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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
始まりの章 キミの想いが魔法になる
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第16話 影の人

第16話になります。



 蜂型魔獣との激戦を繰り広げてから翌日。恋たちは再び日常を謳歌する――その筈だった。


「だー。なーんで木曜は古典と現文が重なってるんだよー……」


 授業終わりの教室にて力なく机に項垂れる恋。現在三時限目の古典が終了し、これから四限目の現代文に移るまでの休み時間である。


「やっぱりこういう時間割は悪意あると思うんだよなー……。葵もそう思うだろ?」

「……勉強はそこまで嫌いじゃないから、私は別に」

「俺だけかー……」


 恋は隣人に否定されがっくりと肩を落とす。

 想起されるのは古典での練習問題。古文に引かれた線部分を訳すというシンプルな問題だが、活用の理解を追いついていないためほとんど外す結果となってしまった。


「うーん、やっぱりこういうのは感覚で良いと思うんだけどな」

「……数学とかはちゃんと解けるんだから、その調子で頑張ればいいのに」

「いやいや、本来人間の気持ちに明確な正解なんか無いんだから他人の心境を当てるなんて無理に決まってるだろ。サトリじゃあるまいし」


 葵は鞄から、恋は机から教科書とノートを入れ替える中、恋の言った事に疑問を覚えたのか首を傾げる。


「……サトリって、なに?」

「んあ、葵そういうの知らないのか。人間の心を見透かす妖怪がサトリって呼ばれてるんだ」

「……なんでそんな知識ばっかりあるの」


 じっ、とした視線が恋に向けられる。その雰囲気は何処か呆れているようだった。


「あー……この前桐花(とうか)紗百合(さゆり)って妹がいる話したろ? その紗百合が妖怪とか各地の伝承、神話とかが大好きでな。ネットでそういう本を買って読んではその内容を聞かせられたせいで、印象に残ったのは幾つか覚えてるんだよ」

「……知識は無駄にならないから良いけど、まずは学校の勉強を頑張った方が良いと思う」


 「ごもっともで」という言葉から数秒後扉が開かれる。現代文を担当する教師が教室へと入ってきたのを見た恋の雰囲気が重苦しい物へと変化した。

 それとは対照的に葵は教科書とノートを開きペンケースからシャーペンを取り出す。準備万端といった様子にはやる気が感じられた。

 チャイムが鳴ると挨拶の後に授業が開始される。黒板とチョークが鳴らす音とシャーペンをノートに走らせる音、時折教師の解説の声が教室から聞こえていた。





 校内に鳴り響くチャイム。それは午前の授業が無事終了したことを告げるものだった。

 弁当箱と水筒を手に少女のような少年、浮泡育は昼食を摂るために食堂へと向かっていた。廊下を歩くその姿はとても軽やかで、傍から見ても機嫌が良いと感じられる。


「おっひるごはーん、おっひるごはーん」


 食堂の扉を開けると幾つもの机と椅子が並び、昼休みが始まってまだ時間もほとんど経っていないにも関わらず様々な生徒たちの喧騒に包まれていた。

 そんな中から辺りをキョロキョロと見渡し、食堂の角に近いテーブルが映ると笑顔を浮かべる。周りの人にぶつからないよう気を付けながら歩いていくと、そこには魔法少女仲間である櫻木恋と立花葵の姿があった。


「…………、」


 ただ、恋が燃え尽きたように真っ白な状態だったが。


「ちょ、恋先輩どうしたんです!?」


 育は慌てて駆け寄りその身体を揺らすが全く反応が無い。気のせいか口からは何か魂のようなものが出かけているような錯覚を抱いた。

 慌ててふためく育に対し、机を挟んで反対側に座り黙々と昼食を摂っていた葵。咀嚼したものを飲み込むとその口を開いた。


「……レンちゃん、現代文苦手なのに今日は先生によく当てられたから」

「そ、そうなんですね……」


 ひと先ずは大丈夫と判断したのか恋の隣に座る育。それを見た葵が彼に対して目を細める。


「……何でレンちゃんの隣に座るの?」

「え? 何でって……恋先輩の隣が良いからですよ」


 そう答える育の視線は時折隣の恋へと向けられている。しかもその表情は何処か嬉しそうな、照れているような感じを覚える。それを見て葵は冷ややかな視線をぶつけた。


「……やっぱり、育もそうなんだ」

「“も”ってことは、葵先輩もなんですね」


 互いに笑顔を浮かべながら言葉を交わす葵と育。視線がぶつかって火花が散るような幻視を受け、それに合わせて三人の周りの空気が少し重苦しいものとなっていた。


「――はっ! ……あれ、現文の授業は?」


 それに釣られてか恋が復活し辺りを見渡す。その様子に先ほどまで漂っていた剣呑な雰囲気は霧散しどこか微笑ましいものを見るような目で彼を見る二人の姿が。


「レンちゃん、ご飯の時間」

「お、おお。にしてもいつの間に……てか俺の昼飯も持ってきてくれたんだな。サンキュー葵」

「どういたしまして」


 そう言って再び自身の昼食を摂り始めた葵を見て恋はパンの包装を開けそれに齧り付くとふと隣の席にいいる育へと視線を向ける。そこには小さいハンバーグに始まり綺麗に巻かれた卵焼きにサラダなど彩りと栄養がしっかり考えられた内容の弁当箱があった。


「育の弁当、美味そうだな」

「ほ、ほんとですか? えへへ……実はこれ、自分の手作りなんですよっ」

「……え、全部? おかずも含めて?」

「はいっ」


 信じられないようなものを見るような目をしていている恋。対して満面に笑みを浮かべている育だったが、そこで何かを思いついたのか徐に箸を持ち直す。


「もしよかったら食べてみます? 味も自信ありますよ!」

「え、いいのか?」

「はい! さあどうぞ!」


 そう言って育は箸で卵焼きを挟むと手を下に添えて恋の口の前に差し出す。それは俗にいう“あーん”というものだった。

 少し言葉を詰まらせる恋だったが箸が無いため差し出されたままその卵焼きを口に入れると咀嚼を経て飲み込む。


「いや、美味いわこれ。本当に料理上手なんだな」

「そ、そうですか! えへへ……」


 その言葉にどこか照れくさそうな表情を浮かべる育。二人の間で穏やかな雰囲気が流れる中、ふとそれを切り裂くように何かが割って入った。

 恋が顔を動かすと目の前には箸に捕まれた卵焼きが葵から差し出されていた。辿ってみれば葵の表情はどこか真剣さを感じる。


「……あーん」

「あ、葵? どうしたんだ?」

「あーん」

「……葵、なんか圧が」

「あーん」

「……はい、いただきます」


 そのままなし崩しで葵から差し出された卵焼きを頬張った恋はしっかりと咀嚼するとそれを飲み込んだ。


「うん、前と変わらず美味いぞ」

「……なら、よし」


 満足した様子で自身の食事に戻った葵。事態を掴めていない恋だったが、視線を感じその方向に視線を向ければ育が拗ねたように頬を膨らませていた。


「……育、どうした?」

「恋先輩、葵先輩と仲良いんですねっ」

「んー、まあ葵とは一応学校始まる前から知り合いだったからな」


 恋は手元にあるパンを食べた直後思い出したように育の方へと向き直る。


「そういえば自分で弁当作ってるって言ったよな。そんなに凝ったの毎日作るの大変じゃないか?」

「あ、それに関しては大丈夫ですよ! 家は子供達がいるので、ボク一人の分を作ってるわけじゃありませんから」


 笑顔でそう語る育からは嘘の気配など何も感じず、心の底からそう思っているというのが伝わってくる。しかし恋はそんな彼に向かって何とも言えない視線を向けていた。


「どうしたんですか恋先輩。もしかしてボクの顔に何かついてます?」

「ん、なんでもない。それより育、早く食べろよ?」

「へ?」


 首を傾げた育。しかしその意味を直ぐに知ることとなった。

 空になったパンの包装を細く畳んで結んでいる恋と、手を合わせて“ごちそうさまでした”と口にし弁当箱を片付けている葵。育は恐る恐る食堂に設置されている壁時計に視線を移すと、そこに刻まれていた時間昼休みが終わる一〇分前で、周りを見れば他の生徒もちらほらと食堂から出て行く姿が見える。


「ちょ、え、もうそんなに!? あわわわわ!」


 狼狽える育。しかし直ぐに落ち着きを取り戻すと弁当の中身をどんどん食べていき、最後に自前の水筒の中身を数口飲み込むと弁当箱を片付け席を立ちあがった。


「終わりました! 行きましょう!」 

「……大丈夫?」

「はい! 大丈夫です!」

「……ならいいけど」


 そうして三人はそれぞれの教室へと向かって共に歩いていく。

 それは間違いなく、彼らの日常の一幕だった。





 無事に学校の授業が終わって放課後、普段着へと着替えた恋と育は公園に集まっていた。今はベネトが葵を送り届けている最中でそれを二人が待っているところである。

 時間が流れる中、恋の視線が育へと向けられた。


「……なあ育。昨日も思ったんだが、そういう服が好きなのか?」

「へ? そうですけど……変ですか?」

「いや、変じゃないけど……」


 恋がそう聞いてしまうのも無理はない。なぜなら現在育が身に着けている服は見る人に動きやすい印象を与えるものではあるのだが、その顔も相まってボーイッシュな少女を思わせるものだったからだ。

 実際にはこの場合ガーリッシュな少年と表現した方が正しいのだが、如何せん女子とも見間違えられるその顔によって、どう見ても中性的な少女としか見えなくなってしまっている。


「えへへ、どうです? 似合うでしょ?」


 頭に被ったキャップを弄りくるりと回って見せると笑顔を浮かべる育。その仕草も相まって余計女子っぽく見えるのは仕方のないことだろう。


「まあ、似合ってはいるぞ。うん」

「本当ですか! やったっ」


 小さく握りこぶしを作り喜んだ様子を見せているとそこに普段着に身を包んだ葵と共にベネトが現れる。

そして葵の視線は直ぐに育へと向けられた。


「……そういう服、好きなの?」

「……ぷふっ。葵先輩、恋先輩と同じこと聞くんですねっ」


 笑いを堪えられない育にそれを見て頭の上に疑問符を浮かべるが如く首を傾げる葵だったが暫くして手を叩く音が聞こえると緩んでいた空気が一気に引き締まる。


「……そろそろ時間だな。行こう」

「はいっ! 頑張りましょー!」

「……浮かれないの」

『気を張るのは良いけど張りすぎも良くないよ、アオイ』


 そんな言葉を交わすと夕方の街へと繰り出していく。

 今までの魔獣の出現場所から大まかな予想地点を練り歩いていく三人。辺りを警戒するにしても魔獣への対応をなるべく早くするために街へと出ているだけなので、巡回中はベネトの指示通り歩くだけ。つまり巡回中は基本的に暇なのである。


『そうだ。ボク、ベネトさんに聞きたいことあったんだった』


 巡回をして暫く経ち開けた道路の歩道にてそんな念話が全員用のチャンネルで育の聞こえる。彼の手の中には待機形態のメモリーズ・マギアがあり、そこからメモリアを一枚取り出した。


『変身に使うこのカードなんだけど、トランスって何か意味があるんですか? 変身するっていえば……例えばだけどチェンジとか、他の言葉もありますよね?』


 彼がひらひらと見せびらかすようにしていたそのカードは『TRANCE』と刻印された、魔法少女に変身するためのメモリアだった。


『ああそれね。曰く“自分が思い描く願いで変身するんだから精神に関する言葉が良い”ってことらしいよ。なんか他にももじったりとかしてるとか』

『ず、随分曖昧なんですね……』

『しょうがないじゃないか。僕だって気になってそれを聞いたらマシンガントークが飛んで来たんだよ。しかも途中から話が脱線するし、正直ほとんど覚えてない』


 うんざりしたような声でそう言うベネトだったが声の調子を整えるような音が聞こえると再び念話が繋がれる。


『さっきの質問だけど、こんな答えでよかったかい?』

『うん! ありがとうベネトさん!』

『そっか、それならよかった』

『そうだ! もっと聞きたいことがあるんだった! あのですね、このプロテクションって――』


 疑問が解消されたからかどこかすっきりとした表情を浮かべる育。それに合わせてその歩みもどこか軽やかなものになったようで、前に行き過ぎていることに注意する葵と微笑む恋で和気あいあいとした空気が流れていた。

 そして全員が道にかかる夕日によって間延びした影を通過した時、恋の足が突然止まる。


「……レンちゃん?」


 いち早く気付き振り向いた葵。念話に夢中になっていた育も葵の声を聞くと振り返る。

 そんな二人を他所に自身の背後へとゆっくりと顔を向ける恋。その視線の先には彼らが歩いてきた歩道があり、依然として影がかかっている。

 そして次にその視線を太陽の方、正確にはその影の元となった建物へと向け、目を見開いた。


 ――()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あー、明日も学校めんどくせー。毎週金曜も休みで三連休ならいいのになー」

「そんなこと言いながらきちんと学校行くんだろ? 偉いなお前」

「だーろ?」


 ぐりん、と勢いよく振り返る。

 そこには二人並んで仲良さそうに話しながら歩道を歩く学生の姿。彼らのすぐ目の前にはその異常な影があった。


「二人ともそこで止まれッ!」

「ん?」

「お?」


 恋の発した声に学生が怪訝そうな声を上げる。

 しかし忠告虚しく、影を踏んでしまった男子学生二人がまるで呑み込まれるように消え去った。


「くっそ!」


 恋の歯噛みする声の後にメモリーズ・マギアが魔獣襲来を伝える振動を発し始める。


『レン、まだ助けられる! だから早く移動して!』

『……そうだな。ありがとう』


 その念話と共に直ぐ近くの人気のない場所へと恋、葵、育は移動するとそこには既にベネトの姿が。


「よし、みんな行くよ! 影界潜行(シャドウ・ダイブ)


 三人と一匹は一瞬で影の世界へと潜入すると、彼らの目に映ったのは影がそのまま人の形を取ったような生物が先ほど見た男子学生二人を襲っていたところだった。


「なんか、今までの魔獣とは違うような……」

「……とりあえず、今は変身」


 各々が変身し魔法少女へと姿を変える。真っ先に行動した育が糸によって黒い人型の攻撃から素早く学生を救出する。


「ベネトさん、よろしくです!」

「任せて!」


 興奮するように恋たちを見ていた彼らはベネトによって眠らされる。共にこの世界から姿を消したのを見届けると、三人はその黒い人型と改めて対峙する。

 体の大きさは彼らが少し見上げる程度はあり顔は無く全身は墨のように黒染めであり、ゆらゆらと蠢くその姿は陽炎の如くまさに影か闇そのもの。見た目も相まって本当にその場に存在しているのか疑問を抱かせるものだった。

 数メートルの距離を開けての暫く睨み合いが続いていたが、影の方から三人へ腕を振り上げ突進してきた。


「とりあえず、ボクが!」


 育が一歩前に出て右腕を突き出せばその勢いを利用するように糸が射出される。向かってくる闇のような人型に真正面から向かい――そのま突き刺さった。


「……え?」


 その結果に呆けた声を上げる育。その目に映るのは糸に貫かれ苦しそうに藻掻く敵の姿。

 狼狽えた様子を見せた育だったが気を取り直し先まで伸びていた糸を反転させ再び影の人型を貫き、再び反転させ貫きを繰り返し徐々に上へと昇っていく。

 そして頭を貫いた瞬間、敵はまるで溶けるように跡形も無く消え去った。


「えーっと……。これは、勝った……んですかね?」

「……多分」


 余りにもあっさりとした結末に微妙な空気が3人の中で流れる中、影の世界の崩壊が始まった。

 そこへ息を切らし慌てている様子のベネトが駆け付ける。


「ちょっと早すぎるよ! 三人とももうそんなに魔獣倒せるようになっちゃったの!?」

「いや……今日のは敵が弱すぎたというか……なぁ?」

「……手応えの、ての字もなかった」

「な、なんかごめんなさい!」


 ベネトの言葉に対してそれぞれ言葉を返す3人だったがその表情は困惑が色濃く出ており、そんな彼らを見て笑みを浮かべるとベネトが再び口を開く。


「まあ敵を倒せたのは良かった! それじゃあ帰るよ!」

「なんか、不完全燃焼にもほどがある……」


 恋たちはどこか物足りなさを感じつつも、影の世界から脱出した。


ここまで読んでくださってありがとうございます!

それと感想、並びに誤字報告をくださった方にもこの場で感謝を。

特に誤字報告に関しては本当にありがたかったです。投稿する前に見直したはずなのにマジで気付いてませんでした。やっぱ急いで書くと弊害がでますね……。

そんなこんなで書いていますが、見てくださる人と一緒にこの物語を作っていけたらなと思いました。


ここからは作者の事情をば。

土日連続投稿になりましたがなかなか難しいですね……ほんと、毎日更新できる方は尊敬します。

今回の話ですが、話が進んでいないように見えるかもしれませんが必要だったんです。いや、ほんとに。

色々考えてはいるんですが入れるならここしかないってなったんです。だから許して。


それはさておき、ここから章の終わりまであともう少し……なんですが、1つだけ注意喚起を。

ここから先、人によっては胸糞と感じてしまうような描写をする予定です。詳しくはネタバレになってしまうので言えませんが……まあ、今までの恋達は良くやっていた、ということです。

それでも見ていただけるという方は、宇宙の果てまでお付き合いくださいな。


そんなこんなで書いてきました「メモリーズ・マギア」、もうすぐ始まりの章も終わりが近付いているので、次の話もぜひお楽しみに。


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