四章 1 『それはまた突拍子のない一言から』
四章 1 『それはまた突拍子のない一言から』
夏休み前最後の日が開けーーそう、夏休みに突入した。
学校があるいつもの日とは違い目覚ましなんてものはかけていない。まあ夏休み初日の今日は普段でも学校の無い土曜日なんですけどね。
目が覚めた今が何時かはもちろん分からない。二度寝をしようと一応時間を確認しーー
「あれ? もうこんな時間かよ」
携帯電話の画面には午前十一時五十分と時が刻まれている。
二度目だが今日は夏休み。しかしいつもと変わらなく行われるのが魔法の練習だ。
そしてその為の絵梨花の家へ集合する時間は学校が無いのでいつもとは違い午後の一時になっている。
二度寝している時間は無いな。
ゆっくりと体を起こし体をポキポキと鳴らす。そして伸びをして
「さ、夏休み初日を始めますか」
独り言を言いながら居心地のいい布団とおさらばする。
お昼ご飯は作るのが面倒だったのでカップラーメンで済ませた。カップラーメンを考え出した人はつくづく偉大だなと思いつつ絵梨花の家へ。
一応、というのもおかしいかもしれないがチャイムを鳴らし
「隣の天才です」
と、これまたいつもの挨拶を絵梨花のお母さんと交わし絵梨花の家に入る。
部屋の扉を開けると
「あっ、おはよう咲都くん! 今日から夏休みだね!」
相変わらず元気な華絵ちゃんが既に到着していた。
「おはよう華絵ちゃん」
ん? 何か違和感を感じると思い華絵ちゃんを見る。あ、そうか。いつもと違って制服じゃない、つまりは私服の華絵ちゃんだから少し違和感を感じたのか。
「どうしたの咲都くん? 私何か変?」
「いや、そうじゃなくて華絵ちゃんの私服見るの初めてだなと思ってさ」
「そう言われてみればそうだね! どう? 可愛い?」
そんなの答えは決まってるだろ。
「可愛いに決まってるじゃん。惚れちゃいそうですよ」
「ほんと! 嬉しいなぁ。咲都くんは優しいね!」
いや優しさとかじゃなく本当に可愛いんだけどな。
「でも絵梨花ちゃんも可愛いよね! 服のセンスがあるというか、私服が絵梨花ちゃんに合って可愛いよね! ね? 咲都くん」
その問いに対してももちろん答えは決まってる。
「まあ絵梨花の私服は見慣れてるけど確かに可愛いよな」
前から少し言っているが絵梨花の私服のセンスはオレのストライクゾーンに入る事がとても多い。
「そうだよね! 絵梨花ちゃんのセンスが私も欲しいなぁ」
「……私をからかってるの咲都」
「いやいやいや、なんでそうなるんだよ。純粋に誉めてるに決まってるだろ? 前から言ってるだろ絵梨花は可愛いって。てか二人とも素材が可愛いからどんな服着てもある程度は可愛いんじゃね?」
と二人をマジマジと眺めつつ思う。
「ありがとう! 咲都くんは褒め上手だね! もしかしておませさん?」
「……ありがと」
華絵ちゃんは若干照れつつ、絵梨花はガチで照れつつそんな事を言ってくる。
二人とも照れちゃって。可愛いにさらに拍車がかかる。
「てか咲都はよく恥ずかしげも無くそんなセリフが出せるわね」
恥ずかしげも何も思った事を口に出してるだけですからね。
「別に恥ずかしいセリフか? 感じた事をそのまま口に出してるだけだし特に恥ずかしいとは思わないんだけどな。てか絵梨花こそ照れすぎだろ」
「なっ⁉︎ 照れてないわよ!」
いやいや、ただでさえ白い顔真っ赤にして言われてもなんの説得力も無いですよ。赤面すると目立つのなんの。
「確かに絵梨花ちゃん顔赤いね」
華絵ちゃんも同じことを思ったらしい。
「もう! 華絵まで!」
こいつもいろんな意味で可愛いやつだな。
更に顔を赤くする絵梨花を眺めつつふと気づいたことが一つ。
「そういや瞳姉は?」
いつもなら一番に来てるはずの暇人がまだこの部屋にはいなかった。
「瞳姉なら少しだけ遅れるって聞いてるわよ。それまでゆっくりしときましょ」
あの瞳姉が一番遅いなんて。こりゃ珍しいこともあったものだ。
さて、瞳姉が来るまで何をしておこうか。
……ふと目に入ったのはタンスの上に飾られていた一枚の写真だった。
「うお、懐かしい写真だなこれまた」
見つけたその写真を手に取りマジマジと眺める。
その写真の正体はオレ、絵梨花、瞳姉の三人で写っている。
小学校の低学年の時だろうか? オレと絵梨花の二つの家族それに瞳姉で海に行った時の写真だ。
「ああそれね。特に意味もなくずっと飾っていたけど久しぶりにマジマジと見ると懐かしいわね」
「うわぁ! 咲都くんも絵梨花ちゃんもちっちゃくて可愛いね! 瞳さんも今の私達ぐらいなのかな? この時からスタイル良いね!」
言われてみればそうだな。この写真の時から瞳姉はスタイルがいい。そして胸もそれなりに大きい。なんてけしからんボディをしておるんだ。水着だしとてつもなく分かりやすい。
この写真が入っている写真立てはその時の海で拾った貝殻で装飾されていた。
「これ絵梨花が作ったのか?」
「そうよ。親に手伝って貰ってだけど」
見た目は中々様になっている。こういうところは昔から器用だよな。
「いいなぁ海。私行ったことないんだ」
華絵ちゃんは海に行ったことがないのか。まあオレもこの時以来行ってはいないが。
ふと絵梨花を見ると何か考え込んでいる。
何と無くだが次に絵梨花が口にする言葉がわかる気がした。多分それは
「華絵ちゃんが行ったこと無いんだったら行ってみよう、だろ絵梨花?」
「えっ? どうして私が考えてたことが分かったの?」
やっぱりか。
分かった理由は何と無くとしか言いようがないが強いて言うなら絵梨花ならそう言うと思った。蛍の時もこんな感じの理由だったしなだったしな。
「いいの? でも私行き方分からないよ?」
「大丈夫よ華絵。交通手段はこの後に来る瞳姉がどうにかしてくれるはずだから」
確かに瞳姉なら喜んで車を出してくれそうだ。理由は簡単。自分も行きたいから。
「咲都も来る?」
待ってましたその質問!
いつものオレならめんどくさいと言って断っていたかもしれない。しかしだ、絵梨花に瞳姉、華絵ちゃんの水着が見れるならば行く価値はあるに決まっている。
「お、おう。行く行く。多分暇だしな」
「なんかぎこちない返事ね」
そんなこと無いですよ絵梨花さん。オレが下心なんてあるわけないじゃないですか……。
そしてタイミングよく扉が開き
「ふう。お待たせお待たせ」
瞳姉がそこにはいた。ほんとナイスなタイミングだな。
「ちょうど良かった瞳姉。今度海行こうって話ししてたんだけどーー」
「行く行く! 車は出してあげるから私も行くわ」
絵梨花の言っていた通り、オレの思っていた通りになった。
「で、いつ行くの?」
「特には決まってないけど……華絵いつが良いとかある?」
「私はいつでも大丈夫だよ! あっ、でも早く行きたいなぁ。気持ちが堪えられなくて待つのが大変そうだし」
海に行くことが楽しみであろう華絵ちゃんはかなりテンションが上がってきているのが見てわかる。
ぶっちゃけオレも楽しみだし。色々とね?
「咲都はいつでも良いわよね?」
「良いけど?」
「あれ? 咲都も来るの?」
「? そうだけど、なんで?」
「咲都ならめんどくさいって言って誘いに乗らないかと思ったんだけど……下心ね」
「ち、違うよ!」
またしても瞳姉に心を覗かれた。そういう魔法を使ってオレの考えていること当ててるんじゃないだろうな。
瞳姉の余計な一言のせいで絵梨花に怪しげな物を見る目で見られている。
てか瞳姉も多分下心はあるだろう。顔にそれが少し出ている。百合が。
「明日ってのは流石にいきなりすぎるし……明後日はどう?」
「オレは別にいいけど」
「私も大丈夫だよ」
「瞳姉は?」
「オッケーオッケー。じゃあ明後日の朝七時に絵梨花の家の前集合で。華絵ちゃんそれで大丈夫?」
「はい!」
てか瞳姉は分かってたけど皆んな案外暇なんだな。
「じゃあ明日二人で水着見に行こうか?」
「うん!」
「……オレもついて行ってやろうか?」
「いらないわよ!」
一瞬で否定された。そんなに邪険にしなくてもいいだろう。ちょっと二人の水着を早く拝みたいだけなのに。
「あっ、朝ごはんは途中でコンビニ寄ってあげるから食べて来なくていいわよ」
てな感じで海に行く事が決まった。
三人の美女に囲まれて海に行けるなんて最高のシュチュエーションじゃないですか? ねえ男子諸君。
「さーて、魔法の練習しに行きますか」
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