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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第7話 怒れる魔物たち

挿絵(By みてみん)

【前回のあらすじ】

 テオンたちは王都へ向かうマルコ商隊のフィアカーに同乗させて貰っていた。そこで出会った若手技術者フィリップの夢は時計の復活。話の途中、商隊の前にラストドン率いる魔物が現れた……!!

 「ま、まさかあれが、あれが噂の……狂化(バーサク)ラストドン!!」


 フィリップの叫び声にその場の緊張感が高まる。恐らくあれが、彼が噂になっていると言っていた凶悪な魔物なのだろう。その凶悪そうなオーラを感じ、僕とララはフィアカーから飛び出す。


 商隊の前方に象の魔物ラストドン、その周りには兎型、犬型、猿型、羚羊(れいよう)型などの魔物が、わらわらと十数体ほど集まっていた。そのすべてが目を血走らせ、異様な空気を纏っている。


 「狂化(バーサク)ですって!?」とレナの驚きの声。


 「バーサクって何ですか?」


 ルーミが尋ねる。


 「バーサクっていうのは1種の混乱状態、怒りに我を忘れたり極度の興奮状態になったりして、一時的にとても凶暴になる状態異常よ!」


 「凶暴……強いんですか?」と不安そうなララ。


 「まあ、テオン君たちなら……」


 レナが答えようとしたその時。


 「そうそう、こいつらは普通の魔物より強いの。素人の冒険者は怪我するから引っ込んでな!」


 前の馬車から一人の男が躍り出た。


 「あんたらだろ?急遽護衛を名乗り出てフィアカーに乗り込んだ冒険者ってのは。上手く知恵を働かせて足を手に入れたってところだろうが、こいつらには小手先の技は通用しねえ。命が惜しけりゃ引っ込んでな!」


 「そういうあんたは何なのよ。一人でどうするつもり?」


 レナの問いに男はどや顔を振り向かせる。


 「俺の名前はハロルド!この商隊(キャラバン)の正規の護衛さ!!王都でも指折りの高ランクでもある俺がいるんだ、大船に乗ったつもりでいなよ!」


 男の名乗りにララが訝しげな目を向ける。


 「偉そうな人。そんなに強そうには見えないけどなあ……」


 そして。


 「えっ!?おいおい、獲物を横取りされそうだからって、そんな手荒な真似は無しだぜ」


 ハロルドは両手を上げて戸惑う。ララが弓を引き絞って彼に向けたのだ。


 ひゅんっ!!


 射られた矢は真っ直ぐ彼に向かい……。


 どさっ。


 ハロルドの後ろに音もなく忍び寄っていた、羚羊型の魔物が倒れた。額にはララの放った矢が突き刺さっていた。


 「ひゅーっ!!狂化状態の魔物は物理防御も体力も上がってるってのに、一撃かよ!お嬢ちゃん、もしかしてAランクか?」


 「Aランク?あ、冒険者ランクのこと?私は登録してないよ」


 「は?あんた冒険者じゃないの?……期待させやがって」


 彼はララに対する態度を露骨に変える。


 「しゃーねえ。やっぱりここは俺一人でやるから、あんたらは下がってな」


 言い終わるが早いか、次の魔物がハロルドに襲いかかる。サル型の魔物が2匹。かなり素早そうだ。


 「くそ。速さだけが取り柄だったステップエイプが狂化とか……ぐっ!!」


 ハロルドは左手に装備した盾で器用に攻撃を受け流しているが、旗色はそれほど良くはない。彼は右手に幅広のショートソード、左手に小振りな盾を装備した剣闘士スタイルだった。


 左から飛んでくる魔物の拳を盾で受け流し、右の魔物に剣を振るう。しかしその毛皮は刃を弾き、ダメージには繋がっていない。猿は余裕そうに後ろへ跳び、もう1頭が間を開けずに次の拳を放つ。


 猿型の後ろには犬型の魔物が4頭並び、ハロルドの隙を窺っている。剣だけではとても一人で捌ききれる様には見えない。さらに……。


 「がおおおぉぉぉおおんッ……!!」


 ラストドンが咆哮を上げる。ずしん。重い1歩が踏み出される。


 「おいおい……勘弁してくれよ。こういうときは1体ずつだろ?」


 その咆哮に平静を欠いた片方が無造作に拳を突き出す。彼はそれに飛び乗り、そのままだらしなく開けられた口の中へ剣を突き立てる。そして口を裂くように横薙ぎに頭を切り裂いた。


 着地する地点に犬型が4頭とも集まる。ラストドンはその巨体で突進を始めている。


 「ララ、犬の方を頼む」


 僕は剣を鞘から抜き、ラストドンの方へ駆け出す。とにかくあの突進の勢いを削がなければ、ハロルドも商隊も危ないかもしれない。


 「おい少年!正面から突っ込むな!!」


 ひゅんひゅんっ!!


 叫ぶハロルド。彼に迫る2頭の犬型に矢が刺さる。象型は既に眼前まで迫っている。


 ラストドンは大きな鼻を振り上げて僕を打ち据えようと目を光らせる。ぎらついた視線が僕の頬を撫でる。後ろで息を飲む音が聞こえた。


 少し広めに右足を踏み出す。少し伸び上がるような姿勢を見せたのち、思いっきり地面を蹴って前に跳び、一気に体勢を低くして魔物の視界の下へと潜り込む。


 ばしんっ!!


 ラストドンの鼻が土を叩く。そこにはもう誰もいない。標的を見失った魔物の前足、その両膝を横から素早く斬りつける。跳んだ勢いで一閃。身体を捻って回転しながらもう一閃。


 昔、姫様と戦った大きな魔物を思い出す。あのときも膝から崩していった。


 『そうか、膝を狙えばよいのか……。ロイとの共闘は本当に勉強になるな』


 姫様の言葉が蘇る。一緒に戦うときはよく後ろから僕の戦いを見ていた。


 上から土気色の巨体が迫る。傷を負った膝でその巨体は支えられまい。急いで身体の側面から逃れながら、その腹を裂く。随分分厚い皮膚だが、不思議と楽に刃が入る。


 「ぐおおおおぉぉぉぉっ…………!!」


 前足を折り、顎で地面を擦りながらラストドンが土の上を滑る。叩きつけた反動で持ち上がっていた鼻が、だらんと地面の上に伸び、ハロルドに飛びかかろうとしていた犬型の脳天に落ちる。今のが最後の犬型だったようだ。


 フィアカーより一回り大きな巨体の突進は、何とか止めることが出来たようだ。その巨体に後ろからさっと飛び乗り、頭部に剣を突き立てて止めを刺す。


 残るは兎型2体、羚羊型5体か。


 魔物の一団を率いていたラストドンを倒しても、他の戦意が喪失することはなかった。周りに群がって僕が降りてくるのを待っている。


 「テオンー!!援護必要ー?」


 ララの声。


 「いやいい。1つ思い付いたことがあるんだ」


 僕は右手に力を集中させる。熱が集まり、光の力が溜まっていく感覚を確認する。右手を空へ突き上げる。手の上にはもう光の玉が出来ている。少しずつ力を込めていくと、その輝きが増していく。


 イメージはレナの魔道具グレネードシャワー。玉から飛び出した星形の爆弾が周りへと飛び散っていく、あの感じだ。


 目標は周りに群がる狂化された魔物たち。その向こうにはハロルドがまだ戦っている。力を入れすぎないように、飛ばしすぎないように。


 『為すべきことを見据えよ』


 大丈夫、いける!!


 光を均等に7つに分け、針状にして飛ばす。一瞬の後、ばたばたと倒れる音。兎型、羚羊型はこれで全滅だった。


 「ふう。上手くいったみたいだ」


 ハロルドの方を見ると最後のステップエイプにまだ苦戦していた。ララが矢をつがえたまま、こちらに尋ねるような視線を送っている。彼の獲物を横取りするのは気が引けるのだろう。


 僕も右手を魔物に向けたまま、暫く様子を見る。ステップエイプは他の魔物同様目を血走らせてはいるが、慎重に距離を取りながら戦っていた。


 魔物の目がぎらっと光る。拳を振りかぶって勢いよく飛びかかる。ハロルドの盾が拳を流し損ね、衝撃で彼はバランスを崩す。そこへもう一方の拳が迫る。


 ぴかっ!ひゅんっ!どさっ。


 その拳が彼に届くことはなく、あっという間にステップエイプは地面に伏した。ララと目が合う。ほっとした顔に少し不安が混ざっている。


 「おいおい、マジかよ……」


 ハロルドは崩れた体勢を立て直し、周りを見回す。倒れた魔物たちが再び動き出す気配はない。


 「あの数の魔物の群れが……てかラストドンまで……。あんたら、素人とか言って悪かったな。冒険者だったらSランクだ」


 称賛の言葉に二人して頭を掻く。そういえば僕は冒険者だった。確かランクは……Gランク。


 「あっ!ゼルダたちをキラーザまで送るクエストの途中じゃん!!」


 今まですっかり忘れていた。唖然とするハロルドを残し、僕は急いでフィアカーに戻る。


 「ああ、大丈夫よ。ゼルダちゃんたちはキラーザの冒険者ギルドに寄ってくれてるはずだし、バートンさんたちの行き先が王都に変更になったってだけだから、王都でクエスト完了報告をすればいいわ」


 レナがくすっと笑って事も無げに答える。


 「お客さん、本当にお強かったんですね。こりゃあ王都まで安泰ですわ」


 御者が再び手綱を振り、商隊は旅程を再開した。このときの戦いは多くの商人の目に止まり、僕らは激しい時代の渦へと否応なしに巻き込まれていくのだが、それはもう少し先の話である。





―――次の日の正午頃


 ぎいいいぃぃっ…………。


 重く軋んだ音を立てて、大扉が左右に開いていく。鉄と石を組み合わせた重厚な城壁が左右に遠く続いている。王都メランと研究都市クロノスを囲むシモス大城壁だ。


 「いやはや、皆さんのおかげで無事王都に着きました。有り難うございました。ルーミちゃんもありがとうね。今後何か困ったことがあれば、このマルコを頼ってくだされ。何でも力になりましょう」


 「ありがとう、王都でも有数の有力者であるマルコさんの後ろ楯を得られるなんて、この巡り合わせには感謝しかありません」


 レナが笑顔でマルコと握手をする。彼はいかにも面倒見のいい感じの初老のおじさんだった。少しぽっこりしたお腹が可愛らしい。


 「ありがとうレナさん。それからフィリップ君、君にも期待しているよ。時計が完成した暁には私にも一枚噛ませてくれ。私の流通ルートを利用してもらえれば、君の言う世界平和も近いだろう」


 流石大商人、上手く言うものだ。


 「さあ、これからだけど、私は先に研究所に報告書を出してくるわ。ギルドはそのあとね」とレナ。


 「僕も先に刑事局までブラコを連れていくよ。バートンさんも来てくれるかい?」とオルガノが続く。


 僕らはレナが戻るまで時間を潰さなければならなくなったのだった。どうしようかと悩んでいると、ルーミが「それなら」と手を打った。


 「フィリップさんの工房へ行きませんか?私、気になります!!」


 フィリップが「えっ?」と顔を赤くした。

令和、始まりましたね。負けじとこちらも王都編始まります!気持ちも新たに色々なことに挑戦していきたいと思っております。


それにしてもようやく王都です。2章からここを目指して歩いてきたわけですが、その間に随分とトラブルに巻き込まれたものです。


そしてようやくテオン君のチート級の強さが発揮されましたね。しかもラストドンは光の力なしで倒しています。いいですねー、格好いいですねー!!


次回、フィリップの工房には何が待っているのか!?5/4更新です。


P.S.この回でPV9000達成しました!5桁が近い!!何だか緊張してきますね。本当に読んで下さる方がいるというのは物凄く励みになりますね。ありがとうございます。これからもマイペースかつ定期的に更新して参ります。

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