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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第5話 王都への近道

【前回のあらすじ】

 偵察部隊隊長でスフィアとロイの旧友であるロザリーとも合流し作戦会議が始まる。直接魔族の村を偵察したスフィアは、周りと自分の温度差に戸惑いながらも己の役割を再確認するのだった。

―――キラーザ北東、コキノ高原南


 キラーザを避けて火山地帯を進んでいた僕らは、広大なすすきの高原を前にしていた。少し赤みがかった薄が風に波打って、目の前に赤い海が広がっているようだった。


 「うおーっ!こりゃ絶景だな!!」


 キールが叫ぶ。その目は童心を湛えて輝いていた。


 「すごいニャ!真っ赤ニャ!!」


 「綺麗ですね。大地が踊っているみたい」


 「あら、ルーミちゃん詩人ねぇ」


 温泉宿を出て2日、火山地帯を抜けた証だ。


 「キール君、何故ここの薄は赤いんだい?」


 アデルが尋ねる。キールの蘊蓄(うんちく)は最早定番となっていた。


 「ああ、一昔前はアカススキって名前で呼ばれて別の品種だと思われていたんだけどな。別の土地に持っていったら普通の色に戻っちまうんだ。実はな、この辺りの黒い土と火山ガスがススキを赤く染めていたんだぜ」


 「ホントだ、土が真っ黒ニャ」


 「黒い土は栄養が豊富だと聞いたが、この辺りは農地にはならないのか?」


 バートンが土を触りながら尋ねる。柔らかそうな手触りが見て分かる。


 「流石農業には強いな。確かに帝国の方で黒い土と言ったら上質な腐葉土だろう。この土も腐植には違いないが、火山灰が元になってるせいか致命的に足りない栄養があるらしい」


 「栄養?それは肥料で補えないものなのか?」


 「今のところ上手くいってねえらしいな。ただ最近、発酵させたもみがらが良いかもしれないって期待されてるって言ってたっけ」


 「ほう。じゃあ近いうちにこの辺りも農地として開墾されるかもしれんな」


 「この景色が失われると思うとそれも複雑だな」


 キールとバートンの会話を、マギーとレナがぽかんとした顔で見ている。ルーミはまだ赤い高原に見とれている。


 「農業をしていたバートンさんは分かるけど、キール君は一体どこでそんな知識を得るの?」


 「ああ、まだ話したことなかったっけな。俺の故郷はさ、何でもかんでも調べるのが好きな奴らの街なんだよ。だから自然とそういう話が耳に入るんだ」


 「キールの故郷ってどこなのニャ?」


 「魔法都市セファロスってとこだ。知ってるか?」


 その名前に1番に反応したのはレナだった。


 「え!?あの森の賢者ヘテロセファロスの!?」


 「ヘテロセファロス?」


 「バトス地方の山奥で学問を究め続けるドディアンスロープの民族よ。道理でキールも博識なわけだわ」


 ドディアンスロープは確かネズミの仲間から進化した種族だったか。


 「そんなに凄いの?ヘテロセファロスって」


 感心する僕にレナが大きく頷き、キールはえへんと胸を張る。


 「魔法の研究も1番進んでて、軍部は何とかその研究成果を取り入れたがっているわ」


 「あの街の学者たちは自分達の研究が軍事利用されるのを恐れているからな。そういう話にはまず食いつかねえだろ。だがそうなると、俺の出身は隠した方がいいかもな」


 「キールの出身は言っちゃいけないのニャ?」


 「ああ、頼んだぜお前ら。軍だとか戦争だとか、そういうのに巻き込まれるのはごめんだからな」


 そう言いながら彼は再び歩き出す。先頭を歩いていたポットとリットは角の生えた兎の魔物と戦っている。足を滑らせたポットの背後から角の突進が迫る。


 隣にいたララが欠伸を噛み殺しながら弓を構える。しかしその前にリットの小火(リトルボム)が魔物を吹き飛ばす。今日の旅路も平和だった。


 「私は少しくらい激しい戦いに巻き込まれてみたいなあ」


 「ララ、そんなこと言うもんじゃないぞ。今に何かに巻き込まれるんだから」


 僕は溜め息混じりにララを諭す。魔族や魔物と戦い続けた前世からしたら、今の平穏はとても有り難いものだ。それが落ち着かない。この世界はどこかで前世の世界と繋がっている。ならば必ずどこかに魔族がいるはずなのだ。


 仮初めの平和、そんな感覚がしてしまう。そうでなくともこれまでに帝国とのいざこざ、国内でのいざこざといった、個人の力ではどうにもできない争いを目にしてきたのだ。


 「この穏やかな旅路がずっと続いたらいいのにな……」


 ララにだけ聞こえるような小さな声でそんなことを漏らす。臆病な言葉だな。勇者を志すものとして矛盾するなと一人で毒づく。それでもやはり平和は良い。


 「いや、魔物と戦いながら平和だとかいってるあなたたちが異常なのよ」


 後ろでユカリが呆れていた。





 「ところでこっちって遠回りじゃないかしら?」


 コキノ高原を大きく右から迂回するルートに、ユカリがふと首を傾げる。その言葉にアデルは不思議そうな顔をする。


 「ユカリちゃんって各地を旅して回っているんじゃなかったっけ?この先に何があるか知らないのかい?」


 「このまま平原を突っ切って王都でしょ?街道から離れているから強い魔物が出るかもしれないけど、あなたたちなら気にするほどでもないでしょ?」


 「いやいや、その前に紛争地帯があるでしょ?」


 「紛争?ああ、そういえばこの辺はアウルム帝国とメラン王国の境目だったわね。戦争でもないのに戦いでも起こっているの?」


 「何言ってるの、ユカリちゃん。もうここ何年も睨み合ってるでしょ?まあスイーツハンターじゃ国際情勢には疎いかもしれないけど」


 レナが訝しげな視線をユカリに向ける。温泉宿を出る直前、彼女はユカリがいない間に僕を呼び出して耳打ちした。


 『ユカリちゃんには気を付けて』


 何でも、ユカリは何故かポエトロの町の奇跡の花について知っていたらしい。どうしてそんな話になったのか、どうしてユカリがその事を知っていると分かったのか、細かいことは教えてくれなかったが。


 ただユカリがただ者でないことは僕も感じていた。いや、まずスイーツハンターだという時点で何だか怪しかったが、悪い人ではないと思う。男の勘と言うと笑われるかもしれないが。


 薄に隠れていた魔物がユカリとレナに飛びかかる。足元の石を拾って備えるが、その前にポットのハンマーが魔物を打ち据えた。


 「おいお二人さん、油断すんなよ!せめて自分に襲いかかってくる魔物くらい……」


 「うん、ポットさん有り難う!」


 「ナイスよ!それでレナさん、国際情勢に疎い私にもう少し教えてもらえるかしら?」


 「何だよそれ!もうあたしユカリちゃんのこと守ってやらねえぞ!!」


 次の魔物がポットの背後から迫っている。拾った石をその額に投げつける。


 「ほら折角ララが結界を解いてくれてるんだから、ポットは戦いに集中しようよ」


 「うるせえ!今それどころじゃねえんだよ!!」


 ポットはちらっとこちらに刺さる視線を向けただけで、すぐにユカリへの抗議へと戻る。人の振り見て我が振り直せ、気を付けよう。


 僕らはそのまま高原を避けて坂を下っていく。遠回りではあるが、紛争地帯にぞろぞろと大人数で押し掛けると、今みたいに余計な刺激を与えかねないというわけだ。


 「こんな出鱈目な奴らに関わっちまった俺を呪うぜ」


 「ああ、僕も今同じことを思ったよ」


 ブラコとオルガノか頷き合う。向こうでは余裕のないリットをララが笑っている。マギーとルーミが歌い出した途端に魔物が寄ってきてしまったようだ。


 「あ、大きい道!」


 長い坂道の下、森から大きな街道が伸びているのが見えた。その先は小麦地帯になっている。小麦が青々と続いていた。


 「おお!思ったより早く見えてきたな」


 「うん。少し遠回りだけどあのノトス街道を歩いていこう。安全には代えられないからね」


 キールとアデルが目の上に手をかざして同じポーズを取る。それを見たルーミがくすっと笑う。同じように笑うララが口を開く。


 「あそこまで降りちゃうと弱い魔物しか出ないんだよね。今のうちにいっぱい戦おー!!」


 「「えー!!!!」」


 さすが姉妹、息ぴったりだ。





 「あぁ~、疲れた~!!」


 ポットが地面に座り込む。リットは最早言葉を発する元気もなさそうだ。坂を降りる間もずっと戦い詰めだった二人は、街道まで着いてララが結界を展開するなり休んでいたのだった。


 「情けねえなあ」


 二人を見下ろして笑っているのはキールだ。彼とアデルも剣を抜いていた。ララの思い付きでマギーが誘惑の歌を歌ったところ、今まで以上のペースで魔物が寄ってきたのだった。


 「いやあ、面白かったねー!!」


 楽しそうなララ。その後ろでマギーが真っ青な顔をしている。


 「ララは鬼ニャ!こんなに意地悪だと思わなかったニャ!!めちゃめちゃ怖かったのニャ~!!」


 「鬼って酷いなあ。マギーのことは私がちゃんと守ってあげてたでしょ?」


 「そういう問題じゃないニャ!!」


 泣きべそ顔のマギーがルーミに抱き着いている。


 「ララさん、旅慣れしてくるにつれてだんだん無茶苦茶になり始めましたね……」


 「ルーミちゃんまで!そんなことないよね、テオン?」


 「えっ?」


 僕は咄嗟に目を逸らす。僕らが馴染んだアルト村の基準が世間離していることは何となく分かってきた。そろそろ自粛を考えても良いかもしれない。


 「ささ、休憩はこの辺にしてさっさと歩くわよ。ただでさえ予定より大幅に遅れているのに、その上回り道。もう時間通りは諦めてるけど、それでも出来るだけ急ぎたいのよ」


 レナがパンパンと手を叩く。


 「うわ、追い討ちをかけるようにもう一人鬼が……。テオン、よくこんな奴らと旅してこれたな」


 キールが哀れむような目を僕に向けたのは一瞬で。


 「いや、お前が一番規格外だったな」


 「え!何それ酷くない?僕は普通だよ」


 「どこが!!」


 心外だ。そんな僕らのやり取りを笑って見ていたアデルが、ふとキラーザの方を向く。大きな耳がぴくぴくと動いている。


 「アデルさん、どうかしたの?」


 「うん、どうやら商隊がこっちに向かっているようだよ」


 それを聞き、レナの顔がパッと明るくなる。


 「商隊!?運が良ければ乗せて貰えるかも!最高の近道ね!!」


 やがて大きな魔物の曳く車が数十台近付いてくる。


 「じゃあ私が交渉してきますね!」


 用心棒に僕とキールを連れて、ルーミが意気揚々と近付いていく。間もなく僕は座り込む仲間たちに向けて、大きく丸印を掲げるのだった。

ゴールデンウィーク、皆様いかがお過ごしでしょうか。私小仲酔太は今実家にいるのですが、連日家族とたくさんご飯を食べてて最近あまりお腹が空いていないんです。やばいです。アイデンティティが崩壊します!!


空腹は私の創作意欲の源泉なのです。お腹が空いてるときに書いて、きりの良いところまで書けたら食べたいものを食べる。そんな生活が好きなのですが、まあ親の前で不健康な姿は見せられないですね。


さて次回更新は4/30、平成最後の更新です!

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