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半端者達、現実世界と異世界をその手で救え! 〜知らんけど〜  作者: 群青 黎明
 三章 『待ち受ける夏への予兆』
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 三章 9 『祭音の終わり』

 三章 9 『祭音の終わり』




 漆黒の刀を持つ天族との開戦から数分、オレは魔法を両の手のひらの上に構築し放つことなく留めていた。というのもーー


「チッ! ちょこまかと飛びやがって!」


「それはこっちのセリフよ! さっさと落ちなさい!」


 絵梨花と天族は空で、オレの遥か上空にて戦いを繰り広げていた。

 そして二人が二人とも羽を使い飛び回りながら攻撃をしている。なのでオレの魔法は未だに使えずにいた。

 確かに魔法を放つことは出来る。だがむやみに魔法を乱発して絵梨花に当たってしまっては意味がない。

 悔しいがオレにはまだそこまで器用に魔法のコントロールは出来ない。


 何も出来ないという歯痒い思いは少しあるが下から見ていて戦況は明らかに絵梨花が有利だった。

 天族は刀での攻撃に対して絵梨花は魔法、光の弾を放つ銃なのだ。リーチが圧倒的に銃の方が有利。

 事実、天族は一度も攻撃を当てることが出来ず絵梨花の弾を避けるのに精一杯という状況だった。

 しかし絵梨花の魔法は光。全てを避けるなど流石に無理なのだろう。二丁の銃口から放たれた光の弾は全部とはいかずとも確実に数発は命中していた。


 これなら時間は少しかかるかもしれないがいけるかもしれない……と思ったオレがいけなかったのだろう。


「クソッ! ラチがあかないな。先ににいちゃんの方をやっちまうか」


 速攻でフラグを回収し天族は標的を変えオレめがけて飛んでくる。

 ここぞとばかりにオレは両手に構築していた水魔法を放つ! が、二つの魔法はいとも簡単にかわされ刃はオレめがけて迫り来る!

 魔法を放った時間があったせいか回避が少し遅れる。ヤバい、避けれない!


「ーーあんたの相手は私がしてんでしょ!」


 その言葉と同時に迫っていた刃が横にそれ体当たりを仕掛けた絵梨花諸共地面に落ちる。


「クソッ! 邪魔しやがって! だが自ら近づいて来るとは愚かだっな!」


 天族の持っている刀が絵梨花目掛けて振るわれ刃の切っ先に血が滲む。


「ぅうっ!」


「絵梨花!」


 絵梨花の左足からは血が滲み切り口より下を鮮血で染める。


「だ、大丈夫。ちょっと足に掠っただけよ。それより、も!」


 その絵梨花の言葉と同時に天族の片羽は絵梨花の手にいつのまにか現れていた光の刃によって見事に切り落とされていた。

 あたりが鮮血に染まり始める。

 背中の羽を断ち切られた天族は怒りに顔を歪め半分我を忘れる。


「ーーッ! この半端者がぁ! 次は足じゃなくその首を切り裂いてやる!」


「足も掠っただけよ! やれるものならやってみなさい!」


 絵梨花はそう言うがよく見ると血の出方からして掠った程度ではないのは明らかだ。

 今絵梨花が切られたのは確実にオレを庇って近づいたからだ。

 オレが……オレが足を引っ張らなければっ!


「てめぇ! 絵梨花の綺麗な足に傷つけやがって……覚悟しろや!」


 オレの中で何かがキレたのだろうか。

 即座に右手に魔力を集中させ水の塊を作り出す。そして数秒にして圧縮。魔法は虹色の光を放ち小さな球体状に。


「咲都! 私は大丈夫だから! 怒りに身を任せないで!」


「大丈夫とかじゃねえ! オレのせいでお前が傷ついてんのは事実なんだよ! コイツには一発ぶちかましてやらねぇとな!」


 感情のままに天族目掛けて走り出す。

 あいつは羽を片方失いもう飛べない。そしてその事実に自我を保てずにいる。今ならオレでもなんとか一発くれてやれる!

 走り向かうオレに体制を整えた天族からの一撃が振り下ろされる。

 だが今のヤツの攻撃は人間のそれと大差ない。過去の経験のお陰で鍛えられたオレの反射神経では軽く避けれる。

 そして左斜め下に潜り込む形で避けたオレは迫る天族の腹に目掛けて渾身の膝蹴りを一発ぶち込む!


「グアッ!」


 おもいっきりぶち込んだ膝蹴りは思ったより効果があったようだ。こちらも先ほどと同じくとある事情で伊達に鍛えられた蹴りではない。

 天族は腹を蹴られた勢いで刀を両手から解放する。

 ーー勝機!

 勢いのまま右手で頭を掴み魔法を留めていた左手を顔の前に。


「天族のーーそういや名前聞いてなかったな」


 武器を手から離してしまい更に魔法が眼前に迫っている。ーーこの状況では流石に自分の終わりを悟ったのだろうか。ゆっくりと口を開き、


「……四極天が一人、天羅。それがワシの名だ」


「天羅、ね。遅れながらの自己紹介どうも。オレは虹夜咲都。最後にせっかくだから刀について言おうとしてたこと教えてくれる?」


「……あの時言おうとしたのはワシの刀はこの中でなら一番切れる。ただそう言おうとしただけだ。実はこの黒渦の刀についてはよくわからんと言うのが本当のとこでな。我ながら恥ずかしい話だが」


「そうか。……じゃ、長話もなんだしそろそろーー」


「ああ。一思いにやってくれ。ワシもお前らをやろうとした以上、最後にガタガタ言わん」


 そう言い残すと天族ーー天羅は目を閉じる。頭をオレの魔法に貫かれその生に幕を閉じた。




「ふぅ……」


 戦いを終え敵を倒したという事実に一気に安堵が押し寄せる。


「咲都!」


「はるーー」


 バチンッ!


 駆け寄ってきた絵梨花にオレはおもいっきり頬を叩かれた。


「なんであんな無茶な真似するの! もし走って行って刀が当たったら、あの状況でもあいつが諦めなかったら! どうするつもりだったの!」


 目に少し涙を浮かべ訴えかける絵梨花の顔にオレは今の言葉の意味を噛みしめる。

 どうやら我を忘れていたのはオレもだったらしい。

 冷静に考えればあんな真似するのはバカだ。だが自分のせいで絵梨花が切られたという事実にどうにも自我を保てなかったのだろう。


「……悪かったよ。確かに冷静じゃなかったよな。ごめ……怒ってくれてありがとう」


 こういう時はごめんって謝るよりありがとうって言う方がいいってラノベかアニメで見た気がする。


「ほんと心配したんだからね」


 そういいながら涙を浮かべ絵梨花はオレに抱きついてきた。

 おぉ、これは抱き返していいものなのか……と柔らかいものがオレの胸に当たっているのに気がつく。


「? どうして顔赤いの? 鼻の下も伸ばしてるし……」


「いや、柔らかいのが二つね、当たってるんですね」


「……バカ! 変態咲都!」


「ウグッ!」


 いつものごとく思ったことを口に出し腹パンをくらった。




 ーー上級を一体、オレと絵梨花で倒しオレ達は隠れてもらっている華絵ちゃんの元へ小走りで向かう。


「でもまさか上級を二人がかりとは言え倒せるなんて思ってもいなかったわ」


「思ったより強くなかったってのもあるけど絵梨花が羽を片方落としたのがデカかったよ」


「そ、そうかな? 咲都も危なかったとはいえ完全にトドメをさしたんだから凄いわよ」


「まあな。てか上級ってどれぐらいの強さなんだよ?」


「ん〜どれぐらいって対象を出すのが難しいわね。くらいは低級、下級、中級、上級、超級、特級。特級より上は超特級に全部まとめられているわ」


 結構階級が分けられているんだな。


「なるほどね。上級は真ん中か」


 上級でも強さでいえば中間なのか。それ相手に二人掛かりでなんとか倒せたという感じでか。まだまだ強くならないとダメだな。


「ーー絵梨花ちゃん! 咲都くん!」


「おまたせ華絵。怖い思いさせてごめんね。急いで瞳姉の所まで行きましょ」


 絵梨花は華絵ちゃんをバスの中に隠していた。なるほど、本を隠すなら本の中。人を隠すなら人の中ってわけか。


 華絵ちゃんと合流し三人で瞳姉の元へ。

 未だに瞳姉の爆破音は鳴り響いていた。なので瞳姉のいる方向は分かるがあまり近づきすぎることも出来ない。

 瞳姉の攻撃で出来た粉塵による煙であたりは薄暗くなっており肝心の瞳姉達の姿は見えない。

 ある程度近づいたところで爆破音が止む。


「ふうっ……っ!」


 今の声は瞳姉のものだった。

 煙の中で瞳姉がやられているのかもしれない。オレはそう思い絵梨花と顔を合わせ、


「華絵ちゃん、悪いけどまたここで隠れといてくれ。オレと絵梨花は瞳姉の加勢にーー」


 その続きを言おうとした所でものすごい衝撃、爆破が起きその衝撃によって出来た風であたりの煙が一気に晴れる。

 中から現れたのは空に浮かんでいる瞳姉。そして地面に倒れ伏している三体の天族。

 二体は体全体が何かに叩き潰されたようになっており血溜まりを形成して倒れピクリとも動かない。その命を終えているのだろう。

 しかし一体は傷を負って血を流しているとはいえ他の二体ほど酷くはなくまだ微かに動く。


「瞳姉大丈夫か! さっき瞳姉の呻き声が聞こえてーー」


 叫んだオレに瞳姉は手を軽く振り顔を向けーー瞳姉の目が充血いや、アルビノの動物のように真っ赤に染まっていた。


「咲都に絵梨花〜。その感じだとそっちの一体は倒したのねぇ。やるじゃん。私なら大丈夫よ〜。さっきのはちょっと気持ち悪くなっただけだから……」


 瞳姉は少し不気味に笑いながら真っ赤な瞳孔を細め少し先、動いている天族へと向きなおる。


「さあ、あなたで最後ね。三尺ノ太刀を使うなんていい趣味してるのに倒さなきゃならないなんて残念よ」


 その言葉に天族は何も返さない。もう声も出せないのだろうか。


「せっかくだから最後にいいもの見せてあげる」


 瞳姉はそう言うと何もない空間から長い何かを出しーーそれは相手が持っている刀と同じ三尺ノ太刀だった。

 しかし長さ以外は明らかに違う見た目をしている。

 鞘には金属によって様々な装飾が施されており抜かれた刀身からは今にも破裂せんと思わせるオレンジ色の禍々しいオーラを放っていた。


「三尺ノ太刀! しかもそれは我ら天族の神器……」


「そうよ。名前は……忘れちゃった。せっかくだからこれでトドメを刺してあげるわね」


 瞳姉はそういうと刀を構え天族に向かい振り下ろす。

 しかし距離があるのでそんなところで振っても意味はないだろう。そう思った瞬間


 ーーバツンッッッ!!!


 天族の体が弾け飛び血や肉片が辺りに飛び散る。


「うわっグロ!」


 絵梨花は振るわれた刀によって起こる結末を知っていたのか平然と見ている。

 華絵ちゃんが隠れているので今のを見ていなかったのが幸いだ。


「はぁ〜終わった終わった。たかが上級でも三体ともなると流石に疲れるわね。久し振りに目も変わってるみたいだし。っと、華絵ちゃんは?」


 少し気だるそうに前に垂れた髪をかきあげながら瞳姉は地に降りる。


「華絵ならそこに隠れてるわよ」


「そっかそっか。全員無事なのね。来てたヤツらは全部倒したわけだしそろそろ空間が消えるわね。とりあえず疲れたし華絵ちゃんと合流して帰りますか」




 華絵ちゃんと合流し数秒後、人の声、祭の音、風の感触などが元に戻る。

 瞳姉の目もいつのまにか元の黒い眼差しに戻っていた。

 少し不安そうな顔の華絵ちゃんが絵梨花に問いかける。


「さっきまでのって何だったの?」


「華絵も関わったわけだからちゃんと説明してあげるわ。ここじゃ話せないことだからとりあえず私の家まで帰りましょ」


「うん。でも帰る前に一つだけいい?」


「なに? まさか怪我したとか……」


「チョコバナナもう一本買って来ていい? お腹空いちゃった」


「へぇっ……うん」


 まさかの華絵ちゃんの言葉に絵梨花の素っ頓狂な返事でオレ達の祇園祭は終わりを告げた。

感想、ブクマなど励みになります。ありがとうございます。

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