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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
始まりの章が終わってから!
31/166

日常編 その3!

日常編もその3です。

今回はやっとこさオムニバス形式です。文字数は私にしては驚くほど少ないです。

短編だしユルシテ……。あと何故か筆が進まないの……日常編書くの向いてないっぽいですね私。悲しい。


前書きもこのくらいで。

それではどうぞ!


【鍛錬】


 ある青空が広がる日の山間にある大きな森、そこは人の手が入った形跡も無く木々の隙間から陽光が照らしている静かな場所だったが突如として空気が変わり、野生の鳥たちが次々に飛び立っていく。

 それから暫くして、その地点を2つの影が高速で過ぎ去った。


 1つは必死の形相で駆ける葵。

 現在の彼女は紫色の装備に身を包むその姿は見る人に凛とする印象を抱かせるものだったが、その顔に浮かぶ表情から余裕の無さが伺えた。それに加え地を踏みしめ木々の隙間を縫うように抜けていく彼女が時折背後を確認している様子から何かに追われていることが分かるだろう。


「っ!?」


 しかし彼女は突如として足を止め背後を見る。そこには何者の姿も無かった。

 静寂に浅い呼吸を繰り返す音が聞こえる中、それを切り裂くかのように彼女の背後の茂みが揺れた。

 急いで先ほど来た道を戻ろうにと意識を自身の前方に向けた瞬間、何かが迫ってくるのが見えた。躱そうと必死に体を捻ろうとするが自身を襲おうとするものの軌道上から外れることは叶わない。

 彼女に向かって迫ったソレが、肩に触れた。



「……また、負けた……」


 膝を抱えて地面に座る葵。それを見た恋はなんと声を掛けていいか分からないといった様子である。


 調査の結果、二次災害などが起こる可能性は限りなくゼロに近いことを恋たちに話したベネトは一連の事件を報告するためにサブテラーへと帰還しようとしたのだが、育の『もっと魔法の練習をしたい』という提案折角だからと乗っかる葵。それを受けたベネトは持っていた予備のデバイスに認識阻害の結界を作る魔法をプログラムするとそれを3人に手渡した。予備のものとは言えど申し訳なく感じた恋だったが『連絡を取り合うにも丁度良い』とベネトは笑って語ったことで丸く収まった。


 そして現在。

 恋、葵、育の3人は魔法の練習をしていた採石場跡地に結界を張り魔法の鍛錬をしていたのだが少し趣向を変えようと変身する以外に魔法の発動は無しという条件の下でおにごっこをしていた。


「あー……葵? 大丈夫か?」


 申し訳なさそうに心配する声を掛ける恋。

 このおにごっこはやり始めてから時間が暫く経っており役割も何度か交代して行われていた。しかし葵は3人の中ではあまりいい成績を残せておらず負けるたびに悔し気にしていた。


「……ん、もう大丈夫」


 しかしそれも直ぐに立ち直る。彼女は落ち込む時に一気に落ち込んでいるのか復帰するのがとても速かった。


「おにごっこも結構やったし、他には何する?」

「はいはい、模擬戦とかやってみたいです!」


 手を上げ元気良く提案する育。それからその言葉の通り1対1の戦いが行われた。

 なお、この鍛錬に関しては恋が他2人に完勝し圧倒的な強さを見せたのだった。





【呼び方】


 ある日の放課後、日直の仕事を終えた恋が靴を履き替え生徒玄関を出ると2人の生徒が向かい合っていた。


「……早く」

「うぅ……無理ですってばぁ」


 そこにいたのは葵と育。しかし何やら葵が育に詰め寄ってるところだった。


「待たせてすまん2人とも。何してるんだ?」

「……育が名前で呼んでくれない」

「名前?」


 葵の表情は無表情ながら何処か納得のいっていない様子であった。恋は育に視線を移すと彼は気恥ずかしそうにしている。


「えーと、とりあえず帰りながらでも聞かせてくれ」


 その言葉に下校のために歩き出した3人。そして暫くして葵がその口を開いた。

 なんでも育が自分のことを先輩と付けて呼ぶことにあまりよく思っていなかったらしい。彼女としては育のことを魔法少女として背中を預け戦い抜いた仲間という間柄と認識しているため敬語も使ってほしくないと主張するのだがこれに彼が反発する。自分は1番年下のため先輩に敬語を使うのは当たり前であると言っているのだ。


「それに、先輩の人にそんなこと言われたの初めてですし……」


 育の表情は心の底から困惑している表情だった。

 ちらりと葵を盗み見る恋。彼女の表情は相変わらずの真顔で何やら考えている様子だったが何かを思いついたのか再び育に視線を向ける。


「……私も、育と仲良くなりたいの。駄目かな」


 葵から言われた言葉に驚いた様子を見せる育。瞳を揺らがせ恋に助けを求めるような視線を向ければ頬笑みを返され、小さな手をきゅっと握り込む。


「あ……っ、た、立花さんっ! うぅ、これ以上は無理です!」

「……今はそれでいいけど、いつか名前で呼んでもらうから」


 とりあえずは納得したのか頷く葵。その表情は変わっていなかったが満足げだった。


「育、俺のことも葵みたいに呼んでくれていいんだぞ?」


 それを見ていた恋も会話の輪に入る。どうやら彼も育と親しく接したいのだろう。

 冗談っぽく言った事に育は少し顔を赤らめ躊躇うような仕草を見せると恋を真っ直ぐ見据えると笑顔を浮かべその口を開いた。


「えっと……恋、さん。えへへ」

「……は?」


 しかし、彼の発した言葉に葵が反応するとその体に詰め寄る。


「……なんで私は苗字なのにレンちゃんは名前なの……!」

「え!? だ、だって葵先輩は女子ですし、緊張しますしっ!」

「その『葵先輩』っていうのから”先輩”を”さん”に変えるだけでしょ……!」


 納得いかないといった様子の葵が育の襟を掴み持ち上げるとその体が浮かび上がらせ抗議するようにぶんぶんと振り始めた。それに伴って段々と彼の表情が青くなっていく。


「葵、育がやばそうなんだけど!?」

「止めないでレンちゃん、私はこのあざとい女男に教育を……」

「いやいや! その前に死にそうになってますけど!?」


 そんなこんなで無事に降ろされた育と葵の言い合いが続き、恋の仲裁によってなんとか収まった。

 結論として呼び方は前と変わらず名前に先輩呼びとなったのだった。





【中間テスト】


 現在は古典の時間、生徒の名前が次々に呼ばれ何やら少し大きめの紙が教師から手渡されていく。


「次、櫻木ー」

「……はい」


 そして遂に恋の名前が呼ばれるが彼から発せられた声はとても重い。席から立ち上がり教師の元に歩いていくと紙を受け取り戻ってくる。そしてゆっくりとその紙を開き……机に伏せた。


「……どうだった?」

「……まあ、なんとか」


 開けた窓から入ってくる暖かさが感じられる風に呷られ恋の机の上にある用紙を捲る。

 そこには『49』という数字が赤ペンで刻まれていた。



「うえ!? 恋先輩勉強できなかったんですか!?」


 放課後、すっかり慣れたように恋の家にやってきた育の声が響いた。しかし今回は学校帰りにそのままやってきたからなのか全員が制服のままである。葵は何やら複数の用紙を見ており、育は机を借りて勉強道具を広げていた。


「……意外か?」

「いや、まあはい。なんでも卒なくこなすイメージがあったので」


 その言葉に恋の様子がさらに落ち込んだものとなってしまいそれを育が慰めるという光景が繰り広げられていた。


「……数学85、英語89、化学基礎79、現代文53……やっぱり、レンちゃんは国語が駄目だね」

「ウッ」


 今のところ返却された恋のテスト用紙を眺め淡々と事実を告げる葵。しかし今の恋にとっては何よりも胸に突き刺さることだった。


「だ、大丈夫ですよ! 期末テストまでちゃんと勉強すれば赤点になりませんって!」

「ありがとう、育……」


 恋と育が仲良くしている様子に少しむっとしていた葵だったがふと気づく。


「……育も中間テストあったよね。どのくらいだったの?」

「え。そ、それは……」


 視線を揺らがせる育。一向に答えようとしないことに怪しく思った葵はその揺らぐ視線が恋と机の上に置いてあるクリアファイルを行ったり来たりしていることに目を付けた。クリアファイルを素早く手に取るとその中にある複数のテスト用紙と思わしきものを取り出し広げる。


「……なん……だと」


 しかし、点数が低いから隠していたと思っていた葵の体に電流走る。


「え、えへへ……一応頑張ってますからね」

「……すごいね、ここまで高いのは」


 葵は成績は高い方だが苦手な科目もあり、その科目では若干点数が低い。しかし育のテスト用紙はそのほとんどが100点、1番低くても98点というおよそ苦手と思われる科目が存在していないものだった。


 予想外の結果に感心する葵だったがそこではっと顔を上げる。

 そして視線を動かすと――


「…………」


 ――そこには、真っ白になって笑顔を浮かべる恋の姿があった。

 この後、全力で慰めた葵と育。恋が復帰したのは、夕日が空を染める頃だった。


ここまで読んでいただきありがとうございました!

次話はいよいよ番外編3。参加は恋たち3人、内容はベネトのことになります。

時系列? そんなもの番外編には関係ありません!


後書きもここまで!

それでは次話にまたお会いしましょう!

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