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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第8話 初めての王都

【前回のあらすじ】

 狂化状態の魔物たちに本来の護衛ハロルドが対峙したが、見ていられなかったテオンとララが加勢し、難なく退けることに成功。こうして一行は無事に王都まで辿り着いたのだった。

挿絵(By みてみん)

 王都の門を潜ってすぐ、レナは研究所、オルガノとバートンは刑事局に寄ることになった。僕はまず冒険者ギルドに向かわなければならないのだが、レナが戻るまで待たなくてはならない。


 「フィリップさんの工房へ行きませんか?私、気になります!!」


 ルーミの言葉にフィリップが赤くなる。


 「えっ?ぼ、僕の工房に?お、女の子が……?い、いやいやいや、女の子には退屈なところだよ?」


 「時計の鍵は黒水晶(モリオン)という水晶。お仕事とはいえキラーザにまで向かったのは……」


 ルーミは腰に付けていた袋に手を伸ばす。レナから借りている収納魔法の施された物……キラーザ東の火山で集めた石の入った袋だ。


 「これ、興味あるんじゃないですか?」


 彼女は袋からちらりと石を覗かせる。


 「なっ!?これはキラーザ産の水晶ですか!?本物?今のキラーザでは殆ど産出されなくなっているのに……」


 「そうなんですよね。小さい水晶しか取れないから商業価値はあまりなくて、全然見向きもされなくなってきて。おかげでキラーザ産の水晶は希少価値が上がってきているんですよ」


 ルーミはそう言いながら石を袋に戻す。


 「いい取引が出来るかもと思ったのですが、こんなに分かりやすい物を本物かどうか疑うのなら、他を当たった方が良さそうです」


 「わ、分かりました。僕が見ても正直石の価値は分からないんです。親方に見せてもらえませんか?案内しますから……」


 焦って歩き始めるフィリップ。ルーミはちらりとこちらを見て、ぺろっと舌を出す。巧妙な商人の顔に9歳の女の子が戻ってきた。恐ろしい子……。


 こうして僕らはフィリップの仕事場へ向かうことになったのだ。


 初めて見る王都の街並みは、今まで旅をして来た場所とは打って変わって現代的なものだった。鉄と石を組み合わせたモノクロな建築に、青銅製の街灯が味を出している。


 それはこの世界では初めて見るものだったが、前世のミール市街中心部やサモネア王城の景色に似ていた。


 「うわあーっ!!こんな建物見たことない!石なのに石レンガじゃないんだ!!あれ、ここ透明な壁がある!!すごい、すごーい!!」


 ララは大はしゃぎだ。リットとメルーも目を輝かせて彼女に続く。


 「にび色の浪漫街と呼ばれるだけはありますわね。あ、あっちの方に人がたくさん!!商店街かしら?」


 「本当にすごい人だな。なあ、あたしらはあっちでお店を見てこないか?」


 ポットが提案する。


 「確かにフィリップさんのお店にこんな大人数で行くわけにはいきませんわね。テオンさん、別行動を取ってもいいかしら?」


 「そうだね。また後でさっきの門の前に集まろう」


 こうしてポット、リット、メルーが真っ先に商店街へ向かう道へ足を向ける。マギーもお店が気になっているようだが……。


 「ん?行かねえのか?」


 キールが尋ねる。彼女はちらっとルーミの方を見る。そうか、マギーとルーミはいつも一緒にいた。遠慮しているのだ。彼女はマイペースに見えて、そういうことを気にする性格だった。


 「じゃあマギー、俺の買い物にちょっと付き合ってくれよ。ルーミ、マギー借りるけどいいか?」


 「もちろん!マギー、私に遠慮なんかしないで。楽しんできてね!!」


 「ルーミ……ありがとニャ!!」


 マギーは目を輝かせて商店街へ向かっていった。その後ろ姿を見つめて、ルーミがふっと笑う。


 「全く世話が焼けるお姉ちゃんです」


 雲に隠れていた太陽が、少しだけ顔を覗かせていた。





 その店は華やかな表通りから少し中へ入った、閑散とした住宅街にあった。都の居住区といえば乱雑に家が立ち並ぶのを想像するのだが、奥の方までぴしっと区分けされた折り目正しい街だった。


 結局フィリップの工房に来たのは、ルーミ、ユカリ、アデル、ララ、そして僕の5人だった。


 「クレイス修理店……」


 「は、はい。ここが僕の仕事場です。今親方を呼んできますから、ここで待っていてください」


 フィリップが慌ただしく中へ入っていく。狭い戸口は仄暗く、少し不気味な印象を受ける。


 「ふーん、綺麗な住宅街ね。何だか誰も住んでいないみたい……」


 ユカリが周りを見ながらそんな感想を抱く。


 「私、王都っていうからもっとたくさん人がいるんだと思ってた。これなら村の方が賑やかかも」


 「門から大通りが真っ直ぐ伸びてただろう?あの通りより東側は結構賑やかそうだったよ。西側が静かなだけかもしれないね」


 遠くから赤ちゃんの泣き声が聞こえる。もっと子供たちの遊ぶ声が聞こえてもいいと思うのだが、本当に静かだった。


 「み、皆さんお待たせしました。親方が是非旅の話も聞きたいと……」


 「入ってもいいの?」


 「ええ、どうぞ」


 僕らは1列になって入っていく。先頭を切って入っていったのはユカリ、その後ろにルーミが続く。その顔は毅然としているが緊張の色も見える。マギーがいないとやはり心細いのかもしれない。


 店舗の中も全体的に暗く、所狭しと並べられた古びた魔道具の数々が、不気味な雰囲気を纏って僕らを出迎える。


 「やあ、いらっしゃい。狭いところで悪いね。道中うちの弟子が世話になったようで」


 お店の奥、椅子に座っていた老人が口を開いた。


 「よっこらせ」


 椅子から立ち上がって……というより椅子から降りてこちらへ歩み寄ってくる。その背は幼い子供のよう。ルーミよりも頭ひとつ低かった。


 「わしがこのクレイス修理店の店主、ブレゲだ」


 「じょ、女性だったの!?」


 ユカリが驚きの声を上げる。何となく親方と聞くと、豊かな髭を蓄えたおじさんという印象を抱いてしまう。何よりフィリップが女の子には退屈な場所だと言っていた。そこの親方が女性……。 


 「何だい?ばばあが親方やってちゃ悪いのかい?」


 見るからにブレゲは不機嫌そうな顔になる。


 「いや、そういうわけじゃ……」「ブレゲさん!」


 戸惑うユカリの後ろからルーミが飛び出る。


 「おお、あんたが珍しい石をたくさん持ってるっていう商人のお嬢ちゃんかい?まだほんの子供じゃないか」


 「あれ?小さかったら取引しちゃダメなんですか?ブレゲさんよりは大きいのに」


 「おっと、こりゃ1本取られたね。あんた、見かけによらずやり手と見た。長く生きた勘は伊達じゃないよ」


 「ふふ、ありがとうございます」


 あっという間に和やかな空気になる。


 「あ、でも私は別に商人というわけじゃないんです。踊り子を目指して旅をしているんですが、少々お金に困っていまして……」


 「何だい、商人じゃなくて踊り子?それなら踊って稼げばいいじゃないか」


 「それは駄目です。私はまだ踊り子ギルドに入れる歳ではありませんから。私が目指しているのはプロの踊り子、それまでは未熟な踊りでお金を頂くわけにはいきません!」


 初めて聞いたルーミの信条に、思わず僕も感心してしまった。ギルド未所属の踊り子もいるだろうに、それはプロとして許されないらしい。


 「へえ、見上げた心意気だね。ところで……」


 ブレゲはすっと声のトーンを落とす。


 「あんたら、フィリップからどこまで聞いた?」


 「どこまで、とは?」


 「あたしらがやってることさ」


 「さあ。私たちはただ時計の復活を夢見ているとだけ……」


 ルーミがそう答えた瞬間、ブレゲの顔つきが変わる。


 「やはりそこまで聞いちまったんだね。ただの修理屋に石なんざ売り付ける商人はいない。どうしてあたしらが水晶を特別視していることを知ってる?」


 威圧感たっぷりの彼女の言葉に、流石のルーミも少したじろぐ。


 「モリオンのことでしたらフィリップさんから聞いて……」


 今度はフィリップが睨まれる。彼はいつの間にか店の隅で小さく影に溶け込んでいた。


 「はあ……。フィリップ、そのことは人に話すなって言ったろ?」


 「そ、そんな……。親方は『町の人間に喋るな』としか……」


 「言い訳無用、誰にも言っちゃいけないんだよ!!」


 フィリップは肩を震わせて一層身を縮こめる。身体は小さくても親方の怒声は十分に大柄だった。それにしても時計の話はそんなに深刻なのだろうか。


 「まあ聞いちまったもんは仕方ないね。あんたら、このことは絶対内緒だ。分かったかい?今まで聞いたことも、これから見聞きすることもね」


 その迫力に皆黙って頷く。唾を飲み込むことすら許さない空気があった。


 「よし、あんたらは信用できそうだ。あいつみたいなことにもならんだろう。さあ、付いて来な」


 「え?」


 「ほら、話す場所を奥に移そうってんだよ。その石に関する話もね。フィリップ、店番頼んだよ!」


 そう言ってブレゲは店の奥へと歩いていく。相変わらず1列でないと通れないような狭い通路だった。先の方はよく見えないほどに暗い。


 ユカリが迷いなく進んでいく。だがルーミはなかなか踏み出せない。僕は彼女の肩に後ろから手を置いた。


 「テオンさん……ありがとうございます」


 そうしてようやく向かった店の奥には、地下へ向かう階段があった。ぐるりと回りながら降りていくと、徐々に明るくなってくる。


 「この先はあたしらの作業場だ。上より散らかってるから気を付けておくれよ」


 階段を降りた先の部屋は、ブレゲの言葉通り混沌としていた。様々な工具やら部品やらの入った箱が、床を埋めつくし、天井まで積み上がり、乱雑に部屋を埋め尽くしていた。


 「これは凄いわね。あ、ララちゃんそんなに箱のそば通ると危ないわよ!」


 「あ、ごめんなさい。何だか私、息が詰まりそう……」


 そんなララに対し、ユカリは何だかいつもより生き生きしているように感じる。


 「さて、さっきも言ったけど、あたしらが時計の復活を目論んでいることは内緒だ。特に軍の奴らによく思われていなくてね」


 「軍?」


 「元々時計ってのは帝国の技術が元になってるからね。スパイの容疑が掛かったりすんのさ」


 彼女の溜め息に沸々と怒りが混じる。そのとき、頭上でどたどたと音がした。


 「ほら来たよ」


 恨めしそうに音の方向を睨むブレゲ。そしてどこか聞き覚えのある声が響き渡るのだった。


 「おい婆さん!今日こそ尻尾を掴みに来たぞ!!」

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