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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
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第29話 アデルの怒り、テオンの夢

【前回のあらすじ】

 マクロスライムの攻撃は激しさを増し、ゼルダたちに襲いかかる。一方、ブラコがシャウラの毒で倒れたことが判明。ライトは光の力で毒は治療出来ると言うが、唐突に本気で救うのかを問うのだった。

 『ねえテオン……君はこの男を、本当に心から救おうと思えるかい?』


 ライトの突然の問いに、僕の思考は暫く停止していた。


 (それ、どういうこと?)


 『うん、光の力の応用で毒の治療……というか浄化が可能なんだけどね。今のテオンにはかなり高度な制御が必要なんだよ』


 ライトの説明は納得がいく。これまで光の力を使って治癒系の効果をもたらすなんて、考えたこともなかった。それはつまり今までの力の使い方とは、何かが大きく異なるはずなのだ。


 『この前、レオールって人が言ってたでしょ?スキルを望み通りに使うには、まず為したいことをはっきりと思い描く必要があるんだ』


 (つまり、僕が心の底からブラコを救おうと思わない限り、毒の浄化は上手くいかないってこと?)


 『その通り』


 (失敗するとどうなる?)


 『ブラコさんが消えるかも。あるいはまた暴走して……』


 ま、まじか……。


 『あ、ごめん。こういうこと言うと失敗のイメージが湧いちゃうから良くないんだった』


 いや、もう遅いよ。僕の脳裡には既にブラコの消滅が思い描かれてしまった。このイメージを早くブラコを救う方に向けなきゃ……。そう思っていたとき。


 「でも、自業自得だよな」


 アデルの呟きが聞こえた。


 「お前はシャウラの命を駒としか見なかった。これはその報いなのかもね。救う手立てがないんじゃ仕方がない。自らの罪深さを噛み締めながら苦しみなよ」


 彼の口から冷たい声が迸る。だが気持ちも分かる。シャウラは彼の唯一の同郷人。罪を償って更生することを彼は望んでいた。シャウラは今でもアデルの家族なのだ。だけど……。


 「何だと!!お前はドンがどういう人か知らないからそんなことが言えるんだ!ドンの命が狙われてることが分かって、何人の部下が身代わりを申し出たことか!!」


 「ただ隠れるだけじゃ奴らの手からは逃れきれない。俺たちの中には、ドンの反対を押し切ってでも身代わりになる奴もいたんだ」


 「だからドンは、せめて暗殺者を使おうと提案した!サソリは暗殺者だ!金のために何人も殺してきた悪党だぞ!!自分だってまともな死に方が出来ねえことくらい、分かってたはずだろうが!!」


 案の定、ブラコの部下たちが怒りの声を上げる。かなり信頼されているようだ。


 「てめえら、やめねえか!!」


 彼の容態を診ていた男が騒ぎを静める。


 「ドンはまだ死んじゃいねえ!騒いだら余計ドンが苦しむだろうが!!」


 「苦しめばいいさ。これはシャウラを裏切ろうとした罰なんだから」


 「おいアデル、何もここでそこまで言うことぁねえだろ!こいつらの気持ちも考えろよ!!」


 キールがアデルを制止するが、一度表に出てしまった彼の怒りは止まらなくなってきていた。


 「暗殺者だから身代わりにしても良い?そんな身勝手なことを考えてるからこういう目に遭うんだろ!!望んで命を差し出そうとした部下がいたんだ、そっちを使いなよ!!」


 「何だと!!そもそもサソリがドンに毒を盛るなんて暴挙に出たのが問題だろうが!!やっぱり暗殺者なんてやってる奴はクズなんだよ!!」


 「やめろ、こいつの言葉に耳を貸すな!!ドンの命が最優先だ。毒を何とかする方法を考えろ!!」


 「あっ!それなら……」


 僕は思わず名乗り出そうになる。だがまだ自信がない。上げそうになった手をすぐに下ろした。


 そう、僕にはブラコを生かす手がある。だが同時に彼を消してしまうリスクもある。消えたとしても、キューのようにどこかに転移されるだけなのかもしれないが、見つかる保証はない。


 『うん、勿論無理に毒の治療に挑戦することはないよ。慎重に考えよう?』


 「何だ小僧」


 何よりブラコは殺人者だ。リスクを冒して救う価値など……。


 「ごめん、何でも……」


 何でもない。そう言おうとして、僕はくっと拳を握りしめる。僕がなりたいのは勇者だ。人類すべてを救う勇者だ。目の前で救えるかもしれない命を見捨てて、何が勇者だ……!!


 「いや、やってみるよ。毒の浄化!!」





―――温泉宿「かれん」湯殿


 激しさを増す巨大スライムの攻撃から、私たちはただ逃げることしか出来ていなかった。


 「一瞬でも気を抜いたら終わりよ!フレイムウォール!!」


 声を掛けながら、少しでも体力を削れるように魔道具を設置する。動き回るスライムは設置された罠に対処することもなく、次々と突っ込んでいく。


 それでもダメージはないのだが……。


 「これじゃ魔力を十分に込められないですね。突風方陣(ブラストスクエア)!!」


 ゼルダは空中に次々と突風を吹かせる方陣を設置して、スライムに正面から魔法をぶつけていた。突進の威力を少し削ることには成功しているのだが、ダメージは目で確認できるほどもなかった。


 「このままじゃ……皆すぐに体力の限界を迎えてしまいますよ!!」


 ファムが弱音を吐く。


 「そんなの分かってるわよ。全くどうしたら……」


 「私、あの動きを止めてみます!!」


 ララが意を決したように顔を上げる。


 「止めるってどうやって?」


 「言葉の通りです。直接ぶつかって、動きを抑えてみます!!」


 な!?スライムを正面から受け止めるというの!?無茶が過ぎる……。でもララならあるいは……。


 いやいや、相手はスライム、ただ突進が強いだけの魔物じゃない!!


 「ダメよ!!たとえ止められたとしても、今度は中に取り込まれてララちゃん窒息させられちゃうわよ!?」


 「あ、そっか。でもその間はスライムは今みたいに動き回れないんじゃないですか?」


 「馬鹿なこと言わないで!!そんな危険な……」


 「レナさん、どうなんですか?」


 彼女の目は真剣だった。


 「た、確かにスライムの動きは止まるかもしれないけど……」


 「じゃあ、やります!!」


 彼女はさっとスライムの方を見ると、その軌道を正確に読んで正面からぶつかるように走り出した。


 「ララちゃん!!」


 「あ、私が中にいても、気にせずでっかい魔法打っちゃって良いですからね!」


 そう言い残し、ララは長剣を構えながらスライムにぶつかっていく。


 ばしゃーん!!


 スライムはララにぶつかって水飛沫となり、四方に弾け飛ぶ。ララもその水圧に押されそうになるが、何とか踏みとどまった。


 やがて飛び散ったスライムはララを中心に集まりだし、彼女を包み込む巨大な水のドームとなった。赤い水の向こうでララが頷く。


 「そんな、ララちゃん……」


 そのとき、背後で魔力の集中を感じた。ゼルダが両手を掲げ、頭上に激しい風の渦を生み出す。


 「ゼルダちゃん!!ま、まさか本当に魔法を打ち込むつもり!?」


 「ララさんのくれたチャンスです。無駄にするわけにはいきません。彼女の息が持つうちに、さっさと終わらせます!!」


 魔力の乗った風は球形に吹き荒れ、折り重なって複雑な渦模様を描き出す。やがてその球は圧縮され、ゼルダの両手に収まるほどになる。


 「ララさん、どうかご無事で。蚕繭乱嵐(コクーンサイクロン)!!」


 白く輝くその球は一直線にララの元へと飛ぶ。スライムの魔法抵抗が威力を弱めなければ、彼女の体は高密度の風で切り裂かれてしまうだろう。


 私は祈りながらその行く末を見守る。やがてその球はスライムに着弾し……。


 「う、嘘…………」


 ララは無事だった。そのことに安堵しながらも、今起こった現象に激しく戸惑う。


 「そんな、完全に無効化された……?」


 ゼルダはその場に座り込んでしまう。


 「ゼ、ゼルダ様!?」


 ファムとマールが駆け寄る。


 「だ、大丈夫です。魔力を消耗しただけですから。それより……」


 スライムは依然ララを覆い隠して平然としている。体力もさっきから殆ど変わっていない。ゼルダの魔法は抵抗されたのではなく、完全に無効化されたのだ。


 まさか本体に戻れば魔法攻撃の完全無効化まで出来るというのか?


 ララの顔に焦りが見え始める。きっと私も同じように動揺した顔をしているだろう。


 「とにかくララちゃんを救わなきゃ!!」


 私は思わず駆け出し、ララに手を伸ばす。スライムの中に手がぬるっと入っていき、彼女の細い腕を掴む。


 「レナさん、ダメです!!」


 ゼルダの声が聞こえる。そうだ。確かに冷静に考えたらこんなこと無意味だ。相手は巨大なスライム。


 ララを引っ張ろうとした私の身体は、逆にスライムの中に取り込まれてしまう。その巨体にとって、取り込む人間が一人だろうと二人だろうと関係がなかったのだ。


 「「レナさん!!」」


 深い海の底のような感覚。ゼルダやケインの叫び声が遠い。ああ、懐かしいな……。私はララを抱き締めながら、忘れかけていた記憶が蘇る。


 そういえばスライムの体内で魔道具を発動させたらどうなるのだろうか。私はグレネードシャワーをスライムの内部で弾けさせた。


 発動した魔力はすぐさまスライムの中に取り込まれていく。やはりダメージはない。


 (万事休す……か)





―――広間


 ルーミは依然、オルガノを睨み付けていた。


 「そんなに睨まれても、マギーさんを解放する特別な理由がない限りは、容疑者を解放するわけにはいかないんだよ」


 「マ、マギーだって戦えます。強いです!」


 「それはゼルダさんよりも強いのかい?」


 「そ、それは……」


 さっきからずっとこんな調子だ。そこへ……。


 「た、大変だ!!」


 湯殿に向かったケインが血相を変えて駆け込んできた。


 「ど、どうしたんですか、ケインさん!」


 「レナさんとララちゃんが……スライムに喰われちまった!!」


 「なんですって!?」


 私も驚きの声を上げる。


 「そ、それでスライムは倒せそうなのかい?ゼルダさんの魔法は?」


 「それが……無効化されているみたいで手の施しようがないんだ!!」


 「そんな……!!」


 何よそれ。物理無効のスライムが魔法まで無効化?どうしろっていうのよ。


 残る選択肢といえば、状態異常かデバフ?そこで私ははっとする。


 「ねえ、マギーは歌い手なのよね?」


 「そうだけど、突然何なのニャ?」


 歌い手と言えばデバフ特化。スキルがあるかは分からないが、無くとも可能性はある!


 「オルガノさん、マギーの力が必要よ!今すぐ解放して!!」

暗殺者サソリはアデルの唯一の同郷人。シャウラを手に掛けた犯人は部下たちから篤く慕われるドン・ブラコ。魔物被害や戦争で命が軽く失われるこの世界でも、やはり殺人は重罪です。そんな中、テオンは二人にどんな思いを抱いたのでしょうか。そして皆さんはリスクを冒してでもブラコを救うと決めた彼を、どう思うのでしょうか。


4章終盤となって、ようやく本章の本題が顔を出しました。テオンの理想の勇者とは、すべての人類を救おうとする者。彼の夢の行く末に、その理想は果たして待っていてくれるのでしょうか。彼にブラコは救えるのでしょうか。


次回更新は4/12です。

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