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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第9話 ハロルド、再び

【前回のあらすじ】

 王都に着いたテオンたちは方々に別れる。テオンはルーミたちと共にフィリップの工房に向かった。クレイス修理店の店主、親方ブレゲに連れられ店の地下に着いたとき、何者かがやって来たのだった。

 「おい婆さん!今日こそ尻尾を掴みに来たぞ!!」


 古びた工房に響き渡る声は、どこか聞き覚えのあるものだった。


 「こここ、困ります!今親方は外出中で……」


 「外出?どこにだよ。今珍しく客が入ったろ?そいつらはどこ行った?」


 「え、いやそれは……」


 フィリップがたどたどしく対応しているのが聞こえる。しかしどうやら彼は、僕らがここに入っていくのを見たようだ。


 「どうせ奥なんだろ?いい加減通せよ!フィリップ」


 「ねえ、もうその辺でいいんじゃない?」


 ん?今度は聞き慣れない女性の声。来訪者は二人?


 「今来たのは冒険者。あたしらをよく思ってない奴らが、冒険者ギルドに依頼を出すのさ。全く……放っておいちゃくれないのかねえ」


 「ねえテオン、あの声ってハロルドさんだよね?」


 「おや?何だ、知ってたのかい?『天恵』ハロルド・ガードナー、Bランクながら護衛クエストの成功率じゃ王都トップ。流石、有名人だね」


 「あの人、そんなに強かったの?」


 「ハロルド自身が強い訳じゃないそうだけどね。何でも非常に運が良くて、絶体絶命の危機でもほぼ全員生き残るんだと。魔物の大群に囲まれたと思ったら土砂崩れが起きて魔物だけ生き埋めとか、偶々強い冒険者が通りがかって加勢して貰うとか、ね」


 確かに今回もハロルドが護衛していたマルコ商会は、偶々僕らが乗り合わせたからこそ、ラストドンたちの襲撃でも怪我人無しで切り抜けられたとも言える。


 「それで王都トップの成功率って凄いですね……」


 ルーミは心底羨ましがっているようだ。商人にとって幸運は最も大切な才能なのだとか。あれ?でもルーミは踊り子志望だよな。


 「運が良いのは護衛クエストの時だけ、みたいだけどね」


 「あら……それは」がたっ!!ばたんんっっ!!!!


 そのとき上で激しい物音。誰か転んだのだろうか。


 「ダメです。奥は……!!」


 「よう婆さん。元気か?やっぱりこっちにいるんじゃねえか」


 フィリップの制止を振りほどいてハロルドが地下にまで来てしまったのだった。


 「すみません。ここまで踏み込むつもりじゃなかったんですけど」


 もう一人、女性の冒険者が降りてくる。


 「あ、皆さんが今回ハロルドを助けてくれた旅人さんたちですね」


 彼女はブレゲではなく僕らを見ていた。


 「何だい、あんたら知り合いなのかい?」


 「王都に来る道で一緒だったんです。テオンさんとララさんが道中の魔物を倒して……」


 「てことは、今回のラッキーはあんたら自身だってことかい?こりゃ面白くなってきたねえ」


 ブレゲは何だか楽しそうにしている。ハロルドと来た女性冒険者が頷いて応え、改めて僕らに頭を下げ、暫くあたふたした後ハロルドに尋ねる。


 「えーと、私も自己紹介した方がいいかしら?」


 「俺に聞くなよ。したければしたらいい」


 「そうね、私の名前はヒルディス・グラム。『不断』の2つ名をを持つBランク冒険者です……あっ!2つ名までは要らなかったかしら?」


 再びおろおろとしだすヒルディス。


 「いちいち俺に聞くなよ。こいつは誰かと一緒だったり誰かに聞きながらだったりじゃないと、何も決められなくてな。優柔不断だから『不断』なんだ」


 なるほど。2つ名の決まり方というのは随分適当なのかもしれない。ポエトロの町の『白鬼』ヨルダとかは言い得て妙という感じだったけど。


 「そ、それだけじゃないですよ!あ、それよりクエストの方を済ませなきゃ。ブレゲさん、あなたは本当に帝国と通じてはいないのですね?」


 彼女の問いに、ブレゲは鬱陶しそうに「ああ」と答える。それを聞き、彼女はほっとしてハロルドに笑みを向ける。それにしてもハロルドとヒルディスは距離が近い。


 「ねえテオン!あの2人何だか怪しくない?」


 「うん、僕も同じこと考えてた」


 「だよねー。付き合ってるのかな?」


 ひそひそララと話していると、部屋の奥まで行っていたユカリに睨まれた。


 「あなたたち趣味悪いわよ?気になるなら聞けばいいじゃない。ハロルドとヒルディスは随分仲が良さそうね。付き合ってるの?」


 「えっ?そ、そんな付き合ってるとかそういうんじゃ……」


 ヒルディスが真っ赤になって困惑する。なるほど……と思っていると。


 「いやいや、その反応は逆に勘違いさせるだろ!俺たちはただの幼馴染みだ。フィリップも合わせて3人、昔からよく遊んでたんだ」


 えっ?フィリップも幼馴染み……?しかし、ハロルドは今フィリップたちを帝国の密偵ではないかと、あらぬ疑いをかけているのでは……。


 「ははは。幼馴染みが何故フィリップの夢を邪魔しに来たのだと思ったな?俺くらいの冒険者になると、それくらいは雰囲気で分かるものなのさ」


 いや、今のは誰でも分かるような気がするけど。僕らを呆れ顔を笑いながら、ブレゲが後を継ぐ。


 「実はね、この二人は味方なんだよ。スパイ疑惑の件ではね。度々冒険者ギルドに寄せられる調査依頼を、他の冒険者よりも先にこの子達が受注してくれるんだよ。そして厳しい調査の『格好』だけしてくれる。お陰でそこまで大事にはならずに済んでいるのさ」


 その口調は随分和やかなものだった。本当に彼女は二人を信頼しているのだろう。しかし、一部分気になるところがある。


 「スパイ疑惑の件では、というのは?」とルーミがすかさず尋ねる。


 「どうせ俺らが鬱陶しいって話なんだろ?」


 ハロルドはにやにやと笑いながら、しかし厳しい目を部屋の中に向ける。


 「そりゃそうさ。もう冷やかしは勘弁だよ。あたしらは静かに時計いじりが出来りゃいいってのに」


 「良い歳してまたそんな夢物語を。時計なんて実在しなかったんだよ。一定のリズムで魔力を出す石?そんな非科学的なもの、あるわけねえじゃねえか」


 なるほど。ブレゲがハロルドを嫌っていたのは、時計復活の夢を冷やかされるからなのか。


 「こんなところまで入ってきて、今日は遂に実力行使に出ようってのかい?」


 ブレゲは近くにあった工具を持ち上げてハロルドに向ける。


 「おいおい、俺は実力派のBランク冒険者だぜ?そんなんで倒される訳ねえだろ?」


 ハロルドはそう言いながら腰の盾に手を伸ばそうとしている。本気だろうか?


 「ねえハロルド、それはやめた方がいいんじゃないかな。それに今回は他に目的がなかったっけ?」


 他に目的?


 「おっとそうだった。そういうことだから婆さん、今日はこれ以上あんたに興味はねえんだ。自信過剰は身を滅ぼすぜ」


 「あんたにだけは言われたくないよ!!はあ……それで?何なんだい、他の目的って?」


 「ああ」


 ハロルドはきっと僕の方を向き、びしっと人差し指を突きつけてきた。


 「テオン君だったね。君の実力をもう一度見せてもらう。決闘だ!!」





―――一方、レナサイド


 「ただいまー!!」


 勢いよく扉を開ける。どこもかしこも真っ黒に染められたこの建物で、唯一紫色の扉。この研究室に割り当てられた、私の髪と同じこの色が私は好きだった。


 ここは国立魔法研究所スキル研究科の一室。私が特任研究員として所属しているアサヒカワ研究室の教授室である。


 「おお、元気の良い娘が帰ってきたのう!!」


 「レナちゃんおかえり。随分大変な旅だったみたいだね」


 部屋の中で私を迎えた老人二人。片方は言わずもがな、私の上司ジョドー・アサヒカワである。もう一人は珍しい来客のようだが、一目で誰か分かる有名人だった。


 「えっ!?アリスト様!!どうしてこんなところに??えっ?えっ?」


 アリスト……アリスト・フィーニスは現在メラン最高と言われる研究者である。代表的な発明に収納魔法がある。便利な魔道具は大体この人の発明と言っても過言ではないのだ。この興奮も仕方ない!!


 「落ち着きなさい、レナ君。少し気になることがあってジョドー先生とお話ししに来たのですが、あなたからの報告が面白いというので読ませて頂いておりました」


 見るとジョドーの机の上には、私がキラーザの温泉宿で書いた報告書がどっさり積まれていた。軍の連絡網を使って先に送っておいたのだ。


 「帝国はかなり力を付けているようですね」


 アリストが読んでいるのはアルタイルの報告書だ。そこには彼らの侵略行為だけでなく、モービルや謎の筒など彼らの兵器についても細かく記述していた。


 「はい。報告書にあるテオンという少年の力がなかったら、今頃エリモ砂漠は完全にアウルム帝国の支配下に入っていました」


 「本当に、よく阻止してくれました」


 エリモ砂漠は人が住むには過酷な環境だ。聖都ペトラの最盛期から更に気候は過酷さを増し、人工が減少する一方であったが、それでも手放さないでいたのは、そこが帝国との戦争の要所となるからだった。


 クロノ王国時代は毎年砂漠に軍を派遣し治安を維持してきた。しかしメラン王国に代わったときに、兵士の働き方の改善として砂漠への派遣が取り止められた。反対意見は少数派だった。


 時代は流れ、案の定アウルム帝国のティップ・スタンリーは王国の目が緩くなったのを見逃さず、そのことに少なくとも5年気付くこともなかった。これは大問題なのだ。


 「あの聖都ペトラが滅んだ……か。女神教の奴らが黙っていないね。レナちゃん、今回の報告書は間違いなくファインプレーだ。次は僕らが、何とか握りつぶされないように頑張ってみよう」


 女神教とは世界二大宗教のうちのひとつ、この王都で最も信仰されている宗教だ。そしてその聖地こそ聖都ペトラなのである。


 しかし王都で女神教総本山を名乗るメラン大聖堂の者たちは、聖都ペトラを崇めながらエリモ砂漠への軍派遣に賛成を表明していた。軍がなくとも女神の加護があるから聖都は滅びることはないという主張だったのだ。


 そう、聖都ペトラが5年前に滅んでいたというのは、彼らにとっては大問題。それも、解決すべき問題としてではなく、隠蔽すべき問題として……。


 「嫌になるね。そろそろだというのに」


 「それではやはり……」


 「ええ。奪われたノートのあれが実現しているのなら、そろそろ始まってしまいますよ。戦争が……」

皆様、ゴールデンウィークいかがお過ごしだったでしょうか?私はこの10日間で体重が5kgほど増えてしまいました。何ということでしょう……!!


私はペンネームを小仲酔太にした通り、空腹が創作意欲の源泉になっております。いや、そんなことがあるのかないのか分かりませんが、普段そんなにたくさん食べないもので、食べ過ぎるといつも脳に回している血液を胃腸に持っていかれてしまうのです。ああ、お腹いっぱい。1日1食生活に戻りたい……。


次回更新は5/8です

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