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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
混沌の章 魔法少女決闘祭
36/163

第1話 訪れた異世界

第1話になります!

……ほぼプロローグです()


 ベネトが我が家に転移してきたことで隠していた魔法のことがバレてしまってから一時間。恋たちはようやく解放された。

 紗百合は基本的には雑食だが、魔法モノや神話など幻想的な内容の本を好んで読む傾向があった。

 夢にまで見た魔法の存在により、そのテンションはここ三年の中でも最高潮。桐花が目覚めなくなってから星宮市で起こっていた事件など、一通りの説明をすると(ようや)く落ち着いてくれた。

 疲れた様子のベネトと目が合うと脳内にピリッとした感覚が走る。念話が繋がった時の合図だ。


『ベネト、どうするんだ?』

『……まぁ僕としては消したくないかな。混乱を防ぐためとはいえ隠していたのは事実だし、何より被害にあったトウカの妹だ。もちろん他の人には黙っていてもらうけど、知ってしまったのならこのままにしようと思う。……それに、ちょうど良いこともあるしね』


 最後に小さく聞こえた声に恋は首を傾げる。もしかすると、今日やってきたことと関係があるのだろうか。

 そんなことを考えているといつの間にかベネトとの念話は切断されていた。


「僕のミスで思わぬ時間を食ってしまったけど、本題にいこう。実は、みんなをサブテラーに招待することになったのさ!」


 「はい拍手ー!」と言いながら翼を使って拍手を鳴らすベネト。唐突な内容に困惑する面々だったが、恋は思い当たる記憶があった。

 サブテラー。それは確か、ベネトが元々いた星の名前ではなかっただろうか。

 つまり、恋たちは今、異星への招待を受けたということになる。

 状況を飲み込み理解しつつある中、挙手したのは葵だった。


「……質問。サブテラーは別の世界って聞いてる。どうやって行くかは置いておくけど、時間は足りるの?」

「それに関しては大丈夫! サブテラーが存在する次元はちょっと特殊で時空間が隔絶されててね。向こうで幾ら過ごしてもこっちの時間は全然進んでいないから心配は無用だよ」

「……わかった、ありがとう」

「あ、じゃあボクからも! 他の星に行くなんて想像も出来ないんですけど、何か持っていかなきゃいけないものとか準備することってあります?」

「そうだね……あ、そうだ。それなら先にこっちを済ませてしまおう」


 そう言ってベネトが取り出したのは二つの黒いカードケース――メモリーズ・マギア。色のついた幾何学線が刻まれていないことから未登録のものであると分かる。

 それをベネトは桐花と紗百合に手渡した。紗百合に関してはどこから取り出したのか興味津々といった様子だったが、話が進まなくなるため静止されると唇を尖らせながらも納得してくれた。


「じゃあ二人とも、それを持ったまま理想の自分を強くイメージして。どんな自分になりたいか、その強い願いがメモリーズ・マギアを起動するのに必要なんだ」

「理想の自分……わかった!」

「おお、魔法っぽいね!」


 元気よく返事をした桐花と感動したように瞳を輝かせる紗百合は互いに目を閉じ集中する。そして間もなく二人の手の中にあるメモリーズ・マギアが強い光を発しそれがゆっくりと納まると桐花のものは青色の、紗百合のものには黄色の幾何学線が刻み込まれていた。


「よし、それで本登録は完了だよ」

「おお……! ねぇベネトさん、これで魔法が使えるようになるの!?」

「そうだけど、もし使うのなら話が全部終わってからね」


 苦笑いするベネト。幼子のように瞳を爛々と輝かせる紗百合を(たしな)めると、話を再開した。


「とりあえず、僕が地球にやってきたのはレンたち四人をサブテラーに招待のお知らせ……の予定だったんだけど、サユリも招待することにしたよ」

「え、私も行けるの!?」

「そのためにメモリーズ・マギアを渡したんだよ。それがこっちの世界で言うところの切符であり、証明書の代わりでもあるから」

「証明書? これが?」


 紗百合は手元にある待機状態のメモリーズ・マギアをまじまじと見つめる。カードケースにも似たそれはとても何かを証明するような物とは思えなかったからだ。

 そんな紗百合に対して、ベネトは丁寧に説明する。


「そうさ。メモリーズ・マギアは使用者の登録を行うでしょ? そこには魔力のパターンとかいろいろな個人データが詰まっているから、本人確認をするのにも便利なんだ」

「あ、なるほど。血液型とかみたいなものか。それで証明書にもなるんだね」


 様々な角度からメモリーズ・マギアを観察する紗百合だったが、話の途中であることを思い出し居直った。

 それに合わせてベネトの話も再開される。 


「出発の予定は二日後。持ち物はメモリーズ・マギアは当然として、着替えや日用品とかは持っていった方が良いかもね」

「……旅行の支度(したく)をすればいいってこと?」

「うん。その認識で構わないよ」

「あ、ベネトさん。お金とかはどうしましょう……?」

「今回はボクたち側が招待するんだ、お金は支給するよ」

「そ、そうなんですね。わかりました! 貰えるのならありがたく使わせてもらいます!」


 サブテラーに関しての話が弾んでいく。観光したいという桐花に図書館の本を読んでみたいという紗百合。

 そこには未だ見たことのない魔法の世界に想いを馳せるみんなの姿があった。


「あ、そうだレン。何か聞いておきたいこととかある?」

「え? ……そうだなぁ」


 突然のベネトの言葉に恋は腕を組み考える。

 持ち物に関しては葵が言ってくれたし、お金のことも育が言ってくれた。

 あと気になることといえば――そうだ。


「招待されるのはいいけど、俺たちはサブテラーで何をするんだ?」

「おっ、いい質問だね! それじゃあ今から向こうに着いてからキミたちにやって欲しいこと説明するよ!」


 ベネトがそう言うと他の四人が話を聞く体勢へと移る。書くいう俺もベネトの方に体を向けていた。


「みんなにやってもらうのは大きく三つ。まず着いたら一番最初にするのが王との謁見かな」

「お、王様……ですか?」

「サブテラーは王国で、今回キミたちの招待を決めたのは王様なんだ。だから顔通しはしっかりしてもらう必要がある」

「ベネト、私……まぁ他のみんなもそうだと思うけどマナーとか分からないんだ。それでも大丈夫かな?」

「それは向こうもちゃんと分かってくれてるさ。暴言を吐いたりだとか、よほど無礼なことをしない限りは大丈夫だから気を楽にしていいよ」

「ほっ、それなら良かった」


 紗百合の質問の答えに俺自身も胸を撫で下ろす。王、またはそれに関係する人と会うなど経験が無いため不安だったのだが、ひと先ずは安心できそうだ。

 ひとしきり質問が出きったと判断したベネトは次の話へと移す。


「二つ目はキミたちが持つメモリーズ・マギアの製作者に会ってもらうことだ」

「……それは、どうして?」

「向こうが会いたいって言ってるのさ。なんでも、使用した感想とかいろいろ聞きたいらしいよ」

「これを作った人ですか……お話聞いてみたいです!」

「あー……やめておいた方が良いよイク。アイツは馬鹿みたいに余計なことしか話さないからね。適当にあしらっておくことをお勧めするよ」

「えー、でもやっぱりお話はしてみたいです!」

「あぁ……それなら好きにして。僕は止めたからね」


 いつも元気なベネトがかなり疲れたように告げた。どうやら、ベネトにとっては思い出すだけでも面倒らしい。そんな感情が態度からありありと伝わってきた。


「で、気を取り直して三つ目だけど……これは向こうに着いてから話すよ」

「えー! 言ってくれてもいいじゃん!」

「言いたいことも分かるけど、ちょっと予定が変わっちゃったからさ。色々調整しなくちゃいけないことが出来たんだよ」

「あー……それってもしかして私のせい?」

「サユリには申し訳ないけど、まぁそうなるね」

「ご、ごめんねベネト」

「あはは。逆に手続きが減った分、負担も減ったというか。気にしなくて大丈夫だよ」


 紗百合を慰めていたベネトが全員に向き直る。その真紅の瞳と視線が合った。


「とまぁこんなところなんだけど、全体を通して質問はある?」

「うーん、私は特にない! 恋と紗百合は?」


 桐花からのパスに再び思考する。

 知りたかった情報も聞いた。俺としてはもう聞くことは無くなったと思う。

 特に聞き逃しているようなことも多分ない。あるとすればサブテラーに着いてからだろう。


「俺はないぞ」

「私も旅行のことに関しては無いかなー。二人はどうです?」

「……聞きたいことは聞けたから大丈夫」

「ボクも無いよ!」

「おっけい! それじゃあ二日後、午前八時にレンの家に集合で!」


 話が終わり休憩を挟むとそれぞれの活動が再開される。

 桐花は紗百合と付きっ切りで勉強するためそれを気遣い遊びはせず夏休みの課題をすることにした。

 葵と育が帰った後は大きめの鞄を探し出し荷物を纏め、紗百合と桐花もそれぞれ自身の準備をしていた。足りないものは翌日に買い、空いた時間はなるべく課題に取り組む。

 そうして二日という時間はあっという間に過ぎ去り、五人は再び集合していた。着替えなど生活用品を詰め込んだ大きめの鞄と、観光移動用の小さい鞄を手にしていた。

 時刻は予定通り午前八時、天気は快晴。それぞれ忘れ物も無い。準備は万端だった。


「よし、みんな集まったね! それじゃあ行こう!」

「あのー……行こうって、どうやってです?」

「ふっふっふ、まあ見てて」


 ベネトは自身のデバイスである球形の機械を取り出すとリビングから出て行く。荷物を持った俺たちはそれを追って行くと彼の目の前には玄関の扉があった。

 デバイスを操作し、玄関に魔法陣が展開され光り輝く。ふと隣に視線を向ければ興味深々といった様子で見つめる紗百合の瞳がその光を反射していたからかとても煌めいて見えた。


「……よし! これで完了! ほら行くよ!」


 魔法陣が消え去る。しかし玄関の扉は特に変化したようには見えなかった。

 ベネトの言葉に靴を履き玄関の扉を開ける。


「……は?」


 自分の口からかなり間抜けな言葉が出たのが聞こえる。

 少し言い訳をさせてもらいたいが、恐らくコレを見れば誰もが俺みたいな反応をするだろう。

 なぜなら、目の前に映っていた景色はいつもの家前ではなく、閑散とした建物の中だったのだ。


「おい!! どこだよここ!?」

「ん? どこって、サブテラー行きの電車に乗る駅だよ」

「いやそれは……ああ、もういいや」


 ベネトの簡潔な答えに何か言うことに疲れを感じ吐き出そうとした言葉を飲み込み扉の外へと躍り出る。辺りを見渡してみればその装いは地下鉄の駅ようで彼の言葉が嘘ではなかったことに納得する。


「駅……なのか?」

「みたいですね。恋先輩のとは違う転移……」

「おおおお! 何これすごっ!」

「すごいすごい! こんなファンタジー体験ができるなんてテンション爆上がりだよ!!」


 他の四人もこちらに来るとそれぞれが感想を口にする。特に魔法に触れることが無かった桐花と紗百合の気分は相当に昂っていた。

 最後にベネトが扉を閉め鍵をかけると、この場所にとって異様に浮いていた出入口は消え去った。


「ん、時間も丁度いいね。電車が来る」


 ベネトが見ている方に俺たちも視線を向ける。どこまでも続いているかと思わせる深淵の暗闇があり、そこにはぽつりと二つの白い点が浮かんでいた。

 その点は段々と大きさを増していきホームを照らす頃になれば、それが備わっている物体の姿も見える。黒塗に金色のラインが特徴的な列車が目の前に停止し、空気を吹き付けるような音と共にその乗車口が開かれた。


「ささ、みんな乗って!」


 その言葉に押されるように全員が車両へ乗り込む。

 電車内には赤いシートの座席が並んでいた。別段古臭さも未来感も感じることはなく、恋たちが良く知る電車の装いを思わせる。車内の温度も特に寒い、暑いということはなく丁度いいものだった。

 そんなことを考えていると背後で音を立てて閉じる扉。それと同時に少しばかり慣性の力を受ける。どうやら電車が動き出したらしい。


 窓を眺めると、ただの暗闇が広がっていた。

 電車の速度が段々と上がっていく。

 そうして、次に瞬いた時――窓の外には無数の煌めきが広がっていた。





 そうして現在、俺たちは電車に揺られるがままおよそ一時間ほど経っていた。

 紗百合に関しては未だその目を輝かせながら外の景色を眺めている。星が好きなのは以前から変わらないようだ。


「ん、ん……よく寝た……」

「ベネト、おはよう」

「ああレン、おはよう……」


 呻き声にも似た声を聞けば体を起こしたベネトの姿があった。大きく欠伸をすると自身にかけられた上着に気付いたのかきょとんとすると俺を見つめてくる。


「これ……レンのかい?」

「おう、そうだぞ」

「……そっか。ありがと」

「どういたしまして。ちゃんと休めたか?」

「うん、だいぶ楽になったよ」


 不安定ながらも上着を足に引っ掛け飛んできたベネトからそれを受け取る。彼に触れていた箇所がほんのりと暖かった。


「ベネトさん、大丈夫ですか?」

「うん、しっかり寝たからもう大丈夫! それより、そろそろサブテラーに着くよ!」


 その言葉と共にベネトの視線の先を見ると電車が進む方向にひと際輝くモノがある。かまぼこのような形のそれは、トンネルの出口を思わせた。


「みんな、入った時眩しいから目塞いでてね!」


 警告通りに目を腕で覆う。瞬間細目ながらも感じる光に電車内にかなりの光量が入り込んだのが分かる。そして次第に目が慣れたことで腕を退ける。窓の外を覗き込めば、電車が走っていたのは蒼穹のソラだった。


「ねぇ、アレ見て!」


 紗百合が指で示す先を見れば、呼吸が止まったかのような錯覚に陥る。

 まず目についたのは白亜の城。高貴さを感じさせるそれは王が住むにはまさしくといった立派なもので、その下で様々な建物が並んでいる。日本で言うところの城下町だろうか。遠目で見ても人の活気で溢れ、栄えているのが窺えた。


 次に、その周囲へと視線が動く。

 巨大な帆船が幾つも停泊する区画、ビルのように高い建物が立ち並ぶ近未来感漂う区画、闘技場のような施設がある区画、観覧車やレールといった建造物が並ぶファンシーさを感じさせる区画。そしてそれら全てを囲むように切り立つ白銀の峰やコバルト色の鮮やかな海、巨大樹が乱立する森などの雄大な自然が存在していた。

 世界を宇宙から見たような、そんな光景に自然と目を奪われていた。


「ようこそ! 神秘と科学が織り成す混沌の星、常に発展を続けるサブテラーへ!」


 遥か遠き異星の地で、新たな物語が始まる。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

話全然進まなくて申し訳ありません……これプロローグにまとめた方が良いのでは?となりましたが投稿しました。次の章からはプロローグ1話で納めるようにします……。


さて、次回は観光……の前に王様との謁見、そこからメモリーズ・マギアの製作者との出会いですね。

戦闘を楽しみにしてくださってる方、申し訳ありませんがこの章では中盤以降になります。なので暫くは異世界にやってきた主人公たちの反応をお楽しみください。


では、後書きはここまで!

また次話でお会いしましょう!


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― 新着の感想 ―
[一言] ついに魔法少女なのに女の子が葵だけって事態が解消された……まぁ、拙者TS大好きマンなので気にしてなかったんですがね!w
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