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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
始まりの章 キミの想いが魔法になる
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後日談 魔法少女たちの休日

後日談、時系列は事件から翌日のできごとです。

割り込み投稿をしたとき、更新した話に分かりやすい様に『New!』と付けさせていただくことにしました。

把握のほどよろしくお願いします!


 時刻は九時を少し過ぎたところ。外用の普段着を身に着け家の扉を開ければ眩しい太陽の光に照らされた家並みが視界に映る。空は雲一つ無い晴天で春先というのに少し熱いと感じてしまうくらいだった。


「……よし、行くか」


 玄関の扉を閉めたのを確認するとゆったりと歩きながら辺りの景色を眺める。

 元気に遊ぶ子供たち、忙しなく行き交う車。

 あんなことがあったとは思えないほど、今の星宮市は平穏だった。





 エノ・ケーラッドによる世界の上書きを阻止したことで俺たちの、魔法少女としての戦いは終わった。

 殆どが元通りになったけど『アルカエスの花』が植えられた場所だけは爆心地のような有様になってしまっていて、ちょうどその場所に大きなガス会社があったらしく世紀の大事故としてニュースになった。だけどそこでの死者はいなかったみたいで、それだけは本当に良かったと思う。


 だけど、魔獣に命を奪われた人たちは帰ってこない。

 特にあの黒山羊戦では多くの人が犠牲となってしまった。

 今でも『現代に起こった神隠し。集団失踪の理由とは?』なんて見出しでニュースをやっている。それを見ると、あのとき守れなかった人たちの絶望に染まった顔を鮮明に思い出す。


 あのことを知っていて、覚えているのは戦っていた俺たち三人とベネトだけ。

 だから絶対に忘れてはいけない。そして守れなかった人たちの為にも一生懸命に生きなくてはいけない。それが俺たちに出来る唯一の償いだと考えた。


 だけど、戦ったことで守れたものは確かにあった。間違いなく多くの人の日常を守ることが出来たのだ。


「……あ、レンちゃん。おはよう」

「恋せんぱーい! おはようございまーす!」

「おう、おはよう二人とも」


 駅前の広場には普段着に身を包んだ葵と育の姿があった。


「じゃあ恋先輩も来たし、行きますか!」

「育、随分と上機嫌だな」

「そりゃそうですよ! ボクたち頑張ったんですし、今日はたくさん遊びましょう! 貯めてたお小遣い奮発しちゃいますよー!」

「……そうだな、楽しまなきゃ損だよな。……よし、俺も今日はとことん遊ぶぞ!」


 俺の言葉に育が笑顔を浮かべた。


「そうと決まれば行きましょう! ほら、葵先輩も早く早く!」

「……押さないで、遊びは逃げない」

「ははは、仲いいな2人とも」


 俺たちにも、心休まる日常が返ってきたのだ。



 揺られること約三〇分、電車から降りた三人は目的の場所まで歩くと大きな建物に向かって並ぶ人の列の最後尾に着く。じりじりと進む中、恋たちの番になるとそれぞれ受付の係員に入場券を渡すとその建物へと入れば目の前にはガラスの向こうに魚が泳ぐ姿があった。


「わぁ……!」

「……綺麗」

「おお……初めて来たけどすごいな」


 訪れた場所は水族館だった。

 三人で遊びの計画を立てた時、葵から真っ先に上がったのが水族館だった。なんでもそう遠くない場所に良い水族館があるというのを友達の相川さんから聞いていたらしい。そこからはとんとん拍子で予定が決まっていったというわけだ。


「にしても、やっぱり人が多いですねー」


 様々な水槽を歩き見ながら辺りを見渡す育。

 今日は土曜日、特に子連れの人たちが多いように感じられた。


「ボクこういうの見るの好きなんですよねー。時間忘れそう」


 しゃがみ込んで水槽の近くに張り付けられているされているプレートを眺める育。

 その表情はとても楽しそうだ。


「それなら自由に行きたいところ行くか。一二時くらいを目途にまたここに集まろう」

「……わかった。一二時ね」

「了解でーす」


 そう言って別れた俺は水槽を眺めながらゆっくりと通路を歩く。そうしていると小さな水槽が並ぶ場所へと辿り着いた。


「へえ、こういうのも展示してるのか……」


 水槽に吸盤をくっ付けているタコを眺める。水槽全体を眺めることは出来ないが吸盤の形や口など普段は見れないところが見れてすごく面白かった。


 興味を持った海の生き物たちをそれとなく見ていくと空気が突然変わったような気がする。具体的に言えばこの場所だけ時間の流れが遅くなっているような感覚がして辺りを眺めてみると、水槽の中にはふわふわと浮かぶ様々なクラゲの姿があり、そこには水槽を物憂げに見つめる葵がいた。


「葵、クラゲ好きなのか?」

「……うん、好き」


 一言だけ答えると再び静かな時間が流れる。

 しかしそれは緊張から来るものではなく、どこか心地の良いものだった。


「……美玖から聞いたの。この水族館、クラゲが沢山いるって」

「なるほど、それでここを選んだのか」


 辺りを見渡せば水槽には大小色形様々なクラゲが展示されていてとても幻想的に雰囲気を醸し出していた。


「じゃ、俺そろそろ他のところ行くわ」

「……ん」


 小さな返事の後、俺はその場をゆっくりと後にした。

 再びその足を動かしていくと目の前に巨大水槽が現れ、それを見上げる育の姿があった。そんな彼を眺めていると視線に気付いたのか此方に顔を向けた。


「あ、恋先輩。回ってる途中ですか?」

「おう。育は?」

「ボクは館内の説明図を見てここに来ました」


 水槽に視線を移すと再び口を開く。


「いいですよねぇ巨大水槽。こう……ダイナミックで」

「育はこういうのじゃなくて、もっと小さい魚とか可愛いのが好きかと思ってた」

「勿論好きですよ? でも、やっぱり色んな魚が一緒にいるのが見てて一番楽しいなって」


 そう語る育はとても良い笑顔を浮かべていた。


「……よし、俺ももう少し回ってみるわ。見てないのまだあるしな」

「はい、また後で」


 軽く手を振られるとその場から離れる。

 そうして水族館での時間が過ぎて行った。





 水族館を満喫した三人が次に訪れた場所はファミリーレストラン。時刻は二時過ぎで、かなり遅めの昼食を摂っていた。


「あ、そういえばベネトさんって今大丈夫なんですかね?」

「そうだな、ちょうど昼だし声かけてみるか」


 育の言葉に水を一口飲むと念話を飛ばす。すると直ぐに線が繋がる感覚が走った。


『ベネト、そっちはどうだ?』

『捜査は順調。途中結果だけど、今のところ二次災害とか起こる心配はないと見ていいよ』


 その言葉に安堵する。

 ベネトは現在、アルカエスの花がその根を下ろしていた場所の調査を行っている。彼のいる星『サブテラー』に帰った時、一連の事件についての報告をするために細かな情報を必要とするからだ。

 事件の首謀者であるエノ・ケーラッドはアルカエスの花に飲み込まれたことで消失。魔力反応がないことから死亡扱いとなった。今はその他のことを調査しているらしい。


 俺としては、エノ・ケーラッドを死なせることはしたくなかった。

 彼は確かに敵だった。でも、死んでほしかったわけじゃない。人は自身の望みを叶えようとすると必ず障壁となる存在が現れる。それは競合であったり、商売敵であったり、はたまた恨みを買うものであったり形は様々だ。

 だからこそ思う。罪を犯した者はしかるべき場所で罰を受け、罪を償うべきだと。

 あの人にそのことをさせて上げられなかったのが、俺の最大の後悔だった。


 閑話休題。

 事件の終息に合わせてベネトが地球からサブテラーに帰った後もメモリーズ・マギアは俺たちが所持することになった。一度登録を済ませてしまうと使用者専用のデバイスになるらしい。

 そのおかげで呪いの装備よろしく離したくても離せないものとなってしまった。そこだけは少し不安である。


「にしても、あんなことがあったなんてみんな気付かないんですもんね……」

「……話しても、妄想の(たぐ)いと思われる」

「まあこれはこれでカッコいいんで良いですけどね! 誰にも知られることなく世界を救った……って、本当にやっちゃったんですもんね……」


 遠い目で力なく呟く育に自然と笑みが浮かぶ。

 談笑しながら昼食の時間が進む。そして話題は例の少女のものになった。


「そういえば恋先輩の幼馴染の……えーと、柊さんでしたっけ? 大丈夫なんですか?」

「ああ。暫くは検査だってさ」


 桐花が目を覚ましたことでやってきた看護師と医師で病室が一気に賑やかになった。なんせ原因不明の昏睡者が突然目を覚ましたのだ。面会はすぐに中止となり、病室からは追い出された。

 彼女の両親に桐花が起きたことをチャットで送ると丁度昼休憩だったのか既読が直ぐにつくと途轍もない速度でメッセージが届けられ次の瞬間には電話がかかってきた。そこからは焦りに焦ったマシンガントークが電話口から聞こえ、それに苦笑いしながら対応する時間が続いたのだ。


「明日に少しだけ面会時間を作ってくれるらしくて、それに合わせて桐花の爺さん以外の家族で来るんだ。そこに俺も行く予定」


 言いたいことを言い終えると再びコップの中の水をゆっくりと飲む。程よく喉を潤すことが出来た。


「ベネトの魔法検査でも問題なかったらしい。本当に安心したよ」

「……間に合って良かった」


 胸を撫で下ろす俺に対して笑顔を浮かべる葵。その表情は慈愛を感じるものだった。


「まあ油断だけはしないようにしなきゃいけないけど、今は楽しもう」

「そうですね! ……あっ、デザート頼んでいいですか?」

「……私も食べたい」

「それなら俺も頼もうかな」


 わいわいと会話をしながら頼んだデザートを美味しそうに頬張る育と表情こそ変わらないが嬉しそうな雰囲気の葵。

 そうして昼食を食べ終われば腹ごなしも兼ねてショッピングモールをゆっくりと歩いて回った。その途中で育が一時間も服選びに時間をかけたことで葵がドン引きしていたり、それとは逆に葵は一目見てさっさと選ぶ姿に育がもっとちゃんと選ばないとダメと怒ったりして喧嘩になりかけたがなんとか仲裁することで収まった。


「んー! いい買い物が出来ました!」

「……育が買ったの、レディースだけどね」

「え、いいじゃないですかレディース。可愛いですし」

「……ほんとに男?」

「そういう格好が好きなだけですぅー!」


 呆れる葵と拗ねる育を両側に帰り道を歩く。しかしそんな育が突然立ち止まった。

 彼が見つめる先には賑やかさを振り撒くゲームセンターがあった。


「先輩たち、行きましょう!」

「え? いいけど、葵は大丈夫か?」

「……問題ない」

「ありがとうございます! じゃあついてきてください!」


 ゲームセンターの扉を開けると様々なゲームの音が大音量で届いたことで少し酔いそうになってしまうがなんとか耐えながら育についていく。すると彼が立ち止まった先にあったのは大きな箱だった。


「さぁ、入って入って!」

「わっ、と」


 背中を押され入ってみるとその中には白い光が溢れていて液晶画面と何やらレンズのようなものがあった。


「育、ここで何するんだ?」

「何って……プリクラですよ、プリクラ」

「これが、プリクラ」


 聞いたことがある。何やら女子はこれで写真を撮りたがるらしい。

 らしい、というのは勿論自分自身で体験したことがないからだ。


「え、もしかしてやったことないんですか?」

「ああ、無いな。ゲーセン自体は入ったことあるけど、特に俺が何かするわけじゃなかったし」

「それゲーセン行く意味あります? ……葵先輩はどうですか?」

「……私も初めて」

「おおう……男の恋先輩は分かりますけど葵先輩も無いんですか」

「……こういうことする友達が居なかった。だから、すっごい楽しみ」


 真顔ながらどことなくキラキラとしている葵は置いておき、育が迷いなく機械を操作していく。そして準備が整ったらしく俺を中心として脇を葵と育が固め――シャッターが切られた。





「いやー今日は楽しかったですね! 先輩とプリクラ撮れたしボク的には大満足です!」

「トレーニングするより疲れた気がする……」


 にこにこと眩しい笑顔を浮かべる育だったが俺はそんな元気など湧かなかった。

 あれから何枚か撮ったのだが写真を撮られる経験など皆無で異様に緊張してしまい疲労してしまった。

 ちらりと隣を向けば写真を眺めている葵の口角が僅かに上がっていた。上機嫌のようである


「また遊びましょうね! ……そうだ、今度は三人でお泊り会なんてどうですか! ボクやってみたいです!」

「……お泊り会……いい響き」

「ですよね葵先輩!」

「うん、やろう……!」

「こういう時は同じ意見なのか……」


 二人の様子に苦笑いを浮かべる。しかし悪い気はしない。 

 夕焼けが世界を染める中、葵と育の会話に参加しながら帰路を歩くのだった。


次は葵の番外編、その次に後日譚2を予定してます。

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