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メモリーズ・マギア  作者: 雨乃白鷺
始まりの章 キミの想いが魔法になる
15/166

第14話 緑の魔法、実践

第14話になります。


「えーと、今までの話を纏めると……もっと強い敵が出るかもしれないから気を付けよう、ってことで合ってます?」

「おう、大体そんな感じだ」


 熊の魔獣討伐から翌日。

 星宮学園にある食堂にて、恋たちは改めて昨日の会話を噛み砕きながら話した。食事時というのもあって辺りは楽しそうな話し声などで満ちている。声さえ押さえれば話していれば周りに聞こえる心配はない。

 その内容を聞いた育は困惑の表情を見せる。幾ら魔獣を倒すことが出来る魔法少女になったとしても、昨日戦った魔獣より強い魔獣がいるとは考えられないのだろう。


「……私も魔法少女になったばかりだから偉そうには言えないけど、育にはなるべく早く戦えるようになって欲しい」

「それは自分でも感じていたんですけど、強くなるのに具体的には何をすればいいとかありますかね?」

「そうだなぁ……基本はイメージトレーニングだな。魔法少女の姿になったら身体がいつもより自由に動くのと、育の場合は武器の糸がどう動くかも考えた方が良いかもな」

「なるほど、イメージトレーニング……」


 育は顎に手をあて小さく呟き何かを考える素振りを見せる中、今まで昼食に夢中になっていた葵が口を開いた。


「……そういえば育、今日の授業はいつ終わるの?」

「え? 今日は確か五時間目の授業で終わりだったはずですけど……それがどうしたんですか?」


 突然の質問に面食らう育だったがその答えを聞いた葵は再びその口を開く。


「……今日は私たちも五時間目に授業が終わるから、その後で特訓しよう」

「いいんですか!?」


 立ち上がって葵に顔を迫る育。大きな声に吊られて近くにいた生徒たちからの視線が集まり、それに気付いた育は顔を赤らめ恥ずかしそうに席に着いた。


「ほ、本当にいいんですか?」

「……うん。レンちゃんも賛成してくれてる」

「流石にまたぶっつけ本番っていうのもな。今日が早帰りの時間割で良かった」

「あ、ありがとうございます!」


 頭を下げて感謝を述べる育。その様子からは丁寧さが伺えた。


「そうだ、育は部活とか大丈夫なのか?」

「あ、それは問題ありません! 手芸部は作品出展の行事以外は参加自由なので!」


 その言葉に軽く胸を撫で下ろす。

 葵の所属しているアーチェリー部では自然に抜けられるときは良いが、どうしようもないときはベネトが暗示をかけている。いくら仕方のないことだとはいえ、魔法でそういったことを誤魔化すのは少し気が引けていた。


「よし。それなら学校終わったら校門前に集合で」

「わかりました!」


 放課後の予定を決めると元気のいい返事と共にコップの中に注がれた水の残りを一気に飲み干す育。そしてそのまま席を立とうとした――のだが、ふとその動きを停止させた。


「ん、どうした?」

「そういえばまだ先輩たちの連絡先知りませんでした! 教えて貰ってもいいですか?」


 ポケットからスマートフォンを取り出した育に納得する。彼とは主に念話による会話をしていた為、特に連絡先を交換するといったことに必要性を感じていなかった。

 とはいえ別の連絡手段を持っておくことに越したことはないだろう。


「俺は大丈夫だぞ。葵は?」

「……私も大丈夫」

「やった! じゃあお願いします!」


 その場で行われる連絡先の交換。立ち上げたメッセージアプリに新しく追加されたのはローマ字で書かれた彼の名前だった。

 お互いにきちんと追加されていることを確認すると育は満足そうに頷き、弁当箱を鞄にしまう。


「それじゃあ先輩、また放課後に!」

「おう。午後も頑張れ」

「はいっ!」


 育が立ち去ったのを見届けると目の前にあるパンの包装を小さく結び持ってきたビニール袋に入れる。隣を見れば、葵が空になった弁当箱をケースに仕舞っているところだった。


「俺達もそろそろ行くか」

「……ん」


 備え付けられた台拭きで軽く机を拭くと席から立ち上がる。

 そして、二人並んだまま教室に向かうのだった。





 修学も終えて放課後、恋たちとベネトは特訓場にしている採掘現場に来ていた。


「さて、それじゃあ変身しよっか」

「はい! メモリアライズ!」

Yes Sir(了解). Magic Gear(魔法機装), Set up(装着)


 育が起動コードを唱えると同時、銀の籠手から機械音声が発せられる。

 身体が明るい緑色の光に包まれ、次の瞬間には身に纏う衣服は魔法少女としての装備に換装されていた。

 恋と葵は既に変身を終えており、訓練の準備は万端だった。


「それじゃあ魔法を使ってみよう。今回は時間が短いからどんどんやってね」

「わかりました! ロード!」

Loading(取得), ENHANCE(強化)


 起動コードと共に育に緑色の魔力光が纏われる。そのことから、発動した魔法は昨日の熊型魔獣戦で使用したものだと分かった。


「よし、それじゃあまずは説明から。『エンハンス』は強化魔法で色んな能力を強化することが出来るんだ。昨日イクがやったのは糸による切断力を強化したって感じだね」

「ほえー、そうだったんですね。今もそうですけど、使った途端に力が湧いてきた感覚がするので納得かもです」


 育はベネトの説明にしっかりと耳を傾ける。その表情は真剣そのものだ。

 

「勿論、魔法だって万能じゃない。……ほら、噂をすればだ」


 ベネトがその翼で育を指す。すると身体を包む魔力の光が徐々に弱まり始め、五秒もすると完全消え去ってしまった。


「エンハンスは持続時間の制限がある。使うときは気を付けてね」

「はいっ、わかりました!」


 元気の良い返事にベネトは軽く笑うと自身のデバイスを操作する。育の目の前には仮想ターゲットである赤いサークルが現れた。


「それじゃあ簡単な実践だ。これからこの的を出すから攻撃して。ただし武器である糸だけで、その場から動かないでね」

「はい! 頑張りますっ!」


 右腕を振りかぶり構える育。その目の前に再び赤いサークルが出現したとき、腕を思いきり突き出した。

 ガシャン! という音と共に右腕に装備された武器が展開される。銃口にも見えるパーツから緑色に輝く糸が射出され、真っすぐ目標を貫いた。


「よし、次!」

「はいっ!」


 育は次に配置されたサークルの位置を確認し、突き出された腕を横薙ぎに振るう。遅れて同じ軌道を描いた糸がサークルを上下真っ二つに割いた。

 そこから結界内の様々な場所にサークルが設置されそれを次々と壊して行く育。先端で貫き、薙いで切断し、縛り締め上げ粉砕する。

 訓練を始めてから五分後、ベネトの声によって終わりを告げた。


「ふう……。結構疲れますね、これ」

「魔法を使うのには精神力が要るから、慣れない内は大変かもな」


 呼吸を整える育に(ねぎら)いの言葉をかける。

 恋と葵の場合、魔法少女としての動きは生身でやっていたことが元になっているためそこまで精神的な疲労は少ない。

 しかし育の場合は敵に攻撃するのも一苦労だ。なにせ糸を飛ばして攻撃するなど現実では殆ど無い動きのため、反復練習で慣れてもらうしかない。

 恋は何か手伝えることは無いかと考えていると、デバイスを操作していたベネトが飛来した。


「よーし、休憩がてら僕なりに分析した育の魔法を説明するよー」

「は、はいっ! お願いします!」


 丁寧に正座でベネトの前に座る育。その手にはメモ帳とペンが握られていた。


「まず諸々の性能。射程距離は育が意識できるならどこまでも伸ばせそうではあるけど、糸が届く時間も考えると伸ばし過ぎはおすすめは出来ないかな」

「なるほど……」

「攻撃の威力に関しては『エンハンス』があることを考えると問題ないし、近接戦闘も出来そうだけどイクは格闘とかそういうのとは無縁だったんだよね? 近距離のレンと遠距離のアオイがいることを考えると……中距離がベストかな」

「中距離、ですか?」

「そう。糸は変幻自在な軌道で攻撃が可能だったり、トラップとして設置したりとか色々使い方があるけど、その分扱いが難しい。ただ強化系の魔法もある訳だから、近接戦闘も出来ることを加味すると中距離が一番いいかなって」

「ほぇー……なるほど、ありがとうございます!」

「いえいえ。疑問の解消は早ければ早いほど良い。分からない事があったらどんどん聞いて」


 質問する育と懇切丁寧に説明するベネト。その様子はまるで先生と生徒のようだ。


「武器はここらへんまで、次は魔法だ。イク、よろしくね」

「わかりました! えーと……これにしようかな」


 ケースからメモリアを抜き取る。取り出されたのは『PROTECTION』と刻印されたメモリアでそれを右腕の武器に装填した。


「ロード!」

Loading(取得), PROTECTION(守護)


 起動コードを唱えると育を中心として包み込むように半球のドームが形成された。


「おお、育のはそういう形の防御なのか」

「……使いやすそう」


 それぞれ感想を述べる中、育の方を見てみれば自身が生み出した魔法のドームに目を奪われている様子だった。


「イク! 確かに驚いてるかもしれないけど今日は時間が無いからどんどんお願い!」

「え、あ、ごめんなさい! ええと……ロード!」

Loading(取得), CONSTRUCT(構築)


 大きな声に呆けていた意識を戻しバリアを解除、次のメモリアをケースから取り出し装填する。機械音と共に腕に装備された武器が展開されると糸が独りでに動き、まるで編むように何かを形成していく。

 糸が動くのを止めると、何かの物体が育の手元に落とされた。


「……時計?」


 育の手の中に落ちた物、それは懐中時計だった。

 なぜ時計が急に現れたのか困惑する育とベネトだったが、葵が自ずと口を開く。


「……さっき、ベネトさんが急がせるようなことを言ったから時計が出来たんじゃない?」

「コンストラクトは構築。さしずめ、自分のイメージする物を作るってとこか?」

「なるほど、そういうことか。イク、なんでもいいから自分の作りたいものを思い浮かべながらもう一回使ってみて!」

「わ、わかりました!」


 起動コードを口にしてもう一度『コンストラクト』を発動させる。先ほどと同じく糸が集まり、しばらくすれば手元には丁寧に編み込まれた白と緑のボーダー柄マフラーがあった。


「わっ、本当にできた!」


 自身の手にあるものに興奮する育。その様子から彼の想像通りの物が作られたことが分かるだろう。今度はその手元にあるマフラーが忽然(こつぜん)と姿を消した。


「この魔法で作った物、僕が消したいって思えば消えるみたいです!」

「なるほど。これを戦闘でどう使うかはこれからの課題だね」

「了解しました! それじゃあ次いきます、ロード!」

Loading(取得), CONNECT(接続)


 ベネトが自身のデバイスに得られたデータを入力していく中、育は別のメモリアを装填し魔法を発動させる。再び糸が独りでに動けば、なぜか恋の方へと向かって行った。


「ちょ、なんで!?」


 その光景にすぐさま逃げようとする恋だったがその時には既に目の前に迫っており、そのまま糸と恋の身体が触れる。そしてその糸は離れる様子も見せることなく、まるで糸電話のように彼らを繋いでいた。


「……ん?」

「……レンちゃん、どうしたの?」

「ああいや、なんか急に力が湧くような感覚が……」


 首を傾げる恋に心配そうに声を掛ける葵。少し考えるそぶりを見せた恋だったが口を開くとそんなことを口にした。自身の手、腕、そして体を観察するように見ていたがふと繋がれた糸の先に目が向けられ、その先に視線を走らせれば……何故かぐったりしている育の姿があった。


「育ぅぅぅぅ!? 大丈夫か!?」

「ああ、恋先輩……」

「どうした!?」


 急いで駆け寄り身体を揺する恋と、それに気づいたのか力なく返事をする育。その様子はどこか老人のような覇気の無さだった。


「先輩……すみません。少し貰います」

「え、貰うってなに――」


 言葉が言い切られる前に恋を謎の脱力感が襲う。それに任せて地面に倒れる恋だったが育の方は先ほどまでの様子とは打って変わって非常に元気な様子だった。心なしかなぜか肌もつるつるしているように見える。


「いやーこの『コネクト』って魔法、ただ繋ぐだけじゃなくて魔力を送ったり、逆に奪ったりも出来るみたいなんです」

「な、なるほど……それで……」


 その説明に納得する恋。魔力が急に補給された状態から通常の状態に戻っただけだが、その落差に身体が付いていけなかったのだろう。

 やっとのことで立ち上がった恋は、先ほどの魔法に関して思ったことを口にする。


「でも、それを相手に知られているとわざわざ当たってはくれないだろうな」

「そうなんですよね。味方に魔力を補給したりだったら簡単に使えるんで、そっち方面での運用ですかね」


 そんな感想を交わした後、今度は木や石などにも『コネクト』を発動させるが特に魔力のやり取りなどは行えずただ繋がるだけとなった。


「よし、それじゃあ最後ですね。ロード!」

Loading(取得), LOCK(停止)


 最後の一枚を装填し起動コードを唱える育、その魔法の対象になった石は空中で完全に停止していた。


「おおおお! これぞ魔法、って感じします!」

「……すごい」


 止まったままの石をつんつんと何度も指で突く葵。それだけでは飽き足らず本当に動かないかを確かめるため強めに指で刺激し、終いには拳で殴ったりもしたが石は全く動かなかった。


「……ビクともしない」

「いや、何で殴ったんだ」


 突っ込む恋の表情は呆れたような疲れたような、そんな表情だった。

 そんなコントのような事をしていると育から声が上がる。


「それじゃ、もう解除しますねー」


 その言葉通り石にかけられていた魔法が解除された。

 瞬間恋と葵の間を何かが高速で通過したような風が駆け抜け、次に破壊音が響いた。


「「……、」」


 それぞれ背後を確認する恋と葵。

 彼らの視線の先には小さなクレーターが出来上がっている地面が映っていた。


「わああああ!? 先輩方、大丈夫ですか!?」

「お、おう。当たってないからそんな慌てるな」


 涙ながらに詰め寄ってきた育に対して落ち着けるように頭を優しく撫でる恋。

 それを他所に首を傾げていた葵だったがポン、と手を打った。


「……わかった。止めている間の運動量が保存されてたんだ」


 クレーターの場所は葵が最後に殴りつけた方向と一致していた。

 つまり、止まっている間に受けた運動量を最後に受けた運動の方向に向かって再現されたという訳だった。

 何度か『ロック』を使ってみると様々なことが分かった。運動の保存以外にも生物以外なら何でも固定することが出来る代わりに、生物に対しては一切使用不可。そして固定する時間には制限があり、その時間に達した瞬間強制的に固定化が解除されるというものだった。





 魔法確認を兼ねた軽い訓練が終わり恋の家へと転移してきた恋たち。そこでは少し張り詰めた空気が漂う中、ベネトは育へ声を掛ける。


「さて、イクの魔法はこんな感じだけど……いけそうかい?」

「はい、なんとかイメージは出来ました。あとは身体が動くかどうか……」


 その表情は緊張と恐怖が混じったような面持ちで、強く握られた手が少し震えているようにも見える。

 強張る育の肩に、葵の手が乗せられる。


「……大丈夫、私たちがいる」

「葵先輩……」

「そうだぞ。俺も何とか守れるよう頑張るからさ」

「恋先輩も……はいっ、ありがとうございます!」


 二人から言葉に感謝の言葉を伝える育。その表情には既に緊張は無かった。

 それを見たベネトは微笑むと咳払いをした後、口を開いた。


「さて、今日も頑張ろう!」

「おう。ベネト、今日もよろしくな」

「……頑張る」

「よし、やるぞーっ!」


 ベネトの掛け声と共に声を上げる。

 日常を守るため、逢魔が時へ移り行く街へと踏み出していく。


「メモリーズ・マギア」を読んでいただきありがとうございます!

まずは謝罪を幾つか。

2話連続で予定していた投稿時刻よりずれてしまい申し訳ありませんでした!最近いろいろとごたついてしまい安定して小説を書く時間を確保できない状況が続いてしまったのが原因で、書き溜めをしないで書ける時に書くといったスタイルでやっているのが仇となってしまった形です。しかしこのスタイルを変えることは難しいため、読者の皆様には申し訳ありませんがそこはご了承願います。

次に、内容について。

表現が不統一であったりする箇所を幾つか訂正したりしましたが、そのほかに魔法少女の衣服の描写に関して描写漏れがあったためそれの加筆と、それに伴って周辺文章の変更を行いました。

読者の皆様には本当に申し訳なく思いますが、物語の進行上どうしても必要だったため理解していただけるとありがたいです。


さて、そんなこんなでやってきましたが次は15話。いよいよ恋、葵、育の3人による共闘です。3人ということもあってそれなりに見ごたえある戦闘シーンを、書けたら……いいなあ。


それでは、ここまであとがきを読んでいただきありがとうございます!

感想、評価を頂けるとモチベーションに繋がるのでいただけると跳ねて喜びます。

また誤字、脱字等の報告に関しては感想か作者のtwitterにてお願いしますね!

それではまた次の話でお会いしましょう。

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