
「サユリはどんな本が読みたいんだい?」
「サブテラーの歴史とか、そういうのが分かる本が良いな」
「おっけー」
ベネトは壁傍に設置されている端末の一つを触ると画面が映り、この国の言語と思わしき文字を入力する。すると目次のようなものが表示され、その内の一つをタッチすると端末から青白く淡い光が現れたかと思うと、ゆっくりと移動し始めた。
蛍のようなその光に着いていくと、空間の中でも奥の方にある一つ本棚の前でくるくると回り始める。ふと吸収されるように消えて行ったかと思えば、本棚に収められた一冊の本が先ほどの光と同じ色に淡く光っていた。
「はい、サユリ」
「ありがとうっ。こういう感じで本を探すんだ……見た目も綺麗だし、凄く楽しいね」
「気に言ってもらえたようで良かった。それで、他のみんなはどうする?」
考えること数秒。答えが出るのは意外にも早かった。
「そうだな……俺は図書館を見て回りたい」
本を読むのも良いがこういった雰囲気を味わうというのもなかなか出来る体験ではない。折角なので観光のように見て回ることを選択した。
「ボクはベネトさんが前に言ってた『アルカエス伝説』を読んでみたいです」
「……私もそれが良い」
「それだったら僕が場所を覚えてるからすぐ持ってこれるよ。トウカは?」
「私は興味ないからなー、とりあえず紗百合と一緒に居るよ」
「それじゃあこの『第四学習室』っていう場所で本を読もう。レンもここに帰って来てね」
「了解」
壁に張り出されている館内図で示されながら言われたのでしっかりと場所も把握できた。
そうして恋は自らの目的に沿って、ベネトたちが歩いていった方とは違うの方向へと歩き出す。
王立図書館は本館と別館があり、恋たちが今回訪れたのは別館に当たる。本館はレナトゥス領にあるのだが、こちらは保存を目的とした図書館であり読書をするには向いていないのだとか。
ファンタズマは学問・研究特化の区域ということもあり、数多の蔵書が一般人でも気軽に読めるようになっている。蔵書量が三〇〇〇万を超えるという事もあり、建物の大きさにも合点がいった。
しかしベネトからの話を聞くに、これでもレナトゥス領の本館と比べて何倍も少ないのだとか。星間交流を行う以上、様々な星の本や文献が集まるのだろう。
そうして考えながら歩くのも雰囲気を味わえて良いのだが、流石に時間をかけすぎるというのもみんなに悪い。目についた本を一冊選んで帰ることにした。
しかし、これが中々上手くいかない。明らかに古いものや綺麗なものを背表紙で判断するがイマイチこれといったものが見つからないのだ。
そうして何となく棚を眺め歩いていた時、ある一冊の本が目に留まった。
目に留まったというのも当然で、その少し厚い本の装丁は見事に黄色一色だったのだ。
「へぇ、こんな本があるのか」
手に取ってパラパラと捲ってみる。
読めないためあくまで雰囲気で察した程度ではあるが、どうやらこの本は物語のようだ。文章の構成が昔紗百合に無理やり読まされた神話などに似ている気がする。
そんな時、ふと視線を感じた。
自分の感覚に身を任せその方向を見る。そこにはフード付きの雨合羽にも見える黄色いローブを身に纏ったクリーム色をした髪の少女がいた。向けられた遊色の瞳がどこか輝いて見えるのは気のせいだろうか。
そんなことを考えていると、その少女が駆け寄ってきて俺の手を取ってきた。
「ねぇねぇ! なんでその本を手に取ったの!?」
「え? えー……気になったから?」
「なんで気になったの!?」
「やっぱり、黄色一色で目立つからかな。少し読んでみたいって思ったんだよ」
そう言うと目の前の少女はまるで花が咲いたかのような笑顔を浮かべると手を引いた。
「ちょ、どうした!?」
「えへへ、着いて来て!」
この少女、何故か異様に力が強い。
無理やり振りほどくことも出来そうではあるが怪我をさせてしまったら申し訳ないし、されるがままに連れて行かれることにした。
そうして暫くすると一つの扉へとやってくる。
「えっと、ここは?」
「第七学習室! 私たちがいつも勉強してるところ!」
そう言って少女はその扉を開くと俺を引きずって部屋へと入って行く。
「やっと帰って来たわねセラ、いい加減に……」
真っ先にこちらを向いた明るい赤色髪の少女が発しようとした言葉を中断して俺のことを見る。いたたまれなくなって視線を動かすと他に黒色髪の少女、青色髪の少女、銀色髪の少女が居て全員の視線が俺に突き刺さる。
「えっと……この子に連れて来られました」
正直、この状況で言葉を発することが出来た自分を自分で褒めたい。
手を繋いでいる黄色の少女はただニコニコと笑っているだけだった。
読んでいただきありがとうございます!
謎の少女に連れ込まれた部屋、そこには謎の少女が4人……。
次回、少女たちの正体とは!?
お楽しみに!