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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第4話 幻聴

 キャンプに着いたスフィアたちは、技術発掘人ことセバス博士と合流する。彼が復活させたブラン王国時代の戦闘用ゴーレムが魔族に対する秘密兵器。それは正義を象徴し、真っ白に染められていた。

 私はセバス博士のテントで真っ白なゴーレムを眺めていた。


 「それにしても……」


 「何だこの色は。舐めてるのか?」


 辛辣な声が飛ぶ。テントの中にはいつの間にか偵察部隊隊長のロザリーが入ってきていた。彼女は隠れることに関して一流だが、隠し事は出来ない性格でいつも直球な物言いをする。


 「うわっとっと……。ロザリーさん、一体いつの間に!!」


 セバスもロドリゲスも、ロイですら彼女の登場に驚いていた。


 「まったくこんな弛んだ様子で魔族に挑もうなどと嘆かわしい。私の接近に気付いていたのはスフィアだけではないか。特にロイ、貴様勇者候補から外れて気を抜いているのではあるまいな?」


 「これは面目も御座いません。それだけロザリーさんの隠密能力が高いということでしょう」


 「何を暢気な。私が魔族だったら今頃セバス博士の首はもうない。ロイ、貴様が博士の護衛だろ。作戦の要を暗殺されたら終わりなんだぞ?」


 相変わらず彼女の物言いは激しい。彼女は元々ミール自衛兵団の第一部隊隊員だった。偵察の腕を買われて国王軍に異動していたのだ。


 自衛兵団のときに私とロイとは面識があったが、あの頃より数段口調が鋭い。元隊長のルシウスがアリシア盗賊団の仲間だと分かって以来、荒れに荒れて一層厳しい性格になった。


 「無茶をいうなロザリー。私だって目で追うのが限界、あれで攻撃されていたら反応出来なかった。魔族があのレベルで来たなら敗走しかあるまい」


 「スフィア、お前がロイを甘やかしてどうする。勇者候補から外れようと、こいつはお前に次ぐ戦士としていずれ共に魔王に臨むのだろうが」


 「ああ、ロイは魔王と戦って唯一生き残った勇者だからな。これからも私を支えてもらわねば困る。あまり彼のやる気を削いでくれるな」


 「姫様……!!私、全力で姫様のお役に立ちましょう!!」


 「だから甘やかすなと……まあいい。本題といこう」


 今回の作戦の要となる5人が揃ったところで会議が始まった。私が全体の指揮、ロイがこのキャンプ地の守備、補給部隊の指揮にセバス博士の護衛、セバスとロドリゲスがここからゴーレムの操作をし、ロザリーが偵察と情報伝達を担う。


 この日は大まかな方針や役割などを確認して解散する。その後、私とロイはロザリーに連れられて魔族の村の偵察に向かった。具体的な作戦は、まず私たちが自分の目で魔族を見なければ立てられないという私の言葉があったからだ。





 日暮れ頃に出発し深い森を進む。目的の高い木に辿り着いた頃には、既に東の空が明るくなってきていた。木の梢から幹に姿を隠して様子を伺う。魔族の村はまだ眠ったままだった。


 「あそこに子供たちが捕らわれて……あ、あれは?」


 木造の民家から男の子が一人出てくる。5歳くらいだろうか、人間だった。その子は村の畑へよたよたと向かう。


 やがて畑の近くの民家からもう一人女の子が出てきた。今度は15歳ほどの娘、やはり人間である。先に来ていた男の子と何やら話しながら畑仕事を始める。微笑ましい光景だ。ここが魔族領でなければ……。


 「あの子がラミアのメレナちゃんか?」


 「ああ。背格好や髪型などの身体的特徴は大体合致する。目鼻立ちも親と似ている。まず間違いないだろう」


 メレナとは最初に誘拐された、ラミアの町のギルドマスターの娘の名前だ。


 「可哀想に畑仕事なんてさせられて……きっと無理矢理させられているのでしょう」


 ロイは唇を噛む。メレナは楽しそうに笑っている。無理矢理とは見えないが……。


 「!?魔族が出てきました!!」


 ロイが囁く。メレナの出てきた民家から大柄な魔族が出てきた。紫色の肌、茶色の短い髪、大きく裂けた口……。異形な姿だが、その顔は笑っているように見えた。


 子供たちと楽しげに会話をする魔族。どうやら仲が良いようだ。そのまま魔族は家へと戻っていく。


 「何故、何故子供たちは笑って……?まさか洗脳されて?そういえばメレナさんと同い年の男の子も拐われていたはずですよね?未だ見つかっていないと報告されていましたが、その後は?」


 「ああ、まだ見つかってないよ」


 「それじゃあ、彼は人質にされているか見せしめに殺されたか、そういう可能性もあるということですよね。ああ、何て酷いことを……」


 ロイは握りしめた拳に益々力を込める。


 「おい、憶測で話すな。まだそうと決まった訳じゃない。他のところで元気にしている可能性もあるんだ」


 私はロイを咎めながらも背中をさする。彼には多少思い込みの強いところが昔からあったが、今のはさすがに行きすぎだろう。


 その後しばらく村の様子を見てから私たちは帰路に着いた。何人か幼い子供たちの姿を確認できたが、皆穏やかな表情をしていた。ひとまず差し迫った危険があるわけではないのだろう。


 しかしロイの怒りは増すばかりだった。穏やかな彼らを見る度、脅しだ洗脳だと嘆く。確かに異様な見た目の魔物たちと仲良く過ごしていたというのは不思議な光景だった。だが何故だか違和感はなかった。


 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク……。


 また時計の針の音。最近よくそんな音が聞こえる気がする。勇者のことを考えるとき、魔族のことを考えるとき、決まって時計の針の幻聴がするのだ。


 「ロイ、分かったろう?子供たちには明らかに異様な事態が起こっている。もしかしたら自分達のことも同じ魔族だと思わされているのかもしれない」


 帰り道、ロザリーとロイはお互いの意見を交換し合っていた。どうやら二人とも子供と魔族が仲良くしていたこと自体に憤ったらしい。


 「ええ、魔族どもが何を目論んでいるのか分かりませんが、彼らの企みが叶ってしまう前に早く何とかしなければ……。子供たちを魔族から引き離せば洗脳は解けるでしょうか?」


 「恐らく……というか、どの道そうする他ないだろう。人間には人の心に干渉するような魔術は使えない。あの子達に何を施されていようと、私たちには解除することは出来ないのだから」


 「二人とも随分頭に血が昇ってしまったな。今回の作戦は、子供たちを取り返して被害を最小限に留めるのが第一。魔族の殲滅まではこだわらなくていい。いいな?」


 私は会議でも口にした点を繰り返す。以前も魔族の殲滅を目指して深追いしなければ、あそこまで被害が拡大することはなかっただろう。そのことをずっと悔やんでいた。


 人間領の魔族はすべて滅ぼしてしまった。それが間違っていたとは思わない。だが魔族領にいる魔族すら早急に滅ぼすべきだと主張する者も多い。そこまですべきなのか、私は未だ答えが出せない。


 「そうですね、姫様の言う通りかなり頭に来ています。指揮官にはあるまじき姿かもしれませんね。作戦には支障が出ないようにしましょう」


 私は寧ろロイとロザリーのその怒り自体に違和感を覚えるのだが、ひとまず今はそれでいいだろう。


 「そうだ。今回の作戦に当たって国王から書状が届いていた。嘆かわしい誘拐事件から1年と少し。魔族どもに我々人間の怒りを思い知らせるときだ。出来る手はすべて尽くし、我々を舐めてかかっている卑怯な魔族どもに目にもの見せてやれと、そういう趣旨だ」


 人間の怒り……、出来る手はすべて尽くし……。私の発言は国王の意図とはずれていると、そういうことだろうか。


 「スフィアが遂に誘拐犯の魔族たちに報復するということで、国のムードもかなり高まっているらしい。期待されているな、姫騎士様!」


 ばんとロザリーが私の背中を叩く。その期待が私のプレッシャーになっているとも知らずに……。


 「ああ、必ず作戦を成功させよう。親と離ればなれになった子供たちのために。子供を奪われて悲嘆に暮れている、ラミアの町の親たちのために……」


 私の動機は終始そこにある。私が知っているのは家を奪われた子供の気持ちだけ。私が想像できるのは子供を奪われた親の気持ちだけ……。


 私が恨んでいたのは人間である盗賊たちだけ。恨んだことのない魔族に対して、彼らのような敵対心はとても持てそうになかった。





 キャンプ地に戻る頃には既に空は茜色になっていた。1日離れていた間に雨は止んだようだが、依然空は重たい雲に覆われている。


 「おっと、ここまで来たらもう大丈夫ですよね」


 ちりん。ロイがしまっていた鈴を取り出す。音が大きく鳴らないように、革のケースに挟んでポーチに入れていたのだった。


 彼は鈴を慣れた手つきで右手首に巻き付ける。私も何かああいう象徴的なものを身に付けた方が気が乗るだろうか?


 いや、周りが怒りに飲まれがちならば、やはり私はブレーキになるべきだ。私は作戦として、任務として魔族に刃を向ける。そういうバランスが必要だろう。私一人では足りないのだが。


 「それでは姫様、また明日の会議で。しっかり作戦を詰めましょう。あの非道な魔族どもを滅ぼすために」


 「ああ、また明日」


 嗚呼、やはり私はブレーキに徹しなければ。


 私は自分専用のテントへと向かう。申し訳ないことに私のテントは兵士の一人が張ってくれたもの。隊長の特権だ。その代わり、私には隊長としての責務がある。指揮官兼最大戦力の姫騎士として。


 ようやく訪れる一人の時間。


 「はああああぁぁぁぁ~~~~っ!!!!」


 今までで1番大きな声の溜め息。長い間森を歩いていたわけだが、肉体の疲れなんて気にも止まらない。それほど……。


 「プレッシャーやばいよぉぉぉぉ!!!!」


 鎧を脱いだ姿のまま、しばらく寝袋の上に体を投げ出してごろごろとする。


 「まったく……姫騎士になって少し変わったと思ったが、相変わらずだったな、スフィア」


 突如テントの内側から声がする。聞かれた!?誰にも見せない私の心の叫びを……。まあ焦りはないけど。


 「ロザリー!いいじゃん、一人の時くらい。これが私のチャージ時間なの!!」


 「まあいいけどな。頼んだぜ、国民の怒りの代弁者、姫騎士様!!」


 チクタク、チクタク、チクタク、チクタク……。


 気の置けない旧友を前にしても、幻聴は大きくなるばかりであった。

魔族と仲良くお話しし、呑気に畑仕事をするメレナ。果たして彼女は本当に拐われたのか?魔族とは本当に人間の敵なのか?


さて、スフィア姫のお話は一旦ここまで。続きは本章14話(予定)までお待ちください。次からはテオンたちの話に戻ります。


次回更新は4/28です。

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