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チート勇者も楽じゃない。。  作者: 小仲酔太
第4章 煙の彼方に忍ぶ謎
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第27話 ブラコの思惑と暴走スライム

【前回のあらすじ】

 重い空気を破るため、ユカリが主に犯行の手段について推理を披露し始める。一方、ブラコの話を聞いたアデルは犯行の動機を言い当て、彼の救出を提案する。今、事件のすべてが明らかになる……!!

 「認めよう。俺は温泉宿にスライムを潜ませ、ハニカこと暗殺者サソリを襲わせた。詳しく聞きたいか?」


 僕とキールが静かに頷くと、ブラコは事件の真相を語り始めるのだった。


 「話した通り、キラーザの町は今闇に蝕まれている。町長は遂に邪魔になった俺たちを、刑事局とネオカムヅミを利用して排除しようと動き出したのさ。そして俺たちは、サソリという毒使いを利用してこれに対抗した。


 ネオカムヅミのトップの暗殺に成功した知らせを聞いたときには、俺は既に町を抜け出していた。ネオカムヅミの奴らは頭を失って大人しくなるどころか、一層過激になっちまってな。俺は目的のために自分の身元を手放さなきゃならなくなったんだ。


 俺はサソリを俺の姿に変身させた後で暗殺する計画を立てた。宿で落ち合ってコートと姿を変える呪いの秘薬を渡した。秘薬を飲む時間も指示し、財布はまだ使うからと言って策を打った。


 湯殿のロッカーに財布を入れて、小さいスライムに鍵だけ届けさせたんだ。そのスライムは温泉に連れていけば自分で隠れられると伝えておいたから、彼女はいつも通り深夜にスライムを連れて温泉に入った後で、ロッカーの中身を取るつもりだったろう。そして早朝にチェックアウトすれば、姿が変わる前に宿を発てるはずだった。


 一方で俺は、予め温泉に彼女を殺せる巨大スライムを潜ませていた。彼女にロッカーの鍵を届けた小さいスライムが、そのスライムを起動する鍵代わりになっていてな。彼女が温泉に行けば巨大スライムが襲う算段だ。お前らの話だとそれは成功したらしいな」


 ブラコは満足げに笑う。アデルは唇を噛み締めながらも黙って話を聞いていた。


 「姿を変える秘薬はサソリに渡した分しかなかったが、材料の花さえあれば呪いは発動できるらしいからな。その花があるブルム地方へ行って、ついでに俺の足取りも誤魔化そうと思った」


 「ブルム地方……花……呪い……。まさかポエトロに向かって!?」


 「お?何だ少年、呪いの花のこと知ってんのか?他言無用と聞いていたが、案外有名なのか?」


 何てことだ……。姿を変える呪いって、奇跡の花の力のことだったのか。ポエトロの事件の記憶が蘇る。


 「呪いの花じゃない。奇跡の花だ。何故あの花のことを知っている?」


 「おっと、そんな怖い顔をすんなよ。裏の社会でもこの話を知る者は限られる。安心しな。今とある組織がその力を使ってどでかいことを計画しているらしいんだ。まあ口止めされてるから詳しくは話せないけどな」


 また気になる話が出てきた。この男には他にも色々聞かなければならないことがあるかもしれない。


 「おい、話は終わりか?」


 キールが鋭い目でブラコを睨む。


 「ああ、あとはお前らの知ってる通りだからな。俺は姿を変えたあとでスライムを回収するつもりだったが、財布を盗む段階でお前らに捕まっちまった。キラーザが厳戒体制にあるお陰で、俺は今生きてここにいられるが、町の刑事局に引き渡されれば命はねえだろう。何ならネオカムヅミの奴らが今にも俺を殺しに来るかも知れねえ。さて、お前らは俺をどうしてくれるんだ?」


 ブラコは依然黙ったままのアデルに声をかける。


 「ああ、シャウラの同郷人としてはとても君を許せる気分じゃない」


 「シャウラってのはサソリのことか?まさかあいつの身元を知るやつに出会っちまうとはな。お前はもしかして、俺があいつらに殺された方が喜ぶのか?」


 「ふっ、確かにあなたのことは嫌いだ。殺したいほどにね。だけど死は償いにはならないさ。しっかりと法の裁きを受けてもらわなきゃ」


 アデルは震わせていた拳をゆっくりと開く。鉄格子に近づき、間近でブラコの目を見つめる。


 「このままネオカムヅミとやらに君を殺されたら、僕の気は晴れないだろう。約束する。君をここから出し、キラーザ以外の刑事局へ連れていく。事情を話せばキラーザに引き渡されることなく、君は本来の裁きを受けられるだろう」


 「へへっ、それだけでも有り難いぜ。よろしくな」


 二人は鉄格子越しにぎこちない握手を交わした。





―――温泉宿「かれん」広間


 「スライムが想定以上に強くて手が足りないんだ。増援を頼む!」


 広間に駆け込んだポットが叫ぶ。彼女の様子から相当に切羽詰まっているのが窺える。


 「たかがスライムだと思ったけど、流石に暗殺者を暗殺するやつだもんね。甘く見ていては駄目だったか……」


 私はざっと広間にいる皆を眺める。ゼルダは既に粗方シャウラの遺品整理を終えていた。彼女が今ここにいる中で最強の魔法使い。増援に向かうのは彼女の他にいないだろう。


 「ポットさん、私が向かいます」


 ゼルダは自ら名乗り出る。


 「ゼルダ様、私もお供致します」


 すぐさまファムが続く。


 「あ、わ……私も……」


 マールも小さい声を上げながら立ち上がる。耳の良い種族で声が小さい子となると、ここまで小声になってしまうものなのか。


 「無言で立ち上がるとは、マールはもう完全にファムとニコイチって感じだな……。俺も行くぜ!特訓の成果、見せてやる!!」


 案の定マールの声を聞き漏らしたケインが勢いよく立ち上がる。マールは赤くなって俯いているが、剣の柄に掛けた手はしっかりと握られていた。


 「バウアーは行かねえのか?」


 「ああ、おれは広間で待機していよう。あまり邪魔しねえようにな」


 「おう、任せとけ!」





 ポットが増援を呼びに行って数分、スライムの攻撃は益々過激さを増していた。巨大だった身体は十数体に分裂し、弾力を生かして浴室内を跳ね回る。その速度は反射を繰り返す度に勢いを増していくのだ。


 「くっ……。これじゃあ長く持たないわね。もう一体追加!木偶人形(マリオネット)!!」


 木偶人形マリオネットは子供サイズの人形の魔道具だ。単体ではそれほど強くないが、魔力消費が少なく複数体同時に出現させることが出来る。


 私くらいになればオートモードで操作することも出来るが、そうなると単純な動きしかできない。今はスライムの攻撃に対処するために私たちの周りに配置し、オートで補助しながらも殆ど直接操っている。


 同時に6体操作。腕だけだから何とかなっているものの、それでも限界ギリギリだった。正直デウスエクスマキナよりも魔力消費が激しい。


 「小火(リトルボム)!!小火!!小火!!小火!!」


 リットはひたすら魔法を連発しているが、まず当てるのが至難の技。殆どは壁に当たって霧散していた。浴室全体に破壊不能の結界が展開されていなければ、湯殿は既に大火事だろう。


 「あーあ、私も何かひとつでも魔法が使えたらなあ」


 ララはぼやきながらも正確に長剣で飛んでくるスライムを弾いていた。勿論ダメージはない。


 「ララちゃんも水属性の魔法適正はあるんだけどねえ。治癒魔法特化だから初めのうちは攻撃魔法は覚えられないでしょうね」


 私もララと同じテンポで受け答えるが、スライムの動きを目で追い、更に人形を動かすのだから余裕は皆無だった。


 「ドアを開けたらさっと入って。一人入ったらすぐ閉めるから。そしたらレナさんたちとすぐ合流。何発かスライムの体当たりを食らうかもしれないけど、一発一発は大したことないから気にせず真っ直ぐだ。いいな!」


 浴室の外からポットの声が聞こえる。良かった、ようやく増援が来たようだ。


 「私から行きます!」


 その声が聞こえてファムが飛び込んでくる。ポットの指令通りに私たちの円陣に一直線に向かってきた。


 「助かるわ。見ての通りの状況だから、木偶人形の間に立ってスライムを弾いててくれるかしら」


 「ええ、分かりました。ポットさん、合流できました!」


 「OK!!じゃあ次行くよ!」


 こうしてマール、ゼルダ、ケイン、そしてポットが入ってきた。ゼルダに関しては一度円陣を抜けたファムが護衛しながらである。


 「うおっ!!何だよこれ、スライムってこんな攻撃できんのかよ!!」


 ケインが驚愕の声を上げる。一度正面からスライムの突進を受けたその顔からは鼻血が垂れていた。


 「くそ、名誉挽回だ!!」


 円陣に入った彼は必死に剣を振るが、なかなかスライムに当たらない。結果、体でスライムを止めるような形になっていた。


 「いいわよ、その調子!!とにかくスライムを円陣内に入らせないようにね」


 きーん……。


 その円陣の内側で、急激な魔力の高まりを感じた。音として聞こえるほどとは。


 「ではまず当てることを優先して打ちます。風刃(ウィンドカッター)!!」


 円陣の上空で展開された風の塊から、円の外側8方向に向かって風の刃が飛ぶ。初歩的な風魔法とはいえ、十分な魔力を込められたゼルダの魔法は、リットの小火を凌ぐ威力で飛んでいった。


 縦横無尽に跳び回るスライムに、8つの刃は少しずつ軌道を修正してすべて命中していた。


 「す……すごい……!!」


 リットは思わず声を上げる。別格の魔導師ゼルダの加勢に心底感謝しながら、ダメージを確認する。


 「うーん、多少は削れてるけど、やはり相当ダメージ軽減されているわね」


 スライムは物理攻撃無効だけではなく、魔法攻撃耐性も身に付けているようだった。


 「そんなのありかよ……」


 ケインは絶望的な声を上げる。しかしゼルダは全く動じない。


 「少し勢いを削げましたね。威力を上げましょう。リットさん、ポットさん、上の風にあなた方の魔力を注いでください。連携魔法を試してみましょう!!」


 彼女はそう言うとぐっと手を上げる。上空で旋回し続ける風の塊は周りの空気も巻き込んで、さらに大きさを増していた。


 「はは……。流石ひとりで巨大砂嵐を起こした魔導師……。聖都ペトラの長老様ね」





―――再びキラーザの関所


 「ちっ」


 暫く黙っていたブラコが舌打ちをする。


 「温泉に残したスライムの様子がおかしくてな、さっきから停止信号を送っていたんだが、こりゃ完全に暴走……。うっ!!」


 突然咳き込んで倒れた。床には赤い染みがこぼれている。


 「おい、ブラコ!!」


 駆け寄るキール。ここから事態は思わぬ方向へ動き出すのだった。

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