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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
始まりの章 キミの想いが魔法になる
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第20話 夢幻花

第20話です。



 大量の血と共に魔獣の首が地面へと転がり身体が力なく地へ伏して間もなく育と葵が地面に着地し、そこに恋が合流する。


「二人ともよくやってくれた!」

「……レンちゃんもお疲れ様」

「こっちこそ最後の攻撃ありがとうございます! ……それにしても」


 再び集まった三人は軽く言葉を交わした後、視線を魔獣へと移す。

 そこには足先から黒い塵へと変換され始めている魔獣の身体があった。


「よかった、首を落としても倒せなかったらどうなるかと……」

「……再生能力持ちだったら危なかった」


 ほっとする育とそれに反応する葵。三人の視線に晒されながらも肉体の崩壊は止まることはなかったが魔獣の胸部へと至ったとき辺りが白く染まった。突然の光に小さく呻きながら腕で自身の目を覆う三人。目が慣れ始めたと感じられ腕を外すとその光の方向に視線を移す。


 そこにあったのは、まるでシャボン玉のようにふわふわと宙に浮かぶ球体で淡い桜色を発しており、暗い世界を照らすように輝く桜色の光は幻想的な雰囲気を生み出していた。

 そんな光景に思わず見入ってしまっていた三人だったが彼らの視線の先にあった桜色の球体が震えたかと思うとあらぬ方向へ動き始めた。


「みんな、急いでアレを追うよ!」

「ベネト、救助は終わったのか!」

「生きてる人はみんな避難させたから大丈夫! それよりも早く追うんだ!」


 空から飛来してきたベネトが翼で指す先には桜色の球体。その言葉通りに三人は空を見上げながら桜色の球体を追うために走り出した。


「ベネト、あの球って結局なんなんだ?」

「あれは魔獣が集めた魔力や生命力、人間から吸収したエネルギーの塊だよ。レンたちが上手く戦ってくれたおかげで防げてたものだ」


 そんな説明を受けているとき、ふと空を飛んでいた桜色の球体が止まる。そして次の瞬間、何かに引っ張られるかのように高速で地面へ突っ込めば砂埃などを立てることも無くその姿は影も形も無くなった。


「みんな、あの球が消えた場所に!」

「了解……って、始まった!」


 ベネトの言葉に反応すると地面が揺れ始め、暗い空が剥がれ落ちていく。時間が無いことを悟れば急ぎその場所へと向かえばそこには何も傷付いた様子の無い道路があった。


「ベネト、着いたけどどうするんだ!?」

「……あのエネルギーの塊はその場で霧散するでもなくここにやってきた。つまりッ!」


 ベネトは自身のデバイスを取り出し魔法を発動させる。複数の魔法陣が展開されるとバチン、と電気が発生したかのような音と共に先ほどまでは無かった青と複数の色が混じり合った色の門が地面に現れた。

 そして次々にデバイスを操作していくとその門がゆっくりと開く。地面に向かって開いているはずなのにその先には土などは見えずただ漆黒が顔を覗かせている。


「みんなここから敵の本拠地に乗り込むよ!」

「おう!」

「……遂に、本丸」

「こ、怖っ……でも、ここまで来たんだ! 頑張ります!」


 向かい合って力強く頷いた彼らは、順番に門へ飛び込む。

 そして最後にベネトが潜ったとき門の扉は重苦しい音と共に閉じられ、まるで初めからそこに無かったかのように消え去った。





「うわぁぁぁぁ! ど、どこまで落ちるんですかこれぇぇぇぇ!?」


 漆黒の暗闇をただ落下していく3人と1匹。その周りに物体や色の変化が存在しないため本当に落下しているか怪しくなってしまうが、彼らの下から吹き付ける風が彼らが現在落下していることの証明でもあった。


「もう少しでエノ・ケーラッドの反応のある場所だ! だから耐えてくれ!」

「は、はぃぃぃぃ!」


 そうして暫く、ふと彼らの視線の先に真っ白な点が現れた。


「見えた! みんな、出るよ!」


 それぞれが体勢を安定させる。

 点だったものが円となりその大きさが彼らを超えるものとなったとき彼らの視界は白で塗り潰され、それと同時に彼らの体を衝撃が襲う。


「ぐっ」

「……ッ」

「うわぁ!?」


 勢いが止まることでゆっくりと目を開ければ気付く。自分たちは落下していたにも関わらずまるで真横に吹き飛ばされたかのように地面を転がっていたのだ。

 そして次にその体を起こすと、彼らの意識は止まった。

 青、黒、藍色を混ぜ合わせたような色の上に赤、緑、紫、黄、白など大小様々な色の点が浮かんでいるような景色。周りに浮かびながらも自身たちが立っている地面が浮いていることに気付く。

 そう、彼らが居たのは煌びやかな宇宙にも似た場所だった。


「葵、育、ベネト!」


 吸い込まれるように釘付けになってしまった意識を取り戻すと声を張り上げ名前を呼ぶ。それが功を奏して呆けていた恋以外も意識を取り戻すと再び辺りを見渡したとき、その場にいる全員視線がある一点へと注がれた。


 自身たちがいる場所の先にあるひと際大きな浮島に巨大な樹が生えていた。

 島の下からは収まりきらないのか根が幾つも飛び出ており樹の大きさ、幹の太さは遠くから見ても分かるほど異常でまさしく天を衝くという言葉が似合う大樹で、ただの枯れ木のように見えるにも関わらずどこか神々しさを感じさせる。

 そこに先ほどまで彼等の追っていた桜色の球体が近付いていき根に触れるとその体積は萎むように消え、代わりに大樹が光り輝きその全貌が露わになると同時に葵の目が見開かれる。


「……何、あれ」


 葵の呟きに恋、育、ベネトが彼女の視線を追うように目を滑らせ、固まった。

 淡く発光する大樹の中央部、そこに下半身と両手を飲みこまれ力なく磔にされたような長い黒髪の人間が居たからだ。それを見た恋の纏う雰囲気が一気に鋭いものへと変わる。


「桐花……!」

「そ、そんな! あの人が恋先輩の言ってた桐花さんなんですか!?」


 信じられないとばかりに大樹の方へと視線を戻す育。遠目ではあるが樹に埋め込まれ力なく首を垂れているその様子はとても生きているとは思えないものだった。

 

「やはり、急造の結界では突破されるのが道理か」


 声が聞こえた瞬間根が蛇のように動き恋たちの居る浮島へと振るわれる。それを避け再び視線を大樹へと向ければそこには黒いローブに身を包んだ銀髪の老人が宙へ浮いていた。


「エノ・ケーラッド! お前ッ!」


 その鋭い目は大樹を背にする老人に向けられ吠えるように叫ぶと足に力を籠め、そのまま攻撃するという意思を見せつけるが如く拳を握り締められている。

 しかし、それが叶うことは無かった。


「儂が何の策も無く、重要な場所に敵の侵入を許すと思うか?」


 突如恋たちの体が地面へと叩きつけられ、それぞれの体から魔力の光が漏れ出した。彼らの表情が苦悶に染まる中、溢れ出した魔力が集まり1つの桜色の球体へとなりそれが一定の大きさになった時重圧が消え去った。しかしその代わりにどこか力が入らないような感覚が襲う。

 恋たちは震える体に鞭を撃ちなんとか立ち上がる。そんな中、宙に浮かんでいた巨大な桜色の球体が樹の根へと吸収され次第に大樹の輝きが強くなっていった。


「確かに魔獣を倒されたことで邪魔されたが、それも想定内。足りぬのなら、より多くの魔力を保持するおぬしらから集めればいいだけのこと」


 エノ・ケーラッドは振り返るとその大樹に向かって大きく両腕を広げると大樹の枝が横に、縦に広がっていく。そしてある程度まで進んで行くとガラスが割れるような音と共に空間自体にヒビが入り始めた。その様子はシャドウ・ワールドの崩壊と似ていた。


「まずい、このままじゃ巻き込まれる! みんな撤退するよ!」


 ベネトを中心として魔法陣が展開され恋たちの姿は消え去り、輝きながら空間を突き破らんとその枝を伸ばす大樹と老人が残った。


「さあ、刻限だ! 夢幻を始めよう!」





 現実世界、結界が張られた近くの建物の屋上にベネト、恋、葵、育の姿が現れる。誰もが苦しそうな表情を浮かべていた。


「よし、帰ってきた! あとは……!」


 ベネトは顔を顰めながらもデバイスを操作すると液体の入った小瓶を3つ取り出しそのうちの1つを恋の口にゆっくりと流し込んでいく。すると彼の体が淡く発光し気付けば気怠さは消えていた。


「これは……」

「魔力を回復させる魔法薬さ! ま、元々持ってたこの分で在庫切れだけどね……ッ!?」


 続けて葵と育にも魔法薬を飲ませたとき地面が大きく揺れ始める。初めは小さな揺れでただの地震かと思わせたが徐々に大きくなっていくその振動は彼らに異常を感じさせるには充分だった。

 気怠そうにしていた葵と育も魔法薬の効果によって復活すると辺りを警戒し始めると昼間にも拘らず彼方から太陽の光に負けずとも劣らない極光が溢れている。そしてその光は見る者に理解のできない恐怖のようなものを感じさせるものだった。


「みんな! ひと纏まりに固まるんだ!」


 ベネトから焦る声と共に集まりそれぞれの体にしがみつき備える。

 そして彼方で輝いていた極光は遂に太陽の光を超え、辺りを染め上げた。


「ッ、一体なに……が……」


 暫くして地面の揺れも収まった時、彼らはゆっくりと目を開ける。

 目の前に広がっていたのは建築物が並ぶ現代文明の光景では無かった。


 天は星が煌めく夜空へと変化を遂げている。大地は虹のように色付き、海の砂を思わせる輝きもあって宇宙に立っていると錯覚させられる。

 地面からは所々樹の根のようなものが飛び出しており、それを辿っていくと遥か遠くに大樹が悠然と根を張っているのが認められた。

 先程見た時は枯れたような見た目だったが生命を感じさせる色合いに変わり、枝の部分には薄い桜色の花がちらほらと咲いている。


「……なんかアレ、そのままにしたら駄目な気がする」

「ああ、ヤバそうだ!」


 それぞれ武器を取り出すと構え一気に極彩色の世界を駆けた3人の視線の先には徐々に薄い桜色に染まる枝があり、今もその花を咲かせ続けている。

 そんな樹に向かって一度止まった葵は矢を放つ。しかし、当たる前にバリアのようなものが現れ弾かれてしまった。


「ッ、エノ・ケーラッド!」


 恋の瞳に自身と樹の間に割って現れた敵の姿が映ると『インパクト』を発動させた恋は一気に飛び出すとその勢いのまま拳を振るい、エノの持つ杖と激突すると地面に着地する。そこから恋は顔面を狙った蹴りへと移行するがその攻撃をエノは体を反らしギリギリで躱し、無防備になった恋の体に向かって手にある杖を槍のように突き出した。


 瞬間、恋の視線が動く。

 体をエノの外側に寄せ向かって来る杖に沿うように手を滑らせ、中ほどまで行けば一気に掴み取る。そして半身を下げつつ杖を引っ張ることで攻撃を逸らす。しかもそれだけでなく彼の目の前には腕が伸び切り、(つまず)いたように胴体を晒す敵の姿があった。


「セット!」

【MEMORIA BREAK】


 足を前に大きく踏み出した恋は足を地面へ力強く降ろした瞬間がら空きの胴体へと拳を突き出す。地面を踏んだ力と拳の勢い、魔力によって生み出され増幅された衝撃が合わさった『クリムゾン・インパクト』がエノへと炸裂し強烈な打撃音と共にエノの体が吹き飛んだ。

 地面を転がる敵の姿を鋭い視線で見つめる恋の元にベネト、葵、育が合流する。彼らの視線は血を撒き散らしながら杖を支えに立ち上がる老人の姿があった。


「エノ・ケーラッド、投降してください」

「……ふっ、すると思うか?」


 恋たちに武器を向けられながらも、エノは軽く笑ってみせる。

 彼が持つ真紅の瞳は未だ鋭く輝き屈する様子などは見えない。ゆっくりと立ち上がり次第に確かな軸が定まるとその瞳を恋たちへと向けられ、その口を開いた。


「儂は咲かせなければならぬのだ、“アルカエスの花”を!」


 その言葉に恋たち魔法少女3人は首を傾げる。

 しかしベネトだけは違った。彼が持つその真紅の瞳は限界まで見開かれていた。


「な、“アルカエスの花”!?……まさか、今までの事件は全て!」

「相も変わらず優秀だなベネト! だが、もう止めることは出来ん!」


 エノが杖を振るとそれに合わせて地面から樹の根が複数出現し恋たちを襲う。それらを捌いて一度後退し触手のように揺れる根を見つめていた。


「ベネト、アルカエスの花ってなんだ?」

「“アルカエス伝説”っていうおとぎ話に出てくる花だよ」


 恋の質問に答えるベネトの視線はエノの後方にそびえたつ樹に向けられる。


「万人が綺麗と思う花を咲かせ、宇宙にまで届くほどの大樹があった。その星には誰もが望む理想郷が広がっていた……っていう話なんだ」


 だけど、と言葉を続ける。


()()()()()()()()、なんて言うけどそりゃ当然さ。花が咲いたとき、その星に存在する全ての知性生命体を夢の中に叩きこんで己自身が望む幻を見せるんだから」

「ちょ、ちょっと待ってください! それじゃあ洗脳と何も変わらないじゃないですか!?」

「そうだよ。だから止めなくちゃいけないんだ」


 育の悲痛な声に端的に返すベネト。その態度は何処か冷たい物のように感じられる。

 しかし当の本人は気にする様子も無く、エノの背後にある大樹をその真紅の瞳で睨みつけていた。


「アルカエスの花、通称“夢幻花”。一度その力に呑まれたが最後、無限の夢へと落とされ寿命が果てるまで幸せな幻を見せられる。伝承が確かなら、恐らく現存する魔法系統の中で最高峰の催眠幻術だ」


 そう言うとベネトは自身の翼を大樹へと向ける。

 天へと伸びる枝からは綺麗な桜色の花を咲かせていた。


「あの樹の枝にある花、アルカエスの花が全て咲いた時――」


「――この地球(ほし)は、終わる」


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

作者の都合で投稿期間が開いてしまい申し訳ありません!待ってくれた読者の方々には頭が上がりません。忙しかった時でも誤字報告を頂き感謝の念が溢れまくってました。

これからも一層頑張っていくので応援よろしくお願いします!


ではここから作品の話を。

長きに渡って書いてきましたが、いよいよこの章の最終戦に突入です。

日常を守るために戦っていた筈だったのに、いつの間にか世界の命運を握ることになった恋たち。

そんな彼らの戦いをお楽しみください!


それでは次話でお会いしましょう!

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