第12話 緑の魔法少女、参戦
第12話になります!
めっちゃ難産だった……。
まるで少女のような少年、浮泡育に魔法を教えると恋が決意してから約二〇分後。三人と空を飛びながら懲戒している1匹は夕焼けに染まった街を歩いていた。
いざ魔法のことを話すといっても学校では他の人に聞かれるか分からないこと、時間の都合もあり魔獣が出現するまでのパトロールがてら念話によって説明が行われた。
『魔法少女になって、その魔獣っていうのを倒せばいいんですね! まさに悪と戦う正義の味方ってやつだ!』
現実と変わらない、まだ変声期が来てないからなのか少女とも聞こえる声が脳内に響く。話の聞き終わった育はニコニコと機嫌が良いことが一目でわかる笑みを浮かべている。
『……調子に乗らない。遊びじゃないの』
声と共に育に対して冷たい視線を向ける葵だったがそれも無理はない。魔獣との戦いは危険を伴うのは当たり前で、場合によっては巻き込まれた人を守りながら戦う必要もあるため責任もある。浮き足立っている少年に対して注意をするのは当然とも言えた。
『……まあ、そうですよね。空想上の出来事なんかじゃない、現実に起こっていることなんだから。……ごめんなさい、葵先輩』
『……ううん、分かればいい。私も強く言い過ぎた』
先ほどまで浮かべていた笑顔は鳴りを潜め神妙な表情を浮かべる。明らかに変わったその雰囲気に面食らう葵だったがその様子に謝罪を返した。
『それでも魔法が楽しみっていうのは変わりませんけどね。不謹慎かもしれないですけど』
『……まあ、気持ちは分かる』
育は自身の手元に納まる黒色のケースのような物体――メモリーズ・マギアの待機形態を弄ぶ。それには恋や葵の物とは違い緑色の幾何学模様が刻まれていた。
『イク、魔法を知ったばかりのキミには悪いけどぶっつけ本番で戦ってもらうよ。危険だけど、なるべく僕たちがカバーするから頑張って』
『そこは覚悟してるから大丈夫です! ベネトさん、恋先輩、葵先輩、迷惑をかけるかもしれないけどよろしくお願いします!』
『勿論さ!』
『おう。しっかり守るから安心してくれ』
『……私も迷惑かけるかもしれないから、その時はよろしく』
三者三葉の反応を見せる中で元気よく返事をする育。それを見ていつも通りの真顔でいる葵と微笑みを浮かべる恋が居た。
しかし、その日常の終わりを告げるようにそれぞれが持つメモリーズ・マギアが振動し始めた。
「わ、わっ」
落としそうになった自身のメモリーズ・マギアを大事に抱えた育を尻目にレンと葵の纏う雰囲気がピリピリとした鋭いものに変わり、その直後に脳内にベネトからの念話が届く。
『近いよ! その交差点の向こうにある公園だ!』
『了解!』
「……行くよ」
「わ、待ってください!」
葵の言葉に慌ててその後を追う育は横断歩道を渡り目的の公園へ辿り着くと地面に小さな黄色の帽子が落ちていることに気が付く。しかもその帽子はこの近場にある幼稚園児が使用している物だった。
そのことに歯噛みしていると上空からベネトが舞い降り小さな球体型のデバイスから魔法の発動を意味する淡い光が発し始めた。
「それじゃ行くよ、影界潜行!」
瞬間、淡かった光が極光へと変わり視界を塗り潰す。再び目を開ければそこには先ほどまでの夕日が染める街並みでは無く月が輝く夜の世界があった。
「ここが、シャドウ・ワールド……」
初めてのファンタジー体験にビルの合間から月と星が輝く空を見上げそう零す育だったが自身が呆けていたことに気付くと首を大きく横に振り辺りを警戒するように視線を配った。
「育、変身するからまずのそのケースから英語でトランスって書かれているカードを取り出して!」
「は、はい! ってなにこれ!?」
恋たちの後を追うように黒いケースから『トランス』のメモリアを取り出す。手の中で黒いケースだったものが唐突に消え、しかも何の予兆も無く装着された銀腕に目を剥いた。
「驚くのは後で! こんな風にさっきのカードを入れて!」
「え、えっと……こう!」
【TRANCE, Stand-By】
カードの挿入と共に自身の腕から鳴った機械音声に驚きそうになるが、先ほど言われたこともありなんとか押し留める。
「よし、後は起動コードを間違えずに言うだけだ。メモリアライズ!」
「め、メモリアライズ!」
【Yes Sir. Magic Gear, Set up】
変身を終えた恋と葵が戦闘準備を整える中、ビルのガラスに映りこむ自身の姿をぼうっとして眺める育の姿が。それに釣られて魔法少女の姿となった育に視線が移る。
足はブーツによって膝下まで覆われ、全体的に緑と白が特徴的な服装で胸元には黒いリボンが飾られている。スカートの上から覆う腰布と更に先端に行くにつれて白色から緑色に変化していくグラデーションのマフラーが風に扇がれていた。髪は元の栗色のまま髪留めによって女の子らしい髪形になっていたことで元々の女子とも間違えそうな整った顔と低い身長、身に纏う服装が相まってまさしく可憐な魔法少女と言っても差し支えないものだった。
しかしそんなイメージを与えるからこそ彼の右腕に装備された武器と思われる銀色の機械に視線を奪われる。恋の籠手とは違い拳を覆ってはいないがそれでも彼の武器よりも重厚感を感じさせるものだった。
「育、どうした? もしかして不調か?」
「……大丈夫?」
粗方の観察を終えた2人はふと育が体を震わせていることに気付くと駆け寄り心配する恋と葵。ただ体を震わせるだけだった育がその口を開く。
「か――」
「か?」
「――かわいい! え、なにこれ! すっごくかわいいんだけど!」
発せられた言葉に思わず力が抜けそうになる恋と対して葵はいつも通りの真顔だったが、育の視線は2人の元へと移り全身をまじまじと観察する。
「あ、恋先輩も女の子になってる! 葵先輩は……ほとんどそのままなんですね! 赤と紫で2人ともかっこいい!」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、今はもう結界の中だから集中してな?」
「はっ、そうでした! ごめんなさいっ!」
苦笑いしながら告げた恋の言葉に謝罪した育が再び周りに目を凝らし始めたその時、通話の回線がつながった時のような感覚が3人の体に走ると同時に破壊音のようなものが聞こえ始める。
『みんな、僕の方で被害者と魔獣を発見! 今みんながいる場所から真っすぐ行った先の交差点で合流しよう!』
「了解! 行くぞ!」
「え、もうですか!?」
「……しっかりついてきて」
「は、はいっ!」
恋を先頭に葵、育と後に続いて一直線の道路を駆け抜けていく。
そして三人の目の前に指示された交差点が差し掛かった瞬間爆発が起こり巻き上がり、土煙の中から飛んできたバリアに包まれたベネトと少女を恋と葵がそれぞれ受け止める。
「ありがとう! あとはお願い!」
「おう、そっちは頼んだ!」
ベネトと一般の少女が光と共に消え去ったのと同時、巻き上がっていた土煙から魔獣が姿を現す。丸みのある耳、太く短い四肢とそこから伸びる鋭い爪、大きな体躯から熊型の魔獣であると推測できた。
「あれが魔獣……って、ボクの武器は!?」
唸り声をあげながら近づいてくる魔獣にそれぞれの武器を構えるが、それを見た育が慌て始める。見かねたのか葵は弓を構え魔獣から目を離さないまま口を開く。
「……メモリーズ・マギアは、私の弓やレンちゃんの籠手みたいに武器が機械っていう特徴がある。つまり、その腕にあるのがあなたの武器」
「ま、まさかこれで殴れと!? 自分で言うのもあれなんですけど腕っぷしは無いですよ!?」
「……でもその形、レンちゃんみたいに殴る蹴るじゃなさそう。片腕だけだし」
育は自身の腕に装着された機械武器を指差しながら縋り付くように告げてきたが、葵の言う通り近接戦闘には使いづらいと思われる形。強いて言えば防御には役立ちそうではある。
しかし攻撃としてどう使えばいいか考え付くと言ったら、答えはノーだった。
「……まあ、攻撃する意思を示せば普通の攻撃魔法は発動するから、頑張って」
「そんな大雑把なんですか魔法って!?」
ショックを受けたように目を白くする育だったが突如魔獣が雄叫びを上げると走り出した。勿論その先は魔法少女の三人がいる場所である。
「こ、こっち来たああああ!?」
「避けるぞ育!」
「え、あ、はいっ!?」
それぞれ跳び上がり散開すると恋と葵は魔獣から少し離れた背後に無事着地する。しかし育は魔法少女の出力に慣れていないためか空中でバランスを崩していた。
「な、なんでこんなに跳んじゃったのおおおおおおおお!? ――って地面がああああへぶっ!」
そして落下の勢いのまま顔面から地面に墜落してしまった。
「……大丈夫?」
「ふぁい……大丈夫でふ……」
葵の言葉に鼻を押さえながら涙目で答える育だったが見た目はほとんどダメージを受けているようには見えなかった。
そのことに安堵したのも束の間、魔獣がこちらに向き直り大きな叫び声を上げると再び彼らに向かって突進して行く。
「葵!」
「……わかった」
「へ、今度はなんですか!?」
恋は葵が育を抱えると後ろに下がったのを確認すると足を開き構えを取る。魔獣はそんな彼を獲物と定めて一直線に突進していき目の前に差し掛かると前脚を大きく上げその腕を振るった――その瞬間、大きく前に出た恋は相手の攻撃のリーチの内側に入り込み、その拳を思いきり胴体へ振り抜いた。
「おおおおおおおおッ、ロード!」
【Loading, IMPACT】
魔法によって強烈な衝撃が叩き込まれた魔獣の体はその威力で弾き飛ばされ地面を転がる。しかし何事も無かったかのように立ち上がるとを恋を標的と定めたのか歯を剥き出しにして低く唸っていた。
「打撃系は効果薄そうだな、っと!」
再び襲い掛かる爪の攻撃を受け止めると思いきり腕に弾き飛ばすことで仰け反る魔獣。
瞬間、伸び切った腕の付け根に魔力で形成された矢が突き刺さった。
「ギャウッ!?」
「オラァッ!!」
怯んだ魔獣の腹にもう一度拳を叩き込む。その威力に身体を後退させるがそれでも倒れること無くその場に在り続けていた。
攻撃に耐えた魔獣は大きく吠え地面を踏みぬくとその体は大きく飛び上がり恋の頭上を越えていった。
「やばっ、葵!」
すぐさま反転し魔獣の背を追う恋だったが既に魔獣は葵と育に迫ろうと走っていた。
「……来させない」
すぐさま葵が魔獣の前脚に対して射撃を行う。放たれた矢は見事に目標を貫き魔獣は転んだ――が、それでも進行が止まることは無かった。
目を見開き驚く葵とその背後にいる育もろとも切り裂かんとその爪を振り抜こうとしたとき――ガシャン、と機械質な音が鳴った時、魔獣の腕が空中で停止した。
「……怖いけど、頑張らなきゃ」
それは糸だった。
綺麗な緑色に輝く糸が複数、魔獣の腕に絡みついていた。
「ガァアア……!?」
育に装備された銀色の機械は先ほどまでとは違い一部のパーツが展開され緑色に輝く幾何学模様が走っている。そしてそこから魔獣を拘束している緑色の糸が発生しているようだった。
「僕だって魔法少女になったんだからぁぁぁぁ!!」
背後に向かって全力で右腕を振り抜く育。それに釣られ拘束されていた魔獣もその腕の動きのまま空中を舞い、地面に頭から激突した。
「育、ケースからカードを出して変身の時みたいに装填しろ!」
「……え? あ、はいっ!」
自身が起こしたことに放心していた育だったが追いついてきた恋の言葉に意識を戻すと右の二の腕にベルトで装着されたケースからカードを1枚抜き取り右腕の装置に差し込んだ。
「よし。あとはロードって言えば魔法が発動する!」
「わ、わかりました。ロード!」
【Loading, ENHANCE】
機械音声が響いた瞬間、育の全体を覆うように緑色の魔力が発生する。
「なにこれ……力が湧いてくる……!」
「……グルルルル……!」
自身の手のひらを開き見つめる育だったが獣の唸り声が聞こえると急いでそちらに向き直る。魔獣の体を見れば恋と葵の攻撃によって負った傷こそあるものの未だ平気といった様子だった。
「くっそ、まだまだか……!」
「……あの、恋先輩。ボクがやってみてもいいですか?」
「……大丈夫なのか?」
「はい! それに……」
一呼吸置くと育はその右腕を魔獣に向かって伸ばす。
「ボクだって、先輩たちの役に立ちたいです!」
彼の武器から緑色の魔力糸が複数発射される。魔獣の周りを囲むように動く糸だったが瞬間、中心とした魔獣の身体を雁字搦めに縛り付けた。
「ギュルアアアアアアアッ!!」
雄叫びを上げ暴れようとする魔獣。しかし腕も拘束されており体をのた打ち回らせるだけだった。
「これで……おしまいっ!」
育に纏っていた魔力が装置に集約し糸が一層輝く。
そして育がその手のひらを思いきり閉じた瞬間、魔獣の体が細切れに切断された。
魔獣だった肉塊がボトボトと音を立てて血の池を作り出す。
「……やった。やりましたよ! 見てましたか先輩!」
そんな光景を見てぴょんぴょんと嬉しそうに飛び跳ねる育。
恋は、もうなんと言っていいか分からない状態だった。
「……これは酷い」
「……葵も他人のことは言えないと思う」
葵から発せられた言葉に力なく返す恋の声が暗い世界に寂しく聞こえた。
はい!というわけで12話でした!
いやぁ、糸っていいですよね。個人的に糸を武器にして戦うのすこすこ侍です。
あと今回で主要なキャラは出揃いました。魔法少女3人のうち元々女の子が1人だけってこれもう魔法少女名乗って良いのかわからなくなるなぁ。でも書きたかったからしかたない、許して。
それと、主人公や他のキャラのプロフィールって乗せた方がいいですかね?細かく書いたものは章の最後、つまり最終話の後に設定集として投稿する予定なんですけど、そこらへん教えてくださるとありがたいです。
さて、そんなこんなで12話まで書いてきました「メモリーズ・マギア」ですが……思ったより筆が進まなくて苦しいですけど、なんとか頑張って更新していきたいと思います!
よかったら感想、評価よろしくお願いします!
では、13話で再びお会いしましょう!