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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第5章 不穏の幕開け
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第1話 離ればなれの親子

【第4章のあらすじ】

 エリモ砂漠を越えてキラーザの町を目指すテオンたちは、訪れた茶屋や温泉宿で、暗殺者や闇組織の絡む事件に巻き込まれ、キラーザの腐敗を知る。キラーザの町に向かうゼルダたちと別れ、テオンたちは一路王都を目指す。


【重要キャラ紹介】

テオン  主人公の男の子。古代スキルを有する。

レナ   お茶目なお姉さんだが、これでも王都の軍人。

ユカリ  スイーツハンターを名乗る謎の女冒険者。

ルーミ  踊り子を目指す9歳の女の子。しっかり者。

スフィア サモネア王国最強の姫騎士。勇者候補。

挿絵(By みてみん)

 からっと晴れた青空を黒い岩肌が照り返す。鳥型の魔物が遠くの空をばさばさと飛んでいく。のどかな日和は春の足音を告げていた。


 「あっ!!」


 ルーミが声を上げて駆け出す。


 「おいおい、そんな走ると危ないぜ!!」


 注意しながら彼女の後を追いかけるのはキールだ。


 「ルーミちゃん、よくこんな足場の悪いところ走れるわね。あたしなんて歩くだけでも大変なのに……痛ッ!!」


 レナが足を押さえてうずくまる。ここはキラーザの西側にある山岳地帯。背の高い木はあまりなく、足元にはごつごつとした岩があらわになっている。


 キール曰く、この辺りは比較的最近まで火山活動が活発であり、溶岩が冷えて固まった地形が多いらしい。鉄鉱石や金鉱石が採れる地域だけあり、辺りにも珍しい鉱石が多く転がっていた。


 ルーミが先程から拾い集めているのは、キラキラした鉱物の含まれる石だ。石英というその鉱物は大きく育てば水晶になるらしい。


 「水晶ってのは地中奥深く、高温高圧の地下水があるところで出来るもんなんだけど、きっと噴火の勢いで地表に出てきたんだろうな」


 「キールさん、これとか少し色が付いています。綺麗ですよ!!」


 「お、本当だな!紫色の水晶か。ルーミに似合うかもな」


 「えへへへ」


 嬉しそうなルーミ。何だか本当の兄妹みたいだ。


 「テオン、ルーミちゃんをキールさんに取られて寂しい?」


 ララが尋ねてくる。


 「いや、別に僕が兄ってわけでもないし」


 「でもポエトロを出た直後とか、テオンとルーミもあんな感じだったよ」


 「まあでも、キールがお兄ちゃんみたいに思えるのは僕も分かる気がするよ」


 キールは温泉宿「かれん」から僕らと同行している。元々はバウアーとケインと一緒に3人で旅をしていた冒険者だったのだが、残りの2人はキラーザへと向かった。


 「あの、キールさんは本当に私たちと来て良かったんですか?」


 ルーミが尋ねる。


 「ん?さっき言ったろ?俺はテオンの剣の腕に惚れたんだ。さらに強くなるためには、こいつと一緒にいる方が良いと思った。何かおかしいか?」


 キールは宿にいたときからそれだけしか言わない。だが僕はアデルからキールの真意について聞いていた。


 『キールはね、君たちが心配なんだってさ。何かトラブルに巻き込まれそうな気がするから、誰かが付いていってやらなきゃならねえんだって、そう言っていたよ』


 初めて会ったときは怒鳴ってばかりの怖い男だと思っていたのだが、そうやって面倒見のいいところもあるのだ。


 「でもバウアーさん、ケインさんとお別れするのは寂しくなかったんですか?」


 「あいつらは他にやることがあるからな。それに今生の別れって訳じゃねえ。元々キラーザでの用事が済んだら王都へ向かう予定だった。俺だけ先乗りするだけさ」


 「じゃあバウアーさんたちともまた会えるんですね!」


 ルーミはるんるんと鼻唄を歌いながら石拾いを続ける。


 「ポ、ポットちゃん、湿布持ってない?」


 レナは不安定な岩場で足を捻ってしまったようだ。ポットが駆け寄ってささっと手当てする。


 「あ、ついでに治癒魔法も掛けさせてくれ。まだまだ練習中だが、掛けて損はないはずだ」


 そう言ってハンマーを構える。彼女のメイン武器なのだが、普通治癒魔法師(ヒーラー)の武器と言ったらスティックかメイスではなかろうか。彼女曰く魔力が通せれば武器は何でも良いらしい。


 「やっぱり治癒魔法の効果はあまりないみたいね。武器のせいじゃないの?」


 「いや、あたしが未熟なだけさ。師匠はハンマーでも剣でも難なく発動させるからな」


 「お姉様は結局魔法で敵を倒すことは出来ないので、いざというときに使えないメイスなどは毛嫌いしているのです」


 リットの補足に謎の説得力を感じる。今日はポットとリットが積極的に前に出ている。先のスライム戦で活躍できなかったのが余程悔しかったのか、最前線に出ているのだ。


 「ヒーラーとマジシャンが最前線なんて……聞いたことないよ」


 呆れた様子のアデルが思い出される。スティックを構えたリットの魔法を難なくかわす鳥型の魔物に痺れを切らし、反撃の隙に翼を掴んで地面に叩きつけたときは、文字通り目が飛び出ていた。


 「君たちはいつもこんな感じで冒険しているのかい?」


 「ああ。一緒に歩いているだけで心が安らぐ。不思議な冒険者たちだと思うが、オルガノもすぐ馴染むだろう」


 オルガノとバートンが最後尾でそんな話をしている。


 「キラーザの関所に向かうときも思ったが、こいつらといると命懸けの旅路がまるでピクニックだよ」


 ブラコが朗らかに笑いながら歩く。気の抜けたような男三人、並んで山道を歩く姿は微笑ましいものがあった。


 しかしこの三人、刑事局に喧嘩を売った刑事に、連行されるマフィアのドン、そして隣国であるアウルム帝国からやって来た逃亡奴隷である。


 穏やかな空気が信じられないほどの経歴の3人だが、最早軋轢など感じられない。アデルは未だにブラコに厳しい目を向けているが、不必要に事を荒立てる気がないのがありがたい。


 「王都に着いたらきっと一気に忙しくなるからな。今だけはこののんびりした空気を楽しんでおこうぜ」


 何故それをブラコが言うのか分からないが、残りの2人も気にせず頷いている。


 「ルーミ!!見て見て、この水晶、凄く大きいニャ!!」


 マギーの無邪気の声が飛ぶ。こんなマギーでも、温泉宿を出た直後はゼルダたちと別れてしんみりしていた。特に気の合っていたミミと離れて寂しいらしい。


 それを見ていられなかったルーミとキールが、誰が一番きれいな石を見つけられるのかを競い始めたのだ。マギーもすっかりいつもの調子に戻り、あのように楽しんでいる。


 「ルーミちゃん、本当にしっかりしてるわよね」


 リットに湿布をしてもらったレナが目を細めて3人を眺める。ポットとリットは再び先頭に戻っていた。


 「お父さんのゼオンさん、ブルム地方一の大商人なんだよね」


 「それ、びっくりしたわー。ゼオン商会って言ったら最近王都にもオープンした今超絶人気のお店なのよ。まさかルーミちゃんがそこの店主さんの娘さんだなんてね」


 「そんなに凄い商会なんですか?」


 「ええ、昔から王都で幅を利かせていた商人たちにも上手く取り入って、あっという間に新商品をどんどん王都に広めていったのよ。店主さんもイケメンでね、さぞ素敵な人なんだろうって噂なのよ」


 「へえ~。小さいときに見たことあるけど、そんな人だったかしら?」


 「デミが一目惚れしたんだからイケメンなのは違いないけどね。僕も大人しい人だなって印象だったよ。行商で村に来ていたゼオンさんの背中にトカゲを入れたら、凄く怖がって大変だったな」


 僕は懐かしむように昔を思い出す。それは前世のロイの意識が覚醒する前の記憶。ロイの感覚ではそんなことするなんて子供の頃でもあり得なかったが、僕も始めからアルト村のようなところで育っていれば、そんな悪戯もするものかなと思っていた。


 「テオン、そんなことしてたの!?信じられない。これだから男子は……」


 ララに呆れられた。アルト村でも背中にトカゲは無しらしい。


 「ゼオンさんは今王都なんだっけ?」


 「うん。それでデミさんがルーミちゃんを王都へって言ってたのよね。でも、それならどうしてゼオンさんが連れていかなかったんだろう?」


 「ん?お父さんの話ですか?」


 いつの間にかルーミがすぐそばにいた。


 「多分お父さんは王都にいますけど、会わない方がいいかなと思います」


 「え!?どうして?」


 「お母さんは何度かお父さんに私も王都に連れてくよう言っていたんです。でもお父さんは反対していて。だからお母さんはテオンさんたちに私を預けたんだと思います。だから……」


 彼女の顔が少し翳る。


 「きっと王都に来た私を見たら、お父さん怒っちゃうんじゃないかなって」


 「あら、それじゃあルーミちゃんは王都に入らない方が良かったかしら?」


 レナが尋ねると、彼女は激しく首を横に振る。


 「いえ、私も前から王都には行きたいと思っていましたから、お父さんに反対されても王都で頑張るつもりです」


 マギーがキールに石を見せているのを眺めてほっと息をついたルーミは、声のトーンを抑えて続ける。


 「私、実はお父さんとあまり仲が良くないんです。


 私、小さい頃からお母さんっ子でした。お父さんはいつもお仕事ばかりで、あまり話すことがなくて……。怒られることはないし、嫌いってわけじゃないんですけど、何となく苦手意識があるんです」


 「そうなのね。ゼオンさん、素敵な人だと思ってたけど、その分家族の時間が犠牲になっていたってことなのかしら」


 「お母さんに聞くとそんなことないって言うんですけどね。家にいるときは私たちのことを一番に考えてくれる、素敵なお父さんだよって。でも私はお母さんと踊りを踊ったり、ルリィさんと美術館に絵を見に行ったりする方が好きで……。お父さんは芸術とかには興味がないから、何を話せば良いか分からないんです」


 「そっか。でも良かった。家庭内暴力とか虐待とかはないのね。少し安心した」


 「あ、そうですね。基本的には優しいお父さんだと思います」


 ルーミはそう言いながらも浮かない顔。はっきり嫌う理由がないからこそ、余計にもやもやするということなのかもしれない。


 「ルーミ、凄い石を見つけたニャ!!こっち来るニャ!!」


 マギーが遠くから呼んでいる。いつの間にか道から大きく離れていた。


 「マギー!そんなに離れたら危ないですよ!!テオンさん、一応付いてきてくれませんか?」


 「うん、いいよ。僕も石探し手伝おうか」


 「あ、やります?綺麗なのお願いしますね!!たくさん集めましょう。私たちにはレナさんからお借りしたこの袋がありますからね」


 ルーミは腰に提げた収納袋を持ち上げる。中には既に水晶を含んだ石がたくさん入っている。


 「王都に着いたらこれを売り捌いて、活動資金にするんです!」


 嬉しそうな彼女の思惑は、まさに商人の娘らしいものであった。

第5章始まりました!!前章は軸になる話の横でマギーを少しピックアップしましたが、今章ではそれがルーミに代わります。大商人と人気の踊り子の間に生まれた彼女は、果たして何を思い何を為すのか。どうぞお楽しみに!!


次回更新は4/22です。第5章も『チート勇者も楽じゃない。。』をどうぞよろしくお願い致します。

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