日常編 その1!
オムニバス形式と言ったな。
アレは嘘だ。
というわけで日常編その1、始まります!
地球の存亡をかけた戦いに魔法少女たちは勝利した。(※なおメンバー3人の中で2人は男である)
しかしそんな彼らとて未だ学生!
そこで今回は戦いが終わった彼らの日常、中でも学生としての1日に迫ろうと思う。
【登校編】
≪高等部1年B組の場合≫
ここは赤の魔法少女である櫻木恋と紫の魔法少女である立花葵が在籍しているクラス。
教室の扉を開けて入ってきた恋、その視線の先には既に登校してきた葵の姿が。
「おはよう、今日も早いな」
「……うん、おはよう」
軽く挨拶を交わすと互いが出されていた課題を見せ合い、間違っている問題は解き直すのを周りの生徒が増えてもやり続けるその姿はいかにも真面目そうな学生という感じだった。
葵はなぜか時折、恋を盗み見ていたが。
≪中等部3年F組の場合≫
ここは緑の魔法少女こと浮泡育が所属しているクラス。
教室の扉が開くと育が教室へと入るとそこには既に他の生徒がちらほらといた。
「あ、育くんおはよー♪ 今日も可愛いねー!」
「おはよユキちゃん! ありがとねー!」
「育おはよう! 俺と結婚してくれ!」
「うーん……お断りします!」
「グホァァァァァァッ!?」
「山田が死んだ!?」
育は笑顔で朝の挨拶を交わしながら自分の席に着く。それはクラスの人気者といった様子だった。
席に着いた彼はイヤホンを耳に装着しノートを開けば表情が真剣なモノへと変わり、かなりの速さで動くシャーペンによってノートに英語の文が幾つも書かれていった。
「……ふぅ」
数分後、イヤホンを耳から外した育は英語で書かれた表紙の本を取り出しペラペラと捲っていくとある場所で止まる。そして自身が書いた英文と教科書の英文を見比べ色ペンで印をつけていった。
「……うぇ、ここ聞き逃してたのかぁ……。全部合ってると思ったのに……」
マルばかりだったノートにバツが付けられ単語が書き足される。
そして先ほどの音声を再び聞き直した育はイヤホンを仕舞うと別の科目の教科書を取り出し、勉強を始める。他の生徒が来て挨拶をするもそれは続けられた。こちらもかなり真面目な学生のようである。
【座学編】
≪高等部1年B組の場合≫
行われている授業は数学、恋と葵を含めた生徒たちは板書をノートに写している。
「……」
「……」
ノートにシャープペンシルの走る音が教室に鳴っていたが教壇に立つ男性教師から一声かかるとそれが直ぐに収まる。既に黒板に書かれた内容に追加で描かれた図を交えた解説が行われ、それに生徒たちが耳を傾けていた。
「……よし、このくらいか。書いていいぞー」
教師の発した言葉と共に再び始まる書き取りの音。
恋のノートは黒板に書かれたものをそのまま写し取ったかのような書き方、葵のノートは黒板とは基本は同じだが時折注釈などが書き足されている。
そしてある程度時間が経つと教師はこれから消す部分を示し消していいかと問いかける。特に反発が無かったことからその場所にかかれた文字を消すと空いたスペースに文字を書き、チョークを置くと少し経ってそれに対しての解説が始まる。それが幾度か繰り返されると授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「お、もう終わりか。そうだなぁ……今日はここが宿題で。んじゃ日直、よろしく」
「きりーつ、礼」
『ありがとうございました』
号令と共に一気に騒がしくなる教室。少し遅れてペンを置いた恋は凝り固まった体を解すために背を伸ばすとそれに伴って声が漏れる。
「ん、んん……っ」
「……エッ」
恋の隣から聞こえた声はとても小さかったがその聴覚が逃すことは無かった。
「んー、どうした葵ー?」
「……なんでもない」
顔を逸らした葵に首を傾げた恋だった。
≪中等部3年F組の場合≫
今は英語の授業、静まった教室に教卓の上に置かれたタブレットから会話のような音声が英語で聞こえる。それに合わせて生徒全員がそれぞれ同じ用紙に向き合っているためリスニング問題をやっていることが見て取れた。
「……ハイ止め。後ろから回答用紙を前に送ってー」
チャイムと共に女性教師の声が掛かると最後列にいる生徒たちが自身の回答用紙を前の生徒に渡し次々と前に送っていく。そうして回収された回答用紙の枚数を数えそれを束ねれば号令と共に授業が終わりを告げた。
「んー、終わったー!」
勢いよく背伸びしたのは女の子のような見た目をしている少年、育だった。
そんな彼の背中が数回優しく突かれると振り返れば、その視線の先には机に突っ伏しているショートヘアの女子生徒が。
「ねえ育ー、どのくらい自信あるー……?」
「んー、今回のは聞き間違いが無ければ満点だと思う」
「……だーっ! なんじゃこの優等生はー!」
その答えを聞いた女子生徒から教室中に響く声が発せられる。しかし周りの生徒たちは「ああ、またか」など言いながら次の授業の準備をしていることから今起こっている光景はこのクラスではもはや慣れ親しんだものであるらしい。
「料理が出来て、可愛くて、裁縫も出来て、可愛くて、勉強も出来て、面倒見も良くて、可愛い!? なんなんだお前はー! 本当に男かー!?」
「お、落ち着いて霞! ボクは男だよ!」
「分かっとるわそんなこと!」
「じゃあなんで聞いたの!?」
その答えにまるで怪獣の如く暴れ出した女子生徒を見て育はなんとか収めようと言葉をかけるが火に油を注ぐが如くその勢いは白熱していく。
それを如何にして鎮火させるか必死に思考を回す育だったが1つの策を思いつき、霞と呼ばれた女子生徒の手を優しく両手で包んだ。
「今日は久しぶりに一緒にお昼ご飯食べれるからさ、落ち着いて欲しいんだ。駄目かな……?」
育の上目遣いでゆっくりと言い聞かせるような調子で発せられた言葉を受けて彼女は体を震わせ――口を開いた。
「ほんと!? やったっ!」
(((チョロい……)))
満面の笑みを浮かべそう言った霞に対して女子生徒たちの心の声が重なった。
「ほっ、良かった……」
(((天使か)))
心の底から安堵した表情を浮かべる育に対して男子生徒たちの心の声が重なった。
【昼休み】
≪高等部1年B組の場合≫
午前の授業が終わり恋はスマートフォンを開くとそこには育からのメッセージが。
「葵、育は今日一緒に食えないだってさ」
「……っし」
「……何でガッツポーズ?」
スマートフォンを仕舞うと弁当箱を広げ昼食を摂る2人。
「……レンちゃん、今日は総菜なんだね」
「うぐっ、まあそうだけど……美味しいからいいだろ」
今や葵は恋の弁当の内容を見るだけでその背景が多少なりともわかるようになっていた。
2人とも食事に関しては会話こそするがしっかりと飲み込んでからする辺り育ちは良いようである。
≪中等部3年F組の場合≫
時刻を同じくして授業が終わった生徒たちが勉強道具を片付け始める。そんな中、鞄から弁当箱を2つ取り出した育が後ろを向いた。
「はい霞、お弁当」
「……え゛!? 私忘れてた!?」
「うん、がっつりとね」
叫び声を上げた霞は急いで自身の荷物を確認するが弁当箱の姿は影も形も無い。そして震える手で差し出されたそれを受け取った。
「ありがとう育……!」
「どういたしまして。登校ついでにあの場所に行くのはいいけど、これからはちゃんと確認しなきゃだめだよ?」
「はい……」
(((夫婦かな?)))
クラス全員の心の声が重なった。
【体育編】
≪高等部1年B組の場合≫
コートにラケットがボールを打つ音が辺り一面から鳴り響かせ女子と男子で分かれてテニスボールを軽く打ち合っている。そんな中ラリーを続けていた恋だったがボールを打ち損ねて高く飛ばしてしまった。
「あ、悪いミスった!」
「大丈夫だぞー! 取ってくる!」
申し訳なさそうにしつつもペアになっていた男子生徒を見送ると空に視線を移すと雲はほとんど無く太陽の光が降り注いでいた。
「あっつ……」
初夏を感じさせるほどの暑さに堪らず半袖の裾を持ち動かすことで風を送り込むとその隙間から鍛えられた恋の体がちらりと覗いた。
それを男子と女子の境目でテニスをしていた葵は見逃さない。
「エッッッ」
「ちょ、葵ちゃ……!」
直後、余所見をしていた葵の頭に高めにバウンドしたボールが突き刺さった。
「わぁぁぁぁ!? 葵ちゃん大丈夫!?」
蹲る愛に慌てて駆け寄るペアの女子生徒。そんな彼女に向かって葵は震えながら手を上げ――親指を立てた。
「…………悔いは、無い……」
「え、ど、どうしよう……せんせーい! 葵ちゃんの頭がおかしくなっちゃいましたー!」
「何ィ!? 立花の頭がおかしくなっただとォ!? 熱中症かァァァ!!」
体育教師が叫びながら猛ダッシュで駆け出す。
≪中等部3年F組の場合≫
こちらで行われているのは長距離走。予め決められた距離を走るというものだ。
そんな中、グラウンドには生徒と教師の応援の声が響いていた。
「育、あともう少しだぞー!」
「育くんがんばれー!」
「頑張れ浮泡!! 足を止めたら全てが無駄になってしまうぞ!! そこで諦めるなそこで!!」
「は、はひぃ……」
本人は走っているつもりなのだろうがそのペースは傍から見ればかなり緩やかなものである。
情けない声を上げながらも確実に前へと進み……遂にゴールした。
「よォォォし、よく走り切ったな浮泡!! 先生は感激したぞ!! 胸を張って喜べ、お前は立派だ!!」
「こひゅー……こひゅー……」
教師から笑顔で言葉が掛けられる。しかし当の本人はそれどころではなく膝に手を付き擦れた呼吸を続けていた。そんな彼に霞が水筒を持って近寄ってきた。
「ほら育。よく頑張ったね」
「ぁ……こほっ。ありがとう、霞」
受け取った水筒の蓋を開けた育は両手で包むようにして持つと中身をちびちびと飲み始めた。
「んくっ、ん。んっ……」
(((天使かな?)))
男子生徒たちの心の声が重なった。
そして時折苦しそうにする育を目の前にして霞がうっとりとした表情を浮かべていた。
「可愛い……」
(((悪魔かな?)))
女子生徒たちの心の声も重なった。
【放課後編】
≪恋と葵の場合≫
コンビニで買ってきたアイスを公園で食べる2人。暑さのせいかブレザーは脱がれていた。
「いやー放課後の買い食いって少し憧れてたんだよなー! 都会っ子って感じがする!」
「……もう、大げさすぎ」
はしゃぎながら買ったアイスを食べる恋を微笑ましそうに見つめる葵。
「美味いなぁ……ってうぉっと!?」
そんなとき、暑さで溶け零れそうになったアイスを恋は何とか防ごうとして動かした。しかしその行動によってアイスは傾き恋のワイシャツの胸元へと広い範囲で零れてしまった。
「うわー、マジかー……」
「……待ってて」
「あぁ、ありがとう葵……」
それを見てすかさず葵、ティッシュを取り出しそれを拭き取る。
「……はい。簡単にだけど、終わっ――」
しかし葵、そこで気付いてしまう。
恋のワイシャツ、アイスが零れたその場所が透けていることに。
「――エッッッッッ。あ、やばい」
何か込み上げるモノを感じた葵。しかしそれが直ぐに自分の体に起こっていることだと察すると急いで顔を手で覆うと手のひらには赤い液体が。
鼻血が出た。
「ん……? って葵、鼻血出てるじゃないか! 大丈夫か!?」
ここで恋、葵に起こったことを察知。心配で彼女に身を寄せる。
しかしそれは今現在は逆効果。なぜなら彼女からしてみれば恋の透けた部分が近付いてくるのだ。
鼻血の量が増した。
「えぇ!? 何その量!? 大丈夫なのか!?」
「来ないで!」
素早くティッシュで鼻を押さえもう片方の手のひらで恋を制す。
「……いいよ、そのまま。そこがベスト。……もし、レンちゃんがそれ以上近付けば……」
「……近付けば?」
恋の喉がごくりと音を鳴らす。
「……私が死ぬ」
「…………いや、なんで?」
なんだか良く分からない寸劇が繰り広げられていた。
≪育の場合≫
夕方のスーパー。そこには食品棚を食い入るように見る育の姿が。
「……あ、これ安い」
店内を手際よく回り食品を籠へと入れていく。そしてある程度するとレジを通し会計を済ませれば自分で持ち込んだバッグに買ったものを詰め込むと店舗の外へと出た。
「……」
買い物は終えた筈なのに何故か育の表情は一向に緩まる気配が無い。その原因を突き止めようとしたが……直ぐに判明した。
まず歩く速度が段々と遅くなり始める。そして次には彼の息が荒くなってくる。
「……お、重いぃ……辛いぃ……」
そして最後には弱音を吐き始めた。
それでもしっかりと足を踏みしめて前へと進む。
「今日はボクの番なんだから頑張らないと……! 頑張れ自分! 負けるな自分! ふぁいとぉぉぉ!」
周りを歩く主婦の方々から微笑ましそうに見れられながらも、彼は両手に引っさげたバッグを手に懸命に帰路を歩いていったのだった。
いかがだっただろうか?
今回はあくまで学生生活、その1幕を語ったに過ぎない。
彼らの平和な日常はまだまだ続く。
「……っていう感じに、僕から見た恋たちの日常を纏めてみたんだけど、どう?」
「「「いや、こうはならないでしょ」」」
「あれぇー?」
おしまい?
ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回の日常編はちゃんとオムニバス形式にする……かは正直予想が付きません。書きたいように書く方が筆が進むので気分次第です。
さて、次回はまた日常編となります。時間軸で言うとゴールデンウィークです。
そう、つまりはあの子の出番というわけです!
それでは次回もお楽しみに!