日常編 その4!
オムニバス形式です。
今回のネタは人によっては分からない人もいるかもしれんな……そこは申し訳ない。
それではどうぞ!
【友達の友達は友達?】
「ねぇねぇ、私も恋のお友達に会ってみたい!」
桐花の病室へとやってきたとき彼女が突然そんなことを言い出した。
「……どうしたんだ突然?」
「紗百合から聞いたの! 私に黙ってるなんて酷いよ!」
「あいつ……」
頭を痛めるように抱える恋。彼にとってあまり知られたくなかった事だったのかもしれない。
そして彼女の様子も気力が満ちているようで声に張りも出ている。入院生活で本来の調子を取り戻してきているのだろう。
「恋と一緒に私を助けてくれた人なんでしょ? それなら、1回お話ししたいな」
先ほどまでの元気に溢れた様子は鳴りを潜め淑やかな雰囲気を纏う。その表情も微笑んでいるがどこか申し訳なさそうだった。
桐花はアルカエスの花に取り込まれていたときの記憶を所持していた。
寝惚けながらテレビを見るような感覚で恋たちが戦っていたことなどを朧気ながら覚えているということが彼女の口から恋に語られた。発覚した際にベネトが記憶処理を行おうとしたのだが本人が拒否したことで関係のない人には打ち明けないという条件で現在もそのままの状態でいる。
そんなことで現在も入院している彼女だったが恋の他にも魔法を使っている人がいたことに興味を持った、というのが今回の経緯だった。
「……ん、分かった。それなら今度呼んでみる」
「ほんと!? やったっ」
「あぁ、紗百合から届いた勉強をきっちり終わらせてたらな」
ぴしり、とまるで石にでもなったように固まる桐花。それを他所に恋はベッドの傍に積んであるノートの内の1冊を手に取ると椅子に座る。
「ほら、始めるぞ」
「うぅ……はぁい……」
涙目ながらも桐花はペンを走らせる。
そして別の日、遂に顔を合わせる時が来た。
「……立花葵、です。高校1年です」
「初めまして柊さん、ボクは浮泡育っていいます! 中学3年生です!」
「柊桐花、16歳! 恋の1つ上だから2人よりも先輩になるかな。 よろしくね!」
自己紹介を済ませると軽い握手が交わされる。それを終えると桐花の視線が葵と育の全身を観察するように動き始めた。戸惑う2人だったがそれを気にすること無く続けられたその行動は数秒で止められると桐花はその口を開いた。
「うーん、2人とも可愛いね!」
「そ、そうですかね? えへへ……」
「うん! 特に育くんは男の子なのにすごいよね! どうやったらそんな風に生まれてくるんだろ……」
「……ふぇ?」
そんな可愛らしい声に続けるように言葉が続けられる。
「ぬふふー、騙せると思った? 残念だったな、桐花ちゃんの目は誤魔化せないぜ!」
「……え、すごい! 初対面で見破られたの初めてです!」
誇らしげにする桐花とそんな彼女に心の底から驚いた様子の育。それを気に話が弾み始めた。
育は食べ物の好みや趣味、葵は恋が昔はどうだったのかなどを桐花に聞く。その質問に対してしっかり返した後に同じように質問を返したり恋はどうしてたのかなどを2人に聞いたりして本人が戸惑うなど笑顔に包まれた光景が繰り広げられ、時間が過ぎて行った。
「桐花、そろそろ」
「……あぁ、もうかぁ。駄目だね、楽しい時間は早く過ぎちゃうや」
窓に視線を向ける桐花。そこにあったのは夕焼けに染められたオレンジ色の空だった。
視線を戻すとその先には葵と育の姿が。
「2人とも、今日は来てくれてありがとね」
「いえいえ! 恋先輩の幼馴染ですもん、ボクたちにとっても友達みたいなものですから大丈夫です!」
その言葉を受けて両目を見開いた桐花。それと対照に葵の目は細められ育を見ていた
「……育の友達判定、ガバガバ過ぎない?」
「ええ!? こんなに楽しく話せたんですよ! それならもう友達って言っても良くないですか!?」
「……無理でしょ」
「むぅ……!」
そんな言い分に育は葵と恋の手を引き桐花の目の前に立つと全員の手を重ね合わせた。
「はい繋がった! もうこれでみんな友達ですね!」
「……子供みたい」
「うるさいですね、どうせボクは子供ですよ! だからもうみんな友達です!」
そんなやり取りの中、ふと桐花の雰囲気が変わっていることに3人が気付く。
彼女は俯き、その体を震わせていたのだ。
「……私なんかが、友達で良いの?」
か細く発せられた声は自信の無さからか、それとも他の何かが理由なのか。
それを察することは出来ない育だったが、その表情には柔らかな笑みが浮かんでいた。
「もちろんですよ柊さん。ボクは友達になりたいです!」
「……私も、桐花さんが良いなら。……レンちゃんのこと、もっと聞きたいし」
「ん? 葵先輩何か言いました?」
「何も言ってない」
「えぇ……めっちゃ食い気味……」
寸劇のようなことが繰り広げられる中、桐花が顔を上げる。
「……うんっ! それじゃあ、これから友達としてよろしくねっ!」
そこには笑顔が花のように咲いていた。
【読者モデル】
「あ、そうだ葵先輩! 見ましたよこれ!」
ある日の食堂、仲良く昼食を摂っていた3人だったが育が鞄を漁ると机の上に置かれたそれはファッション雑誌だった。それをペラペラと捲っていくとあるページを開けばそこには真っ白なワンピースに身を包みポーズを決めている葵の姿が。それを見た本人は目を細め育を見据える。
「……なんでそんなの見つけてくるの」
「ボクにとってファッションは大切なことなので! で、どうしてこんな雑誌に?」
「……別に。少しお金が欲しかったからバイトで応募しただけ」
「いや、似合ってるな。可愛いと思うぞ」
2人が言い合ってる中、食べ物を飲み込んだ恋が雑誌に目を向け言い放った一言で葵の雰囲気が一変した。
「……そう?」
「? おう」
真顔で恋を見つめ問い返す葵だったがよく見れば指先を絡めていたり時折髪を弄ったりしていることからどうやら喜んでいるらしい。
「にしても、これだけ映えると正式オファーとかされそうですけどね……スカウトとかされなかったんです?」
「……されたけど、断った」
「ええ!? なんでですか!?」
身を乗り出して声を張り上げた育に周りの視線が集まり、それを感じてゆっくりと着席する。
「……欲しかったお金はバイトだけで事足りた。それに……」
「……それに?」
小さく息を吸った葵が、再び口を開く。
「……読者モデルは、シャウトが出来ないと駄目らしい」
「いやごめんなさい葵先輩、どういうことですかそれ」
予想外の答えだったのか育のツッコミが刺さるが意にも介さず続けられる。
「……読者モデルは、シャウトが出来るのかどうかが選考基準らしい。私には出来ないから、どのみち無理」
「いやいやそれどんな情報!? どこの世界にシャウトが必要な読モなんているんですか!?」
「……ネットで調べたのに、間違ってたのかな」
「先輩、お願いですからネットの知識あんまり鵜呑みにしないで!? 色々心配になっちゃいますから!!」
結局、育の必死の説得にも葵は読者モデルに対する見方を変えることはなかったのだった。
【それぞれの休日】
≪恋の場合≫
ある休日、快晴の中で河原に10数人の人がいる中で恋はゴミ拾いのボランティア活動をしていた。
額に流れる汗を拭う姿もそこそこ整った顔立ちから様になっている。
「よーう兄ちゃん、いつも参加してくれてありがとうなぁ」
「いえいえ、自分がしたくてしてることですから」
年配の男性からの言葉に柔らかく返すと自身の周りにあるゴミがほぼ無くなったことを確認すると今度は違う場所へと移動する。手に持っていたゴミ袋に空き缶や破片などが集められる中、終了の声が上がると撤収した。
そして恋が次に向かったのは街の掃除のボランティアだった。
小さいものでは吸い殻や大きいものだと折れた傘まで様々なゴミが手元の袋の中に納まっていく。そうして数時間、複数の人によって集められたゴミが一か所にまとめられる。
「んん……今日はもう終わりかー」
大きく背を伸ばすと歩き出す恋。その道はゴミ1つ無い綺麗なものとなっていた。
≪葵の場合≫
時刻は昼、ある蕎麦屋の前にある行列に彼女はスマホを弄りながら並んでいた。
「……」
次々を名前を呼ばれ店の中へと入る人のスペースを詰めるため前進し、いよいよ列の先頭に踊り出た彼女はスマホは既に仕舞っておりどこか落ち着かない様子を見せていた。
「1名の立花様、どうぞー!」
「……! はい」
元気な女性店員に連れられ店内に入った彼女は案内された個人席に腰を下ろすとメニューを開き、目的のものを見つけるとすぐさま店員を呼ぶ。
「はい、お伺いします!」
「……カツ丼1つ」
「カツ丼1つですね! かしこまりました!」
注文を終えると水をちびちびと飲みながら待っていること暫く、その時はやってきた。
「お待たせいたしました、カツ丼になります!」
彼女の目の前にやってきたのは卵に包まれ出汁によってしっとりとしたカツが煌めきご飯の上
に乗っている姿だった。
しっかりと手を合わせ「いただきます」と告げればカツを一切れ掴み、一口食べると葵の口角が僅かに吊り上がる。ただ静かに食事を続け気付けば丼ぶりの中は米粒1つ残っていなかった。
「……ごちそうさまでした」
会計を済ませ店から出た葵はポケットからスマホを取り出すと画面には数値が表示されていた。
「……よし、またトレーニング頑張ろう」
彼女の歩く姿は、どこか機嫌の良いものだった。
≪育の場合≫
1人の少年の手にある針が小さく動く。
そして針を置けば出来上がっていたのは角のついた馬、ユニコーンと呼ばれるものだった。
「……よし、可愛くできた!」
羊毛フェルトで作られたであろうそれを見た彼は満足そうに頷くとそれを優しく机の上に置くと再び針とフェルトを手に取り新たな作業を始める。ただ静かな時間が流れる中、時折思い出したかのように大きく息を吐く。
ペットボトルに入った水を幾らか飲めば作業は再開され、彼の瞳は手元にのみ注がれており途轍もない集中力で行われていた。
そして4つ目が丁度完成したところで彼の部屋にノックの音が響く。それに育が反応すると扉が開かれ1人の少女が現れた。
「育、ご飯の時間だよ」
「え? ……うわ、ほんとだ。ありがとね」
「どういたしまして」
体を伸ばしたりして筋肉を解した彼は部屋から出ると少女と2人並んで歩き出した。
「今日のご飯はなーにっかなー……ってカレーだ! 匂いここまで来てる!」
「うん、野菜たっぷりにしておいたから」
「やった! 楽しみだなー♪」
「……可愛い」
「え? 何か言った?」
「な、何でもない」
「そう? なら早く行こう! カレーとみんなが待ってる!」
「ちょ、ちょっと!」
少女の手を引く彼は笑顔が浮かんでいた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回ですが番外編になります。
内容は本編で出ていたものの解説をする予定です。
そしてその後、遂に2章突入します!
実は7割くらいしか固まってないのですがあとは書きながらのノリと勢いで行きます!
それでは後書きもここまで!
また次話でお会いしましょう!




